日下部保雄の悠悠閑閑
グラベルでGRヤリスのラリー車を走らせて思ったこと
2020年8月17日 00:00
GRヤリスに乗った。ショートサーキットでの試乗でも本格的なコンパクトスポーツモデルの登場に嬉しかったが、やはりダートコースでの試乗である。何年も実戦前提のラリー車に触れていなかったので感動したのだ。試乗したGRヤリスは基本的にGRショップで購入できるパーツを組み込んでおり、このまますぐにBライセンスで出場できる程度のクルマに仕上がっているし、普段使いもできるので、私がラリーを始めた頃のラリー車の感覚に似ている。
インプレは先に掲載されているので、ご興味があれば見ていただきたいが、3気筒 1.6リッターターボのレスポンスはシャープで、アクセルの微妙な動きにも反応する。同時にクルマが軽く、扱いやすい。競技車にとって何ものにも代えがたいのは軽い重量だが、GRヤリスはルーフをカーボンにするなど徹底して取り組んでおり、ドライバーも思い切ったことができる。
車重でいえばFRの時代は1tを切っていたが、安全対応が進み、装備が充実し、駆動方式も4輪駆動になり、徐々に重くなって、現在JAF戦で使われているベース車両はおよそ1.5t。これに軽量化と安全装備がイッテコイになって、大体1.5tを切る程度になっているようだ。
GRヤリスはフロントエンドに乗せるエンジンは軽量な3気筒1.6リッター。4WDシステムもシンプルな機構にして、重量はRZで1280kgと軽い。ライバルとなるクルマよりも200kgほど軽いことになる。排気量は小さいが、狭くツイスティなコースの多い本州のラリーコースでは、コンパクトで軽量なボディが大きな武器になりそうだ。
ボクが実戦でラリー車に乗っていたのは遥か昔の話で、ルールや考え方も今とはずいぶん違っていた。サスペンションストロークはそれほど稼げていなかったし、それに応じて走らせ方も違う。バネレートはほぼノーマルのレートにコンマ2~3kg程度硬めたものを微妙に選び、あとはショックアブソーバーに頑張ってもらって、路面からの強烈なショックを吸収していた。
ところが、GRヤリスに組まれていたサスペンションは汎用性の広いタイプにもかかわらず、ひどく乗り心地がいいのに驚いた。サスペンションストロークを有効に活かして、跳ね上げられそうなギャップも柔軟に吸収してしまう。コーナリング中でもラインの乱れも少ない。軽量化と最新のラリーサスペンションのなせる技で素晴らしい。
4WDは前後輪をつなぐ等速トランスファーに変えられて素直な姿勢を作りやすく、前後のデフに入れられた1.5WAYのLSDでトラクションも自然にかかる。こうなるともっとトルクが欲しくなるが、今の時点では贅沢かな。
クルマの姿勢変化はアクセルワークで自在になって本当に楽しいが、丁寧に走れば走るほど競技でのタイムは上がりそうだ。
さて、ボクの最初の実践4WDは三菱のコルディアだった。パートタイムの4WDで1.8リッターターボだが、出力は135PS程度だったと思う。ラリー界がFRから4WDに移行する前夜、まずはデータ取りからだった。遠征した北海道の雪の中は速かったものの、副変速機付きの8速MTにてこずったこともあり、他のラリーでは目立った成績は残せなかったのが残念だった。この時痛感したのは、4WDのラリー車はトルクがあればもっともっと速くなるということだった。
ドライビングについては、ラリー車の姿勢を作るのはドライバーが何とかするもの、というのが常識だったので、突き上げられるクルマをねじ伏せつつ、曲がらないのを曲げるのだから、今考えてみればやれることはそう多くはない。今のGRヤリスは何と優しいんだろう! 表現はわるいが適当にノーズをねじ込んでおけば、あとはどうにでもなる感じなのだ。
GRヤリスはこれから実戦で揉まれて進化していくに違いない。この時代なんとも楽しみな素材ができたものだ。しかもキットが充実している。スポーツのフィールドにこだわるトヨタの強いメッセージを受け取った。
さて、コルディア4WDは三菱にとってクロカンの意識が強かった4WDをクーペと組み合わせて、スポーツカーを作るという取り組みだった。それが花開くのは本格的な4WD、ギャランVR4になってからだった。三菱のスポーツ4WDの系譜の始まりは、このコルディアだったと思う。