ジュネーブショー 2017

【ジュネーブショー 2017】トヨタ GRMNの第6弾、210PSの「ヤリス GRMN」についてチーフエンジニアの多田哲哉氏に聞く【パート2】

「WRCのパッションを感じてもらえる記念モデルを出したい」との想いから発売が決定

2017年3月7日(現地時間)発表

ヤリス GRMNのチーフエンジニアを務めた多田哲哉氏(右)と、ヨーロッパ側の責任者を務めたトヨタモーターヨーロッパのスタン・ピータース氏(左)

 WRC(FIA世界ラリー選手権)やニュルブルクリンク24時間レース、SUPER GTなどさまざまなモータースポーツカテゴリーに参戦している「TOYOTA GAZOO Racing」。

 そうしたモータースポーツ参戦で得たノウハウを市販車にフィードバックしたコンプリートカーブランドが「GRMN」になり、これまで「iQ GRMN」「iQ GRMN Supercharger」「ヴィッツ GRMN Turbo」「86 GRMN」「マーク X GRMN」が生まれてきた。基本的には100台の限定販売となっていて、2016年に発表された86 GRMNは648万円という価格ながらも、販売台数の30倍以上となる3000人がWebサイトを通じて購入の応募を行なったのだ。

 内外装、エンジン、シャシーなどすべてに手が入っているGRMNシリーズは、これまで国内専用車として販売されてきた。だが、第6弾モデルとなる「ヤリス GRMN」はジュネーブショーで初公開された。その意味を、チーフエンジニアを務めた多田哲哉氏とヨーロッパ側の責任者を務めたトヨタモーターヨーロッパのスタン・ピータース氏に伺った。

ジュネーブショーでワールドプレミアされたヤリス GRMN。2018年の初頭にヨーロッパで発売される
ホイールはBBS製で17インチを装着。ダンパーはザックスをセットする。セッティングにこだわったトルセン式のLSDなどスポーツ走行に最適な組み合わせとなる
フロントとリアのバンパーを含めた外装は、ほぼ専用のデザインを採用
GRのロゴが入った専用のステアリングやスポーツシートを装備。トランスミッションは6速MTとなる

86の開発担当者を務めてきた多田哲哉氏。スポーツ車両統括部の部長としてGRMNを含めてさまざまなプロジェクトを受け持っている

――これまでGRMNは国内専用モデルでしたが、ヤリス GRMNはジュネーブショーで発表されたということで、グローバルに展開するということですか?

多田氏:もともとGRMNは、国内専用というよりも特殊なクルマなので、まずは国内から足固めして、いつかはグローバルという思いはありました。海外展開はハードルがあったのは事実です。ですが、WRC参戦が決まったときに、WRCのパッションを感じてもらえる記念モデルを出したい、という考えから導入へ至りました。もともとGRMNはニュルブルクリンクでのレースで得た技術を市販車と共有するために作ってモデルでした。グローバル展開は、まずラリーが盛んなヨーロッパで展開し、どこまで拡げられるかは検討しています。

――ヤリス GRMNの開発の経緯を教えてください。

多田氏:ヤリス GRMNは日本とヨーロッパのコラボレーションで開発しています。もともとトヨタのエンジンで言えば、ロータスに供給していた4気筒や6気筒があります。トヨタがエンジンを供給してロータスがチューニングを行なっているのですが、これをトヨタのモデルに搭載できないかと数年前から検討してきました。理由として、ロータスエンジンはターボではなくスーパーチャージャーを搭載していてコンパクトなのです。これならFFモデルにも搭載できるのではないかと考えました。

――では、ヤリス GRMNに搭載しているエンジンはエリーゼと同じですか?

多田氏:吸排気系、エンジンコントロールも含めてトヨタで作り込みました。

――生産はヨーロッパで行なうのでしょうか?

多田氏:フランスの工場で作ることになります。現地生産というのはもの凄くハードルが高いですが、WRCのマシンを作っているフランスということや、ラリーの本場ということで挑戦しています。

――ヨーロッパとの共同開発の意義は、どのような点がありますか?

多田氏:開発のスピードやサイクルが速くなることです。ヨーロッパは開発中のクルマも一般道を走れます。これはとてつもなく大きな意味を持ちます。国産車が欧州のクルマにパフォーマンスでなかなか追いつかない大きな理由が開発の環境です。テストコースは環境が限られていて、一般道の路面と比べたらかなり限定的なので。

――ピータースさん、今回のプロジェクトについての印象を教えてください。

ピータース氏:GRMNをヨーロッパで紹介するのがプロジェクトのメインです。エキサイティングであり、チャレンジング。ヨーロッパは同セグメントのスポーツモデルの競争が非常に激しい市場であって、フィエスタ、プジョー 208、DS 3、クリオなどが存在しています。ヨーロッパにおいて競争力があると示すことが大きな役割だと思っています。

――ヨーロッパの強豪がそろっているセグメントへの導入となりますが、ヤリス GRMNの優れたところはどこでしょうか?

ピータース氏:GRMNはとてもいいクルマで、さらにトップでないといけないです。競争相手は手強いプレーヤーが揃っています。そのためにはラジカル(過激)でなければならない。それはスペック上だけでなく、運転したときのフィーリングも同様です。たとえばスロットルペダルのレスポンスが挙げられます。エンジンのキャリブレーションに加え、スーパーチャージャー付きエンジンをコンパクトに配置できたため、レスポンスに優れています。LSDも特徴の1つで、レスポンスのよいハンドリングが実現できています。ドライバーの求める“レスポンス”に応えることがヤリス GRMNのポイントです。

多田氏:実は、初代のヴィッツ GRMNで全日本ラリーに参戦してきて、そのフィードバックが活きています。ヴィッツ GRMNは1.5リッターターボで、いろいろな問題がありました。競技で走らせるとウィークポイントが見えてきました。足まわりもボディも根本的に変えないと、ということになりました。一般車のスポーティというのを超えて、コンペティションを念頭に置いて企画したのがヤリス GRMNです。ピータースさんが言ったヨーロッパのトップたちと並べて走っても遜色ないというのは、このような経緯もあります。日本のラリーは、ピークパワーよりもいかに自分の思い通りに走れるのかが大事。そういったクルマになっているはずです。手前味噌だけど、乗ってもらえれば分かるでしょう。

――ヨーロッパのファンからすれば、待望のGRMNになりますよね。

多田氏:トヨタヨーロッパの販売サイドからは「エキサイティングなクルマが欲しい」ってずっと昔から言われ続けてきたんですが、ハイブリッドの開発も大変だし、ずっと後回しになっていた。日本でG'sとかGRMNがはじまって、1日でも早くああいうクルマをヨーロッパでもくれって言われ続けてきたので、まさにお待たせしましたという感じです。


 ヨーロッパとの初の共同開発として生まれたヤリス GRMN。まずはドイツやフランスなどの国ごとに100台が販売され、その後に他の国にも展開されるようだ。まだ日本への導入は決まっていないそうだが、いずれ発表ができるときがくるはずと語っていた。

真鍋裕行

1980年生まれ。大学在学中から自動車雑誌の編集に携わり、その後チューニングやカスタマイズ誌の編集者になる。2008年にフリーランスのライター・エディターとして独立。現在は、編集者時代に培ったアフターマーケットの情報から各国のモーターショーで得た最新事情まで、幅広くリポートしている。また、雑誌、Webサイトのプロデュースにも力を入れていて、誌面を通してクルマの「走る」「触れる」「イジる」楽しさをユーザーの側面から分かりやすく提供中。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。