試乗レポート

スバルの新型「WRX S4」プロトタイプにサーキットで試乗 新旧乗り比べで走りの差を体感

新型WRX S4はどこがどう変わったのか?

 新型WRX S4にいよいよ試乗するチャンスがやってきた。従来型の2.0リッターから2.4リッターへと拡大した排気量が目玉ではあるが、スペック的に見れば最高出力は221kW(300PS)/5600rpmから202kW(275PS)/5600rpmへとダウン。最大トルクについても400Nm(40.7kgfm)/2000-4800rpmから375Nm(38.2kgfm)/2000-4800rpmへとこちらもまたダウンしている。対して燃費は約8%向上。これってキバを抜かれたということなのか!? 試乗前からちょっと不安な始まりである。

 だが、ハコは刷新され、スバルグローバルプラットフォーム+フルインナーフレーム構造+構造用接着剤7m→26mなど、期待できるものは多い。WRX S4はそれすなわちレヴォーグのセダン版であるからして、走りは相当に期待できそうだ。特に、セダンボディを活かし、フルインナーフレーム構造の骨格はレヴォーグとは異なる形で再構築。リアバルク構造を採用することで、取り付け部剛性がさらに向上し、足まわりからの入力を効率よく受け止めることができたそうだ。結果として従来型比で静剛性は+28%、動剛性は+11%を達成している。

 このほか、2ピニオン電動パワーステアリングや電子制御ダンパー(STI Sport Rに採用)といったアイテムはレヴォーグと変わらず。だが、操舵力や足まわりはこのクルマ用にリセッティングされており、特にダンパーについては制御プログラムだけではなく、減衰力やバルブ特性についても改められている。245/40R18(ちなみにレヴォーグは225/45R18)サイズの専用ハイグリップタイヤ(DUNLOP SP SPORT MAXX GT600A)に対応した結果がそこにある。

2ピニオン電動パワーステアリングのカットモデル。ドライバーのステアリング操作軸をモーターアシスト軸から切り離して操作時のフリクションを低減することで、リニアで滑らかなトルク伝達を実現する
電子制御ダンパーのカットモデル。制御ソフトのみならずバルブ特性も変更され、減衰力をアップしつつ変化幅を拡大。Confort/Normal/Sportの3モードすべてにおいてWRX S4専用のセッティングとなっている

 さらに注目なのは駆動系だ。「スバルパフォーマンストランスミッション」と名付けられたCVTは、バリエーターとギヤセットでローギヤード化、耐久性とレスポンスを向上させた油圧コントロールバルブも採用している。結果、従来比で30%も高速化した素早いレスポンスでシフトアップ可能。ブレーキング時はブリッピングを従いながら、従来比50%高速化した素早い変速ができるらしい。8速固定ギヤ変速制御は、かなり面白いことになりそうだ。さらに、VTD-AWD(不等&可変トルク配分電子制御AWD)を従来型から継続採用。イニシャルのトルク配分はフロント45%、リア55%となる。加えて、AWD Sportモードを新たに搭載している。これはLSDトルクを低く設定し、作動制限を抑制。ニュートラルな挙動を生むことに成功したという。

スペックだけで語るべからず!

 今回は試乗会場となる袖ケ浦フォレストレースウェイで、まずは従来型の乗り味を確認する。モデル末期となってもかなり人気が高かったという従来型の走りはどうか? 走れば高回転におけるパワー感はかなり力強く、実際に車速もかなり速い! ただ、走り出しに感じる応答遅れ、そしてコーナー脱出時のレスポンス遅れなどは否めずといった感覚で、特に回転をドロップさせてから再加速させる状況のリニアリティが薄いように思える。

 これはボディに対しても同様で、ステアリングを切ってからボディが応答するまでのリニアさがこれまた薄い。全開域で加減速を目一杯して一気に向きを変えるといった乗り方であれば、従来型のよさは際立つ印象があるが、過渡特性に連続した感覚が得られないところがネックなのかもしれない。

まずは従来型を確認

 こうして従来型を再確認した後に新型で走り始めるととにかく全てがリニアであることに驚くばかり。低速からの発進加速は右足の通りにトルクが盛り上がる感覚がある。コーナーからの脱出においてもターボラグを一切感じることはない。これがスペック的には劣るのか!? ローギヤード化されたことも相当に効いているのだろう。さらに、新たなターボを採用したことも走りに影響していると思える。新型ターボはウエストゲートバルブ、吸気側圧力をコントロールするエアバイパスバルブを電子制御式に変更したことで、緻密な過給圧制御を実現。ピークパワーに特化した感覚はないが、一方でその過程は力強い。数値では表しにくい部分を徹底的に煮詰めたことが伺えるのだ。

新型WRX S4。ボディサイズは4670×1825×1465mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2675mm、車両重量は1600kg。最高出力202kW(275PS)/5600rpm、最大トルク375Nm(38.2kgfm)/2000-4800rpmを発生する水平対向4気筒 2.4リッター直噴ターボエンジンを搭載。トランスミッションにはCVTの「スバルパフォーマンストランスミッション」(マニュアルモード付)を組み合わせる。WLTCモード燃費は10.8km/L

 コーナリングについてもかなり上質だ。ステアリングに微小操舵角を与えた時点からピクリとクルマ全体が応答しはじめ、クルマはスイスイと向きを変えていく。ボディがかなり小さくなったかのようなスポーティなフィーリングは従来型にはなかった動きだ。そこから限界域に至るまで、これまたリニアに、そして骨太にコーナーを旋回して行くから面白い。4輪がきちんと路面を捉え、最後の最後まで離さない感覚は新型ならではのもの。試乗当日はウエットからドライアップしていくという難しい路面状況だったのだが、そこで唐突な滑り出しもなく、すべてが穏やかに動かせることに驚いた。フロント+5%、リア+20%もストロークアップした足まわりが接地性をよくしていたことは明らか。従来型では同じ状況でギクシャクと動くことが多かった。おそらくタイヤが路面から接地を外したり、くっついたりということを繰り返していたのだろう。

 こんな状況を操りやすくしていたのは、自慢の4駆システムの効果もあったのだろう。アクセルオンが4輪に即刻展開できるこのシステムは、滑りやすい路面においてトラクションを与えやすく、姿勢制御がかなりやりやすい。試しにテールまで滑らせてみると、フロントへと一気にトルクを流して安定方向に戻す感覚がある。リアの車輪速が増したところでLSDが効き、少しFFっぽい動きになってしまうことは残念だが、安心安全を考えればコチラかもしれない。

 このように、かなりのスポーツ走行まで受け止めてしまう新型は、確実な進化を見せていた。それに対応したオプションのレカロシートの仕上がりも、それを受け止めるようなホールド性を実現。かなり本格的な仕上がりのスポーツシートとなったのは、新型WRX S4がそれだけのものを要求する走りがあったということの証といっていい。スポーツ走行をしようというなら、これはかなりオススメだ。

オプションのレカロシートは、標準シートの骨格からバックレストをソリッドパネル化し、座面に形成フェルトを追加(運転席のみ)。サイドパネルをバックレスト背面に直接固定することでサイドサポートを安定化し、サイドサポートの高さをアップすることで旋回時のサポート性が向上。そのほかにも、さまざまな性能向上アイテムがつぎ込まれている

 続いて電子制御ダンパーを持たないGT-Hにも試乗したが、こちらはスプリングの変更はないとのことから、走り味はかなり違う印象。フロントのショックアブソーバーにはリバウンドスプリングを設け、ロールを抑制したというが果たして!? 走ればかなりマイルドな仕上がりで、ピッチングもロールも電子制御ダンパーに比べると大き目に動く感覚。車速を上げずに走るにはいいが、ペースを上げていくとピッチングが大きくリアが発散しやすい特性があった。ストリートをゆっくりとしなやかに走りたい人向けといっていいだろう。

新型レヴォーグにもちょっとだけ試乗

 最後にWRX S4の兄弟といえる2.4リッター化されたレヴォーグにも乗った。エンジンの他の基本コンポーネントはWRX S4と同様といえるこのクルマ。1.8リッターレヴォーグユーザーとしてはとっても気になる1台だ。

 走ればWRX S4と同じような加速を展開。ウチのも十分に速いと思っていたが、ハッキリ言って段違いの加速だ。紛れもなくスポーツワゴンしている。タイヤサイズが前述した通りWRX S4より細いため、安定感は薄いところがあるが、対してWRX S4よりもニュートラルに旋回している感覚が得られる。とはいえ、ワゴンボディでリアのイナーシャがあり、リアがヨッコラショと付いてくる感覚がWRX S4と比較してしまえば存在する。もちろん、その過程はリニアであり、操りやすさはあるのだが、WRX S4を知ってしまった今ではサーキットでは物足りない。もちろん、これでサーキットを走ろうという人は少ないのだろうが……。だが、そんな走りでも受け止めてしまう、そこが2.4リッターレヴォーグの意外性であり面白さ。我が家もこっちにすればよかったかな? とやや羨ましく思える仕上がりがあった。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はスバル新型レヴォーグ(2020年11月納車)、メルセデスベンツVクラス、ユーノスロードスター。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学