試乗レポート
テインの“躍度制御”と“AI”を初採用した最新のサスペンション減衰力コントローラ「EDFC5」を試してみた
2022年12月16日 13:25
- 2023年1月 発売予定
- 10万5050円(予価)
サスペンションの減衰力を自動で調整してくれるEDFCがさらに進化
車内からダンパー減衰力を任意もしくは自動的に調整できるテインの「EDFC(エレクトリック・ダンピング・フォース・コントローラ)」が、第5世代へと進化。これを人気のミニバンであるトヨタ「ヴェルファイア」と「ノア」で試した。ミニバンに車高長!?と思う読者もおられるだろうが、近年はローダウンのアピアランスだけでなく、その乗り味や質感、そしてロールを制御して家族の「乗り物酔い」を防ぐためにも、こうしたニーズがあるのだ。
ということでまずは、最新式となった「EDFC5」のシステムについてお話しよう。
EDFCは2002年に登場したダンパーコントローラであり、車内にいながらにして、調整式ダンパーの減衰力を自由に変更できるその便利さが、チューニングシーンで大きな話題を呼んだ。
これまでの歴史を振り返ると、2013年に「EDFC Active」、2014年に「EDFCII」と着実な進化を遂げ、同じく2014年に登場した「EDFC Active Pro」では、内蔵のGセンサーを使って、車速やGに応じた減衰力変更までもが可能となった。
そして今回登場したEDFC5では、ここに躍度(ジャーク)を活用した「ジャークモード」が加わった。躍度とは「時間あたりの加速度の変化率」で、自動車メーカーではマツダがこれに注目している。
要するにGや速度の絶対値ではなくて、変化していく状況に対してEDFC5は減衰力を調整することができるようになった。例えば、アクセルをグーッと踏んだり、ブレーキをジワーッと掛けて前後Gが高まるとき、その上昇に応じてダンパーが設定した範囲で自動に減衰力を上げる。Gが低くなっていけば、逆に減衰力を下げる。これによってカーブやブレーキ、加速の過渡期に適切な減衰力を与えられるようになる。だからドライバーは重心の高いミニバンでも快適に運転できるようになり、同乗者は乗り物酔いしにくくなるわけだ。
ちなみに、クルマが現在「過渡領域(変化している最中)」にいるのか「定常領域(安定している状態)」にあるのかを見極めるには、一般的には高額なヨーレートセンサーが必要となるが、EDFC5では3軸のGセンサーをジャークを割り出している。
このジャークをEDFC5に応用したのは、芝浦工業大学 システム理工学部 教授である渡邊大氏。渡邊教授との出会いは、学生フォーミュラをテインが支援したことがきっかけだったという。
このジャークモードが素晴らしいのは、乗り心地だけでなくクルマの旋回性能自体も高められることだ。
通常スポーティに走るときはターンインを想定して、あらかじめ減衰力を高めに設定する。しかしジャークモードがあれば過渡領域“だけ”減衰力を高められるから、定常領域に入ってもクルマが安定しやすくなる。
定常領域はスプリングの動きが一定しているから、ターンイン時より高い減衰力は必要としないことが一般的。逆にここで減衰力が高く固定されたままだと、路面の凹凸や外乱要素でクルマが跳ねたり、タイヤの接地性が変化してしまう。ジャークモードは、それを回避できるのだ。
そして、ここにGモードを加えれば、定常域でも絶対的にGが高い領域を走るときに、減衰力を高めたまま対応できるという。「それってラリーカーに使ったら最高なのでは!?」と思ったが、すでに全日本ラリーの舞台に投入されているとのことだった。
また、4つのダンパーを自動制御することで、よりターンインをスムーズにすることもできる。
例えば、クルマが左旋回姿勢に入ったとき、右フロントのダンパーをジャークに応じて高めて、車体の急激な傾きを抑える(ロールスピードを抑える)。このとき対角線上のリアダンパーも減衰力を高め、瞬間的に接地性を減らして、旋回しやすくする。
対して左フロントのダンパーは減衰力を弱めて内輪接地を上げ、同じく対角線上の左リアダンパーも減衰力を緩めて外輪接地荷重を上げる。すると、ターンインでの旋回速度が上がる。特に切り返しでは、固定された減衰力との差が明確なったという。
そのほかにも「AI機能」を搭載したことにより、どんな走行シチュエーションでも違和感のない適切なジャーク感覚を実現し、ドライバーが求める挙動を自動的に作り出せるようになったことで、シャープなハンドリングとソフトな乗り心地を両立している。
EDFC5を装着したミニバンで箱根のワインディングを走ってみた
さて、こうした講義を受けて実際にEDFC5を装着したヴェルファイアとノアを試乗してみたわけだが、これが実にスムーズな走りで驚いた。
減衰力が固定される「M(マニュアル)モード」は、確かに全般的にスタビリティが高いのだが、ジャークモードだと普段が快適。そして、ひとたび曲がりくねったカーブでは、車体が必要以上にロールしない。
これは4輪の制御がきちんと作用しているからだろう。「いま前輪が上がった」「いま後輪が下がった」と細かく意識することもなく、ごくごく自然で滑らかにカーブを曲がってくれるのだ。
またS字カーブのような切り返しが求められる場面でも、ダンパーがしなやかに車体を支えてこれをクリアできた。そこにはEDFC5の制御性能だけでなく、今回装着されていた車高調「RX1」のダンパー追従性も当然大きく関係している。
ちなみにRX1の減衰力調整幅は伸縮同時の16段調整式で、組み合わされるスプリングは純正のフロント2.9kg/リア:5.9kgに対して、フロント6.0kg/リア7.0kgにレートアップされている。さらに装着タイヤ(ブリヂストン Playz PX-RV II)も205/55R17から215/45R18まで大径化していたのだが、その乗り心地はワインディングで走る限り、犠牲になっていなかった。
複筒式ダンパーの初期タッチの柔らかさを生かしながら、減衰力も細かい制御にきちんと追従させている。むしろこれだけダンパー性能が高いのなら、「純正サイズのホールでもうワンランク上のタイヤを選んだらさらに質感が上がるのではないか?」と提案したが、車高調サスを付ける一般的なミニバンユーザーの場合、大径ホイールの装着を望む場合が多い。かつタイヤの予算をミニマムにするケースが多いため、今回はあえてベーシックなグレードでバランスさせているのだという。なるほどよくエンドユーザーのニーズを理解している。
ノアよりもボディが大きくなるヴェルファイアは、どっしりとした安定感が印象的だった。特にターンパイクの曲率が大きなコーナーでは、ノアのような軽快感こそないが、ロールスピードがちょうどよく制御され、乗り心地がよいのに運転していても安心感が高い。
また、絶対的な旋回Gが高まるような場面では、ジャークモードにGモードをプラスした「GJ」モードが最適だった。こうすることでターンインの素直さに加えて、ロールが落ち着いた後のしっかり感が増した。ヴェルファイアは重たいので、切り返しの機敏さを狙うよりもトータルでの安定感が欲しい。山道ならばこの「GJ」モードがお勧めだ。
ジャークモードやAIのほかにもEDFC5は、ダンパーの減衰力調整に使うステッピングモーターの制御方法を変更。連続的に動くモーターを細かく断続制御することで静粛性を高めた。さらに、液晶パネルにより視認性の高い「VA-LCD」を採用したほか、より多段調整をしたいというユーザーの声を受け「96段調整」を新たに追加している。
いはやは、これはすごいシステムだ。制御内容の緻密さだけでなく、実際の乗り味がそこにきちんと現れているのにも感銘を受けた。
確かにそのコストは車高調キットとEDFC5の両方が必要だが、トータルで考えてもいわゆるハイスペックな車高調キットより安い。むしろちょっと安すぎるんじゃないか?と筆者は思ったが、それもテインの資本力の高さがなせる技だと言えるだろう。