まるも亜希子の「寄り道日和」
事故の真実を記録する自動車版ブラックボックス「EDR(イベントデータレコーダー)」
2019年8月1日 00:00
ペダルの踏み間違いや逆走などによる、信じられないような暴走映像や悲惨な事故の報道が増えていますよね。自分は安全運転していても、運わるくそうした暴走車と接触してしまう可能性は、残念ながらゼロじゃない……。皆さんはそんな万一の時のための対策って、どうしていますか?
ドライブレコーダーを装着したよ、という人も多いと思います。わが家もとりあえず装着してあって、使っているうちにいろいろと欠点が分かってきたので、今度はもう少し高性能な製品に買い換えようかな、なんて考えているところです。
ただ、ドライブレコーダーは事故現場の状況は映してくれるんですが、相手がどんな運転操作をしていたのか、クルマ側に故障や誤作動はなかったのか、というところまでは記録できないですよね。だからもし、相手がノーブレーキで衝突してきたような場合でも、相手の運転手が「ブレーキを踏んだのに効かなかった」と証言した場合は、ドライブレコーダーではそれが真実なのか嘘なのか、判断することは難しいでしょう。
でもでも、そこで諦めるのは早いんです。実はクルマには、飛行機でいうところのブラックボックス「FDR(フライトデータレコーダー)」のような記録装置、「EDR(イベントデータレコーダー)」が搭載されているのです。全車種ではないのですが、現在は高級スポーツカーなどごく限られたメーカー以外のクルマに搭載されているとのこと。まだまだ日本ではその認知度が低いこともあって、そのEDRがどんなものなのか、どんな活用法があるのか、ボッシュにお邪魔して勉強させてもらってきました。
EDRは車両が衝撃を検知すると、そこからさかのぼって5秒前からの記録(プレクラッシュデータ)、事故発生時からエアバッグ展開完了までの記録(ポストクラッシュデータ)がしっかり書き込まれます。そのデータからどんなことが分かるかと言うと、0.5秒ごとの車両速度、アクセルペダルやブレーキペダルをどのくらい踏んでいたか、エンジンスロットル、エンジン回転数、モーター回転数、ブレーキオイルプレッシャー、加速度やヨーレート、舵角、クルーズコントロールの作動状況などなど。これなら、事故の原因が操作ミスなのか? システムエラーなのか? どのくらいの速度でぶつかったのか? といった事故時の詳細な状況が読み取れるというわけなのです。
ただし、EDRのデータを解析するには、まず読み出すための専用ツールが必要になることと、データを正確かつ公平に解析することができる、特定の知識と経験を持ったアナリストの存在が肝になるとのこと。以前は、自動車メーカーが独自にデータの読み出しや解析に対応していたのですが、米国ではメーカーが出したデータは裁判などでの証拠としての信頼性に欠けると判断され、そこからボッシュが進めていた「CDR(クラッシュデーターリトリーバル)」という読み出しツールを各社が採用し始めたそうです。
そしてCDRを使って読み出したデータを正確かつ公平に解析できる、CDRアナリストの養成と認定制度も行なっていて、日本では警察庁やその関連機関、損保会社などに約100名が在籍。クルマは個人所有の場合が多いことから、EDRのデータにはプライバシーに関わる記録は行なわれず、データの読み出しについても所有者の許諾がなければ行なえないとなっていますが、もし事故の際に相手側が明らかに嘘をついていたり、双方の言い分に食い違いがあったりした時に、EDRのデータが真実を導き出してくれる可能性は高いですよね。ぜひ皆さん、困った時にはEDRの存在を思い出して、CDRアナリストを頼ってくださいね。
ちなみにデータ解析は有料なんですが、任意保険を契約する際に「弁護士特約」を付けておくと、それで費用がカバーできる場合が多いそうですよ。これを聞いて私も自分の保険内容を確認したのですが、しっかり弁護士特約を付けていたので安心したところです。
また将来的に、自動運転機能の搭載車両が増えてきた時には、ますますこのEDR/CDRの重要性は高まると予想されています。と同時に、自動運転機能を持ったクルマを的確に整備・修理できる整備工場も欠かせない存在になりますよね。ボッシュではそうした需要に応えていく人・場所・道具・記録をトータルに捉えた新たなシステム構築に取り組んでいくということでした。
クルマが進化すれば、それを取り巻く環境もやっぱり進化が求められていくんですよね。当たり前のことなんですが、私たちもちゃんとそうした情報を知って、ついていかなきゃいけないなぁ~と痛感した次第です。