試乗記

テインのショックアブソーバー「EnduraPro Plus」と純正を最新EVで乗り比べ 成功を収める中国市場についても報告

OE仕様と純正形状の「EnduraPro Plus」を乗り比べる試乗会が中国で開かれた

現在の中国市場

 TEINというショックアブソーバーメーカー、しかもリプレイス品に特化したユニークな会社の概略は別項で説明しているが、少量多品種生産の特異な生産体制はスピードの速い中国市場にマッチして急速に販路を拡大している最中だ。

 その中国は今や世界最大の自動車生産国。2022年の販売台数は2686万台と圧倒的だ。アジアの巨人のクルマ事情は日本にはあまり伝わってこないが、かつてのコピー王国の域はとうに脱しており、見たこともない新型車ばかりが走りまわっている。

 ざっと50以上のメーカーがあると言われ、その原動力となったのは中国の新エネルギー車(NEV)戦略。最新の内燃機を開発するよりコストを抑えることができるBEV(バッテリ電気自動車)は自動車新興国でサプライヤーも揃っている中国には最適だった。

 NEV規制の追い風になっているのはナンバーの発給。31ある省を筆頭とする地方自治体が決定権を持っているものの、国の施策は大きくNEV車のナンバーの取得は緩い。発給規制を設けているのは巨大都市である北京、上海、南京、天津、広州、深センの6都市。特に北京、上海は厳しく前者ではガソリン車は申請で2年待ち、後者は増車はできないという。膨れ上がる巨大都市でナンバーを取りやすいのはNEV車(PHEVとBEV)で、日本の得意とするハイブリッドは広州と天津市で特別枠が設けられているのみだ。

 もっとも地方ではNEV車以外の規制も緩く、ナンバープレートも従来車を示すブルーがNEVを示すグリーンと白のグラデーションナンバーを上まわる。それでも中国オリジナル車の数はコロナ禍前よりも圧倒的に増えている。

 一方で開発速度の早い中国では競争も激しく、中国OEMは欧州、日本から自動車エンジニア、デザイナー、設備を始めとした幅広い人材を登用し、二乗的に技術を上げてきた。しかも最新の設備とそれを使いこなす従業員の練度は高く、中国車の実力は決して侮れない。BYDは1995年設立の新興企業だが、2023年初めに日本にも導入が始まった「ATTO3」の実力はすでに場数を踏んだメーカーと同じレベルにあり舌を巻いた。

 BEVを中心とした中国市場の今後の予測を見ると、2030年の販売の半数がNEV車で占められるとされ、さらに今後の中国からの輸出予測は日本にとって非常に脅威になるのは間違いなく、その時代はすぐそこに来ている。

中国における2030年までのEV車推移予測
中国でのガソリン車シェア
中国でのBEVシェア
中国での自動車メーカー別シェア
中国の自動車輸出予測

OE仕様と純正形状の「EnduraPro Plus」を比べた

 さて、TEINが中国市場で成功したのは中国OEMのリプレイス品を短期間で準備できたこと、特にBEVへの素早い対応は他メーカーの追随を許さなかったことが大きい。ユーザーからは既存車種の乗り心地とハンドリングの改善が高く評価されたことで高いブランド力を持つことができた。OEMとは違ったリプレイスらしい商品力を活かせたことも見逃せない。

 今回TEINが用意してくれた4台の試乗車では、OE仕様と純正形状の「EnduraPro Plus」、それに車高調整式の「FLEX Z」、さらに前回紹介した減衰力を前後左右で自在に変えられ、ジャーク制御機能を持った「EDFC5」を装備したFLEX Z+EDFC5に乗ることができ、その違いを体感させてもらった。

 試乗車は中国のBEV市場で14%のシュアを持つテスラの「モデル3」と「モデルY」。それに注目のBYDのクーペSUV「SEAL」と中国のもう1つのメジャープレイヤー、Geely(ジーリー)のフラグシップEV「ZEEKR」だ。テスラ3(後輪駆動)を除いていずれも4WDだ。

 試乗コースはTEINの中国工場がある宿遷市郊外にあるカートコース。カートコースと言っても、外周路を合わせると大中小のコーナーとアップダウンがある変化に富んだコースレイアウトになっている。路面は比較的滑らで一部の凹凸もある。

 各モデルとも純正仕様を確認後、リプレイス品装着車に乗った。コースでは日常的な速度と少し早いペースの2つに分けて総合的なチェックを行なっている。

純正形状の「EnduraPro Plus」

BYD SEAL

BYD SEAL

 最初は日本にも導入予定のBYD SEAL。初めて乗るクルマでワクワクだ。少し紹介しておくと、欧州車とも日本車とも違う現在のモダンな中国デザインは先行導入されたATTO3よりも新しさを感じる。インテリアもスッキリしており、ダッシュボードに目を向けると視認性の良い大型ディスプレイがBEVらしい。

 ボディサイズは4800×1875×1460mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2920mmとBEV専用のプラットフォームの利点で室内の前後長もタップリとしている。モーターはフロント160kW/リア230kW、最大トルクは670Nm。バッテリ容量は82,56kWhと大きく、航続距離はRWDで555kmと言われている。装着タイヤはミシュラン「パイロットスポーツ4」。サイズは245/45ZR19を履く。

 純正仕様のハンドリングは素直でハンドルレスポンスはやや高い。直進時のハンドルのスワリは良く、安心してハンドルに触れていられる。操舵力はやや重い程度。その変化も小さく路面からのインフォメーションもよく伝えてくれる。何よりも約2.15tの重さを感じさせないところが巧みで、軽快なハンドリングを身上とする。創業からわずかな年月のクルマ作りの経験しか持っていないメーカーとは思えないほどだ。

 ただ乗り心地でリア側の動きがヒョコヒョコするのがちょっと気になった。中国では大切な人(お客さま)を後席に乗せて移動することも多く、後席の乗り心地は重要だという。ショックアブソーバーで感じるのはフリクションが高く、特にリア側では作動初期の突き上げとして感じられる。減衰力は上下収束のバランスはわるくないが、長時間となると後席は少し疲れる可能性もあり、もう少しドッシリした感じがほしい。

 一方のEnduro ProPlusは純正形状のショックアブソーバーで、非分解式復筒を採用した16段階の減衰力調整が可能。減衰力変更はシャフトのトップで行なうためにフロントは変更しやすいが、リアは車種によっては外さないと変更できない問題もある。今回の減衰力設定は前後とも中間の8を選んでいる。ちなみにTEINの減衰力設定は番数が低いほど強くなる。

 このEnduraPro PlusはTEINが中国で躍進を遂げた重要な主力商品だ。走行後にその理由も十分理解できた。走り始めてすぐに違いを感じたのは、ざらついた路面での上下追従性が高く滑らかだったことだ。ショックアブサーバーが作動し始めてからしっかりしているのが好印象だ。路面からのフィードバックはより明確に感じられる。さらに大きくストロークした時の底付き感が小さい。HBS(ハイドロ・バンプ・ストッパー)が効果的に働いているようで衝撃は小さい。

 最初は少し少し硬めに感じられたが、車両姿勢はフラットで前後のバランスは良く、後席ではフラットな乗り心地が得られそうだ。

 ハンドリングではハンドルの初期応答が滑らかになり、ハンドルセンター付近でやや過敏だったところが鈍くなっているのだ。その後のライントレース性も向上している点からタイヤのパフォーマンスを積極的に使おうしているのが感じられる。

 EnduraPro Plusは純正よりも価格は高いが、耐久性も含めてそれ以上のメリットがある商品だ。

テスラ モデルY

テスラ モデルY

 次に試乗したのは中国でグイグイとシェアを伸ばしているBEVの大手・テスラのモデルYだ。タイヤはミシュラン「パイロットスポーツ4」。サイズは235/45R19となる。

 日本でもすでにおなじみのモデルYのボディサイズは4750×1920×1625mm(全長×全幅×全高)で、ツインモーターの560Nmの大きなトルクを4輪で伝える。独特な生産方式で車両重量は2tに満たないのは素晴らしい。バッテリ容量は78.4kWで航続距離は660kmとしている。

 まずノーマルで乗る。乗り味にあまり一体感がないのが意外だった。生産タイミングの違いだろうか。リアの突き上げが強く、ハンドルの応答性とそれに伴う舵の効きが高すぎる感じだ。ハンドリングではサスペンションが勝ち、タイヤの性格を活かしきっていないように感じられた。後席の乗り心地を重視するという中国では硬すぎるようだ。ハンドリングではよく曲がるがロール変化が大きく、それに応じて姿勢変化も大きい。

 次にEnduraPro Plusに変更する。これまでモサモサと動いていたバネ上の動きが収まり、フラットな姿勢安定性となった。その変化はかなり大きく驚くばかりだ。まだオリジナルの癖でピッチングは残るが、現状のショックアブソーバーではかなり良い。後席の乗り心地は比較的フラットになり、リアからの突き上げ感も減少した。リア側の伸び側減衰力が小さくなっているようだ。前後バランスもとれて好ましい。

 ハンドリングでは変わらずレスポンスが早いが、操舵の最初が落ち着きタイヤの特性が活かされる。ロールも自然で急激な変化ではなくなった。ただしロールが深くなると後輪内側の接地感が抜けるのは変わらないが、ジワリとグリップしている時間が長くなり突然タイヤが浮くような感触はなくなった。

 現状設定は前後ショックアブソーバーが頑張っているので、減衰力を下げる方向にするとどんな変化が生まれるのか興味が湧く。調整式のよいところだ。

テスラ モデル3

テスラ モデル3

 言うまでもなくテスラの最量販車でもある。ボディサイズは4964×1850×1445mm(全長×全幅×全高)という全高の低い4ドアセダンだ。こちらは202kW/375Nmのモーターを搭載する後輪駆動。重量はぐっと軽くなり1600kg強でこのクラスのBEVではかなり軽い。タイヤはピレリ「P ZERO」(235/35ZR20)でスポーツタイヤを装着する。

 ノーマルの試乗では低重心の良さを体感でき、ハンドリングも軽快で高速での安定性も高い。あまり不満は感じられないがリアは少し突き上げがあり、コーナーではロールを抑えた後にフロントが滑っていくような限界点が分からないところがある。

 TEINに変更した後はタイヤの能力を積極的に活かせるような設定となり、コーナーで感じられたフロント側が突っ張り過ぎてしまう感触が少なくなった。スポーツイメージを積極的に打ち出している純正品と、タイヤの接地に重きを置いたEnduraPro Plusとの違いが良く分かった。

 乗り心地ではリアの動きが穏やかになり鋭角的な突き上げが小さく、ハンドリングと乗り心地のバランスが取れてバネ上の動きがフラットになった。減衰力調整のおもしろいところだが、その描く減衰力カーブをどのように置くのか、メーカーの力量を感じた。リプレイス品の強味でもあるショックアブソーバーへのこだわりを感じさせてくれたのがモデル3の比較試乗だった。

ZEELY ZEEKR 001

ZEELY ZEEKR 001

 最後は日本にはなじみのないZEELYのフラグシップEV「ZEEKR 001」だ。現在のボルボがZEELYの親会社の傘下に入っているが「口は出さない、金は出す」の親会社の方針によってさらに技術力を高めて存在感を出している。すでにボルボはBEVに舵を切っているが、大きな影響を持っているのはZEELYの存在だ。

 ZEELYも欧州、日本から多くの優秀なエンジニアやサプライヤーが集い、急速に力をつけて技術力はかなり高レベルにある。それにともない中国でのシュアも増やしている。クルマの完成度の高さもBYD同様、要チェックと言われているのでこちらも興味津々。

 ZEEKR 001のボディサイズは4970×2000×1560mm(全長×全幅×全高)とSUVに相当する大型のBEVで、100kWhのバッテリ容量を持っている。最大トルクは768Nmというから大型SUVを引っ張るには十分だ。重量は2290㎏で、タイヤはコンチネンタルの「プレミアムコンタクト」。サイズは255/55R19とエアボリュームの大きさを得ている。

 エクステリアは重量感のあるデザインでスッキリとまとめられている。競争の激しい欧州でも存在感は出せそうだ。前後とも横への広がりを感じさせるラインが強調され、2mの全幅を活かした堂々としたものだ。インテリアも統一感のあるシンプルなもので、最近のトレンドにのっとった大きなディスプレイを中心にレイアウトしている。前後席もタップリしてサイズどおり広い室内だ。

 初対面は大きなクルマという印象だ。インフォテイメントを含めて最初のレクチャーを受ければすぐに慣れてしまう。この辺、妙に技術にこだわらないさっぱりとした印象だ。

 重量級Lサイズらしいドッシリしたドライブフィールで、BYDと違った持ち味の完成度の高さを感じた。乗り心地はしっとりして、凹凸路面でもバタバタした感じはなく、バネ上の動きは基本的にフラットな姿勢を保つ。

ZEEKR 001の足まわり

 ハンドリングもクルマの性格に合わせて操舵力は重く、クルマは軽々しく動かないような設定だ。ハンドルの切り返しでもレスポンスは鈍い。コーナーでのロールも穏やかで自然でおっとりしたハンドリングはこのクルマの持ち味になっている。ただ重量級のBEVであることを忘れると制動力は加速力ほどではない。フェードにはご用心である。

 一方、TEINに変更してもZEEKR 001の持ち味は変わらず、しっとりとした持ち味だ。バネ上の動きはさらにフラットで、特に凹凸のある路面での姿勢の収まりが早い。減衰力の数字に表れないフリクションの少なさが影響を及ぼしている。またリアからの衝撃は穏やかでマイルドな仕上がりだ。重量級のBEVでは悪路でのショック吸収が大切だが、TEINはショックアブソーバーの底付きで威力を発揮するHBSを組み入れているので大きな効果を上げるだろう。

 コーナーではロールそのものはそれほど変わらないが、ハンドルを切った時の応答性とその後の舵の効きが向上しており、乗りやすくなった。同時にグリップ力も上がっている。全体にZEEKRの良さを大切にしつつ、TEINのしっかりとタイヤをグリップさせる乗り味を加味したでき栄えだ。特に後席の乗り心地を重視した中国では評価は高いのではないだろうか。

 さてTEINのもう1つの主力商品、車高調+減衰力調整+スプリングのFLEX Zの試乗は別項に譲る。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。