試乗レポート

アウディの新型EV「Q4 e-tron」、コンパクトSUVのパフォーマンスをチェックした

新型BEV「Q4 e-tron」

印象に残るスタイリング

 e-tronの第3弾は、BEV(バッテリ電気自動車)専用プラットフォーム「MEB」を採用する、フォルクスワーゲンの「ID.4」と共通性が高い売れ筋のコンパクトSUVだ。Q4の「4」の数字が示すとおり、サイズ的には「Q3」と「Q5」の間に位置する。

 クーペSUVのスポーツバックもあるが、SUV版でも十分すぎるほどスタイリッシュで、スペシャルティ感もある。フェンダーやルーフが描く流麗なラインや、最新のQファミリー独自のフロントフェイスは、決して奇抜というわけではないものの、やけに印象に残るものを感じる。アウディらしく流れるウインカーも付く。試乗したS lineは標準で20インチタイヤ&ホイールを履く。空力性能も、SUVでありながらQ4 e-tronで0.28、Q4 スポーツバック e-tronで0.26のCd値を達成しているというから驚く。

 ドアを閉めたときの音からして、いかにも剛性が高そうな感触を覚えつつシートに収まると、インパネはドライバー側に向けて大きく傾斜していて、センターの部分が浮き上がるように張り出した独特な形状のコンソールには、専用デザインのシフターが配されている。アウディ初となる上下ともフラットな形状の新世代のステアリングホイールも目を引く。

今回試乗した「Q4 e-tron」は10月に正式発売となった新型BEV。同社のBEVラインアップの中ではコンパクトなモデルとなり、アウディブランドの電動化戦略における重要なステップを担う1台に位置付けられる。試乗した「Q4 40 e-tron S line」(689万円)のボディサイズは4590×1865×1615mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2765mm
エクステリアは短いフロントオーバーハング、筋肉質なフェンダー、最新のQファミリーに共通するオクタゴン(8角形)かつ開口部のないシングルフレームグリルなど、ひと目でアウディのEVと分かるデザインを採用。空力性能にも注力し、電動開閉式の冷却エアインレットやフロントスポイラーに対して垂直に配置されたディフレクター、空力性能を最適化したデザインのエクステリアミラーハウジングなどにより、Cd値はQ4 e-tronが0.28、Q4 スポーツバック e-tronが0.26を実現。足下はS lineのみ5スポークの20インチアルミホイールをセットし、タイヤはブリヂストン「TURANZA ECO」(フロント:235/50R20、リア:255/45R20)を組み合わせる
パワートレーンは、システム電圧400Vのテクノロジーを使用した総容量82kWh(実容量77kWh)の駆動用バッテリを前後アクスル間の床下に搭載。リアアクスルに1基の電気モーターを搭載し、後輪を駆動させる。電気モーターは最高出力150kW、最大トルク310Nmを発生し、0-100km/h加速は8.5秒。一充電走行距離は576km
ボディタイプは存在感のあるフォルムのSUVとともに、スタイリッシュなクーペSUVのスポーツバックも設定

インテリア各部にも新しい試み

 イグニッションをONにするには従来のようにスタートボタンを押すか、ブレーキペダルを踏むだけでもよい。「P」ポジションやボタンはなく、停車時にはサイドブレーキボタンを押してブレーキペダルから足を離すとイグニッションがOFFとなる。

 こうした新しい試みも見られるものの、他社のBEVでは同じメーカーのICE車からかなり飛躍している例も多々見受けられるところ、もともとアウディは新しいものを積極的に取り入れていることもあってか、既存のアウディ車から乗り替えてもすぐになじめそうだ。運転支援装備も最新のシステムを搭載しているというだけあって、各種警報機能を含めかなり充実している。

 外寸はQ3とQ5の中間ながら室内長はQ5をしのぐほどで、室内空間や荷室は上位モデルに匹敵するスペースを確保しているほど広い。後席の床面が真っ平なのもBEVなればこそ。リアシートを3分割で倒せる点がID.4と異なる。

 ラゲッジスペースも十分に広くて使いやすそうだ。既存のいくつかのアウディ車ではデザイン性を優先して設計されていて、それはそれで魅力的である半面、機能的にはもう一歩というものもなくはないのに対し、Q4 e-tronは使い勝手を重視しているように見受けられる。タイヤハウス等に合わせてより広さを稼ぐ形状となっていて、両サイドにも深いポケットがあり、フロア下にもかなり大きなスペースが確保されている。

インテリアは、センタークラスターがドライバーに向けられたドライバーオリエンテッドなデザインを採用。特徴的なセンターコンソールと専用デザインのシフターを装備し、メーターには10.25インチの「アウディバーチャルコックピット」を、センターには11.6インチの「MMIタッチディスプレイ」を配置することで、フルデジタルコックピットを形成する。また、アウディ初となる上下ともにフラットな形状の新世代のステアリングホイールは、物理ボタンのないシームレスなタッチ式を採用した
ラゲッジ容量は520Lを確保

後輪駆動ならではの走り

 フォルクスワーゲンのID.4もそうだが、両社ともICE車ではFFベースが主体ながら、リアモーターで後輪を駆動するのも興味深い。開発段階では前輪駆動という案もあったに違いなく、コスト的にも有利なはずだが、走りを追求するには後輪駆動のほうがよいと判断したのだろう。実に5.4mという最小回転半径により小回りがきくのも後輪駆動なればこそだ。

 一充電走行距離が欧州値で516kmと500kmを超えているのはもちろん魅力に違いない。日本にまず導入されたのは「40」で、性能的には204PS/310Nmと控えめ。0-100km/h加速の公表値も8.5秒と、速さを訴求するキャラクターではなさそうだが、モードの選択にかかわらず発進加速では飛び出し感を覚えるほどで、70km/h程度までのスピード領域では俊敏に加速する。車速域が高まると加速はおだやかになるという印象だ。レスポンスがよく、後輪駆動ならではの力強く押し出してくれる感覚はなかなか気持ちがよい。走行時にかすかに聞こえる音は周囲に存在を知らせるためのもので、演出的なものではなさそうだ。

 引き締まった足まわりにより姿勢変化も抑えられていて、フットワークは2tを超える車両重量を意識させない仕上がりとなっている。ロールは小さく、軽快にターンインでき、リアから押し出してくれて小さな舵角のままコーナリングできる感覚も後輪駆動なればこそに違いない。

 回生ブレーキには自動とOFFがあり、パドルシフトで3段階に強さを調整できるようになっていて、最大のレベル3に相当するアウディ初のBモードを備えているのも特徴だ。ただし、ブレーキフィールがややリニアでないのが少々気になった。

 それも含め全体的に先発の「e-tron」や「e-tron GT」ら上級機種が非常に洗練されていて極めて完成度が高かったことを思うと、はるかに価格は控えめとはいえ、Q4 e-tronにももう少し期待したくなる部分もあるのが正直な気持ちではあるが、2022年にはいろいろなBEVが日本に上陸した中でも、この価格帯ではもっともスペシャルティなムードを持ったクルマではないかと思っている。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:佐藤正巳