長期レビュー
高橋敏也のトヨタ「86(ハチロク)」繁盛記
その12(番外編):「鈴鹿サーキットを走りつくせ! BIKE!BIKE!BIKE!2014」に行ってきた!
(2014/5/14 00:00)
鈴鹿サーキット。そこはバイク乗りの聖地、約束の場所。ケニー・ロバーツに憧れ、フレディ・スペンサーをまねてドクターペッパーを飲み、平忠彦のライディングを目当てに映画館で「汚れた英雄」を見た。そんなおっさんにとって、鈴鹿サーキットは夢の場所なのである。若いころは「いつか必ず鈴鹿サーキットで8時間耐久ロードレースを観戦するんだ!」と心に決めていたが、それから30数年間、その機会は訪れなかった。
そんなおっさんを、Car Watch編集部からの電話が夢の世界に叩き込んだのである。「鈴鹿サーキットで4月27日に“BIKE!BIKE!BIKE!2014”というイベントがあります。見に行きますか?」。そこで私は堂々とこう答えたのである。「鈴鹿サーキットでのイベント、それもバイクがらみとなれば、私が行かずして誰が行くというのですか!」。なんという感動的な返答であろうか。
私の返答に相手が感動したかどうかは定かでないが、兎にも角にも鈴鹿サーキットで開催されるイベント「BIKE!BIKE!BIKE!2014」の取材が決まった。もちろん、鈴鹿サーキットまでの足はハチロク。開催日がゴールデンウィーク前半ということもあって、前日に現地入りするというスケジュールも決まった。また、当日はバイクの体験試乗などもあるらしいので、ライダー装備一式を持っていく。
こうして我がハチロクは、鈴鹿サーキットに向かって片道400kmの旅に出たのである。なお、普段私はオートバイのことを「単車」と呼んでいる(古い人間なので)のだが、本稿ではイベントのタイトルに合わせて「バイク」という呼称を使うことにする。
初心者、ファミリー大歓迎!@鈴鹿サーキット
今回、タイトルに書いた「鈴鹿サーキットを走りつくせ!」というフレーズは、実のところ「BIKE!BIKE!BIKE!2014」のキャッチコピーなのである。そのほかにもイベントの紹介Webサイトを見れば「バイク初心者もOK」とか、「家族で楽しむ」といった言葉が並び、なにやら賑やかな雰囲気を感じる。その一方で「みんなでコースを走りつくせ!」という、情熱的なキャッチコピーもある。
そう、「BIKE!BIKE!BIKE!2014」は初心者からベテランライダー、そして子供も含めたファミリーで楽しめるバイクの総合イベントなのだ。私の場合はおっさんライダー、まあ、年齢的にはベテランライダーと言ってもいいだろう。もっとも、本連載で何度も書いているとおり「ただ長年乗ってきただけ」のライダーなのだが。
イベントの概要を見ていると、なんとなく主催者側の意図が見えてくる。要するに、バイクが楽しいものだと理解してもらい、バイク市場を活性化しようということなのだろう。さらに開催場所が鈴鹿サーキットという点も見逃せない。なぜならこの鈴鹿サーキットでは、7月24日から伝統の8時間耐久ロードレース(通称:鈴鹿8耐)が開催されるのだ。その鈴鹿8耐に誘導するイベントとして「BIKE!BIKE!BIKE!2014」は絶好の機会と言える。ちなみに、鈴鹿サーキットにはゆうえんちが併設されており、そちらもファミリーやカップルで楽しむことができる。バイク、そして鈴鹿サーキットは楽しいのだとアピールするイベント、それが「BIKE!BIKE!BIKE!2014」と考えていいだろう。
そんなことを思うおっさんを乗せて、ハチロクは予想外にスムーズに新東名高速道路を走った。出発前は「ゴールデンウィークの初日だから渋滞に巻き込まれるかも」と思っていたが、それは杞憂に終わったようだ。気がつけば予想よりも早くホテルに入ることができた。道々、同じ方向に走るバイクの集団を「もしかしたら、BIKE!BIKE!BIKE!2014に行くのかな?」などと見ていたのだが、ホテルに到着して思わずにやけてしまった。ホテルの駐車スペースには、すでに先客として近隣からやって来たバイクが数台停まっていたのである。
もちろん、それらは明日の「BIKE!BIKE!BIKE!2014」に参加するライダーの愛車たちである。なにやら1人で盛り上がりながら、ホテルで愛用のヘルメットなどを準備するおっさんであった。
まさにバイク!バイク!バイク!
4月27日、鈴鹿サーキットは晴天。ホテルから「BIKE!BIKE!BIKE!2014」が開催される鈴鹿サーキットにハチロクで向かう。するとまあ、同じ方向に向かうバイクの多いこと多いこと。スーパースポーツ、ネイキッド、アメリカン、ビッグスクーター。小排気量から大排気量まで勢ぞろい。もちろんタンデム(2人乗り)も多く見られる。もうこの段階で、軽い興奮状態に突入するおっさん。
到着した鈴鹿サーキットは、すでにバイク天国となっていた。そして入り口からイベントは始まっていたのである。モータースポーツゲートから入ったバイクが左折し、交通教育センター方向に進むと、そこには「ウェルカムライディングチェック」が待っていたからだ。ここでは鈴鹿サーキットで交通安全教育に携わっているインストラクターが、来場したライダーのブレーキングやスラローム走行をチェックしてくれていた。まあ、私の場合はハチロクで行ったので、ここはスルーしたのだが。
細かく用意されたイベントは、基本的に家族で楽しむものと、ライダーやライダー予備軍が楽しめるものに別れている。家族で楽しめるバイクのイベントとしては、やはり「74Daijiroポケバイ親子教室」が代表格(74Daijiroはポケバイの車種。世界で活躍したレーサー、故加藤大治郎氏を記念したもの)だろう。親子で参加し、小学生以上の子供がポケバイを体験、親御さんがそれをアシストする。小さな子供が、やはり小さなポケバイに跨がり走る。それを嬉しそうに、あるいは多少心配げに見守る親御さんという光景は心暖まるものがある。
ほかにも、自転車や原付スクーターで一本橋をなるべく時間をかけて渡るチャレンジや、スクーターの荷台に水槽を固定し、そこに水を入れてなるべくこぼさないよう走るチャレンジなどもイベントとして用意されている。また、さらに小さな子供たちを対象にしたキックバイクチャレンジ(2歳以上)、補助輪なしで自転車に乗るチャレンジなども用意されていた。
バイクで来場したライダーや、バイクにこれから乗りたい、バイクに興味があるというライダー予備軍のためのイベントも充実していた。例えば「ウェルカムフォトセッション」というのは、バイクで来場したライダーが鈴鹿サーキットクイーンと並んで撮影して、その写真を無料で貰えるというもの。不肖・高橋、これを知って「ああ、バイクで来たかった」とどれほど悔しい思いをしたか。
興味深かったのは「交通教育センター試乗会」「原付バイクで楽しもう!」という2つのイベント。前者は普通自動二輪免許(いわゆる以前の中型免許)で大型バイクに乗れるという試乗会。そして後者は、クルマの免許は持っているがバイクに乗ったことがないという人を対象とした原付バイクの試乗会。普通自動二輪のライダーには大型バイクの世界を体験してもらい、クルマしか運転したことがない人にはバイクの世界を体験してもらう。これにより「ようこそ、2輪の世界へ!」というわけだ。
さらにGPスクエアでは、メーカーの市販車や鈴鹿8耐を実際に走るチームによるレーサー車両の展示、ステージイベントなどが催されていた。ゲートオープンが朝の8時、イベント終了が18時というスケジュールだったが、これなら丸1日楽しむことができたはず。もし一緒に行った子供が飽きたら、隣にある遊園地「モートピア」に行けばいいのである。サーキットで遊ぶ、それが鈴鹿スタイルということだろうか。
感無量! 鈴鹿サーキットをKTMで駆け抜ける!
バイクで来場したライダーたちの目当ては、やはりサーキットクルージングである。自分のバイク、自分の運転で、鈴鹿サーキット・国際レーシングコースのフルコースを周回できるのである。もちろん、先導となるマーシャルカーが入るし、ほかにもいくつかルールはある。しかし、鈴鹿サーキットを自分のバイクで存分に走ることができるのだ! 不肖・高橋、「ああ、バイクで来たかった」とどれほど悔しい思いをしたかパート2。
サーキットクルージングは125cc未満と、125cc以上のバイクに分けられ、時間を区切って行われた。参加したいライダーは必ずブリーフィングを受け、ルールなどを確認することになっている。ちなみにこのクルージング中の姿も写真撮影され、後日、自由にダウンロードできるというサービスも用意されていた。まあ、運悪く写らなかったなんてこともあるだろうけど。
そして今回、私が東京からわざわざヘルメット、グローブ、ジャケット、そしてブーツを持って来たのは「国際レーシングコース試乗会」のためであった。そう、ついに私の順番が回ってきたのである! 鈴鹿サーキットの国際レーシングコース、その東コースを走ることができる! 生まれて初めてのサーキット試乗、しかも憧れの鈴鹿サーキット。これで興奮しない人がいるなら、是非とも会ってみたいものだ。
などと、いつまでも浮き足だってばかりもいられない。装備をチェックしてスタート地点へと向かう。「国際レーシングコース試乗会」では、オーストリアの「KTM」、イタリアの「ドゥカティ」のほか、驚くべきことにロシア製のサイドカー「URAL(ウラル)」まで用意されていた。そして私が乗る車両は、KTMの「690 DUKE R」という、単気筒690ccエンジンの街乗り最強バイクである。KTMではネイキッドバイクと呼称しているが、モタードバイクと呼んだ方が一般的だろう。690 DUKE Rの試乗インプレを書き始めると止まらなくなるが、とりあえず「よい意味でワイルド。走るのが楽しくなるバイク」とだけ言っておく。
そんな690 DUKE Rにまたがり、先導するバイクを追って鈴鹿サーキットに入る。スピードはそれほど出さないが、だからこそ鈴鹿サーキットの様子がしっかり観察できる。まず最初に思ったのは「広い!」ということ。恐らく本番のレースで極限のスピードに達していれば、この広さであってもライダーは狭く感じるのだろう。しかし、試乗レベルでゆったり走ると、実に広く感じる。
クルージングには参加できなかったが、こういった形で鈴鹿サーキットを走ることができた。感無量とはまさにこのこと。実際、サーキットを走っている最中のことはあまりよく憶えていない。コースは広く滑らかで、そして自分が(気持ちだけ)30歳は若返ったことぐらいが憶えているすべてだ。
7月27日、“コカ・コーラ ゼロ”鈴鹿8時間耐久ロードレース決勝!
今年で3回目の開催となった「BIKE!BIKE!BIKE!」は、天候にも恵まれて1500台以上のバイクが来場したという。その多くがサーキットクルージングを体験し、バイクイベントとしての「BIKE!BIKE!BIKE!2014」を楽しんだ。私は取材ということもあって、イベントが行われているGPスクエアを中心として動いたのだが、親子連れの楽しそうな姿を数多く見かけた。あれだけのライダー、そして人々を楽しませたのだから、イベントとしては大成功と言っていいだろう。
さて、ここで私は悩むのである。コーク・バリントンが大好きで、胸にデッカイ「K」のマークが入った緑の皮ツナギを愛用していたのは昔の話。それでも30数年間、変わらずカワサキのバイクを愛し、乗り続けてきた私にとって今年の鈴鹿8耐は特別である。そう、カワサキが13年ぶりに鈴鹿サーキットに帰ってくるのだ! さらにカワサキモータースジャパンが運営する「TeamGREEN」としては1992年以来で、実に22年ぶりの鈴鹿8耐である。これを応援せずしてなんのカワサキ乗りであろうか。
さらに今年の鈴鹿8耐は見どころ満載である。60周年を迎えたヨシムラが満を持して参戦し、ホンダは鈴鹿8耐5連覇を目指す。しかも「あの」ケビン・シュワンツと辻本聡がコンビを組んで、「Legend of ヨシムラスズキシェルアドバンスレーシングチーム」として参戦する。もうどこをどうやって突っ込んでいいやら、頭が混乱するほど内容が濃い。
近年、バイク市場はようやく復活の兆しを見せてきた。いわゆる“リターン組”と呼ばれる中高年のライダーが増加し、大型バイクの需要が上向きになってきた。またそれだけでなく、車検不用の250cc未満の中型バイクでも魅力的な車種が増えてきたため、若いライダーの姿も多く見られるようになってきた。そして今回の「BIKE!BIKE!BIKE!2014」のようなイベントも開催されている。
「BIKE!BIKE!BIKE!2014」で見た、親御さんと一緒にポケバイに目を輝かせていた子供たち。彼らがやがて免許を取得できる年齢になり、理解のある親御さん(だからこそ、このイベントに参加したのだろう)に支えられて、よいバイク乗りになることだろう。そんな環境を構築し、よいバイク乗りを育てるきっかけとして「BIKE!BIKE!BIKE!2014」は最高のイベントである。
鈴鹿サーキットで楽しそうにイベントに参加する親子を見つつ、私の悩みは別のところにあった。「今年の鈴鹿8耐を観戦するかどうか」である。鈴鹿8耐までには、現在カスタマイズとメインテナンスに出している私の愛車「カワサキ Z1300」が手元に戻ってくるだろう。今年の鈴鹿8耐の記者会見では、「バイク来場者へのホスピタリティを向上させる」という話もあった。
憧れの鈴鹿8耐に、愛車Z1300を駆って観戦する。30数年前の夢が、ついに現実のものになるのだ。スケジュールはどうする? 体力は大丈夫か? ポニョ嫁をどうやって説得しようか? いろいろ思い悩むことはある。だが、悩む価値は充分あるし、まだ時間もある。あ、それより早く新しい革ツナギをオーダーしなくては! 胸にデッカイ「K」が入った、おっさんが着るのに相応しい革ツナギを。せっかく鈴鹿8耐に行くんだから、恥ずかしくない格好をしたいじゃないかと思ったり思わなかったり……(もう行く気満々ですね)。