長期レビュー

高橋敏也のトヨタ「86(ハチロク)」繁盛記

その13:「スポーツドライブロガー取り付け、プラス・ワン!」

「スポーツドライブロガー」だという。ドライブロガーという部分に関しては、なんとなく想像がつく。というのも、コンピュータ業界にいればログ、ログデータというのはごく一般的な用語だからだ。コンピュータ業界でログと言えば、それは発生したイベントなどの記録、もしくは記録データのことを意味する。

 そこから類推すれば、ドライブロガーというのはクルマのドライブ結果を記録(ログ)する装置なのだろう。まあ、言ってしまえばドライブレコーダーのデータ記録版ということだ。と、ここで大きな疑問符が私の頭上にポッカリ浮かぶのである。「スポーツってのは何事だ?」

 Car Watch編集部からの電話は明らかになにかを狙っている。今回の電話も、ちょうど私がイベントがらみの準備でてんやわんやしているときにかかってきた。「スポーツドライブロガーをハチロクに取り付けませんか?」というのである。こっちは上を下への大騒ぎをしている真っ最中。そう、今思えば編集部はこの混乱に乗じて電話をしてきたのだ。慌てていた私はそれがなにかをまったく知らないまま「はいはい、取り付けます! あとで詳細を送ってください!」と答えていたのだ。

 これが全ての始まりだった。高橋を“ある場所”へと導く罠はその大きな口を広げ、高橋は見事にそこへ飛び込んでいったのである。ちなみに、スポーツドライブロガーというのはこんな製品(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20140402_642464.html)です。

目指すは神奈川トヨタ「マスターワン」!

 後日、編集部から送られてきたのが上記のリンク。確かに走行時のデータを記録する機械だが、その活用方法がかなりユニークなことが分かった。記録したデータはアプリケーションで処理して利用するが、その第1弾がなんと「グランツーリスモ6(以下、GT6)」というのだから驚く。そう、GT6と言えばソニーのゲーム機「PlayStation 3」で動作する、リアルなグラフィックを駆使したレーシングゲームのタイトル。そこにログデータを送って、どのように活用しようというのか? 詳しくは上記のリンク先で解説しているが、なんとスポーツドライブロガーのデータをGT6に送り、実際の走行状況をGT6内で再現できるというのである。

 さて、ここでまた大きな疑問符が出てきた。たしかGT6は著名なサーキットなどでレースを行うゲーム。ということは一般公道で走行状況を記録したところで、それはGT6上で再現できないのではなかろうか? じっくり記事を読み進めて理解できた。そもそもスポーツドライブロガーとGT6の組み合わせは、「サーキットで実際に走行したデータを、GT6の画面上で再現するもの」なのだ。

TOYOTA 86 PlayStation 3 Gran Turismo 6 GPS Visualizer

 現時点で対応するサーキットは「富士スピードウェイ・国際レーシングコース」「筑波サーキット・コース2000」「鈴鹿サーキット・国際レーシングコース」の3つ。これから順次追加されていくとのことだ。なるほど、ハチロクのようなスポーツカーでサーキットを走り、その情報を記録する。そしてそれをリアルなレーシングゲーム上で再現して楽しむ、あるいは次のサーキット走行の参考にする。素晴らしいではないですか!

 本当であれば、この時点で私はある重要なことに気づくべきだったのだ。それは編集部の罠というか、待ち受けているであろうデッカイ落とし穴というか、そんなものに気づくべきだった。しかし、連続したイベント出演などで疲れ切っていた私はそれに気づかず、「スポーツドライブロガー、いいじゃない。PS3もGT6もウチにあるし」と単純に考えていた。もちろん、これがあとになって大変な事態を招くのだが……。

 さて、スポーツドライブロガーの目的が分かったところで、さっそく我がハチロクへの取り付けである。向かった場所は、神奈川県川崎市にある「マスターワン」というカスタムショップ。実はこのマスターワン、トヨタのディーラーである神奈川トヨタ自動車のカスタマイズ専門ショップなのである。ディーラー系のカスタムショップとしては老舗中の老舗で、全国に8店舗しかない「TRD Factory」の1つなのである。この称号が意味するところは「TRDが認めた技術、設備、そしてサービス」ということなのだそうだ。

 そんなマスターワンに到着。店長の額田さんに出迎えてもらい、実際の作業を担当する氏次さんを紹介してもらう。すでにスポーツドライブロガーは到着しており、あとは作業を開始するだけだ。ちなみに、スポーツドライブロガーの標準取り付け時間は「2.4時間」とのこと。工賃に関しては実施する店舗によって異なるので調べてみてほしい。

到着した神奈川トヨタのカスタムショップ「マスターワン」
「TRD Factory」の称号を持ち、ディーラー系カスタムショップとしては老舗中の老舗
メカニックの氏次さんにスポーツドライブロガーの取り付けを相談する高橋の図。もちろん仕込みです

レース用ハチロクに挟まれて作業開始

 作業を始めるため、私のハチロクが3列分用意されたマスターワンのピットの中央に入っていく。ここで驚いたのが、私のハチロクの両隣に、ワンメイクレース用のハチロクがドーンと鎮座していたこと。これらの車両は「DTECチームMASTER ONE」として「GAZOO Racing 86/BRZ Race」に参戦しているのである。ゼッケン76が菊池靖選手、ゼッケン97が小河諒選手の車両だとあとから聞いた。

ピットに入る我がハチロクの両隣にはなんと……
レース用のハチロクが鎮座しているではないか!
公道走行も可能なナンバー付きといっても、やっぱりレース用の車両は格好よい!

 なにやら最初から注意力が散漫になってしまったが、氏次さんの作業は黙々とスピーディに、それでいて丁寧に進んでいく。スポーツドライブロガーは「本体ユニット」「GPSアンテナ」「USBケーブル」とそのほかのパーツで構成されている。なぜここでUSBケーブルが出てくるかといえば、スポーツドライブロガーは走行記録をいったん本体ユニットに貯め込み、それをUSBメモリに吐き出す仕様になっているからだ。

 ちなみに、記録されるデータはGPSアンテナがあることからも分かるとおりの位置情報に加え、アクセルペダルやステアリングの動き、ブレーキの踏み具合、シフト情報、車速とエンジン回転数などで構成されている。そしてこれらのデータを元に、GT6上で記録されたハチロクの走りが再現されるということである。

 商売柄、気になるのはデータを吐き出す先のUSBメモリ。「USBフラッシュメモリ」と言ってもいいが、スポーツドライブロガーはマスストレージクラス、FAT32でフォーマットされたものに対応している。規格としてはUSB2.0、要するに普通のUSBメモリだったら、フォーマットにさえ注意しておけば使えるということだ。なお、対応するUSBメモリに関しては、スポーツドライブロガーのサイトで順次公開されていくとのこと。

 もう1つ気になるのは、スポーツドライブロガー本体内部のメモリ容量と吐き出されるログデータのファイルサイズ(すいません、本業がパソコン屋なんで)。本体のメモリ容量は4Gバイトとマニュアルに書いてあり、走行データのファイルサイズは1時間で約11Mバイトということだ。このため、スポーツドライブロガー本体内に記録できる最大走行時間は約360時間、USBメモリは8Gバイトもあれば充分ということである。なお、あまり本体内にデータを貯め込んでしまうと、それを吐き出すのに時間がかかってしまうので注意したい。

スポーツドライブロガーの内容。本体、各種ケーブル、そのほかもろもろ。なお、データの吐き出し先となるUSBメモリは別途用意する
ECUとも呼ばれるスポーツドライブロガーの本体ユニット。デンソー製であることが分かる
本体のコネクタ。左にGPSアンテナ、中央にUSBポート、右にCAN信号を含むハーネスが接続される。スイッチは右のポートから分岐されたコネクタに接続する
GPSアンテナ。カーナビにもGPSアンテナがあるので、計2つのGPSアンテナを装備することになる

 などとスポーツドライブロガーの仕様をチェックしている間にも、氏次さんの作業は着々と進行していく。その内容を見て驚いたのは、とにかく外すパネルが多いことだ。カーナビはもちろん取り外すが、シフトまわりからスイッチまわりと、広範囲にパネルを取り外す。というより外す必要があるということだ。だが、そこはレース用のハチロクまで扱うマスターワンであり、メカニックである氏次さん。作業にまったく迷いがないので、見ていて実に頼もしい。まあ、どう頑張っても、どんなに親切なマニュアルが付属していても、私にはできない作業だなと思った。

スポーツドライブロガーは奥に取り付ける

 運転席前方にGPSアンテナ、スポーツドライブロガー本体ユニットはセンターコンソールの奥、データ吐き出し用のUSBポートはグローブボックス内部、操作スイッチはインパネのセンターに取り付けられる。もちろんGPSアンテナとUSBポートは本体ユニットと接続しなければならず、さらに本体ユニットは車両から走行情報を確保しなくてはならない。では、その走行情報はいったいどこから取得するのだろうか?

 そう思って調べてみたら、スポーツドライブロガーではCAN信号(Controller Area Network)から情報を取得しているのだという。また、スポーツドライブロガー本体は取り付けマニュアルなどでECU(Electronic Control Unit)と呼ばれている。これはCar Watchの記事(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20140522_649733.html)で知ったことなのだが、要するにこのスポーツドライブロガー、以前は「CAN-Gateway ECU(Controller Area Network-Gateway Electronic Control Unit)」と呼ばれていたものとのこと。

 分かったような分からないような話だが、最終的な用途は「走行データを記録し、それをUSBメモリに吐き出して、さまざまなアプリケーションで利用する」ということである。まあ、私のレベルだとこれだけ知っておけば問題ない……と思う。しかしまあ本体ユニットの位置が深いこと。正面から見てセンターコンソールの奥、やや左寄りに取り付けるのだが、確かにあそこまで深いなら取り外すパネルも多くなるだろう。

 ちなみに、この手のパーツ取り付けで重要なのは「いかに配線を見せないか」ということだ。スッキリと見栄えよく配線、すなわちケーブルを取りまわすかが腕の見せどころ。もちろんただ隠しただけではダメで、走行中にケーブルが揺れてノイズが出たりするのを防がなくてはならない。その点、氏次さんはさすがである。ものの見事に配線してくれた。

 スムーズに進む作業を見ながら、ふと気になったのが取り外されたハチロクのパネルたち。それを見ているとなにかを思い出しそうになるのだが、いかんせん老朽化した脳の処理スピードが追いつかない。なんだろう、なにを思いだそうとしているのだろうか……。

外す、外すよ、どこまでも。まずはグローブボックス周辺から
シフトまわりもサクサク外します。ここまで外すもんなんでしょうか?(はい、その通り!)
圧巻の光景! スポーツドライブロガー自体はさほど大きなものではないが、配線をするためにはここまで分解しなくてはならない
取り外されたパネルとそのほか。グローブボックスは中身が入ったまま取り外している
一部のパーツには加工も必要
元に戻る気がしないケーブルたちというか、コネクタたちというか
ちなみにこれは、グローブボックス内にUSBポートを出すためのケーブル
左奥にチラッと見えている銀色のボックスが、スポーツドライブロガーの本体ユニット
スポーツドライブロガーの操作スイッチが取り付けられたパネル。と、これを見て私は“なにか”を思い出したのである!

緊急特別企画!「ハチロクのスタートスイッチ交換しちゃいました!」

 分解された状態で並ぶハチロクのパネルの数々。そのなかの1つ、エンジンスタートスイッチが取り付けられたパネルを見ていて、ふとなにかを思い出しそうになる。以前にもこれと似た光景を見たことがあるような……。そこで脳内をよぎる「TRD」というキーワード。そうだ、思い出した! プリウスの「パワースイッチ」を交換したときも似たような状況だったのだ!

 忘れもしない「高橋敏也の新型『プリウス』買ってみた長期レビュー 第4回(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20091124_330136.html)」で、私は当時の愛車であったプリウスのスイッチを交換したのである。もともとプリウスのパワースイッチは黒く地味なものだったのだが、TRDから交換用のドレスアップパーツとしてオリジナルパワースイッチが発売されていた。その赤いスイッチが格好よいということで飛びつき、交換してもらったのである。

 取り外されたハチロクのスタートスイッチを見ながら思ったのは「もしかしたら、TRDからハチロク用にもオリジナルのスイッチが発売されているのではなかろうか? そしてここはTRD Factory、ならば在庫があるかも……」ということ。せっかくスイッチのパネルが取り外されているのだから、もしそんなパーツが存在するなら交換してもらいたい。そこで作業中の氏次さんに聞いてみた。作業を中断して在庫を調べてもらったら、やっぱりありましたがな! ハチロク用のオリジナルスイッチが!

ノーマルのスイッチと、TRDの赤いスイッチを並べてみる。好みにもよるだろうが、私は赤い方がよいと思うのだ
プリウスの連載を思い出しつつ記念撮影。ああ、老けたなあ……

「プッシュスタートスイッチ」という製品らしい。色はもちろん3倍速の赤! TRDのロゴが眩しい赤いスイッチである。しかも氏次さん「パネル外してますから、工賃はサービスでいいですよ」と言ってくれる(注:店舗によって扱いは異なります)ではないか! こうなったら交換するしかない。ということで、そのままお買い上げしてスイッチを交換してもらった。

 赤いボディーの我がハチロク。パネルの電飾も基本的に赤、そこに赤いTRDのスイッチ。いや、我ながら顔がにやけてしまった。もちろんスイッチを赤くしたからといってスピードが3倍になることはないのだが、気持ち的にはパワーアップ。思わぬプラス・ワンだったが、個人的には大満足である。

またまた、思わぬハチロクのパーツを発見!

 スポーツドライブロガーの取り付けも無事に終了。スタートスイッチの交換という思わぬサプライズもあったし、ワンメイクレース用のハチロクをじっくり見学することもできた。店長の額田さんや氏次さんにお礼を言いつつ、マスターワンをあとにしようとしたそのとき、目に入ってきたのがTRDのデモ用ハチロク。ちょうどボディーカラーが私のハチロクと同じ赤なのだが、その後部を見て「ゲッ!」という声を漏らしてしまった。

 そのデモ用ハチロクは「リヤウインドウルーバー」を装着していたのだ! ルーバーですよ、あなた、ルーバー。ウーパールーパーじゃないって、ルーバーだって! ひと目見ただけで、もうおっさんの心はそのルーバーに鷲づかみにされてしまったのだ。頭をよぎるのは「セリカ リフトバック 2000GT(セリカしか思い出せなかったので、インターネット検索を駆使しました)」の姿! 高校時代にセリカに乗っている人がいて、そのセリカがリヤウインドウルーバーを装備していたのだ。

TRDのハチロク用リヤウインドウルーバー。セリカ 2000GTのものほど派手ではないが、おっさんにはもの凄く格好よく見える!

 ここだけの話、乗っているヤツは気に入らなかったのだが(笑)、リヤウインドウルーバーを装備したセリカは実に格好よかった。そしてTRDのハチロク用リヤウインドウルーバーは、そんな気持ちを思い起こさせるのに十分な格好よさ! まさにこれこそ「おっさんホイホイ」パーツと言えるのではないか? ならば不肖・高橋、おっさん代表としてホイホイされようではないか!

 てなことを考えていたら、今回取り付けたスポーツドライブロガーのことをすっかり忘れしまっていた。スポーツドライブロガーの取り付けが完了したということは、次のステップに進まなくてはならないということを、この時点では認識していなかったのである。

 そう、私には「赤いハチロクに黒いリヤウインドウルーバーは似合うよな……」などと考えている暇はなかったのだ! スポーツドライブロガーをハチロクに取り付けたことから始まった、まさに怒濤の展開! いや、これが本当に怒濤というか驚愕というか、阿鼻叫喚というか、とにかく大変なことになったのである!

無事作業完了。氏次さん、ありがとうございました!
新たに我がハチロクに追加されたスポーツドライブロガーの操作スイッチと
TRDの赤いプッシュスタートスイッチ!
このスポーツドライブロガーがのちに大変な事態をもたらすことに、私はまだ気づいていなかったのだ……

高橋敏也

デザイナー、コピーライターを経て、パソコン関連のライターとして独立。SF小説なども上梓している。ライター歴は20年を超えるが、最近10年は真面目なレビュー記事というより、パソコンを面白おかしく改造する記事などを書いている。若い頃はオートバイをこよなく愛していたが、体力の衰えと共にクルマへの興味を持つ。このため自動車免許を取得したのは1998年。現在、クルマはトヨタのハチロク、オートバイはカワサキのNinja 1000とZ1300を所有、都内を縦横無尽に走っている。インプレスジャパン、DOS/V POWER REPORT誌に「高橋敏也の改造バカ一台」を連載中。ほかにImpress Watchでインターネット動画「パーツパラダイス」を配信中。