東京モーターショー2017

【東京モーターショー2017】マツダ「VISION COUPE」チーフデザイナーの岩尾典史氏に聞く

魂動デザインがさらに深化。VISION COUPEのデザインポイントとは?

2017年10月25日 開幕

2017年10月27日 プレビューデー

2017年10月28日~11月5日 一般公開日

マツダ株式会社 デザイン本部アドバンスデザインスタジオ・クリエイティブデザインエキスパートの岩尾典史氏に「VISION COUPE(ビジョン・クーペ)」のデザインについて聞いた

 先の東京モーターショーで初公開された、マツダの次世代デザインコンセプトモデル「VISION COUPE(ビジョン・クーペ)」。見るものを圧倒する流麗な美しさで、東京モーターショーで公開されたコンセプトモデルの中でも注目の1台となった。

 マツダは、2015年の東京モーターショーでも「RX-VISION」を公開していて、2回連続でビジョンモデルをお披露目することになった。そもそもビジョンモデルとは、マツダが考える今後のデザインの方向性を示す車両。マツダがデザインテーマとして掲げている「魂動デザイン」は、2010年に発表したコンセプトモデルの「靭(SHINARI)」で初採用され、市販車としては2012年に登場した初代「CX-5」から用いられている。

 魂動デザインは、クルマに命を与えるという考えを元にしていて、その思い自体は変わっていない。だが、年を追うごとに表現方法は進化していて、直近では「CAR as ART」という言葉を用いて、クルマを芸術作品にするという思いを具現化してきた。

 東京モーターショーで初公開されたVISION COUPEは、魂動デザインをさらに深化した表現を用いているという。では、どのような思いを込めてデザインされたのだろうか。VISION COUPEのチーフデザイナーを務めたデザイン本部アドバンスデザインスタジオ・クリエイティブデザインエキスパートの岩尾典史氏に話を聞いた。


岩尾氏は今回のVISION COUPEとともに、2015年の東京モーターショーで初公開された「RX-VISION」のデザインも取りまとめた人物

――2年前の東京モーターショーではRX-VISIONを公開し、今回はVISION COUPEがお披露目されました。VISION COUPEで見せたかったことを教えてください。

岩尾氏:VISION COUPEもRX-VISIONもともに私がデザインを担当しました。魂動デザインというのは、生きた形やクルマに命を与えるという考えで作ってきました。それは普遍的な考えで、その生命感は押さえつつも、どうやって新しい表現方法を取り入れるのかを検討しました。RX-VISIONのデザインでは“艶やかさ”を表現しました。つまり「艶」ですね。

 一方のVISION COUPEを言葉で表現すると「凜」になります。デザインとカラーリングを含めて凜とした緊張感を与えながら、エレガンスを表現しました。光をコントロールし、リフレクション(陰影)を使っているところは共通していますが、表現方法が異なります。RX-VISIONとVISION COUPEを発表したことで、我々は「艶」と「凜」という2つの見せ方を手に入れたと思っています。

 今回発表したVISION COUPEの大きな特徴はワンモーションで、大きな動きを見せています。そしてシンプルを追求し、要素(ラインなどの表現)を減らしています。するとボディサイドに大きな余白が生まれてきます。そこに光の動きと移ろいを取り入れて、エレガンスを表現しました。

東京モーターショーで初公開されたVISION COUPE。ボディサイドのラインを排除し、光の陰影(リフレクション)でエレガンスさやスピード感を表現している

――光の動きというと、最新のモデルでも使われているリフレクションだと思いますが、VISION COUPEに取り入れた手法を教えて下さい。

岩尾氏:RX-VISIONや今回の東京モーターショーで公開した「魁 CONCEPT(カイ・コンセプト)」は、先ほど申したように「艶」です。VISION COUPEは、ボディの面としても反った緊張感があって、光の変化にスピード感があるはずです。光のコントロールについては、コンマの単位で作り込んでいます。光を精密にコントロールしながら、我々がデザインテーマとするアートを光で生み出しています。光でアートの領域まで持っていくことが挑戦でもありました。

 精密な光のコントロールについては、人の目が重要となってきて、機械では生み出すことができません。ただ、これまでは人の目と手によって生み出してきたデザインコンセプトですが、VISION COUPEは新しい手法としてクレイモデルとデジタルのハイブリッドで作りました。クレイモデルの特性とデジタルの強みを最大限に活かすことができたので、この光のスピード感が出ています。クレイモデルだけだとできていないはずです。なので、デザイナー、クレイモデラー、デジタルモデラー、ファブリケーターのそれぞれが同じ方向を向いているからこそできたモデルだと思います。

――ボディ形状として4ドアクーペを用いた理由はありますか?

岩尾氏:我々は「R360クーペ」や「ルーチェ ロータリークーペ」などを作ってきた歴史を持ちます。クーペの歴史が長い会社で、エレガントなモデルを市場に導入してきました。そんなクーペのスタイルを使いながら、新しい凜としたエレガンスを表現するのが相応しいと思っています。また、4ドアというのは車形の基本となります。魂動デザインの最初のデザインコンセプトとなったのも4ドアの靭(SHINARI)でした。

――VISION COUPEはインテリアも公開されていますが、室内のデザインについて教えて下さい。

岩尾氏:我々のクルマは「ロードスター」を代表にすべてが人馬一体を体現しています。そのため運転席はドライバーが操る重要なポジションであり、軸となっています。全体的なデザインとしては低重心で包まれ感のあるように作っています。

 一方で、ベルトラインから上側はスピードで奥行き感のある空間演出も行なっています。ダッシュボードは上下で分割されていて、必要なときにはモニターに情報が表示されるようになっています。

インテリアもエクステリアと同様に質感を重視しながらも、ドライバーズシートは人馬一体を感じ取れる作りとなる。助手席を含めたパッセンジャーシートは、包まれ感と奥行きある空間を演出し、エレガンスを生み出している
素材には上質さを感じ取れる本杢や本革などを用いた

 このようにVISION COUPEは、光のコントロールによって「凜」というエレガントさを表現したという。岩尾氏が言うように、魂動デザインは「凜」と「艶」という2つの表現方法を手に入れたことにより、深みが増すことになる。市販モデルにもこのデザイン表現が用いられることを楽しみにしたい。

真鍋裕行

1980年生まれ。大学在学中から自動車雑誌の編集に携わり、その後チューニングやカスタマイズ誌の編集者になる。2008年にフリーランスのライター・エディターとして独立。現在は、編集者時代に培ったアフターマーケットの情報から各国のモーターショーで得た最新事情まで、幅広くリポートしている。また、雑誌、Webサイトのプロデュースにも力を入れていて、誌面を通してクルマの「走る」「触れる」「イジる」楽しさをユーザーの側面から分かりやすく提供中。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。

Photo:高松弘