まるも亜希子の「寄り道日和」

信玄が生きた時代を感じる「棒道」を訪ねて

国境で旅人や物資の移動を監視していたという、口留番所の1つがこの小荒間口留番所。1532~1555年(天文年間)に設置されたものと言われていて、当時は高さ約3.6mの門、その左右に約10mの矢来、茅葺の番所小屋などがあったそうです。この史跡からは想像もつきませんが、かつてここが大勢の人と物の行き交った場所だったことが分かり、いろんなドラマがあったのだろうなと思いました

 2021年は、武田信玄の生誕500年にあたるそうですね。戦国時代を代表する人物なので、これまでは体育会系なイメージを強く持っていたのですが、あらためてその人物像をたどってみると、とにかくよく学び、芸術に通じ、禅問答で人の生死や心に向き合うという、とても懐の深い人物だったことが分かります。

 そんな信玄が生きた時代を、今も感じながら歩くことができるのが「棒道(ぼうみち)」と呼ばれるかつての軍用道路。以前、長野県茅野市をドライブしている際に、その一区間を見つけて、いつかもっと探してみたいと思っていたのですが、ちょうど信玄というヒーローを生んだ甲斐国、現在の山梨県は北壮市へ仕事で出かける機会に恵まれたので、せっかくだからと少し早く出かけて散策してきました。

 信玄が北信濃を攻略するために築き、八ヶ岳南麓からまっすぐ棒のように通じていることから、そう呼ばれるようになったという「棒道」。かつては3ルートあったそうですが、現存するのは「上の棒道」と呼ばれる1つのみです。正確な経路や全長などは未だ謎に包まれているようなのですが、そんな中、JR小海線の甲斐小泉駅から小淵沢駅までの約8.5kmが、信玄棒道のウォーキングコースとして散策できるようになっていました。駅前に無料駐車場があり、そこにマイカーを停めて、のんびりと棒道をたどることにしました。

 最初は趣のある線路を横に見ながらの舗装路。まもなく見えてくるのが、名水百選にも選ばれている「三分一湧水(さんぶいちゆうすい)」です。これも武田信玄にゆかりがあり、農民の水争いをなくすために、下流の3つの村に農業用水を三等分できるように作ったものなのだそう。現在はその澄んだ水の流れを眺めながら歩くことができる公園として整備されていて、少しそこにいただけでも清々しい気分になれました。

 そこから線路を渡ってすぐ左手に見えてくるのが、「小荒間口留番所跡(こあらまくちどめばんしょあと)」という小さな史跡。棒道の入り口で、通行する旅人や物資を監視していたところだそうで、まさに数百年前にはここをたくさんの人々が行き交い、にぎわっていた光景が浮かんで、ちょっとノスタルジーに浸ってしまいました。

 そしてさらに進み、棒道橋という小さな川にかかる橋を渡ると、舗装路はそこで終わりです。いよいよここからはジャリ道に入り、だんだんと緑が深い土の山道へと続いていきます。もし、体力に自信があり、トレッキングシューズなど山歩きの装備を用意しているなら、その先の分岐点から片道約2kmの登り坂を歩き、「女取湧水(めとりゆうすい)」に向かうチャレンジコースに挑戦を。約40分のトレッキングコースとなっていて、あまり人の手が入っていない自然が楽しめるようです。私はドライビングシューズで行ってしまったので諦めましたが……(笑)。

江戸時代末期に1丁(約109m)おきに観音像が安置され、今も38の観音像が残されているそうです。馬頭観音、千手観音、聖観音など「六観音」と呼ばれる観音様がいて、こちらは願いを叶えてくれる観音様として親しまれている「如意輪観音坐像(にょいりんかんのんざぞう)」。とても優しそうなお顔をされていました。散策しながら手を合わせると、願いを叶えてくれるかもしれないですね

 さて、棒道を歩くもう1つの楽しみが、小さな観音様とたくさん出会えることなんです。この区間だけでも38の観音像が残されていて、千手観音像や十一面観音像など、歩み進めるごとにいろいろな観音様が道の左右で待っていてくれます。大きな観音様も素晴らしいけれど、こうして身近に出会える観音様もほっこり和やかな気持ちにさせてくれて、いいですね。

 と、こんな感じであちこち見ながらのんびり歩いていたら、ふと気づくと仕事の時間が迫っており、本日はここまで。また続きは、ちゃんとした靴を履いてあらためて歩いてみようと思います。この日は平日だったこともあると思いますが、棒道では一度も人とすれ違いませんでした(猫1匹のみ)。密を避けた休日の過ごし方としても、いいかもしれないですね。

こちらは茅野市で見つけた「棒道」の案内看板です。この看板にもある川中島合戦は日本史上に残る名勝負として伝えられていますが、なんと12年にも及んだということを今更ながら知ってビックリ。茅野市には、戦いで怪我をした兵士を癒やすために利用した「信玄の隠し湯」と呼ばれる温泉がたくさんありますので、棒道で攻め込み、戻って傷を癒やし、ということが繰り返されたのかなぁと、遥か昔に思いを馳せました
まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Zなど。 現在は新型のスバル・レヴォーグとメルセデス・ベンツVクラス。