試乗記

アルファ ロメオ初のPHEV「トナーレ Plug-in Hybrid Q4」に試乗 コンパクトサイズのアルファ ロメオらしい電動化を体感

アルファ ロメオ「トナーレ Plug-in Hybrid Q4」

伝統あるアルファ ロメオが手に入れた電気の力!

 ついに日本にやってきた、アルファ ロメオ初のプラグインハイブリッド「トナーレ Plug-in Hybrid Q4」。すでに2023年1月に先行して発表された、マイルドハイブリッドのトナーレに追加される形での登場だ。

 注目されるのは、アルファ ロメオの伝統であり真髄ともいえる、熱くたぎるような走りとブランドスピリットを、外部充電可能なPHEVでどのように表現してくるのか、というところ。名称に冠された「Q4」とは、アルファ ロメオが1980年代の「164」の時代から2WDの高性能モデルであるクアドリフォリオ(Quadrifoglio)に対して、4WDモデルを表すために伝統的に用いてきたものだ。クアドリフォリオを表す四つ葉のクローバーのエンブレムこそトナーレ Plug-in Hybrid Q4にはついていなかったが、その代わりに往年のアルフィスタが腰を抜かしそうな、ちょっと遊び心を感じるモノを見つけた。

 それが、創業以来守られてきたアルファ ロメオのエンブレムである。ミラノ市の紋章である赤十字と、ミラノの貴族・ヴィスコンティ家の紋章である人間をくわえた大蛇を組み合わせたデザインがアルファ ロメオのエンブレムなのだが、その大蛇がくわえているのは人間ではなく、コンセント! という加飾がリアドアのウィンドウにある。これは「エレクトロ・ビショーネ」という名称で、同じトナーレでもマイルドハイブリッドモデルにはついていない。電動化をより強くアピールするためのものだという。前後のエンブレムは変わっていないが、電動化モデルを強調するためにエンブレムをブルーに光らせたりするメーカーが多いなか、やっぱりアルファ ロメオはひと味違うことをやってくるなと、のっけから唸らされたのはさすがだった。

電動化されたトナーレ Plug-in Hybrid Q4に与えられた“エレクトロ・ビショーネ”
前後のエンブレムはこれまでと変わらないデザイン

 トナーレのボディサイズは、4530×1835×1615mm(全長×全幅×全高)という、日本でもぎりぎり市街地の取り回しがしやすい部類に入る。国産車でいえばホンダ「ZR-V」あたりが近いだろうか。4WDということもあり、最小回転半径は5.8mと大きめになるが、19インチタイヤ装着のTiでも、20インチタイヤ装着のヴェローチェでも変わらない。

 デザインはスポーティでアグレッシブな世界観を前面に出していたステルヴィオよりも、ややエレガントさが強まった印象を受ける。鋭い眼光や躍動感のあるボディラインは健在で、情熱的なイタリアンデザインであるところは紛れもなくアルファ ロメオだが、どこか高貴なオーラを放っていて視線を引き寄せる。つまり、日本人が求めるアルファ ロメオのあるべき姿として真っ当な魅力を持っているのがトナーレであり、プロダクトマーケティング担当者の話によれば、このトナーレのデビュー直後にディーラーへの来店者が通常の4倍近くに増えたという。

 そして、これまでボディサイズ的に大きなものしかなく、乗り換えを躊躇していたジュリエッタのオーナーや、ジュリア、ステルヴィオからダウンサイジングしたいと乗り換えるユーザーも多いという。女性やヤングファミリー層も増え、アルファ ロメオの2022年比で女性オーナー比率が2.4倍になっているところも特徴だ。なるほど市街地を走っていると、歩いている女性がじっと見つめていくことが多く、中にはスマホのカメラを向けてくる人もいたほどだ。

 ちなみに外観でマイルドハイブリッドモデルとの違いは少なく、前述のエレクトロ・ビショーネがあることと、エキゾーストパイプにクロームの加飾がつくくらいとのことだった。あまりエコだ電気だと主張しないのは、昨今の先進電動化モデルたちのトレンドでもある。

トナーレ Plug-in Hybrid Q4 Veloce。ボディカラーはヴェスヴィオ グレー

 インテリアで違いを見分けるのはもっと難しいかもしれない。スタートボタンを押し、センタースクリーンに表示が映り、さらに「ハイブリッド」ページを見つけるとPHEVであることが分かる。そこではエネルギーフローの確認や、充電予約の設定、走行履歴の確認などが可能。または、シフトレバーまわりのパネルに「e-Save」というボタンがあり、押せば優先的にバッテリの充電レベルを上げるe-SaveモードがONになる。さらに、回生エネルギーをためる「バッテリー節約」モードと、エンジンを使って設定した目標レベルまで充電を行なう「バッテリー充電」モードを任意に設定することもできる。

トナーレ Plug-in Hybrid Q4のインパネ
12.3インチのデジタルクラスターメーター内にハイブリッド情報を確認できる表示のほか、シフトレバーまわりに「e-Save」スイッチがある以外は、マイルドハイブリッドモデルとほぼ違いはない

 ふっくらとした弾力で身体に添いつつ、サイドサポートが厚めに備わるシートに身を預け、都心を走り出す。スッと軽やかな発進加速から、路面をスルスルとすべるように進んでいくのはちょっと意外だった。もちろん接地感はしっかりとあるのだが、路面に食い込むような捉え方を伝えてくるこれまでのアルファ ロメオのどのモデルとも違う、初めての感覚が新鮮だ。1880kgという、PHEVとしては軽量に抑えている車両重量に加え、パフォーマンスと効率の両面で常に適したトラクションを管理するという、4WDシステム「Q4 All-Wheel Drive System」の緻密な仕事ぶりがもたらす驚きかもしれない。頻繁なストップ&ゴーでもまったくモッサリとした隙を見せることなく、一体感のある挙動が気持ちいい。

 搭載するエンジンは1.3リッターのマルチエアーターボで、これに最大出力94kW/250Nmのリアモーターを組み合わせ、総出力は280HP。15.5kWhのバッテリは多くのシーンでEV走行を可能とし、航続距離は最大72kmとなっている。残念ながら、今回は試乗車を受け取った時点でバッテリ残量がほとんどなく、エンジンが稼働する時間が長かったのだが、それでもエンジン音や振動の主張は控えめで、スマートな印象。発進などの際は、積極的にEV走行をしてくれることも確認できた。

 そして、アルファ ロメオのオーナーにはおなじみの「ALFA DNAドライブモード」はこのPHEVにも受け継がれているが、電動化モデルならではなのが、「ADVANCED EFFICIENCY」という、電気のみで走行するモードだ。これを選択した場合には最高速が135km/hになり、バッテリの充電が少なくなったり、アクセル全開にした場合には自動で「NATURAL」モードに切り替わったりする。

 高速道路に入り、「DYNAMIC」を選択すると、明らかにペダル操作へのレスポンスが鋭くなり、踏み込むとギアシフトが速くなっているのが分かる。さすが、SUVといえども0-100km/h加速が6.2秒(欧州参考値)の俊足ぶり。キビキビとしたコーナリングも堪能し、スポーツをした後のような爽快感が満ちてくるところは、間違いなくアルファ ロメオの血統だと確信したのだった。

 最後に後席に座って試乗してみたが、足下スペースは十分。座高が高いので頭上スペースの余裕はこぶし1個分程度だが、圧迫感は感じなかった。4WDである恩恵は後席の乗り心地にも出ているのか、バタつくこともなく快適だ。これなら、家族のクルマとして迎えても文句は出ないはず。

 これまでの輸入ブランドのPHEVではボディサイズが手に余るという人や、マイルドハイブリッドでは物足りない、でもEVはまだ早いと考えている人、なにより地球環境を考えながらこの先もずっとアルファ ロメオに乗りたいと願う人に、トナーレ Plug-in Hybrid Q4は救世主的な1台となりそうだ。

アルファ ロメオ「トナーレ Plug-in Hybrid Q4 Veloce」概要

トナーレ Plug-in Hybrid Q4のボディサイズは4530×1835×1615mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2635mm。車両重量は1880kg
5ホールのアルミホイールに組み合わせるタイヤは235/40R20サイズのブリヂストン「TURANZA T005」
レッド仕上げのブレーキキャリパーにはアルファ ロメオのロゴが記されている
マイルドハイブリッドモデルとの違いは、専用のダーク加飾や、クローム加飾のエキゾーストパイプフィニッシャーなど。Veloce エンブレムや、サイドミラーのイタリア三色旗バッヂなどは共通装備となる
充電口。トナーレ Plug-in Hybrid Q4は15.5kWhのバッテリを搭載し、WLTCモードでのEV走行レンジは72km。ゼロの状態から満充電までかかる充電時間は、3kWの普通充電で5時間30分、6kWの高速充電で約3時間
最高出力132kW(180PS)/5750rpm、最大トルク270Nm(27.5kgfm)/1850rpmを発生する直列4気筒SOHC 1.3リッターターボエンジンを搭載。さらに、フロントには最高出力33kW(45PS)/8000rpm、最大トルク53Nm(5.4kgfm)/8000rpmを発生するモーターを、リアには最高出力94kW(128PS)/5000rpm、最大トルク250Nm(25.5kgfm)/2000rpmを発生するモーターを搭載する。組み合わせるトランスミッションは6速DCT
インテリア装備はマイルドハイブリッドモデルとほぼ違いはなく、ヴェローチェ専用装備のパドルシフト、harman/kardonプレミアムオーディオシステムなどを採用
「ALFA DNAドライブモード」はPHEV専用となり、電気のみで走行する「ADVANCED EFFICIENCY」、システムを最も効率的に利用できるようにパワーや燃料消費を最適化した「NATURAL」、エンジンとモーターを組み合わせたスポーティな「DYNAMIC」の3モードを設定
ブラックのナチュラルレザーシート、8ウェイパワーシート、前席シートヒーター、前席ベンチレーションなども、マイルドハイブリッドモデルのヴェローチェと共通
まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z、メルセデス・ベンツVクラスなど。現在はMINIクロスオーバー・クーパーSDとスズキ・ジムニー。

Photo:中野英幸