試乗レポート

ヤリスTRDラリーカップ仕様、ラリー入門者から中級者まで使えるマシンの乗り味とは

ユーザーの段階的なステップアップを支えるためのTRDラリーカップ

 トヨタは「ラリーチャレンジ」(以下、ラリチャレ)を通じて、多くのモータースポーツ愛好者にラリーへの間口を広げることができた。ラリチャレでは参加枠がいっぱいになるラリーも出るなど人気のイベントだ。

 そのラリチャレから少しステップアップした「TRDラリーカップ」用のヤリスが用意された。TRDラリーカップはワンメイククラスで、各地の地方選手権で手を挙げた主催者にカップクラスとして組み込まれる。地方選手権の活性化にもつながる活動だ。

ラリチャレからいきなりJAFの地方選手権に参加するのはハードルが高く感じるユーザーも多いとのことで、その中間にラリーカップを設定している
できる限り参加者のランニングコストを抑えられるように配慮した規定を設けている
TRDカップカーを設定した背景を解説してくれた株式会社トヨタカスタマイジング&ディベロップメント TRD本部 TRD事業部 第2MS事業室 室長 柏村勝敏氏

 カップカーは地方選手権と違った制約があるが、ラリチャレからステップアップしやすいように、例えばロールバーはそのまま流用でき、タイヤ・ホイールも共通など、かなりコストを抑えることを意識したレギュレーションになっている。

 制約パーツは、サスペンションキットのみTRDの指定品を使わなければならないが、これもコストがかからないようになっている。スプリングはターマック(舗装路)用とグラベル(砂利道)用を揃える必要があるが、ショックアブソーバーはどの路面も共通だ。フロント複筒32段階調整、リア単筒32段階調整の車高調整式となっていて、スプリングだけ変えれば1本のショックアブソーバーでパフォーマンスを発揮できるように設定している。

 また、TRDカップはソフト面でも充実しており、データロガーによって各自の走り方が検証できるようになっているため、走り方の参考にすることも可能だ。さらにステップアップするためには有効な道具になる。

ラリーの地方選手権から全日本レベルまで広くカバーする仕様
試乗車はBRIDEのフルバケットシート、クスコの4点式ベルトを装備
ホイールはレイズ製TE37を装着
6速MTはノーマルのまま
スペアタイヤを2本搭載していた

 今回「TRD」「NISMO」「STI」「無限」の4社が共同で行なうワークスチューニング合同試乗会にて、この2022年シーズンからTRDラリーカップに参戦可能という「ヤリス TRDラリーカップ仕様」に試乗する機会を得た。試乗コースは、ツインリンクもてぎの南コースだ。

ターマックもグラベルも1本でカバーするサスペンション

 さて、目の前にあるヤリスのエンジンは規則によりノーマル。トランスミッションもMTのノーマル。デフは1ウェイのLSDが搭載され、2名乗車に限定されるジョイント式ロールゲージが組み込まれている。タイヤは横浜ゴムのADVAN A036。185/60R15をRAYSのホイールに履く。グラベル用のタイヤだ。

エンジンはノーマルだが、1ウェイのLSDが組み込まれている

 交換やメンテナンス性を高めるために、前後バンパーとフェンダーをピンでとめているところもラリー用らしいスタイル。リアタイヤの前には飛び石でフェンダーへの損傷を減らすガードが張られている。

 コースに出ると1.5リッターの120PSは低中速トルクもあって誰でも使いやすい。6速MTも軽く入るがワイドレシオで、フラットなトルクのために扱いやすい。それだけに丁寧で大胆なドライビングが大切になる。

 TRD指定サスペンションはさすがに完成度が高い。ターマックコースにラリータイヤでも安定している。カタログ重量で1t。120PSの出力のFFヤリスは狭くツイスティなラリーコースでも扱いやすいに違いない。

 タイトターン直前のブレーキでは、多少強引に入っても姿勢が乱れることはなくしっかり制動する。ブレーキパッドはラリー向けのウィンマックス製で、制動のコントロールもしやすい。今後ドライビングスタイルによってパッドの性質を変えることもあると思うが、オールマイティの特性は誰でも使いやすいと思う。

 一連のコーナーの流れを見ると、ターンインではフロントの入りがいい。機敏さはないがハンドルの感度は高くてグラベルタイヤでも素直に曲がっていく。コーナーの中ではアクセルを徐々に開けていくがLSDが効いてラインをキープし、その姿勢のままコーナーの立ち上がりでしっかりとトラクションが掛かる。

 ピタリと路面に張り付くようなロール制御ではないが、ターンインからのロール速度は一定しており姿勢が安定しているのがラリーカーらしい。ソツなく高いレベルにまとめられているのがTRD製品だ。

 32段階調整のショックアブソーバーのどの番手をどんな路面で選ぶのかは製品化されるときには推奨されると思うが、調整による特性の変化をトライできるのはドライバーにはいいトレーニングになるに違いない。

 1セット約10万円と予想される調整式ショックアブソーバーだけで(バネは変えるものの)ターマック、グラベルの両方をシーズン通じて使えるのはコスト軽減につながるだろう。ラリーは車両もソフトも大きく進化していることを実感したTRDカップカーだった。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一
Photo:安田 剛