試乗レポート

STIの新型レヴォーグ用「フレキシブルドロースティフナーリヤ」を体験してきた

6月17日に発売されたばかりの新型レヴォーグ(VN)用「フレキシブルドロースティフナーリヤ」を試してきた

重要なのは必要な部位に「引っ張り」のプリロードをかけること

 STI(スバルテクニカインターナショナル)が新型レヴォーグ用の「フレキシブルドロースティフナーリヤ」を新たに発売した。すでに車体下部の前側に装着するものは発売されていたが、今回のものはリアバンパー内に取り付けるものだ。これまたすでに発売中のフレキシブルタワーバー・フロントと3点セットでSTIが目指す走りがいよいよ完成となるわけだ。

 そもそもSTIがリリースしているフレキシブルシリーズはかなり特徴的なアイテムだ。よくある補強パーツとは違い、実はどれもパーツ自体は強度部材というわけじゃない。タワーバーは中央部でくねくねと曲がるように造られているし、ドロースティフナーは横から衝撃が加われば曲がってしまいそうに細い棒が主体となっている。けれども、引っ張る方向にはテンションがかかるようになっていることがポイントだ。発案者であるSTIの辰己英治さんいわく「必要な部位に『引っ張り』のプリロードをかける」、これが重要となるそうだ。

 車体はキャビンが最も剛性が高く、クラッシャブルゾーンである前後はそれに比べるとやや弱い部分がある。この剛性の不連続な部分があることによって力の伝達も不均一になり、運転を難しくしている。車体にプリロードをかけるとステアリングを切った瞬間から応答が始まるようになり、曲がりやすく安定性にも優れるものが仕上がるという。「勝負はステアリングを切った瞬間の動き。スリップアングルがついてコーナリングフォースが出てという段階ではもう遅い。操舵の瞬間に起きるスカッフ変化の力まで使えないかということを考えた時、ドロースティフナーが有効だとなったんです」と辰己さん。これによりフロントイン側のタイヤも仕事をするようになり、操りやすい“運転がうまくなるクルマ”となるそうだ。

フレキシブルドロースティフナーリヤは左右のリアフレームの後端部(リアバンパーの内部)に装着し、適度なテンションをかけることで走行中のシャシーのしなりを補正し、機敏な初期操舵としなやかな乗り心地を両立するというもの。価格は3万5200円

 筆者はマイカーとして新型レヴォーグを持っているが、STI仕様に生まれ変わったデモカーに乗り換えると、たしかに微小操舵角でもクルマが反応を始めていることが理解できる。決してゲインが高くキビキビとしている感覚じゃない。むしろ感覚的にはゲインが下がったかのようなマイルドさが得られるのだ。だが、操舵に対してリニアにクルマが反応を続けている印象があり、パイロンスラロームをスイスイとこなしていく。難しさがなくなりクルマがスムーズに動くことで、たしかに運転が上手くなったと感じるし、乗っていて楽しい! いつでも意識せずにクルマが付いてきてくれる感覚はとにかく心地いい。運動性能アップだけでなく、上質さも兼ね備えたところが嬉しい仕上がりだ。

 そこから再びノーマルに乗ると、微小操舵角の応答が薄く、一定操舵角(とはいってもかなり少ない)から一気にクルマが反応していくような感覚だった。遊びといってしまえば遊びの領域なのだが、それがあるおかげでコーナリングが開始するポイントを自然とそーっと切るように緊張する部分があり、結果として神経を使うドライビングであることが再確認できた。意識して走らなければ狭いパイロンスラロームを滑らかに駆け抜けることは難しい。

 妻・まるも亜希子に運転してもらい今度は後席を体験してみたが、ノーマル状態ではややギクシャクとした動きになり、頭と身体が急激に動かされる領域があることが気になった。「もっと丁寧にステアリングを動かして!」なんて余計なひと言を言いたくなるくらい。妻も同業者でありそれなりに運転は上手いとは思うが、大雑把なO型のせいか、はたまた豪快な性格のせいか、繊細さがないなと、そんなところで感じていた。

 だが、STI仕様に乗り換えるとかなり繊細な動きができる大和撫子に生まれ変わった!? なんて感じるほどスムーズにパイロンスラロームを駆け抜けたのだ。身体の嫌な振られはなくなり、車内は一気に優雅な空間に。妻もレヴォーグも惚れ直したのだった(笑)。

 このように、ドライバーの運転が上手くなるだけでなく、同乗者の快適性からドライバーに対する印象までをも変化させてくれるドロースティフナーは、彼女や奥さま対策にもバッチリ。クルマだけでなく自分もある意味磨けちゃうという、類稀なチューニングパーツだった。

フレキシブルドロースティフナーリヤには購入者特典として、同パーツを装着していることを示す特典ステッカーが付属する
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はスバル新型レヴォーグ(2020年11月納車)、メルセデスベンツVクラス、ユーノスロードスター。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。