試乗レポート

ジープ「コンパス」2021年マイナーチェンジモデルの2WD&4WDを乗り比べ

ビッグマイナーチェンジでデザインと装備をブラッシュアップ

 好調なジープブランドの中でコンパクトサイズを担う「コンパス」がビッグマイナーを受けた。コンパスの日本導入は2012年。「グランドチェロキー」「チェロキー」の弟分に当たるオンロード派のSUVで、2017年には2代目にバトンタッチした。今回のビッグマイナーではインテリアの刷新がメインとなるが、走りの面でも細かいブラッシュアップが見られた。コンパスは北米以外の世界5か国で生産されるグローバルカーでメキシコ、ブラジル、欧州、インド、中国から世界に送り出される。

 新コンパスには4WDとFFの両モデルに乗ることができたので、どちらにも触れながらレポートしていきたい。

 エクステリアはフロントグリルに入るジープ伝統の7本のスリットが目立ち、バンパー下の開口部が大きくなったため、さらに精悍なデザインになった。ヘッドライトがキセノンからフルLEDになったことも大きい。リアもコンビランプやバンパーガーニッシュのデザインがフロントの意匠と同じトーンで変更になったことも華やかさを添えている。ボディパネルなどに変更はないがジープのデザイン原点に回帰した雰囲気がある。

ジープ「コンパス Longitude」。撮影車は2WD(FF)で価格は385万円。ボディサイズは4420×1810×1640mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2635mm
Longitudeは17インチホイールと225/65R17サイズのブリヂストン「TURANZA」の組み合わせ
ヘッドライトは全車LEDが標準装備となった

 一新されたダッシュボードは横方向に広がりのあるクリーンなデザインになった。FFのLongitudeではクロス系のホワイトパネルを使っておりキャビンが明るい。4WDのLimitedでは独特のシボを使ったブラックインパネとなっている。

 インフォテイメントではセンターディスプレイが10.1インチの大型タッチスクリーン(Sportでは8.4インチ)に、ドライバー正面のディスプレイも10.25インチのフル液晶(Sportでは7インチ)になり機能は大きく広がった。センターディスプレイにはApple CarPlayかAndroid Autoが接続でき、試乗車ではApple CarPlayを通じてYahoo!カーナビを使ったが、簡単に操作できた。メータークラスター内のディスプレイではドライビングに関する情報を得られ、センターディスプレイではナビやオーディオなどの情報が引き出せる。さすがに短い時間では操作系を深く知るまでには至らなかったが、FCAに採用され始めた共通した操作系で乗り換えではスムーズに行なえるようだ。

 ドライビングポジションは高めで直前視界は良好。フロントシートはコンパクトSUVながら前後長も長めでゆったりしている。リアシートは平板だがレッグルームは広い。さらに後席のセンターアームレストを引き出すことができるが、仕切り板がないので直接ラゲッジルームとつながることになる。

水平基調のインパネ
Longitudeはプレミアムファブリックシートが標準。リアシートは40:60分割可倒式で、ラゲッジを広く使うこともできる
第5世代のUconnect5を搭載した10.1インチ大型タッチスクリーンを新搭載
エアコンはタッチスクリーンと物理キーの2パターンで調整可能
シフトノブ
プッシュスタートスイッチの意匠も凝ったデザインとなった
デジタル表示のオド・トリップメーター。表示する情報は好みに応じて変更可能

 ボディサイズは4420×1810×1640mm(全長×全幅×全高)と日本では使いやすいサイズで、荷物の収納能力も大きいことを考えると絶妙なサイズだ。最小回転半径は5.7mでそれほど小さくはないが、見切りがよいので都市部での取り回しもよい。

 エンジンは2.4リッターの自然吸気エンジンで、最高出力は175PS/6400rpm、最大トルクは229Nm/3900rpm。最近の小排気量ターボエンジン搭載車に比べるとトルクが薄いがアクセルには素直に反応する。ちなみにFFと4WDでは同じエンジンを搭載している。ただ組み合わされるトランスミッションはFFはアイシン製の6速、4WDはZF製の9速となる。重量はFFでは1490kg、4WDでは1600kgと110kg重くなるが最終減速比は前者3.502、後者は3.734と低く、9速あるギヤ比もワイドに散らされており、特に発進時から中速に至る加速域とクルージングでの燃費に配慮したレシオになっている。重量差を感じさせないフィーリングだ。

最高出力129kW(175PS)/6400rpm、最大トルク229Nm(23.4kgfm)/3900rpmを発生する直列4気筒2.4リッターエンジンを搭載。組み合わせるトランスミッションは2WDモデルが6速AT、4WDモデルが9速AT。LongitudeのWLTCモード燃費は11.8km/L

軽快な2WDモデルと、安定感のある4WDモデル

 乗り比べても両車とも必要十分な駆動力を持っていることが分かるが、4WDは重量が重い分だけドッシリとした印象で接地感も高い一方でFFは軽快さが身上だ。どちらも急いで加速するとエンジンノイズも大きめになる。それ以外の緩加速では平均なノイズのピークはよく抑えられている。

 マイチェン前モデルと比べて車体やパワートレーン系にスペック上の変更はないが、走行後に感じたのはブラッシュアップされているようで、ロードノイズなどが抑えられたように感じられた。

 気になる点と言えばアイドルストップから再スタートしたときにパワートレーン系のショックが大きいこと。アクセルを踏んでからタイミングが少しずれてエンジンが再始動するので、タイミングがわるいと強めのショックを伴うことがある。またブレーキは都市部のようにストップ&ゴーが多いところでは踏力でコントロールできた方が好ましいと感じる。

 ハンドリングではFFはロールが大きいが重量が軽い分、軽快感があって舵の効きもよい。コンパクトSUVのカテゴリーでは十分なハンドリングだと思う。一方4WDではハンドル応答性、それ以降の追従性も機敏ではないが安定感があって好ましい。4WDシステムはオンデマンドタイプで走行中の大部分はFF走行だが、重い重量とその重量配分がそのように感じさせるものだろう。また、ステアリングホイールのリム部分が握りやすくなったことでドライバーに意識させることなく余計な力の入らない操作になっていることも大きい。

 また4WDには路面状況によってオート、スノー、サンド/マッドが選べるセレクテレインシステムがあり、それ以外にもシフトレバー後方に4WD・LOWとヒルディセント、4WD・LOCKが単独スイッチで備わる。ジープのルーツを思い起こさせる装備だ。

 もちろん副変速機を持っているわけではないので4WD・LOWはエンジンのマッピングを変えて低速での出力を上げ、4WD・LOCKは強制的に後輪の駆動力を上げることができる。どちらも山道や降雪地で強い味方になってくれそうだ。

 乗り心地は、ジープらしい味付けで路面から突き上げるようショックはよく吸収され、ソフトではないが節度感のある乗り心地だ。FFでは少しピッチング傾向にあったが4WDではフラットな印象だ。プロペラシャフトや重量配分による違いだと思われる。

 コンパスは運転支援技術、先進安全技術ともにアップデートされ、歩行者/自転車の検知衝突回避支援、ブラインドスポットモニター、死角に入った並走車との接触を回避するステアリング操舵支援などを全グレードに標準装備している。またLimitedにはサラウンドビューモニターやドライバーの注意力が低下したときの警報なども備わる。

 LEDヘッドライトは全車標準装備となり上記の装備が追加されたにもかかわらず、価格は1~10万円しかアップしておらず、このクラスの輸入車では最も安い価格が付けられている。FFのSportでは346万円、4WDのLimitedでも435万円で、ジープブランドという価値もあって買い得感が大きい。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛