まるも亜希子の「寄り道日和」

まもなく誕生50周年!「シビック」の思い出

私が生涯忘れることのできないシビックは、シビックハイブリッドとしては初代となる7代目のレース仕様車です。これは2005年に、若手エンジニアの有志チームと一緒に、富士スピードウェイの1000km耐久レースに参戦した時ですね。速さと燃費のバランスのよさがバッチリハマって、クラス優勝を成し遂げたのでした

 2022年で50周年を迎えるホンダ・シビック。いよいよ11代目が登場しましたよね。7代目のシビックが登場した2000年に生まれた人も、すでに免許を取得できる20代に入っているので、若い世代から熟年世代まで、どの世代にもそれぞれ思い出深いシビックってあると思うんです。

 私の場合は、まさにその7代目シビックは生涯忘れられないモデル。ハイブリッド仕様が登場した初めてのシビックで、本田技術研究所(現ものづくりセンター)の若手エンジニアたちの有志チームがコツコツと作り上げた、おそらく世界に1台しかないレース仕様車で、2004年に初めてJAF公認レースに出場させてもらったという、これぞプライスレスな体験を共にしたシビックなのです。

 日本仕様のシビックハイブリッドにはMTモデルがなかったので、ベースとなったのは英国仕様。右ハンドルのMTモデルでした。レースには不利となる、バッテリーという重量物を抱え、夏のレースではそのバッテリーが高温になってダウンしてしまったり、当時はモーターアシストがサーキットの1~2コーナーで早くもカラになってしまったりと、難題が山積みの船出。予選タイムなんて、同クラスのマシンより40秒くらい遅くてまったく勝負にならなかったのを覚えています。

 でも、シビックハイブリッドという未来のクルマが初めて耐久レースに参戦するということで、その将来性とチャレンジ精神に理解を示してくださったのが、モータースポーツ界のレジェンド、高橋国光さん。現役引退後、初めて国さんがステアリングを握るとあってメディアは大注目だったのですが、マシンはスタートして全車に抜かれるという亀さんぶり。ファンはガッカリだったかもしれないですね。

 それでも国さんは、「今は抜かれる面白さだね」と瞳をキラキラさせて、レースを楽しんでいたのが印象的でした。若手エンジニアたちはすっかり国さんの大ファンになって、「いつか絶対、ガソリン車をぶち抜くハイブリッドマシンを作ります!」と熱く握手をしていたのも感動的でした。しかも私はそんな貴重なマシンをクラッシュさせてしまって、亀さん走行でコツコツと順位を上げてくれた国さんたちの努力を水の泡に……。もうその場から消えてしまいたいほど申し訳なくて、悔しくてショックで、レースなんて二度とやるまいと涙したほどだったのですが、チームメイトは誰ひとり、そんな私を責めたり叱ったりしませんでした。

 そのかわり、「お前がもっと運転を練習して、チームに迷惑をかけない走りができるようになることが、今日のみんなへのお詫びになるんだよ」と、レースを辞めることは許してくれなかったんですね。サーキットを走るのが怖くなってしまって、1年くらいまともにタイムも出せなかったのですが、それでも、みんなに会わせる顔がないと思うとただひたすら練習するしかなく、そのおかげで今があるのだと本当に感謝しています。

 そんな、ほろ苦い思い出が詰まったシビック。その後、8代目と9代目のシビックハイブリッドでもレース参戦させてもらって、エンジニアたちの飽くなき向上心とアイディア、Honda特有の「やらまいか精神」は着実にマシンを速く面白くしていきました。富士スピードウェイの耐久レースでは、ハイブリッドカークラスでは優勝するまでになったんですよ。

正式発表の直前に新型シビックのプロトタイプに試乗してきたんですが、まずこのデザインが「惚れてまうやろ」って感じでとても好印象です。皆さんはいかがですか? 余談ですが栃木のテストコースの掲示板が「新型CIVIC」と表示されるサプライズもありました(笑)

 そして今回、11代目のシビックプロトタイプに専用コースで試乗してみて、もう別人かと思うほど上質で優雅になったことにまずビックリ。流麗なクーペのようなルーフラインなど、デザインは今まででいちばん好きかもしれないと、ドキドキしちゃいました。まだガソリンモデルだけでしたが、走ってみると清々しくてちょっとヤンチャな顔も持っている、シビックらしさが溢れんばかり。とくにMTモデルはタイプRじゃないのにガンガン攻めたくなってしまったほどでした。遅れてハイブリッドも追加されるとのことなので、こりゃまた楽しみ! タイプRもハイブリッドになるかも? なんて噂もあるらしいので、どうなるかワクワクして待ちたいと思います。

デザインでとくに好きな部分が、後ろ斜め45度から見たラインなんですが、セダンとは思えないほどものすごくなめらかで低いんです。それを実現するために工夫したのが、この「テールゲートヒンジ」だそう。取り付け位置がずいぶん端っこだと思いませんか? この工夫によって、現行シビックよりルーフラインが50mmも低減できたうえに、後席のヘッドクリアランスは同等を維持しているというから、すごいですよね
まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Zなど。 現在は新型のスバル・レヴォーグとメルセデス・ベンツVクラス。