試乗レポート

アウディの新型「A3」、1.0リッターターボを搭載する30 TFSIの動力性能をチェック

スポーツバックの「1st edition」に試乗

 8年振りのフルモデルチェンジで4世代目となった「A3」。こちらの項では2WD(FF)のスポーツバック/セダンに搭載される1.0リッターターボモデルを紹介しよう。このエンジンは先に導入された30 TFSIシリーズに採用(直列4気筒2.0リッターターボエンジン搭載の40 TFSIシリーズは今秋発売予定)され、すでにフォルクスワーゲンの「T-CROSS」や6月15日に日本導入された「ゴルフ8」が搭載するが、アウディでは初めてとなる。

 74.5×76.4mm(ボア×ストローク)の直列3気筒1.0リッターターボ「DLA」型エンジンは最高出力81kW(110PS)/5500rpm、最大トルク200Nm/2000-3000rpmを出す。車両重量は1320kgと従来のA3と変わらないが、小さくなった排気量でA3の動力性能が維持できるか注目だ。

 このエンジンにはコンパクトクラスとしては初めてベルトドライブのオルタネーターと48Vリチウムイオンバッテリーを組み合わせたマイルドハイブリットを搭載している。こちらもプレミアムコンパクトにどのような効果をもたらすかも興味津々だ。

 試乗車はスポーツバックの30 TSFI advanceをベースにオプションを満載した「1st edition」で、30 TSFI advanceのスタ―トプライスが310万円に対して453万円と高価になるが、オプション内容を考えると確かに買い得感はあり限定375台の用意となっている。

 一見してグリルが大きくなり、堂々とした顔は初代スポーツクワトロをイメージするが全体のモチーフは先代から継承しつつ、凹凸面を巧みに使ったサイドパネルがダイナミックな印象を与える。

 先代と比較したサイズは全長で20mm長い4345mm、全幅で30mm広い1815mmとなっており、ボディはひとまわり大きくなった。ホイールベースは2635mmと変わりないが、室内は広くなって後席もレッグルームに余裕がある。

今回試乗したのは5月に発売された新型A3。試乗車は「30 TFSI advanced」をベースに装備を充実した導入記念モデル「1st edition」(453万円)で、ボディサイズは4495×1815×1425mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2635mm
外観では低くワイドなシングルフレームにフロントエンドの大型エアインテーク、エッジの効いたLEDヘッドライトを採用するとともに、「Audi quattro」をイメージしたブリスターフェンダーなどを採用。1st editionは専用デザインとなる5スポークVデザインの18インチアルミホイールやルーフレールを装備する

 インテリアのシボなどは見慣れた感じだが、メーターは10.25インチの液晶パネルに速度やタコメーターのほか、ナビゲーションや走行距離、燃費などのさまざまな情報を呼び出せる。センターには10.1インチのタッチスクリーンでナビゲーションやオーディオなどを表示でき、アウディらしいデジタルコックピットとなっている。慣れると迷わないのだが、初対面では目的のものを呼び出すまで緊張する。

インテリアでは、センターコンソールを運転席側に向けたドライバーオリエンテッドなコクピットデザイン。コンパクトな新形状のシフトスイッチも採用した。インフォテイメントとしては最新の10.1インチのタッチスクリーン式「MIB3」MMI ナビゲーションシステムを搭載し、1st editionではアウディバーチャルコックピットなども標準装備する
後席は40:20:40の分割可倒式
新型A3は従来モデル比でフロントのヘッドルームを7mm、エルボールームを6mm、リアのショルダールームを2mm、エルボールームを3mm拡大した。1st editionではブルーの挿し色を施したフロントシートが与えられる

立ち上がりで力が欲しい時などソツなく力強く加速

 イグニッションスイッチはセンターコンソール上にあり、Sトロニック(7速デュアルクラッチ)のシフトレバーは小さなスイッチとしてコジンマリと同居する。イグニッションをONにしてエンジンを始動させる。3気筒らしき振動と音を発するかと思いきや、意外と静かでこれまでの1.4リッター4気筒エンジンと大差はない。静粛性の高さ、振動の抑え込みはプレミアムコンパクトにふさわしい。

 1.0リッター3気筒エンジンとは馴染みがあり、古くはリッターカーのシャレードに、最近ではフォード・フィエスタに乗っていた。シャレードは初期の3気筒で自然吸気エンジンだったこともあり独特のビートがあったが楽しかった。また、フィエスタも高い評価を受けていただけあってパワフルだった。もっとも燃費は出力相応によくなかったが、これに対してアウディのアプローチはどうだろうか。

30 TFSIシリーズが搭載する直列3気筒1.0リッターターボ「DLA」型エンジンは最高出力81kW(110PS)/5500rpm、最大トルク200Nm(20.4kgfm)/2000-3000rpmを発生。WLTCモード燃費は17.9km/L。これにベルト駆動式オルタネータースターター(BAS)と48Vリチウムイオンバッテリーを用いたマイルドハイブリッドドライブシステムを組み合わせる

 発進時はSトロニックのクラッチミートもうまく、パワーサポートもあって滑らかに走り出す。48Vマイルドハイブリットはストップ&ゴーを繰り返す時もエンジンの再始動の音や振動も小さくどこまでも滑らかだ。

 概して低速での音にあまり関心がない欧州車の中にあって、新しいA3はとてもスマートだ。ハッチバックの宿命でリアからロードノイズが入りやすい形状だが、速度が上がってくると目立たなくなる(装着タイヤはオプションのピレリ「CINTURATO P7」[225/40R18])。

 乗り心地では凹凸走行時の上下ダンピングはスッと収まって適度にスポーツ感があるが、低速では路面の細かいギャップに対してゴツゴツした感触がある。少しスポーティなタイヤの性格も出ているのかもしれない。

 リアサスペンションは2.0リッターターボがウィッシュボーンなのに対して1.0リッターターボではリアがトレーリングアームの固定軸になるが、このような凹凸路の通過でもリアサスペンションの接地性は高い。

 ハンドリングは軽快だ。フロントエンドに3気筒の軽いエンジンを積んだA3はハンドル応答性が高く、ヒラリとした感じでノーズを変える。タイヤのグリップも高く、コーナリングは結構踏ん張る。低速で少しゴツゴツしたところがあったのが帳尻が合う感じだ。ガッツリしたグリップ感とは違うが、A3の少しスポーティな性格がよく表れている。またコーナーでギャップに入った際に後輪が少しバタついたが、しっかりしたボディはサスペンションの動きを受け止めて、それ以上の余分な振動を伝えないのは素晴らしい。

 シフトスイッチをもう1回引くとSトロニックはSモードに入り、変速制御を行なうためトルクバンドに乗せやすい。山道などで使うと一層スポーティに走れる。

 エンジンの性格は低中速回転で出力が出るタイプで、パワーバンドも低中速回転に重きを置いた設定になっている。そしてレスポンスもすこぶるよい。スタートやコーナーの立ち上がりで力が欲しい時などはソツなく力強く加速する。

 この領域では2.0リッター自然吸気エンジンぐらいのパワー感だが、例えば高速道路での追い越しなどでは高回転域での伸びが頭打ちになる。1.0リッターターボエンジンだったことを思い出す瞬間だ。逆に言えば、そのような場面以外では必要十分なパワーがあってA3のプレミアム感を損なわないパワーユニットだ。

 さらに48Vマイルドハイブリットはエンジンを切って空走するコースティングを積極的に行なう。40km/h以下の一定速で走っていると、いつの間にかエンジンを止めて空走を始めていた。アクセルに足を置いて再度エンジンを回す時もほとんど気付かない。ベルトドライブオルタネーターの効果大である。

 スペック表ではWLTC燃費は郊外モードで17.6km/L、高速モードでは20.0km/Lと表示されているが確かに伸びそうだ。

 アウディ A3、一層進む小排気量化に対応した1.0リッターターボの実用性は高い。それでもというユーザーには190PS/320Nmの2.0リッター4気筒ターボのクワトロモデルも揃えられており、さらに本格的なスポーツモデルという声にはS3が控えている。セダンも合わせると隙のないラインアップから選べる。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛