日下部保雄の悠悠閑閑

傷心と感動のメディア4耐

練習走行ではドライバー交代の練習もあり、久々の筑波に緊張

 マツダはNAロードスターから一貫してメディア対抗ロードスター4時間耐久レースを開催している。

 メディアの露出への期待もあるだろうが、それよりもスポーツカーの楽しさを参加するすべての人たちに理解してもらう意義が大きい。レース車両はすべてマツダで管理し、1年に1回の出番。メンテナンスもマツダ。マツダの度量の大きさだ。

 車両は安全系装備とブリッドのバケットシート、エンドレスのブレーキパッド、クスコのシートベルトなどを除いてほぼノーマル。

 筑波を4時間走って使えるガソリンは燃料タンクの40L+20L。つまり全開走行をするとガス欠で4時間を走り切れない。

 エコランの戦略と技術がドライバーにもチームにも要求され、年々高度になっている。今年のCar Watchチームのドライバーは小林編集長、ISHIKAWAさん、加藤彰彬さん、編集部の塩谷君、それに私の5人。レースマネジメントやメカニックもそろって、特にマネジメントは歴代Car Watchチーム最強となった。

 レース当日は台風の置き土産で朝から雨が降ったりやんだり。朝の練習時間ではロードスターのスペシャリストから教わった走り方を実践練習してみる。これまでの走り方とは違うがほぼ想定タイムが出せた。え、これでいいのかなと思いながらも非常に合理的な走りだった。

 しかしわるいことに昼近くになると雨が降りだし、予選はフルウェットになってしまった。筑波サーキットはホームグラウンドとはいえ、最近では年に1回このレースだけでしか走らないので何とも心もとない。

 アドバイスもあってESCを入れてコースイン。至るところでなぜにここで効く? という動作。特に嫌なのはダンロップコーナーの次、左高速コーナー。どうやら川があるようでESCが一瞬作動する。でもほかのコーナーではノーズを入れにくく、加速も思うようにできない。ケテルを通じたイヤホンからESCを切ってよいとの許可が出た。ヘアピンなどは走りやすくなった。

 ところが例の嫌な予感がしていたポイントに差し掛かるといきなりリアが大きく流れた。大カウンターを当てて姿勢が戻りそうになったが、今度はおつりをくらって立て直し不能。つまりコマのように回り始め、あとはブレーキを踏んで神様に祈るだけ。アウト側のスポンジバリアに左のフロントとリアがぶつかるショックに襲われてやっと止まった。

 さっき抜いたピンクパンサー(※女性ジャーナリスト連盟チーム。Car Watchでもおなじみのまるも亜希子さんが監督で、藤島知子さんなどがドライバーを務めている)が走り去る。幸いエンジンはすぐにかかったので再スタートし、無線でタイヤがフェンダーに当たっているのを知らせてピットへ向かう。ハンドルは中立でクルマは真っすぐに走る。無事ではないけれどチームに祈るような気持ちでピットイン。

やっちゃった。フロントフェンダーもダメージを受けた。リアの衝撃の方が大きかったがすべて一瞬の出来事だった

 レース慣れしたメカニックたちは短時間で効率よく修理し、ガムテープ仕様で送り出される。走行確認で1周して再度ピットイン、まだフェンダーに当たっているところを再修正してもらう。最後に1周したところでチェッカー。結果ラスト前3番目だった。

 クルマを壊したのはニュルブルクリンクでBMWに突っ込まれた以来だろうか。大ショックだ。クルマを用意してくれたマツダ、それにチームに申し訳ないことをしてしまった。

アッと言う間に復旧。修理作業は頼もしくも悲しい
グリッドは後ろから3番目。でもここに立てただけでも幸いでした
スタートドライバーを務める緊張の小林編集長。グリッドに誰もいなくなるといよいよ始まるんだと、感じるもんです

 でもドライビングには新鮮な驚きをもらえ、不謹慎ながら感動したのも事実。決勝はスタートドライバーを務めた小林編集長からクルマを引き継ぎ、ドライビングが面白くて仕方がない。無線からの指示も適格、回転を上げるように指示されるとタイムはグンと上がる。つまり快調だ。スティントの終盤には7番手に上がった。

 ところが好事魔多し。突然エンジンがパワーダウン。今抜いたクルマにコースを譲る。呆然……。

 水温計を見ると振り切っており、警告灯も点灯しているではないか! さっきまで何ともなかったのに……。運わるくピットレーン入り口は過ぎてしまい、さらに低速でやっと1周してピットに入った。メカニックがボンネットに飛びつく。原因はファンベルト切れだった。

 長い競技生活でも初めての経験だ。もうダメかなと思ったが、俊敏なメカニックたちはたちどころにファンベルトを交換。ドライバーは助っ人の加藤彰彬さんに代わって再スタート。さすが速い! オーバーヒートのダメージも少なく、1分12秒台を出して追い上げる。今のピットインで燃料には余裕がある。さらにセーフティカーも入ったが、ドライバーの運転時間の関係であまり活かせそうもない。トップからは10ラップ以上離されて上位は望むべくもないが、できるだけのことをして20時過ぎのチェッカーを迎えた。

夜のドライバー交代。すでにトップとは10ラップ以上遅れているがみな全力で、誰も気を抜いていません
終了。タワーに残るベスト10。ここに残るはずだったのに……残念……

 1日を振り返る。ファンベルト切れも自分のスピンが原因を作ったかもしれない。「無事、これ名馬」の金言を肝に銘じた。

 でも新しい発見もあり、やはりモータースポーツは楽しいのだ! マツダには感謝!

昼間は同乗走行で来場者をもてなす。僕の担当は懐かしのNAロータリー搭載車「RX-8」でした
最新のコンパクトSUV「MX-30」に採用されている観音開きドアのはしりとなった1台でもあり、乗った人は驚いていた
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。