まるも亜希子の「寄り道日和」

ホンダアクセスのちょっとヘンな試験車

こちらが実効空力をいろいろと試すパーツが装着された、実験車両。どこにどんな長さのバーを取り付けるか、若い技術者たちが自分で試行錯誤して日々勉強しているそうです

“クセ強”なんて言葉が最近よく使われますが、私から見たホンダアクセスの印象は“こだ強”。そう、こだわりが強すぎるプロ集団。納得のいくモノができるまでテストして、作り直して、利益よりもお客さんが喜ぶ顔を優先している感じです。とくに、今年30周年を迎えたModulo(モデューロ)の「実効空力」パーツたちはすごい。当時から常識破りの概念に挑み、高速域でわかる空力やタイムを縮めるための空力ではなく、市街地の速度域でも違いがわかるという実効空力を初めて提唱したのが、2008年の3代目シビックTYPE R(FD2)。そこから最新のシビックRSに設定されたテールゲートスポイラー ウイングタイプまで、その進化を試せる機会をいただきました。

 会場となったのは、実際にModuloの開発でも使われている群サイこと群馬サイクルスポーツセンター。ここはくねくねとしたカーブやアップダウンがあるコースなんですが、サーキットではなく路面がバンピーで落ち葉や土なども自然のままにされているため、そのクルマの素性が良くも悪くも丸裸になってしまうコースなんです。Moduloでは、一貫して「4つのタイヤの接地バランス」を重視して開発を行ってきており、北海道にあるHONDAの高鷲テストコースではいい出来栄えだったのに、最後に群サイに持ってきたらダメでやり直しになった、なんてこともあったのだそう。なかなかに魔性のコースですよね。今日はこのコースで「ちょっとヘンな試験車」に乗せてくれることになっています。

Moduloの開発に欠かせない存在となっている土屋圭市さんが、初めて開発に本格的に関わったのがこの、2008年のFD2だったそう。これ、見た目と乗った印象がとてもギャップがあって、しなやかなスポーティさに感心しました

 その前に、まずは群サイの周辺道路で、2008年のFD2、Sports Modulo CIVIC TYPE Rに試乗させてもらいました。当時のパーツを装着し、新車同様に整備された試乗車で、エンジンは軽々と吹け上がって快調そのもの。当時はまだガチガチの硬い足まわりが全盛だった記憶がありますが、このModuloのTYPE Rのスポーツサスペンションは引き締まった足まわりなのにしなやかさもあり、カチッとした操作感のシフトフィールと相まって、とても爽快。カーブをひらりとかわしていける楽しさに、いつまでも乗っていたくなるほどでした。フロントとリアのエアロバンパーに加え、リアには控えめなダックテールタイプのウイングが装着されているのですが、これも当時としては技術者の野心が詰まったパーツなのだそう。確かに当時はまだ、ウイングは大きければ大きいほどエライ、みたいな風潮があった中でこれは変わってますよね。

シェブロン(鋸歯)形状の技術を取り入れた、テールゲートスポイラー ウイングタイプを装着したシビックRS。6速MTです。本当は後ろ姿がメインでが、このクーペのように美しいデザインが大好きなので、前から撮ってもらいました(笑)

 続いて、やはり周辺道路で試乗したのは、最新のシビックRS用のテールゲートスポイラー ウイングタイプ。上から見ると普通のウイングですが、下から覗くとギザギザとしたシェブロン形状が並んでいます。2022年にTYPE R用、2023年にe:HEV用の手ールゲートスポイラーを出しているModuloですが、このRS用もやはりこだわりすぎてしまって、翼端板・翼断面形状を見直して1から専用にセッティングをやり直したのだとか。走り出すと、路面にしっとりと接地して追従してくれる感覚が低速からすでに感じられ、とても上質で「いいクルマ」を操作している嬉しさが溢れてきます。とくに、思い通りの弧を描いてくれるコーナリング。路面が悪くてもヘンに跳ねたり浮き上がったりせず、ジワリと荷重がうつっていく感覚にも感心しました。ロングドライブに行きたくなる気持ちよさです。

 そしていよいよ、クローズドコース内で「ちょっとヘンな試験車」の試乗へ。これは若い技術者が自分でボディ剛性の変化を体感したり、アイディアを試したりできるように、フィットを改造してさまざまな補強パーツを取り付けたり取り外したりできるようになっているクルマで、自分たちが目指すべき空力効果をボディ剛性の変化から学ぶことを目的としているそう。

 これ、昨年のイベントで展示してあった時から気になってたんですよね〜。フロントまわりから室内、ラゲッジまで何十本ものスチール製バーが張り巡らされていて、すべて若手技術者が考えて取り付けたもの。今回はそれを、1回目はフロントの数本を外した状態と付けた状態、2回目は後席付近の数本を外した状態と付けた状態で、それぞれ乗り比べさせてもらいました。

 1回目は、フロントを外したんだから前が落ち着かない挙動になるのかなと思いきや。あれれ? 想像してたのとぜんぜん違うクルマになってる〜とびっくり! なぜか前ではなく後ろ寄りの剛性が弱くなったような感じで、カーブでリアが追従してこないし、直線でも暴れてしまう感じなんです。2回目は後席付近を外したから、ボディの中心が弱くなったり、重心が高くなっちゃう感じかしらと思ったら。今度はフロントがスカスカな感じで、カーブの侵入でうまく向きを変えてくれないし、常にステアリングに修正舵を当てながら走る感じになるではないですか。もう、なんじゃこりゃ〜と頭が混乱(笑)。すべて取り付けた状態だとちゃんと走るので、確かにこの実験車はとても勉強になるでしょうね。すごく面白かったです!

 技術は体で覚え、自分の感覚を信じられるように鍛えていくという、一見すると昔気質なやり方にも思えるのですが、結局のところそれがいちばん確実で、一人前の技術者になるための近道なのかもしれないですね。あらためて、ホンダアクセスという会社の面白さ、こだわりが強すぎる技術者たちの魅力を見せてもらった1日でした。これからも、実効空力がどんな進化を遂げていくのか楽しみです。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z、メルセデス・ベンツVクラス、スズキ・ジムニーなど。現在はMINIクロスオーバー・クーパーSD。