試乗レポート

その効果は? カローラ累計販売5000万台記念の「除電スタビライジングプラスシート」車に乗ってみた

「除電スタビライジングプラスシート」搭載カローラのプロトタイプ

カローラのグローバル累計販売5000万台記念限定車

 現在のクルマに空力は欠かせない。しかしモータースポーツ専用車ならともかく、市販車に大きな空力パーツを装着するのは制約がある。デザイン上ももちろんだが突起物は何かと厄介だ。

 トヨタは空力に関しておもしろいアプローチをしている。通称“オサカナサン”と呼ばれる小型のフィン(エアロスタビライジングフィン)をテールランプサイドやアンダーボディに装着して空気の流れを整流していることはよく知られている。

 また、クルマに帯電する静電気に着目し、それを効率よく放電することでクルマに接する空気の流れを整流するアルミテープはスポーツモデルでは多く使われ、さらに商用車のプロボックスにも採用されている。貼り付け場所によって効果が異なるのでノウハウが必要だが興味深いアイデアだ。

 今回、カローラのグローバル累計販売5000万台記念限定車であるカローラ/カローラ ツーリング特別仕様車 HYBRID W×B“50 Million Edition”、カローラ スポーツ特別仕様車 HYBRID G“Style 50 Million Edition”に装着されたのは、シート素材を変えて車体やドライバーに帯電した静電気を、シートを通じてボディに流すのを目的とした除電スタビライジングプラスシートだ。

【カローラシリーズ特別仕様車】除電スタビライジングプラスシートとは?

 これによって帯電した空気と反発しにくくなり、空力特性はもちろん、アクセル、ブレーキ、ショックアブソーバーなどのレスポンスも向上するという。見えないものはなかなか判断しにくい。まずは試乗して体感する。試乗方法は除電スタビライジングプラスシート単体だと分かりにくいので、それを装着したカローラ1台とその除電機能をカットするシートカバーも用意された。つまり同じクルマで2種類のシートを経験できることになる。

 カローラは運転しやすいクルマで1つひとつが素直に動く。ストレスのないのはアクセルやブレーキ、そして何気ないコーナーでも期待どおりに反応してくれるからだ。

除電スタビライジングプラスシートは運転席に装備
アキレスとトヨタのコラボレーションで実現しており、技術の高さもあって見た目の違いはない

除電スタビライジングプラスシートに試乗してみた

雨の街を試乗中の筆者

 除電スタビライジングプラスシート装着のカローラは、アクセルをジワリを踏んだときの走り始めが滑らかで、微妙な足首の動きに反応する。空力効果が表れる速度域ではないと思われるが、電気系の発する静電気を車体にアースしている効果なのだろうか。試しにアクセルを踏み込んだときは車体の動きの方が大きくなり、違いを感じることはあまりなかった。

 ブレーキも同様で、ハイブリッド特有のブレーキの踏み始めの微妙なところに差が出ている。ブレーキペダルの最初のタッチで反応するために運転しやすい。決して過敏ではなく、意識することなくスッと停止したいときに減速できる。ペダルストロークの遊びが小さい効果だと思われる。ハンドル操作したときの動きも同様で最初の切り始めの雑味が少なくなり、ハンドルの切り増しをすることなくコーナーを曲がる。

 速度が高くなると接地性が高くなり、車体の微妙な揺れが小さくなる。いずれも微小な動きだが違いは感じられる。このあたりは空力効果が大きいと思われる。シートカバーを被せて絶縁すると(通常仕様にすると)、そのホンのわずかな動きに差が出てくるので不思議なものだ。

 いずれもドライバーが起こす最初のアクションの反応がよく、余分な操作が減った。クルマが素直に動く。

 乗り心地ではショックアブソーバーの初動でストロークしている感じで、段差乗り越しなども落ち着いている。空気の整流効果も大きいと感じられた。これらはいずれもわずかな差だが車体の揺れでは始めの動きが抑えられておもしろい。

 最初に記したようにカローラの完成度は高い。除電スタビライジングプラスシートはさらに最後の角を丸くしたような印象だった。

 静電気はなかなか分かりにくいが、走行中もドライバーから離れたポイント、例えばフロントエンドなどでは(人の帯電が1000Vだとして)70Vほど下がるデータもあるという。

 空力効果はアースされることで静電気同士の反発が少なくなり、車体にあたる空気の流れがきれいにボディに添って流れるようになるという。実際に長いコーナーもハンドルの操作量が少なく安定しているのも空力効果だろう。

 人の帯電量は夏と冬では7倍も違うと言われ、当然静電気のたまりやすい冬は大きくなる。パチッとくるあれだ。それだけ人間は電気をため込んでいるので確かにアースは効果がありそうだ。これらは雪道でも効果的だという。

 試乗した日は身体の帯電量は減る雨だったがそれでも違いは感じられたので、これから冬に向かって試してみたいアイテムでもある。また高温で湿気の多い夏でも違いは分かるとのことだ。

 この除電スタビライジングプラスシートはアキレス株式会社からのヒントだった。子供のころお世話になった長靴や運動靴でおなじみの会社だ。実際にはこれらの製品はアキレスの15%程度で、プラスチックなどの化学メーカーだ。アキレスでは電気を通すプラスチックなどを弱電メーカー向けに開発していたが、トヨタではそれをクルマに応用し、シートの開発がスタートしたという。アルミテープからのインスピレーションもあったに違いない。

 アキレスの特徴は素材に表面処理することで通電が可能になり、透明なためにシートの色を選ばない。過酷な条件に晒されるクルマ用シートだが耐久性や性能劣化などの要件もクリアしている。アキレスの除電素材は25年の歴史があり、シートに応用する素材開発から10年で辿り着いたクルマとの出会いである。

 当初は冬の静電気解消が目的だったが、操安グループと巡り合うことでクルマの性能にも影響する製品に成長した。今後採用拡大が図られそうで適材適所に置かれることでさらに効果を発揮しそうだ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛