試乗レポート

新型プリウス プロトタイプ

新型プリウス プロトタイプ

新型プリウス プロトタイプに試乗

 衝撃的なデザインで発表された新型プリウスのプロトタイプを試乗することができたので、ここにレポートする。試乗したのは新登場の2.0リッターハイブリッドの2WD(FF)と4WDのE-Four、そして従来型パワートレーンを搭載する1.8リッターの2WD(FF)と4WDのE-Fourになる。

 新型プリウスのフルモデルチェンジにあたっては走る楽しみと持つ楽しみを併せ持つハイブリッドカーを目指して開発された。その意欲はまずデザインに現われている。流れるような一筆書きで描かれたデザインは驚くほど滑らかで、見る者を心躍らせる。

富士スピードウェイのショートコースで新型プリウス プロトタイプを試乗

 しかしデザイン先行で使い勝手に問題があるようではプリウスのような量販車では都合がわるい。シャープでAピラーが極端に傾斜しボンネットと一体化したようなキレのあるデザインは全高を30mm下げ、合わせてヒップポイントも30mm下げているため前方視界が遮られるかと思ったが、ダッシュボードがかなり下げられ、Aピラーで遮られる部分は限られているので逆に開放的な室内で現行型よりも視界は開けている印象だ。

 新型プリウスを試乗した富士スピードウェイのショートサーキットでは、タイトコーナーもあったが縁石も把握しやすかったので、とかく死角の発生する街中でも使いやすいのではないだろうか。

 走りの面でもドライバーが乗ってよかったと思えるクルマに仕上がっていた。ここでは2.0リッターハイブリッドのFFを中心にE-Four、1.8リッターモデルを交えながら進めていくが、基本に流れるドライブフィールは一本の筋が通っておりどのモデルも気もちよく走れた。いずれも横浜ゴムのブルーアースで195/60R17はEF、195/50R19はGTを装着していた。

新型プリウス 2.0リッターハイブリッド E-Four。プロトタイプのため今後変更が加わる可能性がある
各方面から絶賛されている新型プリウスのデザインがよく分かる
リアまわり。全体にワイド&ローになったことで、新型プリウスでは現行型プリウスの特徴であったエクストラウィンドウがなくなった
新しいハイブリッドロゴ。ハイブリッド表記も電動化車両であるHEVとなり、その前にはカーボンニュートラルへの取り組みを示す「BEYOND ZERO」マークが付く
新型プリウスのコクピット。センターメーターレイアウトを廃し、視線上の小型液晶メーター、大型IVIモニタの配置
メーターパネル。見やすくシンプルなカラー液晶表示
セレクトレバーまわり。従来のプリウスパターンを踏襲している
パワーウィンドウスイッチまわり。ここは新デザインのものとなっていた

 まず新しい2.0リッターのM20A-FXS型エンジンはレクサスUXで初出しとなったものだがプリウス用にソフトウェアを変更して搭載している。新型プリウス 2.0モデルのシステム出力はFFが144kW(196PS)でE-Fourが146kW(199PS)となる。近年のトヨタのE-Fourはリアモーターの出力を上げ(今回の新型プリウスでは30kW)、スタンバイ4WD的な使い方ではなく、積極的に後輪も駆動するレイアウトを取っている。

 車体面では第2世代のTNGAになり、薄板材の採用とともに、骨格をしっかりさせるために連結部の剛性を上げるなどで軽量、高剛性のプラットフォームを採用している。この結果、車体が大きくなっているにもかかわらず重量はほぼ同等とされる。

富士スピードウェイのショートサーキット

 新型プリウスに最初に乗って気持ちがいいと感じたのは、ライントレース性に優れていたことだ。ハンドルの初期応答が自然でタイムラグなく向きを変える。日常遭遇するレーンチェンジでは手首のほんの僅かな動きに反応する。かといって直進時には過敏に反応することなく緊張することなくハンドルを握っていられる。

 この効果はコーナーではさらに顕著だ。グーと踏ん張るように旋回し、高いタイヤ剛性を活かしてコーナーをクリアする。こう表現するとレーシングスピードで走っているように聞こえるかもしれないが、無理のない普通のペースでリズミカルにハンドルを握ることができる。プリウスの滑らかなボディそのままにコーナーを気持ちよく走る。

 試しにコーナーの途中でアクセルを開け気味にすると現行型では少しアウトに膨らみながら踏ん張る感触があるが、プロトタイプでは走行ラインを維持したままラインを守れる。

 タイトコーナーではE-Fourの場合、後輪の駆動力を積極的に使い、旋回時のグリップ力を高めるために安定感が高くなる。

 サスペンションではカローラスポーツで使われたショックアブソーバーシステムが取り入れられた。カローラではオイルとバルブで摺動をコントロールした腰のある上下収束が強く印象に残ったが、プリウスでもKYB製のそれが踏襲されている。

 またサスペンションのゴムブッシュも硬度を吟味することで、横力に対してタイムラグのない動きが実現された。さらに興味深いのフロントエンドのヘッドランプ裏側に相当する部分の剛性を上げたこと、特に2.0リッターモデルではグリル奥に斜交いのパフォーマンスロッドを入れたことで、横剛性向上を狙っている。

新型プリウスではフロントまわりの剛性がアップしているが、2.0モデルではグリル奥の部分にパフォーマンスロッドまでも設置。走りの強化を図っている

 プラットフォームの剛性アップ、路面入力が加わる部分の追加補強、粘り強く吟味されたゴムブッシュ、新機軸のショックアブソーバー、そして適度な軽さを持つEPSとのコンビネーションが新しいプリウスの気持ちよさを作り上げている。

クルマとドライバーの一体感のある新型プリウス

 さらにクルマとドライバーの一体感を持たせているのはパワートレーンが積極的にドライビングにかかわっていることだ。現行型ではコーナー手前で減速のためにアクセルオフにしてもパワートレーンだけ空走するようなタイムラグを感じていたが、新しいステアリング連動駆動力制御というパワートレーン側の考え方が加わり、積極的に回生を行なって、前荷重にすることでターンインの姿勢を作りやすくしている。個人的にはさらに回生力を強めたい気がするが、それはドライブモードで実現するかもしれない。

 トヨタではクルマ作りに各部門ごとではなく、開発にかかわる全部門、そして生産側が一体になることで気持ちのよい走りを目標としており、それが着実に実を結んでいるように思う。

 2.0リッターハイブリッドモデルはアクセル開度に応じてレスポンスのよい加速を作り上げている。と言っても一昔前のようなアクセルに敏感に反応した飛び出し感ではなく、実用的に使いやすいところを狙ってアクセルのゲインを上げているので必要なときにグンと加速する力強いものだ。

 エンジン振動も抑えられているので、高回転域になっても暴れている感触がなくスマートだ。エンジンノイズはつきまとうものの遮音効果も高く、室内の静粛性は高い。駆動力、そして前後の重量配分でハンドリングの安定感はE-Fourが好ましいが、FFの軽快な持ち味と走りの質感の高さも素晴らしい進化だ。

 一方1.8リッターハイブリッドモデルのエンジンはノイジーだが出力は過不足ない。感覚的には現行型プリウスの大幅な進化版と言う位置づけになっている。もちろん新型プリウス プロトタイプの素晴らしい持ち味は変わらず、高い満足を得られるはずだ。ただ1.8リッターハイブリッドのE-Fourに関しては試作車のためか遮音や振動の点でFF車のレベルまでに至っていなかったもののプリウスが目指す走りの質、運転の楽しさは十分に味わえた。

 最後にインテリアに少しだけ触れておくと、ドライバー前にはbz4X譲りのメーターディスプレイが備わっている。ハンドルの上に見るタイプで同じ考え方はプジョーにも使われている。利点は目線移動が少ない点でこれによってHUDを必要としない。ただディスプレイがもう少し大きいと新しさと見やすさが両立するのではないかと感じた。老眼には少しつらい……。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛