試乗レポート

テスラ「モデルY」に乗ったら、走りもユーティリティもすべてがユニークで“新しいEV”だった

日本導入が始まったテスラ「モデルY」の上位グレード「パフォーマンス」に試乗

エントリーモデルでも他社を圧倒する高い実力を備える

 テスラの最新乗用車「モデルY」が日本についに上陸した。本国アメリカで発表されたのは2019年春。以来、共通性の高いセダン版の「モデル3」ともども、世界的に人気を博しており、モデルYももう少し早く日本にやってくるはずだったところ、やや遅れて2022年の秋になった。以降、続々と陸揚げされた車両が日々、心待ちにしていたオーナーのもとに届けられている。

 モデルYもモデル3も一応「コンパクト」クラスということになっているが、実寸はけっこう大きく見た目にも存在感がある。スタイリングはモデル3に対して天地方向にだいぶ大きくされているのはひと目で分かるとして、全長もモデル3比で+57mの4751mm、全幅も同+72mmの1921mmとなっている。全高は+181mmの1624mmで、全幅も1900mmを超えている。4分の3のコンポーネンツを共有するモデル3も時間の経過とともに各部が改善されているが、最新のモデル3と比べてもモデルYのほうが進化している点がいくつかある。

モデルY。ボディサイズは4751×1921×1624mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2890mm、車重はRWDが1930kg、パフォーマンスが2000kg
撮影車のボディカラーは標準色の「パールホワイトマルチコート」。そのほかに12万6000円高となる「ソリッドブラック」「ミッドナイトシルバーメタリック」「ディープブルーメタリック」、25万1000円高となる「レッドマルチコート」がある

 発売時点における日本向けのモデルYは、試乗した最上級の「パフォーマンス」と、エントリーモデルの「RWD」となる。標準のバッテリを搭載し、リアモーターで後輪を駆動するRWDでも、一充電あたりの最大の航続距離は507km(WLTCモード)、最高速度217km/h、0-100km/h加速タイム6.9秒と性能的には十分。一方のパフォーマンスは、デュアルモーターによる4WDで、ロングレンジのバッテリを搭載。一充電あたりの最大航続距離595kmと最高速度250km/h、0-100km/h加速タイム3.7秒という実力の持ち主だ。

エクステリアはテスラらしいすっきりしたデザインを継承。天井はパノラミックルーフを採用し、リアウィンドウまで流れるようなフォルムを作り出している
ホイールは標準は19インチのジェミニホイールだが、撮影車両はオプションの20インチのインダクションホイールを装着(25万1000円高)
充電ポートは左後方に配置

 同等クラスの他メーカーのEV(電気自動車)では、0-100km/h加速タイムが高性能版が6秒台で標準系は10秒近くという感じのところ、標準系ですら6秒台というあたりもテスラらしい。本稿執筆時点での価格は、「RWD」が643万8000円、「パフォーマンス」が833万3000円となっている。このところ輸入車は全体的に値上がりの傾向で、今後もどうなるか分からないが、両グレードの200万程度という価格差が大きく変わることはないだろう。

パッケージングとUIに感心

モデル3よりも積載量があり、レジャーなどに便利なモデルY

 クロスオーバーSUVとしての利便性もかなり期待できる。このシルエットながら海外では7人乗りの設定もあるぐらいなので、室内空間や荷室がかなり広いことはいわずもがな。

 荷室は通常で854L、リアシートを倒すと2041Lを上まわり、さらにフロントに117Lのスペースもあって、最大で2158Lもの容量に達するというから恐れ入る。他社のEVでは後輪駆動でもフロントにはスペースがないケースが大半だが、テスラは違う。モデル3とどちらにするか迷っている人に対しては、ハッチバックか否かと、絶対的な広さの点でも想像以上に違うことを強調しておきたい。

ラゲッジスペースは、リアシートを起こした5人乗りの状態でも854Lのスペースを確保
リアシートをすべて倒せば2041Lの広大な容量になる
ラゲッジボードの下にも収納スペースを確保
リアシートは4:2:4の可倒式を採用
中央部だけを倒せば長いものも積める
フロントの収納スペース117Lの存在もありがたい

 インテリアのつくりはテスラのお約束で、メーターも何もないダッシュボードの中央に車両に関する操作の大半を行なう15インチの大画面のタッチパネルディスプレイが配されていて、足の周辺も驚くほどに広々としている。空調も生物兵器にも対応できる空気清浄機能を備えた、乗用車でここまでやるかという高性能なものが装備されている。二重ガラスの採用部位がモデル3よりも増えているので静粛性にも優れる。

中央に15インチディスプレイを配置し、それ以外はすっきりとさせた特徴的なダッシュボード。物理的なボタンはステアリングの左右にある2つのみ
日本へ導入されているのは5人乗りのみ。シート表皮はサスティナブルの観点からレザーよりも柔らかくて耐久性がある「ビーガン(動物性素材不使用)」を採用する。インテリアのカラーは標準は「オールブラック」となるが、撮影車両はオプションの「ブラック/ホワイト」で12万6000円高の設定

 ディスプレイは車速を表示する位置をよりドライバーに近づけるなど、より全体的に見やすく改善している。音声コマンドも発話をすべて聞き取れるほど精度が高く、煩わしい思いをすることがない。機能もさらに充実して、カーナビも簡単に設定できるほか、走行データなどの見たい表示を呼び出したり、空調の温度や風量など細かな調整ができたり、ワイパーまで動かすことができるまでになっている。感覚としては本当にウインカーを出すなど運転に直接関わるもの以外はほとんどできるという印象だ。

フロントウィンドウにあるカメラは3つ
ディスプレイはパイロンやポール、バイクまで周囲の情報をリアルに再現
ワイパー、ライト、サイドミラーの開閉や角度、ステアリングの高さなども調整可能
車両の状態も確認できる
ヘッドライト以外にもルームランプ類の操作も可能
オートパイロットの設定
エアコンの操作も画面で行なう
タイヤの空気圧も確認可能

 こうしたUI(ユーザーインターフェース)のロジックにしても、こんなやり方があったのかという発見がいっぱいあって、言葉で説明するには限界があるのだが、「百聞は一見に如かず」で、興味のある方は何らかの形で実車に触れる機会を設けていただいたほうが話は早そうだ。

ディスプレイというよりもタブレット。よく使うアプリを画面下に表示させたりする方法もスマートフォンと同じで直感的に操作できる
音声認識もレベルが高く。カタカナのような発音しにくい言葉もしっかり認識してくれた
Webサイトへの接続もサクサク

 世の乗用車で最大級というルーフの大半を1枚のガラスで覆った広大なパノラマルーフもモデルYなればこそ。モデル3では途中で梁があったのもモデルYにはない。標準のオーディオのサウンドも素晴らしい。動画や音楽ストリーミングサービスを広々とした開放的な空間で楽しむことができるので、自宅に着いてもなかなか家に戻ろうとしないオーナーが続出しているというのも納得だ。

解放感のある広大なパノラマルーフ

すべてがダイレクト

走りのレベルも高い

 走りはすべてがダイレクトで、動力性能も運動性能もかなりのものだ。アクセル操作に対してまったく応答遅れがなく、なめらかで力強い走りは、市街地を流しているだけでも堪能できる。

 いざとなれば、停止状態から100km/hまで4秒かからずに加速できる実力の持ち主なのだから、どれぐらい速いかは想像いただけよう。4WDなので発進時の蹴り出しも強く、走り系モードを選ぶとさらに一連のダイレクト感が増して気持ちよく楽しく走れる。

 乗り心地はけっこうひきしまっていて、ハンドリングも俊敏そのものでどこにもスキがない。モデル3に対して重心が高くなるので、ロールなどの挙動や姿勢変化を抑えようと足まわりが強化されており、とくに後席ではコツコツを感じたわけだが、おかげで切れ味するどい回頭性と正確なライントレースを実現できていることには違いない。

 急速充電について、日本のチャデモにも対応するアダプターもあるが、ご存じのない方にも再度お伝えしておくと、テスラの独自充電網「スーパーチャージャー」が本当に画期的だ。充電電力がおしなべて大きく、すでに都内にも何箇所か250kWもの急速充電器が配置されているほどで、さらにはチャデモの充電ガンのように大がかりでコードが太くて重くかったり認証に手間取ったりすることもなく、さっとプラグを差し込むだけで大丈夫と圧倒的に使い勝手に優れる。今後も日本全国でさらに展開されていく予定という。

充電ポイントの検索もディスプレイで簡単に行なえる
この日はテスラ専用の「スーパーチャージャー」を使用
チャージ状態はスマホで確認できるので離れた場所にいても安心だ
約30分のチャージで航続距離254kmが425kmまで回復。満充電が90%に制限されているのはバッテリの寿命を延ばすための措置
普通充電や急速充電(チャデモ)用のソケットをテスラ用に変換するアダプターも用意している

 テスラでは従来のような定期的なメンテナンスは不要としているが、万一の際にはサポートセンターでなくても、モバイルサービスのサポートを受けることができる。さらに、車両保証も充実していて、とくにバッテリやドライブユニットに対して手厚いことも特筆できる。

 とにかくすべてがユニークで興味深いモデルY、筆者も欲しくなってしまった……。

駐車場でサモン機能を試してみた。サモンは召喚という意味で、ショッピングモールなどで横にドアを開く幅が狭い時など、遠隔操作でクルマを前進・後退できるのだ
矢印ボタンを押している間だけ車両が動き、ボタンから指を離せば止まる
岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸