まるも亜希子の「寄り道日和」

「シビック e:HEV」耐久レース参戦プロジェクトがスタートしました

新たにスタートした、シビックe:HEVで耐久レース参戦プロジェクト。ホンダの技術研究所のエンジニアたちと、モータージャーナリストで結成したレーシングチーム、TOKYO NEXT SPEEDのコラボレーション第二弾です。私としては、2004年に初代シビックハイブリッドでJoy耐に初参戦した当時から、「次世代モータースポーツの楽しさを広く伝える」という目的があり、ホンダとしてはe:HEVの走りをさらに面白くすることと、次世代エンジニアの育成や世代を超えたチームワークを高めること、といった目的があります

 夢の続きというのは、あるものなのですね。4代目フィットで耐久レースに参戦しながら、これからのホンダを担うハイブリッドシステム「e:HEV」の走りを鍛えるという、3年計画のプロジェクトが終了したのは2022年のことでした。

 ホンダのエンジニアたちが作ったマシンを、モータージャーナリストで結成したわがチーム「TOKYO NEXT SPEED」のメンバーが走らせ、データを見ながらあーでもないこーでもない、ここがダメだ、あそこをこうしたい、なんて試行錯誤しながら、最後には正真正銘、走る楽しさが満載の元気でレーシングなフィットe:HEVに成長。オマケの1回として参戦した、今年の夏の7時間耐久レース「Joy耐」で総合5位入賞を成し遂げ、本格的に終了となったのでした。

 やっぱり正直、さびしかったですよね。せっかくメンバーが打ち解けてきて、チームの結束が高まったところだったし、3年間で培ったノウハウは想像以上のものがあったし……。

 なんて思っていたら! フィットの開発主査であり、このプロジェクトの責任者である奥山貴也さんをはじめ、いろんな人たちがこの3年間を評価して下さって、ここで終わらせたらもったいない、e:HEVの進化にはまだまだ現場でやることがあるはずだ、と関係各所に熱弁を奮って下さったおかげで(というのは私の想像ですが)、なんとなんと、新たにシビックe:HEVを投入してプロジェクトを続けられることになったのです。いや〜、夢みたいですホント。

 そんなわけで、デビュー戦を11月19日開催のモビリティリゾートもてぎの2時間耐久レース「ミニJoy耐」に定め、大急ぎでマシン作りがスタートしました。11月初旬にシェイクダウンを行ない、手応えは上々とのことで、みんなひと安心。なにより、シビックはTYPE Rじゃなくても最初からサーキットが似合うたたずまいなので、なんだかすごく期待値が上がる(笑)。こうして意気揚々と、初陣となるミニJoy耐に乗り込んだ私たちでした。

 ドライバーも、もう少しマシンに慣れておきたいということで、前日の練習走行から参加したのですが、シェイクダウンの時にはなかった立派なリアウイングを装着していてビックリ! TYPE R用のものなので、後ろ姿がかなり速そうになっていました(笑)。ドライバーの感触もよく、なんの心配もないということで、その日はお疲れさまということになったんです。

 なったんですが……。

 事件はその後、予選アタックまで8時間を切るという直前になって起こりました。練習走行を担当した石井昌道氏と橋本洋平氏が深夜まで議論に議論を重ねた末、「リアウイングは外そう」ということになったというのです。そこからメカニックさんに連絡を取り、早朝の車検までに作業をしてもらい、市販車と同じシビックe:HEV本来の後ろ姿に戻ったのでした。さて、この判断が吉と出るか、凶と出るか?

 予選アタックは橋本氏。気合十分でいちばん最初にコースへ飛び出して行きました。タイヤを温め、バッテリをフルに貯めて、いざ、アタック! なんと一発で、最初の目標だった2分23秒台をマークしてきました。もう一発アタックして、夢の22秒台が出るか〜? とみんな前のめりで見つめていましたが、タイヤの方がそこまで持たず、そのまま予選終了。でも、まだシェイクダウンしてから数時間しか走っていないマシンとしては、のっけからでき過ぎくらいの予選結果。エントリー22台中、12番グリッドを獲得しました。

 決勝レースは14時10分にグリーンシグナル。スタートドライバーは橋本氏で、いきなり3台抜いていい感じで走っていきます。2時間耐久だとフィットなら無給油で完走を目指すところなのですが、シビックは無理せず、1回給油の作戦。ドライバーも本当は2人体制の方が有利ですが、今回はまず全員が走って初期の状態を確認しておきたいということもあり、橋本氏、石井氏、桂伸一氏の3人体制にしました。

1台だけめっちゃ静かに疾走していくわがチームのマシン(笑)。大急ぎで完成させたマシンは現在はブルーですが、来年までにはホンダのDNAを受け継ぐようなカラーリングにしようと計画中です

 さ、このまま堅実に走って、ジリジリと順位を上げていくゾ。誰もがそう思っていたのですが、なぜか橋本氏のペースが今ひとつ。同クラスのライバルにも、予選では勝っていたし、スタートから数周は抑えていたのですが、5周目くらいであっさり抜かれてしまいます。「これは何か問題があるのかもしれない!」と、ピットに緊張感が立ち込めはじめたのでした。

 とはいえ、とくに不具合が出たわけでもなく、ちょっと遅いペースのまま予定周回数を無事に終えて、橋本氏から桂氏にドライバーチェンジ。どうやらタイヤがかなり厳しくなっていたようで、やっぱりぜんぜんラップタイムが上がりません。ライバルにはどんどん離されていくばかり。それでも、順位は少しずつ上がって桂氏から石井氏に交代する直前、総合4位にまで上り詰めました。

 石井氏はタイヤを新品に替えてコースインしたので、ここから巻き返すつもりだったのですが、突如、予定にはないピットイン。ナゾの振動や足まわりの違和感を感じたとのことで、メカニックが慌ただしく応急処置をして再びコースへ戻っていきました。が、残り時間15分ほどのところでまた違和感が出てしまい、なんとかチェッカーだけは受けようと、大きくペースダウン。どんどん抜かれて、最後は20番手で命からがらの完走となりました。

 いや〜、最初が順調だっただけに悔しいっ。でも、走りを磨くために弱点があるなら、それをすべて洗い出すことからはじめるのが、飛躍のためには必要ですよね。今回のトラブルはその第一歩だと信じて、しっかりと原因を究明し、次に活かしていけたらいいなと思います。

 ひとまずは、今回から加入してくれた若手エンジニアたちとの親睦も含めて、しっかり反省会ですね。ここからどこまでシビックe:HEVが成長していくか、ぜひ見守っていただけたら嬉しいです。

この後ろ姿、カッコいいんですよね〜。練習走行の時まではTYPE R用の立派なリアウイングがついていたんですが、決勝レース当日になって急遽、市販車と同じ姿に戻して走りました。最初はできる限り市販車に近い状態でやってみようという、このプロジェクトのコンセプトにも合っていたかなと思います
まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z、メルセデス・ベンツVクラスなど。現在はMINIクロスオーバー・クーパーSDとスズキ・ジムニー。