まるも亜希子の「寄り道日和」

シビックe:HEVで勝ち取った初勝利の瞬間

待ちに待った、トップチェッカーの瞬間! 高橋国光さん(と私)が初めてJoy耐でシビックハイブリッドをドライブしてから、20年という月日が経ち、ようやく優勝することができました。あの頃は、ストレートで全マシンに抜かれ、置いてかれたのに国さんは「抜かれる面白さだよ」と楽しそうだったのを思い出します。「Hondaがついにやってくれたよ!」と天国の国さんにも喜びの報告をしたいです

 ついに、待ちわびた瞬間がやってきました! 高橋国光さんと一緒に初代シビック・ハイブリッドでツインリンクもてぎ(現・モビリティリゾートもてぎ)のEnjoy耐久レースに初参戦してからちょうど20年。ハイブリッド車のシビックとして初めて、さらに2モーターのハイブリッド車としても初めてとなるミニJoy耐の総合優勝を、シビックe:HEVで勝ち取ることができました。

 e:HEVの走りを鍛えよう、Hondaのクルマをもっと面白くしていこうというHondaのエンジニアたちと、私たちジャーナリストで結成したチーム「TOKYO NEXT SPEED」が手を組んでこのプロジェクトをスタートしたのが、2020年。最初はフィットe:HEVでとんでもなく遅いタイムに愕然とするところから始まり、コロナ禍に翻弄されながらも、3年目にはもてぎフルコースで20秒以上も速く、ワクワクするようなマシンに成長させ、そこで培ったノウハウは「フィットRSの復活」といううれしい成果を残すことができました。

 そこでプロジェクトは終了するはずでしたが、予想外の出来事が起こったのです。レースの現場を知らない、若いエンジニアたちが「やってみたい」と手を挙げて参加してくれるようになり、次々に起こる課題に立ち向かいながら、各部署が連携してそれを乗り越えていくという、横のつながりができることや、次世代のHondaを担うエンジニアたちの人材育成の場としての価値を認めてもらうことができ、シビックe:HEVでのプロジェクトが新たにスタートしました。

 まずはお試し、ということで2023年11月に行なわれた2時間耐久レースのミニJoy耐に、ロールケージや燃料タンクなど最低限の装備を入れただけの状態で参戦。大急ぎでの作業だったため、シェイクダウンできたのはレース前日でしたが、予選では目標の2分23秒台をあっさり出すことができ、これはイケるぞと決勝レースに意気込んで臨んだのですが……。残り15分のところで謎の振動や足まわりの違和感が出てしまい大きくペースダウンし、なんとかチェッカーは受けたものの総合20位という結果に終わりました。

 そこから今度は2024年夏の7時間耐久レース「Joy耐」に向け、足まわりの作り込みを始め、軽量化やバッテリーなどの熱対策、LSD追加といったマシンづくりを進めてきました。ただ、今年の夏はとんでもなく暑かった! ピットインのタイミングをことごとく外す、ドライバーとピットの通信が途切れるといった不運も続き、予選グリッドの24番から大きく後退して43位でのゴールとなってしまいました。

 その悔しさをバネに、予選タイム2分20秒という目標を立て、速さにこだわったマシンづくりを重ねてきたエンジニアたち。もちろんそれはマシン側だけでなく、ドライビングについても徹底的にデータ解析を行ない、双方のタイムロスをコツコツとなくしていったのです。また、栃木と東京という距離のある中ですが、夏のJoy耐のあとには私たちが宇都宮に行って反省会と打ち上げをやったり、定期的にオンラインで進捗状況を確認するミーティングを行なったりしながら、お互いをよく知り、チームの結束力を高めていったこともいい影響を与えていると感じていました。

 そうして迎えた10月20日のミニJoy耐。今年から少しレギュレーションが変わり、予選前に燃料を満タンにして予選アタックに臨み、そのまま給油なしで決勝レースを走ることとなったのです。これによって、予選アタック時の重量が変わるのでタイムに影響が出そうなことと、なるべく決勝レースに燃料を残したいので1周でタイムを出さなければならないこと、満タンでの予選アタックに慣れていないドライバーが多いのでコース上が混乱しないかどうか、といった懸念が。でも、なるべくコース上がすいてきたところで橋本洋平がコースインし、見事、20秒をマーク! これはなんと、Joy耐/ミニJoy耐におけるClass1のコースレコード更新となり、ピット内は歓声に包まれました。グリッドは17台中9番グリッド獲得です。

 決勝レースはスタートで橋本洋平がいきなり2台を抜き、順調なすべりだし。無給油で走りきる作戦ですが、Class1は2時間のレース中に3回のピットストップが義務付けられており、そこのタイムロスをなるべく少なくするのも鍵となります。そのためドライバー3人とピットクルーはいつもより念入りに、ドライバー交代の練習をしていました。それでも、2番手・桂伸一にチェンジすると、その間に12位まで下がってしまい、また地道に速いペースで周回を重ねていきます。さすが、ベテランの安定した走り。でも3番手・石井昌道にチェンジすると、そのピットインのロスタイムでまた12位に落ちて……。なかなか上がっていかないもどかしさ。他のチームが給油するのかしないのか、まったく分からないままでしたが、1時間経過後から急に5位、4位と上位に定着するように。

2時間の耐久レースで、クラスごとに義務ピットイン回数が定められており、私たちClass1は3回。無給油で走りきる作戦のため、ドライバー交代のタイムロスをなるべく小さくすることが重要でした。何度も練習したおかげで、本番もバッチリだった様子。サポート役のクルーたちも、緊張感をもってしっかりと仕事をこなしてくれて、優勝に大きく貢献したと思います

 そして、残り15分を切ったあたりでついにトップ浮上! しかし後ろからは速いフィットやインテグラ、S2000、ロードスターたちが猛追してきます。ピットではみんな、「なんとか抜かれずに頑張ってくれ〜」と祈るような気持ちで、息をのんで見守っていました。その願いが通じたのか、最後のドライバー、石井が逃げ切り、トップチェッカー! やったやったとピットは大騒ぎ。表彰台では若手エンジニアたちも喜びを爆発させて、とびきりの笑顔があふれました。

 もちろん、運が味方してくれたこともたくさんあった、ミニJoy耐。でも、本当の目標である7時間耐久レースでの勝利に向かって、大きなステップとなったことは間違いないと思います。またしっかり、反省会(祝勝会?)をやって絆を深めてマシンを磨いて、来年の夏を目指します!

総合優勝とClass1の優勝を手にして、大騒ぎのTOKYO NEXT SPEED。若いエンジニアたちを率いてきた奥山貴也監督(中央)も、大きなトロフィーを手にして感無量のコメントをしていました

 さらに、次世代のモータースポーツを面白くしていくためには、他メーカーのライバルがもっともっと参戦してくれることが大事だと思っています。トヨタさん、ヤリスハイブリッドやプリウスで、いかがですか? 日産さん、e-Powerでぜひ乗り込んできませんか? 私たち、受けて立ちますのでお待ちしてます!(笑)

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z、メルセデス・ベンツVクラスなど。現在はMINIクロスオーバー・クーパーSDとスズキ・ジムニー。