試乗記

三菱自動車の新型「トライトン」(プロトタイプ)にオフロードで初試乗 ピックアップトラックも万能なファーストカーになり得る時代が来た

7月にタイで発表された新型1tピックアップトラック「トライトン」(プロトタイプ)に試乗

ラダーフレームは大幅な剛性アップ、エンジンも新開発

 三菱自動車工業の1t積ピックアップトラック「トライトン」はタイで生産され、アジアを中心に北米、南米、中東などに輸出する、三菱自動車の屋台骨を支える重要な1台だ。最終的にはグローバル100か国以上に輸出され年間20万台規模を目指すが、日本ではピックアップトラックの販路が限られているため本格的な輸入は行なわれていなかった。

 しかし三菱自動車の“三”を意味するトライと1t・ピックアップのトンを組み合わせたトライトンがフルモデルチェンジされて6代目となったのを期に、日本にも上級モデルの導入が予定されることになった。

 三菱自動車の4WD技術に裏付けられたテーマは「冒険」。すでに新型トライトンの冒険は始まっている。7月末のタイでの発表会からわずか1か月後のアジアクロスカントリーラリー(AXCR)2023で3位入賞を飾り、新型の高いポテンシャルを見せた。

 新型トライトンはフルモデルチェンジにふさわしく、まずピックアップトラックの骨格となるラダーフレームの大幅な剛性アップが図られた。メインフレームの断面積を65%増やし、大型化したボディにもかかわらず曲げで60%、ねじれで40%もの向上を見せた。大型化したボディとフレームにはハイテン鋼を広い範囲で使い、重量増は最小限にとどめられた。

 サスペンション形式はフロント:ダブルウィッシュボーン、リア:リーフリジットと変わらないが、フロントはアッパーアーム位置を上げることでストロークを増やし、リアのリーフスプリングも3枚として軽量化を図りながら強度を維持している。

 ボディサイズは5360×1930×1810mm(全長×全幅×全高)。ホイールベースは3130mmと長大だ。このため日本導入予定のダブルキャブでも広い後席と容量タップリの荷台を持つことができた。重量は2140kgとこのサイズのフレーム車としては軽く仕上がっている。

新型トライトンでは2列シートのダブルキャブ、1列シートのシングルキャブ、そしてフロントシート後ろに荷室スペースを設けるクラブキャブと、用途に応じた3タイプのボディを設定。日本に導入されるのは2列シートのダブルキャブ&4WD仕様で、オーバーフェンダーあり/なしが選択できる
新型トライトンのボディサイズは5360×1930×1810mm(全長×全幅×全高)。ホイールベースは3130mm。新開発となるラダーフレームは従来型から断面積を65%増やし、曲げ剛性40%、ねじり剛性60%の強化を実現する一方で、ハイテン鋼の採用比率を大幅に増加することで重量増を最小限に抑えており、車両重量は2140kgとした。最低地上高は222mm
デザインコンセプトは「BEAST MODE」(勇猛果敢)とし、ピックアップトラックに最適化された「ダイナミックシールド」デザインを採用。3連のL字型LEDランプを配したデイタイムランニングランプは猛禽類を思わせる眼光鋭い造形とし、その下に立体的な3眼プロジェクター式のヘッドライトを組み合わせることで存在感とたくましさを感じさせるデザインに仕上げている
足下は18インチホイールにダンロップのSUV用タイヤ「GRANDTREK(グラントレック)AT25」(265/60R18)をセット。なお、新型トライトンのアプローチアングルは29度、ランプブレークアングルは23.4度、ディパーチャーアングルは22.8度とのこと
リアまわりでは両端にT字型のテールランプをレイアウトすることでワイド感を強調するとともに、厚みを持たせリアまわりをたくましく演出

 エンジンはなんと新開発の直列4気筒2.4リッタークリーンディーゼルツインターボ「4N16」型。日本に導入予定なのは3種類あるエンジン出力の中でもっとも高出力型となり、三菱自動車らしい凝ったターボシステムで最高出力は150kW/3500rpm。そして1500rpmから470Nmの大トルクを発生する。トランスミッションは6速ATが組み合わされ、現時点で6速MTの導入予定はない。

新開発となるツインターボ仕様の直列4気筒2.4リッタークリーンディーゼル「4N16」型エンジンは最高出力150kW/3500rpm、最大トルク470Nm/1500-2750rpmを発生

 熟成を重ねた4輪駆動システムは従来型に搭載されていたセンターデフ4WDシステムの前後輪間トルク配分を行なうスーパーセレクト4WDIIをベースとして、左右輪間トルク移動を行なうブレーキAYCを組み合わせたトライトン独自のもの。ランエボXから始まったS-AWCに近い性能を持たせている。またABSやスタビリティコントロール、トラクションコントロールも悪路での走破性に重点を置いたものに設定されているのが三菱自動車らしい。

インテリアでは走行時の車体姿勢の変化をつかみやすい水平基調で力強い造形の「HORIZONTAL AXIS(ホリゾンタル・アクシス)」コンセプトを進化させたインストルメントパネルを採用。フロントシートはヒップポイントを従来車に比べて20mmアップし、アップライトな乗車姿勢とすることで室内からの視認性を向上
走行モードはノーマル、グラベル、スノーを用意
モニターやメーター、コントラストをつけたスイッチ類は視認性にこだわり、セレクター、ダイヤル、スイッチ類は手袋をしたままでも確実に操作ができるよう程よい節度感を実現したという
4WDのモードセレクターの操作はセンターコンソールのダイヤルで可能
前席の空気を後席へと送り込むサーキュレーターも備わる

まるでよくできたラリー車のよう

 試乗コースは帯広にある十勝研究所に隣接した、約9万2000m 2 の敷地に作られたオフロードコース「TOKACHI Adventure Trail」。外周路1.7km、内周路1.1kmあり、組み合わせると高低差36mの2.8kmのさまざまな路面を走ることができる。

 さていよいよ試乗。路面は前日の雨で一部ウェット。滑りやすいがほこりもたたず4WDを試すにはちょうどいいコンディション。4WDのモードセレクターは後輪駆動の2H、フルタイム4WDの4H、センターデフをロックする4HLc、ローギヤードの4HLLcが選択でき、さらにグラベルや岩場、泥濘地や砂などで最適な駆動力が得られるモードが設定されている。

 選択はセンターコンソールのダイヤルででき、各スイッチや表示もシンプルで分かりやすい。今回は2Hと4Hを比較してみた。最初は後輪駆動の2H。タイヤはダンロップ「グラントレック」、サイズは265/60R18と大きく、最低地上高は222mmを取れている。

 アップダウンのある林道コースはトライトンには狭いかと思ったが、意外なほど軽快だ。フレーム剛性の高さとサスペンションストロークが長くなったこと、そしてリアが柔らかくなったことで接地性がよくコントロール性も高い。リアのLSDが効果的でトラクションもかけやすくなっている。後輪駆動とは思えないほど姿勢安定性が高くグイグイと前に出ていく。

 ステアリングでは電動パワーステアリングが秀逸だ。操舵力が軽いのはもちろんだが路面からのフィードバックも正確で、さらにキックバックを見事に伝えない。これは悪路では恩恵が大きい。トライトンがひとまわり小さくなったようで、まるでよくできたラリー車のように走る。

 悪路では傾斜角20度以上あるモーグルも大きな凹凸路も難なくこなし、高い最低地上高を活かしてフロアを打つこともない。滑りやすいウェット路面もM+Sのタイヤ性能もさることながら、サスペンションのグリップ力の高さに驚いた。試乗は3人乗車で行なったが荷台には何も乗せていないにも関わらず、後輪にしっかりと荷重がかかり走りが楽しい。

 そのうえ乗り心地がすこぶるいい。従来型ではポンポン跳ねそうな路面でも下からの突き上げが抑えられ、広い後席に座った大柄な同乗者も満足そうだった。さすがに少し濡れた急勾配のダカール坂では上り切れずに4Hで走りなおしたが、ドライだったら上れたかもしれない。2Hでもポテンシャルは高い。

 壁のように立ちはだかるダカール坂は手強そうだったが、4Lcを選ぶまでもなく4Hで十分走り切る。続く急勾配の下りではヒルディセントコントロールを使えば25km/hまでの範囲でアクセル開度に合わせた安定した姿勢で降りられる。ブレーキを使っても解除されないので実用的だ。オフロードに限らず勾配の強い積雪路面でも使えそうだ。

 続いて4Hに入れて同じコースを走る。少し早いペースで同じように路面をトレースした。ステアリング応答性が少し落ち、プッシュアンダーの兆候を感じたがグリップの絶対値は上がり、ターンインでのステアリング操作を早めれば4WDはやはり安心感がある。

 河原を想定した岩場ではごく低速で岩を避けながら走りたいところだが、低速トルクが強く思いのほか速度が上がってしまう。それでも岩との干渉がないのはありがたい。何気なく走破してしまったが、本来ならROCKモードを選べばジワリとした駆動力を使えるはずだ。時間があればGRAVELやSNOWモードの違いを確認すべきだったが、4Hの守備範囲の広さに今回のシチュエーションではほかのモードを試す必要性をあまり感じなかった。

 特筆すべき点がもう1つある。大きな凹凸路、しかもウェットで滑りやすくなっている路面では空転してトラクションコントロールが邪魔をすることがある。新型トライトンではある程度空転を許容するのでアクセルの邪魔をしない。さすが悪路を知っている三菱自動車と感じた。

 エンジンはディーセルを感じさせない静粛性と振動の小ささで従来車の少し荒々しかったところはすべてそぎ落とされた。しかも2.2tのトライトンを持ち前の低速トルクの強さで悪路を気持ちよくドライブでき、レスポンスも極めてよいのも特徴だ。さすがにダカール坂のような急勾配の長い上り坂ではもう少し回転の伸びがほしいところだが、ディーゼルの特性上これ以上の贅沢は控えよう。

 今回の試乗では出番はなかったが、三菱自動車セーフティセンシング(MMSS)に沿って安全装備、快適装備はほぼそろっている。レーダークルーズコントロール、衝突被害軽減ブレーキ、後側方検知システム、後退時車両検知システムなどで、さらに三菱コネクトで衝突時のSOS発信機能やスマホと連携して車両位置を地図アプリに表示させる機能や、リモートでエアコン操作が可能となる機能を満載するなど、ピックアップトラックの域を超えている。

 日本に導入された時はピックアップトラックとは思えない快適な乗り心地と粘りのある走行性能、そして上級車に劣らない装備にきっと驚くに違いない。サイズさえ問題にならなければ快適で万能なファーストカーとして使えるだろう。

 試乗で改めて感じたのはTOKACHI Adventure Trailは走ってこその耐久性や普段は気づかない乗り心地、そして極限の運動性能を評価できる大切な場所だということだ。パリダカ優勝者の増岡さんだからこそ作り上げることができたこのコースは、これからさらに三菱自動車ならではのクルマを鍛えていくに違いない。

試乗会の最後にはダカールラリー2連覇の経験をもつ増岡浩氏によるデモランも行なわれた
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学