試乗レポート

TRDのラリー競技用「ハイラックス」は260PS/700Nmの扱いやすいモンスターだった

TRD、NISMO、無限、STIの4社が共同で開催するワークスチューニング合同試乗会がツインリンクもてぎの南コースで行なわれた

TRDの新たなモータースポーツ普及活動の1つ

 オフロード4WDによる砂漠や泥濘地を走るレース/ラリーは根強い人気がある。パリ・ダカールなどもその一例だが、TRDがアプローチしたのはピックアップトラックによるオフロードレース用のハイラックスだ。

 今回試乗したのは2019年のオーストラリアで開催された「Tatts Finke Desert Race」でクラス優勝したマシンそのもので、ベースはタイで販売されているスマートキャブを使って改造したものだ。このレースはオーストラリアで有名なオフロードレースで、2日にかけて砂漠の中で行なわれ、2輪は600台、4輪は140台ものエントリーがあったという。

 エンジンは直列4気筒2.8リッター インタークーラー付きディーゼルターボ。これをTRDでチューニングして260PS/700Nmまで出力アップしている。また、トルコン6速ATに組み合わされる駆動系は本来パートタイムだが、これをフルタイム4WDとしている。キャビンは骨格以外すべてをカーボンで作り軽量化が図られ、重量はラリー装備付きで2.2t。軽量化した分が装備でチャラとなる勘定で、装着タイヤは横浜ゴムのジオランダー A/T G015。サイズは285/70R17だ。

 トランスミッションにトルコンATを使っているのは意外に思えるが、ATオイルの温度管理を徹底し、常に100℃以下をキープできていれば支障はないという。その代わりトランクに大きなオイルクーラーを搭載してATオイルを冷却する。MTでは逆に大きなトルクに耐えきれずにシャフトが折れることが多くなるらしい。

ノーマルエンジン(1GD-FTV)は最高出力177PS/3400rpm、最大トルク450Nm/1600-2400rpm、それを260PS/700Nmまでパワーアップさせている
川などに入っても水を吸わないようにシュノーケル状の吸気ダクトを装備
リアセクションはフレームのみ。スペアタイヤや消火器を装備する
燃料タンクはセンターに配置され、左右に乗っている電動ファンはATオイルの冷却用クーラーに装着されているもの
フロントはアーム類が延長、または強化され、キング製サスペンションを装着。別体タンクを2個装備してオイル量を増やすとともに、別体タンクには冷却用のヒートシンクが巻かれる
リアサスペンションは、リーフリジット(板バネ)から4リンクリジットに変更されている
タイヤは横浜ゴム「ジオランダー A/T G015」。サイズは285/70R17

 フルタイム4WDはランクルプラドのシステムを使ってセンターデフにトルセンデフを採用。あえてロックする必要もない。駆動力は前後4:6に配分されているが、砂漠のギャップを飛ぶ場合にはフロントの駆動力を抜くというノウハウも活かされている。

 これ以外にもレース用に大改造されている部分がある。まずホイールベースを185mm短く、競技に適した長さにして、リアサスペンションもリーフリジットから4リンクリジットに変更し、連続したウネリでの路面追従性やトラクションを向上させている。

 車両開発のノウハウは、オフロード一筋にドライバーでありながら自らも開発を行ない、2001年には100勝を達成。それ以降も「Baja1000」でのクラス優勝、「パイクスピークス」でのEVクラス優勝など、誇らしい実績を持つ塙郁夫選手がアドバイザーとして参加。それにより短期間で完成することが可能になった。

必要なものだけが残されたシンプルなコクピットまわり
塙選手が車両開発に加わったことで、このハイラックスはかなり短時間で完成できたという

ドライビングの基本に忠実な動きをするモンスターマシン

 エンジンを始動させると大きなエキゾーストノートと共にディーゼルらしい振動もあってデザートマシンを実感する。ATのため発進は容易だ。アクセルを踏むだけで車体を震わせるようにして力強く動きだす。レブリミットは4500rpmだが、低速から大きなトルクが出るので、走行中どこからアクセルを踏んでもガツンと前に出て行こうとする。この低速トルクは泥濘地や砂漠では粘り強いトラクションで大きな強みとなる。

 コーナーではタップリあるサスペンションストロークをアクセルのON/OFFで積極的に利用し、ピッチングをさせて前荷重、そして後荷重をメリハリよく使うと、大きくロールしながら、4輪は面白いほどグリップしてコーナーを抜ける。カフナーのデフロックはコーナーでクルマの姿勢を整えてからガツンと踏むとコクンと音がして強烈なトラクションを掛ける。オンロードでのオフロード専門マシンは大きくロールしながらもインリフトをしているのが分かるが、絶妙なタイミングで効果的に働くデフロックのおかげでホイールスピンすることなく駆動力が伝わる。

 タイヤのグリップに任せて曲がろうとするとアンダーステアが強くなり曲がらないが、セオリーどおりに操作すると正確に反応する。ドライビングを見直すよいトレーニングマシンだ。

 塙選手によると6速ATは「パドルシフトを操作するよりも、Dレンジをメインに使う」という。長距離のラフロード走行ではDレンジに任せた方がショックも少なく、疲労にも大きな影響を及ぼすという。確かに長距離になるほどハンドル操作に専念できるのはありがたい。

 最初の周回はナビシートに座らせてもらったが塙選手のドライビングはスムーズでメリハリがあり、クルマにストレスを掛けないようにしているのがよく分かった。

 今回のタイトコースでは、パドルを使ってギヤレンジを保っていたが、どこからでも大きなトルクが出せるエンジン特性はDレンジでも十分速い。変速もガツンとつながるというよりも競技車と考えると穏やかだ。長距離悪路走行のオフローダーの知恵だろう。

 オフロード専用車にタイトなターマックはかわいそうだったが、粘り腰で体をくねらせるように走る姿は大迫力で、運転して楽しい競技車だった。

 こんなクルマで長い年月をゆったりとラリーを楽しむのもありかもしれない。

 TRDでは今回のデザートレース用の改造車ではないが、全日本ラリー選手権のグラベル戦のみにハイラックスの競技車を走らせており、GAZOOとは違ったカテゴリーで新風を吹き込もうとしている。ハイラックスは当初より北米オフロードレースでのなじみがあり、その精神に帰って車両作りが行なわれ、多くのドライバーに門戸を広げている。

TRDは参加するオフロード競技のレギュレーションに応じたマシンを製作してくれる
【TRD】ハイラックス オフロードレース仕様 塙郁夫選手デモンストレーション走行(1分27秒)
TRD HILUX -One off model FINKE 2019-(2分17秒)
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛
Photo:堤晋一