試乗レポート

アウディの新バッテリEV「Q4 e-tron」(左ハンドル仕様)、リアモーター/リア駆動モデルの“らしさ”とは?

アウディの新バッテリEV「Q4 e-tron」(左ハンドル仕様)に試乗

アウディ初のMEBプラットフォーム

 アウディはフォルクスワーゲングループ内で電動化戦略を着々と進めているが、その最新作が「Q4 e-tron」だ。ポイントはアウディで初となるBEV(バッテリ電気自動車)専用のMEBプラットフォームを採用したことで、フォルクスワーゲンではID.シリーズで展開されている。

 MEBプラットフォームは内燃機搭載を前提としない設計で、Q4 e-tronではバッテリとインバーター、モーターなどのパワートレーンをコンパクトに納めることで、4588mmの全長に対して室内長を最大限に活かしたレイアウトが可能となり、後席のレッグルームはひとクラス上の「Q5」よりもさらに広い。また、前後のオーバーハングを切り詰めたデザインだがラッゲージルームも520L~1490Lと大容量を実現している。BEV用のプラットフォームを専用に作るとキャビンの広さが際立つことが分かる。

 全幅は1865mmとコンパクトと呼ぶには立派な体格だ。2020年に登場した「e-tron」「e-tron スポーツバック」が1935mmとワイドサイズだったので狭い路では慎重になったが、今回のQ4 e-tronでは比較的取りまわしがよく、ホイールベースが長い割には小まわりも効く。

今回試乗したのは2022年1月に発表されたe-tronシリーズ第3弾モデル「Q4 e-tron」。SUVとクーペSUV(スポーツバック)の2つのタイプを設定し、試乗車はSUV。SUVは「Base」「advanced」「S line」の3グレード展開で価格は599万円~689万円。ボディサイズは4588×1865×1632mm(全長×全幅×全高)
エクステリアでは短いフロントオーバーハング、筋肉質なフェンダー、美しいルーフライン、柔らかく流れるようなサイドライン、ワイドなプロポーションを強調する水平基調のリアエンドなどを特徴とするとともに、最新のQファミリーに共通するオクタゴン(8角形)かつ開口部のないシングルフレームグリルを採用
ボンネットフード下のレイアウト。駆動用電気モーターは最高出力150kW、最大トルク310Nmを発生し、0-100km/h加速は8.5秒。なお、一充電走行距離は516km(欧州値)とし、急速充電はCHAdeMO規格の125kWに対応。200Vの普通充電は標準は3kWで、オプションとして最大8kWまで対応する

 バッテリは新しいプラットフォームにピッタリと収まり、その総出力は82kWh(実質77kWh)と大容量で、航続距離はWLTCモードで500km以上となっている。このインバーターユニットはフロントボンネット下にコンパクトに収まっており、ぎっしりと詰まった内燃機を見慣れた目にはまだ余裕があり、将来のさらに大出力化したBEVにも対応可能であることを予想させた。重量物はフロントアクスルより後方に位置させており、重量配分にも気が配られる。また後輪を駆動する出力150kW/310Nmのモーターはリアアクスル上に搭載されており、理想的な重量配分を目指してレイアウトされている。

 装着タイヤはブリヂストン「TURANZA」で、フロントには235/45R21、リアには255/40R21サイズを履く。ホイールが大きく、フロントグリルの大きなデザインとのデザインバランスはよい。

インテリアでは特徴的なセンターコンソールと専用デザインのシフターを装備し、メーターには10.25インチのアウディバーチャルコックピットを、センターには11.6インチのMMIタッチディスプレイを配置することによって、フルデジタルのコクピットを形成。アウディ初となる上下ともにフラットな形状の新世代のステアリングホイールは、物理ボタンのないシームレスなタッチ式を採用した。ラゲッジスペースの容量は520L

しっかりした乗り心地はアウディらしい味付け

 ドライブモードは「efficiency」「comfort」「auto」「dynamic」「individual」の5つのモードから選択でき、まずはautoからスタートした。このモードは出力制限やショックアブソーバーなど走行条件に応じて変化していくのでオールマイティ。Autoが主に使われると思われるが、電気残量が厳しくなった際はアクセルによる出力制御が穏やかになり、エアコンにも制限がかかるefficiencyの出番だ。またDynamicは同じアクセル開度でも出力カーブが上向きになり、同時にショックアブソーバーの減衰力が高くなって操舵力も重くなる。

ドライブモードは「efficiency」「comfort」「auto」「dynamic」「individual」を設定

 試乗車は先行輸入されたプロトタイプの左ハンドル。手足が伸ばすことができるのもこのプラットフォームの特徴。SUVらしくヒップポイントが高めに設定されているが、自然な位置に着座できる。床下にバッテリを敷き詰めたBEVはフロアが高くなるのが常だが、Q4 e-tronではペダルレイアウトも含めて無理のないドライビングポジションが取れる。ダッシュボードに目を向けるとすべてがドライバーに向けられており、コクピット感覚だ。広さよりもドライバー感覚にポイントを置いたデザインだ。

 BEVの特性はすでによく知られているが、最近の傾向ではアクセルゲインはガソリン車に近い感覚に設定されており、普通にドライブすれば穏やかな加速フィールになっていることが多い。Q4も同じように設定されているが、深く踏み込むとBEVらしい強い加速力があり、そこまでのアクセルストロークは長く取られており使いやすい。

 もう1つBEVの特徴なのが音と振動。震源がないので静かで滑らかなのは当然で、Q4 e-tronも少しロードノイズが目立つ程度だ。試乗車は標準の19インチタイヤから21インチタイヤを履いていたためか少し音圧が高めだった。しかし遮音性は高く、ピーク音はよく抑えられ、少し速度を上げても耳ざわりな音が入ってこないのは好ましい。

 乗り心地は硬めで路面の形状を伝えるが、段差乗り越しのような大きな衝撃はサスペンションがよく吸収してくれる。もう少しあたりが柔らかくてもよいような気もするが、腰の強いしっかりした乗り心地はアウディらしい味付けに感じた。

 またリアモーター/リア駆動のQ4 e-tronらしいのは、ハンドル応答性の素直さとそれに対応するかのようなリアがグッと踏ん張る姿勢の潔さだ。サスペンションはこのRRの特性を生かしたセッティングを作り上げている。街中で何気なくハンドルを切った時にもこの一瞬を感じることができ、運転が楽しく感じられる。

 ハンドルは上下をカットしたようなデザインでロック・トゥ・ロックは2回転半強。コーナーでの保舵感もよく交差点でも軽く切れるのは好ましい。パーキング時のように大きく切った場合でもハンドル形状に違和感はなくすぐに手に馴染んだ。

 ちなみにDynamicモードにするとアクセル感度が高くなり加減速もシャープ。しかし過敏ではないのでこのモードを積極的に使っても不自然さはない。さらにショックアブソーバーの減衰力も高くなるためにロールも小さく、ハンドル操作に対する姿勢安定性が高くなる。操舵力も重くなるようだが、手に力が入るようなことはなく操舵力が自然に上がっていく感触でスポーティな心地よさがある。乗り心地はautoよりは硬く、路面の凹凸に反応するが、高速になるほどフラットになる印象だった。

 Q4 e-tron、BEVの特徴を活かし、パワートレーンが変わってもドライバーが求めるものをしっかり受け止めていた。巧みなクルマ作りに舌を巻く。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛