試乗レポート

トヨタ「GR86」&スバル「BRZ」を公道試乗して感じた圧倒的な違い

トヨタ「GR86」とスバル「BRZ」

AT、MT、ベースモデル……それぞれの個性

 新型GR86&BRZをいよいよ公道で比較試乗する。4か月ほど前にサーキット試乗インプレッションをお伝えしたが、結論としてはサーキットならGR86、ストリートはBRZがマッチするかもしれないと締めくくっていた。実際の走りはどうなのか? AT&MT、そして17インチを装着するベースモデルまでチェックしてみる。

 まず乗り込んだのは、かつてレースのために3台も乗り継いだ86である。トップグレードのRZだからということもあるが、乗り込んだ瞬間から内装やメーターまわりの質感がかなり向上したものだと改めて感じる。ナビ画面はここまで必要かと思うほど大きく、メーターまわりはデジタル表記が多くなり、ちょっとオトナになったのか? 先代が登場して9年という歳月は、基本的な構成は変わらないクルマではあるものの、いろいろと変化を与えてくれる。

GR86(左)&BRZ(右)。どちらもボディサイズは4265×1775×1310mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2575mmで共通
GR86は、6速ATと6速MTを設定するRZ、SZ、6速MTのみを設定するRCの3グレードをラインアップ。価格は279万9000円~351万2000円
BRZはR、Sの2モデルが用意され、それぞれ6速MTと6速ATを設定。価格は308万円~343万2000
GR86のRZは、マットブラック塗装の18インチアルミホイールに、215/40R18サイズのミシュラン「パイロットスポーツ 4」を装着
GR86のSZは17インチホイール(切削光輝+ブラック塗装)と、215/45R17サイズのミシュラン「プライマシーHP」の組み合わせ
運転支援システム「アイサイト」がGR86ではRZとSZのAT車に、BRZでは全モデルのAT車に標準装備となった
ステアリング
メーター
搭載されるエンジンは、どちらも最高出力173kW(235PS)/7000rpm、最大トルク250Nm(25.5kgfm)/3700rpmを発生する水平対向4気筒DOHC 2.4リッターの自然吸気というスペック

 まずは一般道をゆっくりと走り出すと、それだけでもかなりヤンチャなクルマになったことが伝わってくる。ステアリングを切り始めた瞬間、ピクリとクルマは反応をみせ、タウンスピードからしてスポーツできてしまいそうな感覚だ。標準装着となる18インチタイヤは、路面が荒れていると少々ロードノイズを大きく発してしまうところがネック。エンジンの振動もアルミ製のマウントブラケットに変更したせいか、はたまた2.4リッターになったせいか、それなりに大きいしダイレクトだ。けれども、ガチガチのチューニングカーのようにはなっていない。路面からの入力をうまく受け止め、これまた質感高く仕上がっている。もちろん、並大抵なクルマからすればハーシュネスはそれなりに感じるが、スポーツカーなら許せる範囲内では? とドライバーからすれば思えてくる。ちなみに、後に助手席に乗ったカメラマンさんは同乗するなら乗り心地がマイルドなBRZが好みだといっていた。どこに座るか、何を目的とするかによって印象はかなり異なってくるのかもしれない。

 芦ノ湖周辺の一般道をゆっくりと流している時、僕はほぼノーブレーキでコーナーをクリアしていた。それは決して無理に走っていたわけではなく、アクセルを少し抜くだけでノーズが素直に入ってくれたから。ブレーキでフロントに荷重を乗せて……などと考えずに済むところが爽快だ。BRZに乗って後からついてきたCar Watchのスタッフは、後にこの時のことを振り返って驚いていた。BRZは同じようにアプローチすることが難しく、ブレーキをきっかけにしたくなることが多かったというのだ。そこが安定方向に振りたいと考えるスバルらしさなのか? ちなみにGR86のスプリングレートはフロント28N/mm、リア39N/mm。BRZはフロント30N/mm、リア35N/mmとなり、各々に合わせたショックの設定が行なわれており、フロントのナックルはGR86が鋳鉄でBRZがアルミなど、細かい部分で違っているのだから、当然といえば当然かもしれない。

 BRZのステアリングを握ってそこをもう一度走ってみると、たしかにステアリングはマイルドな応答で、姿勢変化はドライバーが作るべきだという仕上がりがそこにある。突き上げは少ないし、乗り味はGR86から比べるとグランドツーリングカー的な仕上がりだ。明らかに向いている方向性が違うことはよく理解できる。振動や音のレベルは基本的にGR86と変わらないところがあるから、BRZがそちらを目指すのであれば、そこにマイルドさを与えるべきかもしれない。

 芦ノ湖スカイラインに入ってGR86をちょっと元気に走らせてみると、まず驚いたのは2.4リッター化されたエンジンによって、上り勾配における愉しさが旧型より大幅に向上していたことだった。旧型は回転をドロップさせると、そこから復帰させるまでかなりの時間を要した感覚だったが、新型はどこでも即座にトルクが感じられる。上りでここまで走るようになったとは! 元旧型オーナーからすればかなりの違いだ。その甲斐あってFRらしくリアが蹴り出す感覚もよく感じられる。コーナーイン側がシッカリと伸びて路面を捉え、LSD効果もきちんと感じられてアクセルで曲げる感覚が限界まで持ち込まなくても十分に得られることが最高だ。アクセル応答をやや極端にしたことで、コーナー脱出で得られる実トルクと、欲しいトラクションがマッチしたところがおもしろい。そこにシャープに反応するステアリングがあるのだから鬼に金棒。一体感溢れる走りがワインディングでは確実に得られる。

 新型は排気量アップや安全対策によって+75kgとなったが、フロントフェンダー、ルーフをアルミ化したこと、そのほかさまざまな軽量化によって、その増加分を吸収したという経緯がある。さらにインナーフレーム化を行なってフロントストラット軸曲げ剛性は+60%、車体ねじり剛性は+50%、リアサブフレーム剛性は+70%を実現。それらの合わせ技によって、クルマは小さく軽く感じるのだろう。手足のように反応を見せてくれるところがGR86のよさだろう。

 一方のBRZはそれらをスポーツ走行方向にすべては使わなかった印象がある。ワインディングではシャープというよりも、明らかにクルマ全体がジワリと動く感覚で、あくまでも安定方向にセッティングしたことが伝わってくるのだ。ペースを上げると、ゆっくりと走ったときと同様、後はドライバー次第。アクセルの応答性もリニアであり、少しおとなしく感じるが、これまたアクセルの踏み方次第でどのようにでも走れてしまう。ちょっとオトナなスポーツクーペ、それがBRZの方向性だ。

 後にATモデルにも乗ってみたが、スポーツモードで走るとブレーキした瞬間にきちんとシフトダウンをしてくれることもあって、リズミカルにコーナーをクリアできるところがおもしろい。もちろん、パドルシフトで積極的に走ることも可能である。MTモデルに比べるとおよそ20kg重くなってしまうため、運動性能自体はややマイルドな方向だが、イージードライブを大切にしつつも、たまにはスポーティな走りを、というのであれば十分な仕上がりだ思う。

従来型と同銘柄のタイヤを装着したGR86 SZに乗って気付いた変化

 最後に17インチを装着するGR86のSZに試乗した。旧型のGTと同様のミシュラン プライマシーHP(RZはパイロットスポーツ 4)が装着されているから、これが新旧比較には適している1台。タイヤ&ホイールに頼らずどこまで行けるのか? そこが興味のポイントだったりもする。走るとRZが装着する18インチ仕様のキレのよさはなくなっているが、こちらもまた旧型に比べればキビキビとした感覚は得られている。芦ノ湖スカイラインを走って感じたことは、リアの接地がかなりよくなっていたことだった。旋回ブレーキを行なっても、旧型のように一気にめくれ上がるような動きはなく、接地の変化がリニアに感じられるのだ。対して立ち上がり側ではイン側のトラクションがしっかりと得られるが、2.4リッターのトルクにやや負けてしまうシーンもあったことも事実。18インチ化に踏み切った理由もよく理解できた。だが、同じタイヤを履きながらもここまで上質に、そしてスポーティに仕上がったことは驚きだった。旧型オーナーであれば基本性能の向上を最も感じられるのはSZかもしれない。

 両車いずれも、どのグレードも納得できる走りだった。こんなクルマが300万円前後で購入できるとは、日本人でよかったと改めて思う。安価だからといって走りでは欧州スポーツにちっとも負けてない、それが新型のよさではないだろうか?

 こうしてアレコレと語ってきたが、改めて思うのはクルマの走り味をいろいろと語れる環境が次世代に続いたことを本当にうれしく思う。トヨタとスバルが本気で向き合い、“少しでもよいクルマを”と切磋琢磨してくれた世界が続いてくれたことを感謝したい。これからスポーツカーにとっては冬の時代となりそうだが、そこをなんとかあがいて次世代へ続けようといま、さらに努力を続けてくれているらしい。GR86&BRZはガソリンではなく代替燃料でそれが構築できないかをレースでも模索を始めるという話も伝わっている。それがどんな世界なのかはまだ分からないが、すべてが成功し86&BRZが未来永劫続くことを期待したい。このクルマは日本が世界に誇れるスポーツカーなのだから。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はスバル新型レヴォーグ(2020年11月納車)、メルセデスベンツVクラス、ユーノスロードスター。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛