日下部保雄の悠悠閑閑

ダカールラリーの王者

同乗試乗で。走行前のトライトンの車内。ドライバーはもちろん増岡さん。バカ話で笑っていた瞬間ですみません

 増岡さんと最初に会ったのはいつだっただろう。三田にあった三菱自動車の本社ビルだったような気もするが記憶が定かではない。それでも元気一杯、野性味タップリな人だったのはよく覚えている。国内ラリーでは知らなかったので、どんなドライバーなんだろうと、篠塚健次郎さん(だったかな?)に聞いたら子供のころからパワーシャベル?で採石場?を走り回っていた逸材だという。その後、思いきりと勘どころのよさは子供のころから鍛えられたんだと納得した。まさにクロスカントリーラリーの人だ。

 三菱のラリーの顔だった篠塚健次郎さんの後継者として2002年と2003年のダカールラリーで2連勝の記録を打ち立て、三菱の伝統を守ったのは素晴らしい活躍ぶりだった。三菱がモータースポーツの表舞台から去っていた雌伏の時代にもパイクス・ピークなどのイベントで活躍して戦う灯を消さずに頑張っていた。

 昨年からは現役ドライバーを離れて監督の立場でクロスカントリーラリーに臨んでいるが、チームの集合写真で見る姿はなんとなく居心地がわるそうで、本当は走りたいんだろうなと勘ぐってしまう。

忙しい中、試乗会に来てくれた三菱自動車の加藤社長と。この4台、デリ丸も含めてみんな骨っぽい4WDでした

 残念ながら2005年に閉鎖された十勝4駆ランドは増岡さんと篠塚さんが設計したパジェロなどの本格的な4WDの能力を思いきり楽しめるオフロードコースとして開放されていた。

 それだけにこのコースをリニューアルして三菱のオフロード用テストコースとして作られたTOKACHI Adventure Trailは増岡さんにとって感慨深いものがあるという。昨年のオープン前には自らチェーンソーと重機でコースを切り開き、大変だったと口では言っていたが顔が笑っていた。きっと楽しかったに違いない。

 その自ら作ったテストコースで新型トライトンを走らせる増岡さんの横に乗せてもらった。クロスカントリー路のラリードライビングは上下動が激しく、忙しくステアリングを操作するから体力を消耗する。自分が同乗するころはすでに何周もしており、さすがに疲れたと思うがペースは少しも落ちず、むしろ上がっている。

 実は前にも乗せてもらったことがあるが、そのときの激しさよりも円熟した走りっぷりで、なおかつ限界点をうまくトレースする匠の技が光っていた。ノーマルのトライトンのタフネスぶりと高い運動性能もすごいと思ったが、増岡さんもやっぱりすごい。

トライトン・ダブルキャブ。ピックアップトラック感が強かった先代とガラリと変わって乗り心地も運動性能も鍛えられただけのことはある

 今も若手のオフロードのドライバーを育成しながら、耐久試験も行なっていると言っていたが、確かにこんなコースでテストドライバーたちに鍛えられた4WDは頑丈にできるはずだ。

 ラリーアートを率いる増岡さんが次に仕掛けるラリーは何だろう。思いがけないクルマで、思いがけない場所に現れそう。楽しみにしてますよ!

 トライトン本編の写真でジャンプしている黒いトライトンのドライバーは増岡さん。私にはそんな勇気はありません。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。