試乗記

スバルの新型「レヴォーグ レイバック」プロトタイプに試乗! クローズドの一般道を走った第一印象は?

スバル「レヴォーグ レイバック」(プロトタイプ)

レヴォーグ レイバックはどんなモデル?

 スバル「レヴォーグ」の新たなグレードとして登場した「レイバック」。そのプロトタイプモデルを、佐渡島のクローズドコースで試すことができた。

 ちなみにレイバックとは、「くつろいだ」とか「のんびりした」という意味の“laid back”(レイドバック)から作られた造語でありグレード名だ。開発陣たちはそこに、「ゆとりある豊かな時間や空間を大切にする気持ち」を込めたという。

 そんなレイバックの商品戦略は、ずばりレヴォーグの拡販。レヴォーグがこれまで取りこぼしてきたユーザーを、取り戻すことにある。

 いわく現行レヴォーグは、スポーティに過ぎたというのだ。

 レヴォーグ最大のセリングポイントは、ご存じジャストサイズのスポーツワゴンというキャラクターにある。しかしそれ故に、大人のユーザーたちからはちょっと敬遠されることもあった。特にお財布のひもを握る奥さま層からは、エッジーな見た目やボルドーの内装、そして乗り味が「ちょっとスポーティ過ぎる」という評価を受けていたようだ。

 そこで開発陣は、レヴォーグにラグジュアリー路線の、新たな価値観を与えることにした。具体的な開発テーマは「凜と包」。レヴォーグの“凜”としたたたずまいを、優雅さで“包”み込むというのが、レイバックのコンセプトとなったというわけだ。

レヴォーグ レイバック(プロトタイプ)。ボディサイズは4770×1820×1570mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2670mm。車両重量は1600kg
パワートレーンはレヴォーグ GT-H EXと同じ、最高出力130kW(177PS)/5200-5600rpm、300Nm(30.6kgfm)/1600-3600rpmを発生させる水平対向4気筒DOHC 1.8リッターターボエンジンを搭載。トランスミッションはCVTを組み合わせる

 そのためにまずアピアランスとしては、都会派SUVを表現するべく最低地上高が55mm増やされた。ちなみにスリーサイズはレヴォーグ(GT-H EX)比で全長が15mm、全幅が25mm、全高が70mm増えた。2670mmのホイールベースは同等だ。

 これに合わせて前後バンパーには、エッジを減らして丸みを与えた。特にフロントバンパー下部、縦型となったフォグランプまわりは、ふっくらとした優しい印象になった。

 対してグリルはエンブレムを挟むホリゾンタルバーがボンネットのキャラクターラインに合わせた骨太な形状へと改められ、優しさだけじゃなく強さや頼もしさも表現。またメッシュグリルは柄が改められ、シルバー加飾でプレミアム感が高められた。写真で見ると平坦だが、実際にこのグリルの立体感はなかなかのものだ。

 またリアは黒い樹脂トリム部分の厚みを減らし、バンパーに厚みを持たせることで、背の高いSUVボディでも後ろ姿が華奢(きゃしゃ)に見えない工夫が採られている。

エクステリアは、フロントまわりから始まる1つの面が豊かにおおらかに流れていくデザイン。グリル、バンパーといった要素ごとではなく、1つの大きな立体として構成され、フロント両サイドの縦モチーフが流れをしっかりと受け止め、表情を引き締めている。リアまわりもフロントと同じ考え方で構成され、車両全体での豊かな表現に注力。縦方向の厚みをしっかりと見せ、SUVらしい存在感を表現するとともに“土の香りがしない”サイドクラッディングと、ホイールも“凜と包”で表現した

 インテリアはセンターコンソールやアームレスト、シートのサイドサポート部にアッシュカラーを採用。またレヴォーグとしては初となるカッパーステッチを施すことで、落ち着きのあるスタイリッシュさを表現した。そしてダッシュボードやナビまわり、シフトまわりのシルバートリムと、ファブリックシートのアッシュカラーにわずかな青みを加えることで、リラックスした空間作りを提案しているのだという。

インテリアは、大切なパートナーとのリラックスした時間をより快適に、より豊かに紡ぐデザインとし、空間を彩るアッシュ×カッパーステッチの華やかな配色とコントラストを採用。暖色系の基本構成にほんのり青をミックスし、“レイバックならでは”を演出している
専用開発された10スピーカー(フロント6+リア4)を備えるハーマンカードンサウンドシステムを標準装備
ラゲッジ容量はレヴォーグ GT-X EXと同等の561L(サブトランク含む)を確保

ワインディングとレヴォーグ レイバックの組み合わせはいかに?

 そんなレヴォーグ レイバックを走らせた印象は、実にスバルらしい、優しさのある乗り味が印象的だった。

 一番感心したのは静粛性の高さで、今回のような荒れた路面でも、ロードノイズが見事に抑えられていた。

 そのヒミツはどうやら、クロストレックにも採用されたオールシーズンタイヤ「ファルケン ZIEX ZE001 A/S」にあるようだ。このタイヤは冬場の路面追従性が常用域で乗り心地に貢献するだけでなく、静粛性にも優れていることが、テストで分かったのだという。

 ちなみにその守備範囲は、雪の降り始めまで。スノーフレークマークがないことからも分かる通り、スバルも雪上走行を積極的には勧めていない。

オールシーズンタイヤのファルケン「ZIEX ZE001A A/S」(225/55R18)を装着。クロストレックにも装着されており、レヴォーグ レイバック専用開発ではないという

 そしてこのタイヤと高められた車高に対しては、専用の足まわりが与えられた。カーブではダンパー&スプリングが重心の移動をゆっくりと制御し、乗り心地を損なうことなくロールを抑えていた。

 今回はアップダウンの激しいポイントがいくつかあったのだが、こうした路面でもバンプ時のトー変化が起きないのは見事で、浮き上がったボディがグッと着地しても挙動は安定。一定にステアリング舵角を保ったまま、安心して走り続けることができた。

 もちろんそこには水平対向エンジンの重心の低さや、オーバーハング重量の少なさ、そして4WDのトラクションも貢献しているのだが、ここにはストロークアップがもたらす、ジオメトリー変化の少なさ、悪路への強さが効いていると感じた。

 気になる部分があるとすれば、操舵初期のレスポンスがやや鈍いことだろうか。特に今回の試乗路は曲率が高いワインディングで、かつその道幅もかなり狭いこともあり、レイバックには合っていなかった。こうしたステージなら当然、サスペンション剛性が高く重心が低い普通のレヴォーグの方が、断然身のこなしがいい。

 またターンし始めでクルマが曲がり出すのを待っている間にエンジン回転が落ちてしまい、アクセルオンでターボラグが気になってしまうのも惜しかった。過給圧が上がらない分だけアクセル開度も自然と大きくなってしまうから、4WDのトラクションも相まって一気に加速してしまうのだ。

 これは1.8リッターしか排気量がない水平対向4気筒ターボの弱点だから、もはや仕方のないことだ。可変ジオメトリータービンを付けろとまでは言わないが、ここでモーターが低速トルクを底支えしてくれれば、とは正直思う。

 そしてもしそのステアリングがバリアブルギアレシオなら、ちょっとした解決策にはなるのかもしれないと思った。ターンインがリニアになれば、アクセルの踏み始めが早くなり、全てのつながりがスムーズになるからだ。なおかつSTIに投入した電子制御式可変ダンパーを、スポーティさではなく上質さとスタビリティの向上に活用できたら最高である。

 プロトタイプゆえ一般公道が走れなかったのは残念だが、本来であれば街中を60km/h程度で走り、高速道路を100km/hあたりで巡航したときにこそ、レヴォーグ レイバックの素晴らしさが引き出せるはず。今回もその片鱗を感じ取ることはできたが、「もうひとつのレヴォーグ」の真価は、そのときにキッチリと証明した方がよいだろう。

レヴォーグ レイバック(プロトタイプ)STIパーツ装着車
レヴォーグ レイバック(プロトタイプ)純正アクセサリー装着車
山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートや、イベント活動も行なう。

Photo:堤晋一