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テインの新戦略、お手頃な純正形状ダンパー「エンデュラプロ プラス」に試乗
1本1~2万円程度と低価格でありながら耐久性、乗り心地も向上
2019年11月18日 09:00
テインの試乗会が大磯で行なわれるというので出かけた。テインといえばアフターパーツの世界では非常に名の知れたショックアブソーバーのメーカーだ。レーシングドライバーとしてのボクの知見からも、数々の戦闘力のあるアイテムを提供していた。テインがリリースするダンパーならとにかく乗らないわけにはいかない。
試乗会場に到着して展示物に目をやる中で、少し不思議な気持ちになった。もともとテインは車高調サスペンションなどで有名なのだが、今回試乗するのはそういったスポーツサスペンションとはちょっと違うようなのだ。
では、どのようなサスペンションなのか説明しよう。
そのダンパーのネーミングは「EnduraPro(エンデュラプロ)」と「EnduraPro PLUS(エンデュラプロ プラス)」で、純正部品ダンパーに対する交換用ダンパーだ。つまり車高調ではなくあくまで純正形状のダンパー。ただしクオリティは純性よりも高く、耐久性が2倍。しかも乗り心地を向上させているという。エンデュラプロが減衰力固定式のベーシックモデルであるのに対して、エンデュラプロプラスは減衰力調整が可能なモデル。しかも価格が安く1~2万円程度。減衰力調整付きモデルでも+2000円程度と車高調などと比べてかなり廉価だ。
ボクがSuperGT 300クラスで戦うポルシェのダンパーを、元マクラーレンF1でS社製ダンパーを担当していたT氏にお願いした時は4本で150万円だった。ま、ワンオフだし、超高性能ダンパーだったから高額なのだが、大丈夫か? 2万円程度で? しかも耐久性2倍なの、ホントか!
しかし落ち着いて考えると、なぜそのような製品を製作したのか? ちょっと疑問になる。でもその答えは簡単だった。日本国内だけをターゲットにはしておらず、アジアなどの海外での展開を視野に入れたモデルなのだ。
インド、ロシア、モンゴルなどでは荒れた路面が多く、そのためダンパーの消耗が激しくよく壊れるというのだ。運転も荒そうだしね。タンパー交換の頻度も高く、1年に1回(!)など、タイヤ交換ごとにダンパーを交換する状態だという。ちなみに日本での平均はタイヤ交換5回にダンパー交換1回だという。つまり使用環境がまるで違うのだ。
そこで、耐久性を高くし、車高はそのままでも乗り心地のよいダンパーを開発したというわけ。実はこのエンデュラプロシリーズは2017年に発売が始まっていて、現在では220車種に対応する製品をグローバルマーケットに投入している。テインはもともと純正部品供給に縛られないメーカー。つまり自動車メーカーからの縛りがほとんどないので、車種開発が自由に行なえる。ゆえに世界中のどのような車種にも最短で3か月、最長でも6か月あれば新規開発が可能なのだという。これはすごいスピード開発だ。現在、製造工場は日本と中国で、最新設備の工場が中国にあるという。
では、純正ダンパーに対してどのような構造としているのだろう。まずストラットの取り付け部(ナックルプレート板厚)を75%もアップして取り付け剛性を上げている。さらにシェルケースの外径を上げている。つまり太くしているのだ。これは剛性アップもあるが、ダンパー内のオイル量を50%アップするため。ダンパーの減衰力はオイルの流動によって起こるので、動きが激しいと当然高温になり減衰力が落ちる。オイル増量で対処するのが目的だ。またオイルが多ければ余裕が生まれるので、乗り心地の向上にも貢献する。
耐久性向上のため、ピストンロッドには特にこだわって内製化した。ピストンロッドの表面仕上げは一般的な円周研磨ではなく、特殊な装置を使ったクロス研磨で仕上げる。ピストンロッドは常に上下動しているので、表面がスムーズであればオイルシール劣化によるオイル漏れも予防できる。また、ピストンロッド自動外観検査機でオイル漏れに直結するような傷を排除。仕上げは手術室レベルのクリーンルームで組立て。ほこりなどの混入を防いでいる。ケースそのものも2コート1ベーグ粉体塗装で耐チッピング性(塗装剥がれ)と防錆性能を向上、とかなり精密な工程。
そしてメインの技術がハイドロ・バンプ・ストッパ(H.B.S)による乗り心地の向上だ。H.B.Sがどういうものかというと、一般的にダンパーには、底突きするような大きな入力があった時に、その衝撃を吸収するためのバンプラバーと呼ばれるパーツがはめ込まれている。これが実際に当たったときには、反発が生じて跳ね返りによる挙動乱れや突き上げるような乗り心地への悪影響がある。またバンプラバーが頻繁に接触するような状況は、耐久性にとってもよくない。そこでバンプラバーの代わりにしようというのがH.B.Sだ。
ダンパーのシリンダー内にH.B.Sバルブを設置。これは第2のダンパーのようなもので、衝撃を熱エネルギーに変換して吸収。乗り心地も耐久性も向上するのだ。H.B.Sの性能をより理解するために動画のようなデモが行なわれていたのだが、底突きするような衝撃でも、ワイングラスの中身が波立たずに安定していたのには驚いた。このような構造はラリーカーの技術からフィードバックされたもので、モータースポーツに関与するテインならではの技術と言える。ルノーなど欧州系のスポーツモデルにも構造は違うが同じ考え方の技術が最近使われ始めている。
さて実際に試乗したのはトヨタ自動車の「86」、アプライドE型のGT(MT)だ。これに減衰力調整機能付きのエンデュラプロ プラスを装着。それ以外はノーマルだ。走り出して感じるのは明らかにスムーズで、サスの動きに角がないこと。ストロークの初期から滑らかに動いているのがよく分かり、とても同じスプリングとは思えない。
つまりダンパーの容量が大きくなったことが、これほど乗り心地やストローク感を変えるとは新しい発見だった。またEDFCという車内から減衰力を変更できる装置が付いていたので、フルハードやフルソフトにしてのフィーリングも確かめたのだが、フルハードにすれば改造系を好むドライバーの心は満たされるだろう。それなりに乗り心地は悪化するが、低速でもロールを感じずにコーナリングするぞ。しかしそれは実用的ではなく、16段のうちのセンター前後がちょうどよく、路面のアンギュレーションに対してタイヤの接地性が失われない。大袈裟にいうと吸い付いているような印象だ。フルソフトはかなりソフティーになるので、家族と出かけるときにはよいだろう。使い方をセレクトでき、その変化がハッキリと体感できるのもよいダンパーである証だ。
テインではすでに国産車、輸入車ともに広く車種展開しているが、今後は3000車種にまで対応させ、グローバルマーケットでさらに拡販する予定とのこと。さすがに耐久性には自信があるようで、3年6万kmを保証。また、純正形状のスプリングをセットにしたモデルも用意される。街乗りでの使用を前提にするならば、この価格でこの性能は国内でも十分に使えそうだ。