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テイン初の海外工場「中国・宿遷工場」を見学 今後の戦略、目標とは?

テイン初の海外工場「中国宿遷工場」を視察した

 ショックアブソーバーのTEINが中国で工場を立ち上げたのは2013年。横浜で創業してから28年後のことで、2023年の現在では社員400名、売上高52億円のメーカーに成長している。

 TEINの原点はラリーで「もっと自分たちに合ったショックアブソーバーを」から始まった。そこで培われた経験はドライビングにとって何が必要かを的確につかみ取り、完全受注で製品にした。いわばワンオフから始まり、コアなユーザーにとっては貴重な存在だとして認められた。

 この経験を活かしてオリジナルショックアブソーバーを開発・販売して実績を積み、1995年の規制緩和によって得意とする車高調整式ショックアブソーバーを販売することで大きく成長した。緑のTEINショックアブソーバーを目にするようになったのはこの頃からだ。自分のクルマでもっとドライビングを楽しみたいというニーズはTEINにとっては大きな転機だ。

 一方、販売拠点は国内にとどまらず、現在では中国、アメリカ、英国、タイ、オーストラリア(設立中)と広げてきたが、工場の海外進出は中国が初めてとなる。中国での成長の突破口となったのは純正形状のリプレイス品を販売したことが大きい。さまざまな路面がある海外市場では純正品より快適で安心でき、リーズナブルな価格で手に入るTEINへのニーズが高く、「EnduraPro」シリーズはまさにピッタリの商品だった。少量/多品種を得意とするTEINの生産設備は特に多くのメーカーが存在する中国のマーケットにまさにジャストフィットとなっている。

 横浜の工場は成長に伴って移転を繰り返し生産力を上げてきたが、これからの戦略で欠かせない中国に生点拠点を持つことで今後の開発、生産の自由度を大きく広げることになった。中国拠点となる宿遷(シュクセン)の工場は設備、ラインの規模拡大が可能だ。今後、インド、アジア、欧州に計画中の海外工場のマザー工場となる。

 コロナ禍で商業活動が止まってしまった中国だが、TEINはこの3年間で効率の良い生産設備を整えるいいチャンスととらえて一気に改善を進めてきた。現在の生産規模は2022年で30万本、そして2030年までに100万本という目標を掲げている。現在でも対応車種は650車種に上るが、2030年では3000車種に拡大予定だ。これが可能となるのはTEINが得意とする多品種/少量生産で最低5本から作れるフレキシブルに富んだ工場ラインだ。開発から3か月で生産に移れるという。このスピード感こそがリプレイス専門メーカー、TEINの強みだ。

 TEINのグローバル戦略は売り上げベースでは現在の60億円(予定)から2030年には中国、特にアジア、中南米地域を中心に競合が多い欧州での販売拡大を見込み100億円を目指す。展開される商品はノウハウの蓄積された車高調整式を主力とし、純正形状の「EnduraPro」の販売比率を上げていく戦略。またモンゴルのような路面のわるい地域ではリフトアップ商品も今後伸びていくと想定されている。

 創業者の1人、藤本吉郎さんはトヨタ自動車のワークスチーム(TTE)に在籍し、グループAセリカやカローラWRCで多くの海外ラリーに参戦しており、サスペンションへの造詣は深い。さらにラリードライバーになる前はNSKのエンジニアで生産技術が専門。中国工場は藤本さんの思いが詰まった夢のスマート工場である。同時に世界12拠点からの情報を一元管理することで品質と生産効率を各段に向上させることも可能になった。宿遷工場は2万1000m 2 の敷地に260名の従業員がいて、生産能力は4000本/日の規模で将来を見越して余力を持たせている。

株式会社テイン 専務取締役の藤本吉郎氏

 TEINが培った独自の生産管理方式は宿遷工場をさらに進化させ、ピストンロッドの低フリクション化、純正品比で2倍の強度を持つアウターシェル、オイルシールの精度向上、減衰力の精度を上げるバルブ部品の管理など、徹底した品質管理、そしてショックアブーバーにとって安全の砦となる折れずに曲げるための試験設備など、多数のノウハウがつぎ込まれている。

 宿遷工場の特徴は生産ラインだけでない。最新工場だけに環境に与える負荷が非常に少ないことで、CO2の削減、資源の再利用、太陽光発電など徹底した取り組みには驚くばかりだ。中国の厳しい基準に合格した環境認証、エネルギーマネジメント認証を続けて取得している。

宿遷工場内の巨大倉庫

 工場で使うエネルギーは工場、倉庫、その連絡屋根に太陽光パネルを設置し、パネル面積は1万763m 2 に及び、容量は2300kW、発電量は1万kWh/日になり、条件が良ければ工場の電力を全てまかなえる。連絡屋根は路面からの反射光からも発電できるパネルを採用しているほか、普段は捨てられてしまう雨水も残らず回収し、それを空調の室外機冷却や太陽光パネルの洗浄などに使う。

 工場廃液の一例では鍍金工程で使われる硬質クロム鍍金液を使用後に電解処理し、フィルターに通して再生クロム酸液に変え再使用する。その鍍金室は外部より高圧にすることで有害な鍍金煙を排出して従業員の健康管理に配慮されている。また高価な銅治具では摩耗したものは廃棄せず冶金し直して再生使用する徹底ぶり。これらの努力で工場で生産されるショックアブソーバー1本あたりが排出するC02は、2016年度比で55%削減されている。

工場と倉庫間の連絡通路。連絡屋根は路面からの反射光からも発電できるパネルを採用
雨水の貯蔵タンク
屑鉄は残らず回収し、再利用
工場側面の換気ファン
左からCO2、アルゴン、窒素のタンク
ショックアブソーバーの曲げ試験機
工場内では自動搬送機も活躍する

 中国は工場からの汚染に敏感で、第三者機関でのチェックも行なわれ、排水から煙突まで詳しく調査されるが、TEIN宿遷工場は連続してモデル工場に指定されている。従業員も優秀なスタッフが集まり福利厚生施設も整っており士気も高い。現地化を早いテンポで進めるTEINのグロ―バル展開は業界に新しいムーブメントを起こすに違いない。