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フォルクスワーゲン、2020年に本格導入するEV専用アーキテクチャ「MEB」ワークショップレポート(その3)

航続可能距離は550km以上。現行e-ゴルフからより軽量で高出力になったバッテリー・セル

2018年9月20日(現地時間)開催

MEBで採用するバッテリーシステム

 独フォルクスワーゲンは9月20日(現地時間)、ドイツ ドレスデン工場においてEV(電気自動車)専用の新型アーキテクチャ「MEB(モジュラー エレクトリック ドライブ マトリックス)」に関するワークショップを開催した。

 今回のワークショップでは、「MEBアーキテクチャ」「バッテリー・セル」「充電と充電インフラ」という3つのテーマのグループセッションが行なわれており、本稿ではバッテリー開発責任者を務めるMichael Thiel氏によるバッテリー・セルのプレゼンテーションの模様をお伝えする。

独フォルクスワーゲンでバッテリー開発責任者を務めるMichael Thiel氏

 Thiel氏は冒頭、同社のバッテリー開発の歴史について振り返り、PHEV(プラグインハイブリッド)として「XL1」では5.5kWh、「ゴルフ GTE」では8.7kWh、「パサート GTE」では9.9kWhのものを採用したことを紹介するとともに、バッテリー式のEV(電気自動車)では「eCaddy」を皮切りに「e-up!」(18.7kWh)、「e-ゴルフ」(24.7kWh)、「e-ゴルフ GP」(35.8kWh)の開発・製造を進めてきたことを紹介し、「これらの開発によって多くの学びを得ました。この知識をもとに、第1世代のEVをMEBとして開発する機が熟したと思っています」とコメント。

 そしてe-ゴルフ GPで採用するバッテリーシステムの電池セルが27個のモジュール(264セル)で構成され、容量が35.8kWh、システム全体の重量が349kgであることに触れるとともに、「EV航続距離はMQBベースのPHEVで50km(NEDC)、そしてMQBベースのバッテリー式EVで231km(WLTP)、今回展示している(MEBベースのEV「ID.」シリーズに搭載する)バッテリーシステムでは550km以上(WLTP)を可能にしています。車両のフロント側には充電用のパネルがあり、一番安全な場所だと考えるフロア下にバッテリー、リア側にドライブトレーンを配置します。MEBを採用するモデルは後輪駆動だけではなく、いくつかのモデルでは4輪駆動を可能にしています」と、ID.シリーズの航続可能距離などについて報告。

バッテリーシステム

 また、ドライブトレーンを後ろ側に配置した理由については「バッテリーのポジションによって理想的な前後重量バランスを実現するためでした」と述べるとともに、バッテリーシステムの開発にあたっての要件が「重量を最適化すること」「クーリング/ヒーティング機能を持つこと」「複数のセルタイプに対応すること」「4WD/2WDにできること」「スケーラブルであること」であり、MEBのバッテリーシステムの特徴については「フレームにアルミを採用するとともに、衝突時に安全性を高めるクロスストラットを採用しました。バッテリーセルには1つひとつセルコントローラーが備わるほか、高電圧配線はe-ゴルフでは2mほどの長いものでしたが、これを短くすることでコストカットに成功しています」と紹介を行なった。

バッテリー開発の歴史
バッテリーシステムは2500ものパーツで構成される
e-ゴルフのバッテリーシステム。容量は35.8kWh、システム全体の重量は349kg
ID.の航続可能距離は最高で550km以上(WLTP)
システム構成図
バッテリーシステムの開発にあたっての要件
バッテリーシステムの中身

 以下、ワークショップに出席した報道陣との質疑応答を記す。

バッテリーシステムの重量は310kg

――バッテリーのリサイクルについてはどうお考えですか?

Thiel氏:クルマのバッテリーをすぐにリサイクルする必要はないと思っています。ユーザーが8年後、10年後に出力が足らないと感じられることは十分に考えられます。例えばバッテリーを70%までしか充電できないとなった場合、セカンドハンド(中古品)として売ることも考えられます。これがシナリオの1つ。

もう1つが、使えないくらいに質が落ちてしまった場合、セカンドライフとしてV2H(ビークルトゥホーム)が考えられます。3つめとして、最終的に使えなくなってしまった場合はバッテリーのリサイクルが考えられます。バッテリーはクルマに付いているものなのでお客さまがどう考えるかであり、準備は進めていますが製造者として(リサイクル事業を)やらなければいけないとは思っていません。「バッテリーを返してください」とはわれわれも言えませんので。

――質問の意図は、自分のクルマのSOC(State of Charge:充電率)が分からない、それが中古車価格で出ないことにあります。

Thiel氏:クルマがフル充電された場合、どのくらい走行できるのか航続可能距離が出ますので、例えば最初は330kmだったのに280kmになってしまった、という具合です。

――そうなのですが、実際乗るとその表示された距離が走れないのです。

Thiel氏:ここから先は予測でしかないですが、将来的にディーラーの方で(走行距離に関する)保証書を出すことは技術的に可能です。意思決定されたわけではないですが。

――寒い時期など、気候によるバッテリー性能の低下についてはどうですか?

Thiel氏:例えば氷点下10度になった場合、エネルギー密度は当然低下します。しかしバッテリーシステムにはヒーティングシステムがあるので温めればもとに戻ります。また、スマートフォンを使って予めこの時間に出発すると予約をしておけば暖気のようなことができます。必ずしも外気=セルの温度というわけではないのです。

――使用するリチウムイオンバッテリーの最適な温度は?

Thiel氏:われわれ(人間)と同じく10度~30度くらいですね。

――われわれは寒いノルウェーから来たのですが、10度~-10度くらいの気候の場合、充電時間が3倍必要なときがあります。急速充電する前にバッテリーを温めるようなボタンがあって準備ができたらよいのですが。

Thiel氏:いえいえ、走行中のバッテリーというのは常に最適な温度に保たれているので大丈夫です。すべてのEVがバッテリーの温度を管理するシステムを持っているわけではないですが、われわれのEVは搭載するので大丈夫です。

――バッテリーシステムの補強について、現行e-ゴルフから進化した点などはありますか?

Thiel氏:現在テストしている段階で、現行e-ゴルフ、ID.ともに規格は満たしています。来週、新しいクラッシュテストが開発されるので、現在進行形で開発を行なっているところです。

――e-ゴルフ GPで採用するバッテリーシステムの重量が349kgとのことでしたが、ID.に搭載するシステムの重量は?

Thiel氏:310kgです。より軽量で高出力なのが特徴です。