試乗レポート

【2022 ワークスチューニング試乗会】TRDが持ち込んだC-HR&ハイラックスのラリー車に同乗体験してみた

ワークスチューニング合同試乗会のTRD編をお届け

 TRDブランドを展開するTCD(トヨタカスタマイジング&ディベロップメント)、NISMOブランドを展開する日産モータースポーツ&カスタマイズ、無限(M-TEC)、STI(スバルテクニカインターナショナル)の4社が共同で開催するワークスチューニング合同試乗会がモビリティリゾートもてぎで行なわれた。

 2022年のTRDは2台のラリー車の試乗だった。と言っても実戦車での試乗なのでドライバーはTRDにお任せでの同乗試乗となる。

C-HR AP4 2022 Thailand Rallyシリーズ優勝車

C-HR AP4 2022 Thailand Rallyシリーズ優勝車

 1台目はTRDが力を入れているタイのラリーに参戦しているC-HR。キャロッセが制作したラリー用の車体にTRD製の直噴2.0リッターターボエンジンを搭載したもの。2022年のRAAT Thailand Rally ChampionshipのRC2クラスでシリーズチャンピオンを獲得したクルマだ。

 このカテゴリーはいわゆるラリー2に属するクラスだが、参加国に合わせてエンジンは換装され性能調整で吸気口にリストラクターを装着している。高価な本格的なFIA基準のマシンはほとんど参加しておらず、ランサーやインプレッサといったグループNに準じた車両がリストラクターなしで参加するのが一般的だ。これらが総合優勝を争い、ついでスズキ「スイフト」に代表されるFFのラリー車が走るのは日本と同様だ。同じラリーにクラシックラリー車での参加も人気で賑やかだ。

 TRDの提供するエンジンは8AR-FTS型をチューニングしたもので、33φのリストリクターを装着しながら272PS/480Nmの出力を出している。エンジンは高回転まで回らないが低中速の出力が大きく、どこから踏んでも高い駆動力を発揮するのはグラベルラリー仕様らしい設定だ。トランスミッションは5速のシーケンシャル。メーカーはDrenth製を使用する。4WDはセンターデフのない直結でトラクションを重視している。

C-HR AP4 2022 Thailand Rallyシリーズ優勝車は8AR-FTS型エンジンを改良し。最高出力272PS/4400-5600rpm、最大トルク480Nm/2400-3600rpmを発生

 車両をGRヤリスではなくC-HRにしているのは理由がある。例えば今、日本のラリーで主流のGRヤリスを日本からの輸入にすると関税の関係で3倍くらいの価格になってしまう。しかしC-HRはタイで生産しているので高額な関税を回避することができ、部品もタイ生産で安価に手に入れることができるためにメンテナンス費用も安く抑えられ、継続参加の負担を減らすことができる。なぜスピードラリーにSUVのC-HRを選んだのかという長年の謎がやっと解消された。

 右ハンドルのコクピットにはFIA-APRC(アジア・パシフィック)に適合したロールケージが入っており、コ・ドライバーシートに乗り込むのに体をひねらなければならないが、ラリー車だけに意外とすんなり乗り込めた。装着タイヤは横浜ゴムのラリー用タイヤで実績の高い「ADVAN A053」(185/60R15)を履く。

C-HR AP4 2022 Thailand Rallyシリーズ優勝車

 用意されたのは超ショートのグラベルコース。いきなりペースの速い試乗が始まった。ドライバーはタイなどで活躍する新堀忠光選手。自分はと言えばバケットシートに身体を沈ませて、フロアに設けられたフットレストで踏ん張る。

 ドライバーにとっても初めてのトライアルで最初の左タイトコーナーでは直結4WDのためにフロントが押し出されるようで思うように曲がらず苦労していたが、いったんリアが流れ出すと今度は巻き込むように曲がっていく。

 ストレートは短いがシーケンシャルシフトでシフトアップしていく。ガツンというショックは小さく、またエンジン特性もどこから踏んでも直噴ターボらしいレスポンスの良さを見せる。低中速トルクの太さで力強い加速だ。時おりシフトレバーの横に生える無粋なサイドブレーキに手がいくが、角度の深いコーナー以外は軽いフェイントでノーズをインに向けながらドリフトしていく。

 高回転のパンチ力がないのはリストリクターの影響だが、今回のコースでは高回転の伸びは要求されない。サスペンションは車高を上げたオフロード仕様、グラベルで見るとよく似合う。同乗中もギャップでは強い衝撃があるが、ショックアブソーバーの減衰力は強くウネリでは車体の動きを制御する。ストロークをタップリとる必要のあるクロスカントリーほどはないが、グラベルラリーを耐えられるタフネスさを感じさせた。あっという間の同乗試乗は終了したが、現在のラリーで戦うラリー2の実力の一端を知る良い経験だった。

 TRDではタイにC-HRのRC2を用意しており、参加希望のドライバーがいればレンタルも可能という。ニュージーランドやインドネシアも同じレギュレーションで戦えるので、身一つのラリー参加も夢ではない。

ハイラックス 2022 MINT400 クラス7準優勝車

ハイラックス 2022 MINT400 クラス7準優勝車

 2台目のTRD車はこちらもTRDが力を入れているハイラックスのデザートレース車で、2022年の北米で開催されたMINT400に参戦してクラス2位を獲得した車両だ。車体はTRDのアドバイサーである塙郁夫選手が制作に関与しているもの。塙選手はデザートレースのプロフェッショナルで車体には独自のポリシーを持っている。

ハイラックス 2022 MINT400 クラス7準優勝車をドライブするのは塙郁夫選手

 デザートレースは主としてバギー車からピックアップトラックまで改造範囲によって多くのクラスがあるが、同乗試乗したのはクラス7に参戦する車両。改造範囲は大きいがオリジナルのハイラックスからは逸脱しない範囲にある。とは言ってもセミパイプフレームにカーボンの外装で、オリジナルとは全くの別物だ。

 TRD製のエンジンはオリジナルの2.8リッターディーゼルターボに変えてC-HR RC2と同じ8ARをチューニングしたガソリンの2.0リッターターボを搭載している。C-HRの横置きエンジンに対してこちらは縦置きとしているが、タービンが大きなサイズになり、リストリクターが外されているので出力はより大きくなっている。最高出力はC-HRの272PS/4400-5600rpmに対して407PS/6000rpm、最大トルクも500Nmとなっており、出力の必要なデザートレースに適したチューニングが施されている。

ハイラックス 2022 MINT400 クラス7準優勝車はキャビン骨格以外をCFRP化し、車両重量は1981kgを実現。エンジンは8AR-FTS型をTRDがチューニングし、最高出力407PS/6000rpm、最大トルク500Nm/4000-4400rpmを発生。これに6速ATを組み合わせてフルタイム4WDシステムを組み合わせる

 ハンドルを握るのは塙選手。C-HRと同じコースで同乗試乗である。エンジンもリストリクターを外して伸び伸びとまわるようになったが、全長5389mm、全幅2085mm、ホイールベース3210mmの巨大なオフロードカーにとってコースは狭い! しかしさすがに塙選手、このマシンを知り尽くしており、狭い道でも振りまわしてキレイにドリフトしていく。

 このマシンは塙選手の信念でハイラックス純正のアイシン製6速ATを使っているが、MTよりも振動吸収が穏やかではるかに壊れないという。豪快なエンジン音だけ聞いているとMTのように変速していくが、ATも制御が変えられており、パドルシフトによってマニュアルチックな変速が可能となっている。

 マシンはフルタイム4WDで4輪にかかるトラクションは強大だ。クロスレシオのように小気味よく変速しながら速度はどんどん上がっていく。ローレシオになっているので結果的にクロスレシオになる。前後のデフはハイギヤード設定。これにより最高速は190km/hを確保している。デザートレースのアベレージ速度は高く、これでも足りないだろう。トルコンは温度コントロールが重要で、巨大なオイルクーラーを後部の荷台に積んでいる。

 強大なトルクを受け止めるサスペンションは特に見ものだ。ロングストロークでリアは630mm、フロントは315mmのストロークを誇り、サスペンションはしなやかに伸縮する。このためにギャップの多いコースでもバネ上は大きな衝撃を感じることなく、フラットな乗り心地でドライバーもリラックスしてドライブしているのが分かる。大きなピックアップトラックが狭いダートコースを豪快にドリフトする姿はなかなか迫力がある。

 リアダンパーはオフロードの専門メーカーであるKING製でリアには片側に主と副の2本が装備されおり、何れもサブタンク付きで冷却性能も抜群だという。KINGはレースごとにサポートカーを出しており、メンテナンス体制も整っており、高い信頼性を持っているという。

 塙選手のドライブは落ち着いたもので、パドルシフトでアップ/ダウンを繰り返すが、時おりフロアから生えた長いスティック状のサイドブレーキを引いて向きを調整する。「狭い!」と叫んでいるが余裕十分と見受けられた。

 装着タイヤは横浜ゴムの「ジオランダー M/T G003」で過酷なレースを戦い抜く。車両重量はノーマルが1980kgに対し、徹底的な軽量化を図りながらもラリー装備の追加で最終的に2080kgとなっているが、重さとサイズを感じさせない完成度だった。

 TRDでは積極的にデザートレースにかかわっており、レンタル車両もあるというので、デザートレースに興味のあるドライバーに応えられる。また全日本選手権ラリーでもラリーによっては出走可能なクラスがあり、こちらもレンタル車両の用意がある。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:中野英幸
Photo:堤晋一