長期レビュー
高橋敏也のトヨタ「86(ハチロク)」繁盛記
その17:「そうだ、十勝へ行こう 86S HACHI-ROCKS J005 TOKACHI」
(2014/10/17 00:00)
ROAD TO TOKACHI。2014年9月17日、その旅は始まった。東京 杉並区からスタートし、目指すは北海道帯広市。正確に言うと北海道河西郡更別字弘和にある、十勝スピードウェイだ。そこで何が待っているのか? 夢と期待がおっさんの中で膨らんでいく。我がハチロクは絶好調、ガソリン満タン、フェリーの予約はバッチリ。いくつか原稿を残した状態というのが気がかりだが、旅は始まるのである。
毎度のことで申し訳ないが、すべての始まりはCar Watch編集部からの電話である。「86S TOKACHIに参加しませんか?」。私も知っているトヨタのインターネットオフィシャルコンテンツ、86 SOCIETY(http://toyota-86.jp/)に「86S(ハチロックス)」というコーナーがある。簡単に言ってしまうとこの86S、要するにハチロクを含むスポーツカーを愛する人々のオフ会なのだ。そしてそのオフ会、オフィシャルで開催される場合もあるし、86 SOCIETYのメンバーが独自に開催する場合もある。そして今回の86S TOKACHI、J005(JAPAN005)というナンバーからも分かるとおり、オフィシャル開催の5回目、開催場所は北海道の十勝という訳だ。
ぶっちゃけた話、東京から十勝は遠い。しかし調べてみると、開催場所である十勝スピードウェイは帯広空港からそう離れていない。帯広空港に降りてレンタカーを借りれば、北海道の雄大な自然を少しだけ堪能し、すぐ十勝スピードウェイに到着するだろう。取材が終わったら帯広名物の豚丼でも食べて、東京に戻ればいい。いや、何なら取材後に1泊するのもわるくない。北海道で開催される86S、北海道出身の私が取材せずしてどうする? もちろん二つ返事である。「もちろん参加させていただきます。ではさっそく飛行機を予約しましょう」「いや、予約するのはフェリーですが」「はあ?」。
ああ、そういうことだったか。そうだったのか。話は簡単、編集部からの要請は「自分のハチロクで行ってきてね」ということなのだ。東京 杉並区の自宅から十勝スピードウェイまで、距離にして1000km以上、時間は使用するフェリーによって異なってくる。かなりの長旅である。しかし、86S TOKACHIはハチロク乗り、スポーツカー乗りの祭典である。そこに自分のハチロクで駆けつけるというのはちょっと、いや、かなり魅力的な話だ。聞けばカメラマン氏が同行してくれるということなので、途中で運転を交代してもらえるだろう。
話は決まりである。不肖・高橋、愛するハチロクで86S TOKACHIに参加しよう。目指すは十勝スピードウェイ、我が愛するハチロクは、ついに北海道上陸を果たすのである。そう考えると何やらワクワクワしてくるのは私だけか? いや、日本全国から十勝へ集うハチロク乗りたちも、同じようにワクワクしているはずだ。ROAD TO TOKACHI、こうして旅は始まった。
2014年9月17日 ハチロク多数発見! 大洗港
86S TOKACHIが開催されるのは9月19日、そして20日の2日間である。今までオフィシャルの86Sは4回開催されたというが、1泊して2日間にわたって開催されるのは今回が初めて。しかも北海道開催もオフィシャル86Sとしては初である。かなり力の入ったオフ会というかイベントになる予感がする。
さて、東京から北海道へクルマで行くには、どうしたって海を渡らなくてはならない。当然、カーフェリーの出番である。問題はどこでフェリーに乗って、どこに上陸するかである。東京から行く場合、近いのはガールズ&パンツァーの聖地、大洗港からである。だが、ほかにも仙台で乗船するという手もあるし、陸路を一杯に使って八戸から乗船という手もある。大洗、仙台、八戸からだと北海道の苫小牧に上陸するのだが、裏技としては新潟で乗船して小樽に上陸するという手がある。さて、どのルートを使おうか。
楽なのは大洗-苫小牧ルートだが、フェリーを使う距離が長いため、かなりの時間がかかる。時間優先というのであれば、陸路で八戸に向かうルートなのだが、かなりの距離を走ることになる。目的はあくまで86S TOKACHIの取材であり、取材前に燃え尽きてしまっては話にならない。そんな訳で往路は体力的に楽なルート、大洗-苫小牧を使うことにした。ただし時間がかかるため、86S TOKACHIが始まる19日の前日、18日に帯広市へ入るには9月17日に出発しなくてはならない。
予約を取ったのは商船三井フェリーの「さんふらわあ」。大洗を18時30分に出発し、翌日の13時30分に苫小牧到着の夕方便である。9月17日、カメラマン氏と合流して杉並区の自宅を出発、大洗フェリーターミナルを目指す。実はちょっとばかり、フェリーターミナルには期待していることがあった。そう、私のほかにも86S TOKACHIを目指すハチロクが、フェリーターミナルに来るのではないかと思ったのだ。
そして到着した大洗フェリーターミナル、果たしてハチロク……いた! それも我がハチロクを入れてその数、なんと8台! 東京都内を走っていれば、ちらほら見かけるハチロクだが、数はさほど多くない。そんなハチロクが、しかも同じ目的地を目指すハチロクが8台も大洗に集結したのだから、テンションもいきなりMAXである。これは結構、スゴいことになりそうだ。
ちなみに集まった8台のハチロクのうち、私を含めて取材メディアのハチロクが4台いたというのはここだけの秘密ということで。そんなこんなで私のハチロクは「さんふらわあ ふらの」に乗船したのであった。
2014年9月18日 北海道苫小牧上陸、帯広市を目指す
フェリーの中で熟睡し、翌日の9月18日、13時30分ほぼ定刻に苫小牧港到着。いよいよ我がハチロクの北海道上陸である。実は私、北海道苫小牧市生まれである。といっても物心つく前に苫小牧市を出たので、同市の記憶はほぼ皆無。このため高校卒業まで暮らした北海道士別市を、自らの故郷と認識しているのである。
フェリーから降りたほかのハチロクに別れを告げて、苫小牧市から当日の宿泊地である帯広市へと向かう。苫小牧市をハチロクで走りつつ、ここのどこかで自分は生まれたのだと思うと、何やら不思議な気持ちになる。苫小牧市から帯広市のホテルまで約180km、休憩を入れて約3時間の道のりである。道東自動車道を使ったが、実に走りやすい道だった。出発前にオイル交換をしたハチロクも絶好調、天気も決してわるくない。まあ、さすがに気温の低さには驚かされたが。
帯広まではスムーズそのもののドライブだったが、寄り道をかなりしたので予定よりやや遅れて帯広市のホテルに到着した。もちろんここでも気になるのは、86S TOKACHIに参加するほかのハチロクたち。イベントの前日だし、私のホテルは一般参加者が宿泊するホテルからも近い。ならば参加者のハチロクがいるかも……いましたがな、ハチロクが! 話を聞いてみると数日前に北海道入りし、観光を兼ねて走っていたのだそうだ。
ちなみに今回の86S TOKACHIは十勝スピードウェイを貸し切って、最大100組、200名参加という大きな規模で開催された。ホテル1泊の宿泊費を含めてハチロクオーナーの参加費は3万2400円、そしてハチロクオーナー以外の参加費は3万7800円(同伴者がいる場合は18歳以上1万800円、6歳~17歳5400円の参加費)。そう、86S TOKACHIはスポーツカーを愛する人であれば、ハチロクのオーナーでなくても参加できたのである(最大10組)。なお、ハチロクオーナー以外の参加者には、主催者側でハチロクを用意してくれる。
もちろんハチロクのオーナーは、自身のハチロクを持ち込んで参加することができる。さらに「ハチロクは持っているけど、諸事情でハチロクで行くことができない」という人は、主催者の用意するハチロクを借りることも可能になっている。まさに至れり尽くせりのイベントなのだ。
とはいってもそこはそれ、ハチロク乗りのオフ会である。自分のハチロクで駆けつける人が多いことは、想像に難くない。とりあえずイベント前日、帯広市内のホテルで1台ゲット! いやいや、ゲットした訳ではないけれど、ハチロク乗りに出会うことができた。この調子で行けば、明日の帯広、そして帯広から十勝スピードウェイまでの道は、ハチロクまみれになる可能性が高い。実に楽しみである。
2014年9月19日 86S TOKACHI DAY1 帯広、ハチロクまみれ!
9月19日、86S TOKACHI初日、早朝より動き出す。ちなみに一般参加者の受付開始は正午で、メディア受け付けはその少し前なので、時間的な余裕はたっぷりある。ではなぜ早朝から動き出したのか? そう、せっかくハチロクで北海道まで来たのだから、北海道らしい記念写真を撮りたいじゃないか! そんな気持ちがあったからである。
そんな訳で朝食もそこそこにホテルを出発、まず目指したのが帯広市内にある愛国駅だ。愛国駅と聞いて「?」と思う人でも「幸福駅」と聞けばピンと来るだろう。そう、愛国駅と幸福駅はすでに廃線となった広尾線にあり、「愛の国から幸福へ」というキャッチフレーズで道内でも知られた観光地となった廃駅である。廃駅といっても観光スポットとしてきれいに整備されており、愛国駅に残された線路上にはSL、すなわち蒸気機関車が置かれている。北海道らしい観光スポットだし、そもそも私は愛国者(ペイトリオットですな、ミサイルじゃないけど)なのでちょうどいい。
蒸気機関車との記念撮影を終えて、次に向かったのが通称「まっすぐな道」である。帯広の観光スポットとしてよく紹介されているのだが、本当に「まっすぐな道」なのだ。いや、本当に「道」なんですって、まっすぐな。場所としては帯広から国道236号線を通って中札内へ向かって走り、「なかさつない道の駅」の手前の道路を右折、直進してたどり着く坂道が「まっすぐな道」である。
午前中には十勝スピードウェイに入らなくてはならないので、帯広を離れる訳にはいかない。そんな中で選んだ、ハチロクの写真を撮って映える観光スポット、それが「まっすぐな道」である。ところがっ! 実際に行ってみると、その周辺にどの道路も基本的に「まっすぐ」なのだ! 一瞬、どれが「まっすぐな道」なのか迷ったが、坂道というヒントでようやく正しい「まっすぐな道」を判別することができた。いや、これって本当にただの「まっすぐ」な道なんですね……。
まっすぐな道でまっすぐな走りを楽しんだ後は、いよいよ86S TOKACHIの会場である十勝スピードウェイへ向かう。事前に給油を済ませておいて欲しいと聞いていたので、帯広郊外のガソリンスタンドに立ち寄ると、そこに3台のハチロクがやってきた。もうこの段階で向こうもこちらも、そこにいる目的は分かっている。ニコニコしながら少し立ち話をして、別れ際には「じゃ、十勝スピードウェイで会いましょう」である。
不思議そうな目で我々を見ているのはガソリンスタンドの店員さん。なぜこんなにたくさんトヨタのハチロクがいるのか? それも他府県ナンバーのハチロクばかり……。ということでちゃんと説明しておきましたがな。「86S TOKACHIというイベントが十勝スピードウェイで今日、開催されます。ロケーション的にちょうどいいので、このスタンドにはこれからもたくさんハチロクが来ますよ」と。ちなみに北海道では冬季に配慮して、FF車もしくは四輪駆動車の人気が高い。いない訳ではないのだが、ハチロクのようなFR車は北海道だと珍しいというのもまた事実。そんなハチロクが日本全国から86S TOKACHIのため、帯広に集結しているのである。
給油を終えて十勝スピードウェイへ向かい、その手前にある「道の駅さらべつ」へ時間調整のために立ち寄る。予想はしていたのだけど、ここでもハチロク軍団発見! パッと見ただけでも5台以上ハチロクがある。この段階でテンションマックス、もう86S TOKACHIへ行かなくてもここでオフ会やればいいんじゃないかと思ってみたりして。いやいや、あくまで目的地は十勝スピードウェイですから。
86S TOKACHIが開催される十勝スピードウェイ、北海道初の国際公認サーキットとして1993年にオープンした。コース長は約5.1km、最速ラップは1996年にあの高木虎之介選手が出した1分39秒625である。全日本GT選手権や十勝24時間レースなどを開催した実績があるこのコースを、86S TOKACHIは貸し切って行われる。その十勝スピードウェイに近づいたところで、案内の看板を発見。私のテンションはMAXを通り越して、ヘブン状態に突入する。
ここからは一般参加者目線で86S TOKACHIを見ていこう。会場に入ったら受け付けを行うのだが、さらに自前のハチロクで参加した場合は、車両のチェックが行われる。86S TOKACHIには違法改造された車両は参加できないので、これはある意味、参加のための車検である(なお、不合格車両はなかった)。その次に待っているのはオープニングセレモニー……と思ったら大間違い。なんとレーシングドライバーが運転するハチロクに同乗し、十勝スピードウェイを競技レベルのスピードで豪快に突っ走るのである。これを「ウェルカムラン」という。私も実際に同乗したのが、さすがはプロのレーシングドライバー、走りのレベルがまったく違う。言ってしまえば「とにかく速い!」。
ウェルカムランから見えてくる、主催者の思惑は明かだ。86S TOKACHI参加者をウェルカムランの体験で、日常から切り離してしまおうというのだ。日常の運転とは異なる次元の、レーシングドライバーによる高速走行。次々と到着する参加者を乗せ、ハチロクが十勝スピードウェイを疾走する。そしてその間にも、ピット前のスペースに並ぶハチロクの数がどんどん増えて行く。最終的に十勝スピードウェイは、ほぼ完璧にハチロクまみれとなった。
ウェルカムランの次はいよいよ開会式なのだが、ここで興味深いことが1つ。86S TOKACHIにはオーナー持ち込みのハチロクが50台以上、主催者側が用意したハチロクを含めると100台にはなろうかというイベントだ。参加者も83組、114名と大規模なのだが、驚くほど進行がスムーズなのである。私も数々のイベントに参加してきたが、イベントというのは大規模になればなるほど進行が難しくなり、スケジュールに遅延が発生する。だが、86S TOKACHIは違った。当初、ウェルカムランを終えて15時から始まるはずだった開会式が、なんと1時間繰り上がって14時のスタートになったのである。地味なことではあるが、これはちょっとした驚きだった。
さて1時間早まった開会式、壇上にさっそうと登場したのは、86Sと86 SOCIETYには欠かせない、芸能界におけるプロのアマチュアレーサー(注:自称)、DJとして活躍するピストン西沢氏である。そして西沢氏の紹介で登壇したのは、やはり86Sに欠かせない存在、トヨタマーケティングジャパンのハチロク担当である喜馬氏。喜馬氏は「86S恒例の晴天にも恵まれました。2日間充分に楽しんでください」と挨拶。
次に西沢氏が「理詰めの男、この男なくしてハチロクは生まれなかった」と紹介したのは、トヨタ自動車スポーツ車両統括部の多田チーフエンジニアである。多田CEの挨拶は「みなさん、ようこそ帯広へ」のみという極めてシンプルなもの。進行台本では「挨拶なし」となっていたのに、西沢氏が壇上に呼んでしまったらしい。その後はスタッフの紹介があり、サーキットコース上で「86ers Cheese!」と称する記念撮影が行われた。
実は初日のイベントはここまでで、参加者は自分のハチロクを十勝スピードウェイに置いたまま、主催者が用意したバスで宿泊先のホテルへ移動する。十勝スピードウェイに残すハチロクはコース上に整列させ、明日2日目の「86ers Cheese!」ハチロクと一緒バージョンまで待機となる。十勝スピードウェイからホテルの移動をバスで行うのには安全対策もあるだろうし、宿泊先の駐車スペース対策という面もあるのだろう。ホテルに戻ってしばしの休憩、その後は初日最後の楽しみ、86S TOKACHI前夜祭である。
2014年9月19日 86S TOKACHI DAY1 大盛り上がりの前夜祭
前夜祭は帯広駅と参加者のホテルから至近にあるイベントホールで開催された。参加者たちは事前に配布された、オリジナルデザインの86S TOKACHIジャンパーを着て会場に集合。オリジナルジャンパーは言うなれば、86S TOKACHIのユニフォーム。というか100名以上の参加者たちが、同じジャンパーを着ているというのはなかなか壮観であった。
さて、前夜祭は基本的にお祭りである。こういった大きなイベントで、参加者が日本各地から集まるとなると、同じテーブルについても同伴参加者以外は初対面。ぎこちない会話でスタートするのが常なのだが、86S TOKACHIには「ハチロク好き、スポーツカー好き」という強力な武器がある。このため前夜祭はスタート時点からフルスロットル状態となった。料理も豪勢だし、飲み物もアルコールやソフトドリンクが飲み放題。となれば飲みもフルスロットルになる人が出ておかしくないのだが、ほとんどの参加者が絶妙なラインでセーブしている。そう、明日は早朝から各種プログラムが目白押しなのである。二日酔いなどもってのほか。
さらに翌日、プログラム開始前にはアルコールチェックが行われる。これがまた厳しいもので「呼気1L中0.01mg以上のアルコールが検知された場合は、当日のプログラムへ参加できない」とルール化されているのだ。酒気帯び運転のアルコール濃度の基準が呼気1Lあたり0.15mgというから、単純な話として「素面で参加してね」ということなのだ。不肖・高橋、晩酌は結構やる方なのだが、さすがに翌日のことを考えてアルコールはセーブ。取材に行って「アルコール検査に引っかかってプログラムに参加できませんでした」では、編集部に顔向けできないというより末代までの恥となるからだ。
前夜祭、やはりMCはピストン西沢氏。FMラジオから聞こえてくるとおりの軽妙なトークで、会場をもう盛り上げるったら盛り上げる。さらに食事をとりながらFacebookの「TOYOTA 86」アカウントにアップされた写真を使ったフォトコンテスト、「オリジナル86Sを主催するとしたら、どんな86Sをやりたいか?」コンテストなどなどが展開した。私も個人的には「全裸86S」というのを考えていたが、恥ずかしかったので言わなかった。
また、86Sには不可欠な二人、喜馬氏と多田CEも来場しているのだから、盛り上がらない訳がないのだ。面白かったのは多田CEにサインをしてもらう参加者が続出、「多田CEサイン待ち行列」ができるほど。その多くが86S TOKACHIジャンパーにサインをしてもらっていたのだが、中にはハチロクのヘッドカバーを持参し、そこにサインしてもらう強者も登場(同じテーブルだった!)。
前夜祭は大盛況だった訳だが、あくまでメインは2日目のプログラム。果たしてどうなることやら……。
2014年9月20日 86S TOKACHI DAY2 充実した4つのプログラム
9月20日、晴天。参加者は7時30分にホテルから出発、十勝スピードウェイでの全体ブリーフィングは8時30分から始まった。会場に到着後、すぐに全員のアルコールチェックが行われたが、私も含めて引っかかった参加者はゼロ。聞いた話によると前夜祭のあと、帯広市内に繰り出した人もいたらしいのだが、やはりアルコールはセーブしたと思われる。というかあの豪華な食事の後に、ジンギスカンを食べに行ったというのは、結構スゴいことだと思った。
ブリーフィングの後は前日整列させたハチロクと並んでの記念撮影、「86ers Cheese!」パート2である。撮影終了後は100台近く並んだハチロクをコースの外に移動させ、いよいよプログラムの始まりだ。実はこのコースから移動する際、バッテリー上がりで始動できない車両が1台発生した。室内灯を点灯させたままというのが原因の、本当に小さなトラブルなのだが、どうしてそれをここで書いたのか? なんのことはない2日間の86S TOKACHIを通して起きたハチロクのトラブルは、この1件だけだったからである。それだけトラブルのないイベントだった訳だ。
さて、2日目のプログラムは大きく分けて4つ。多田CEと直接話ができる「CE(チーフエンジニア)ミーティング」、エクストリームな運転を体験できる「テールスライド同乗走行」、加速をコントロールして点数を競う「グラビティコントロール」、そしてサーキットコースでレーサーの後を走る「レーサートレースラン」。参加者は4つのグループに分かれて、これらのプログラムを体験し、楽しむ。
私のいるグループは、まず最初に「CEミーティング」を行った。「この人がいなければハチロクは生まれなかった」と言われる、多田CEの話を直接聞き、あるいは直接普段思っていることを質問できるこのプログラム。参加者が緊張するのではと思って見ていたが、それはまったくの杞憂。ハチロクを作ったおじさんと、ハチロクに乗っているおじさん(結構な割合で参加者はおじさん)の楽しい会話である。「どうしてハチロクのオープンカーは出ないのか?」などという、皆が知りたいような質問も飛びだしていた。
多田CEの話で印象に残っているのは「ハチロクに関して言えば、ああしたかった、こうしたかったという思い残した部分が一切ないクルマ」という言葉である。相当な自信を持って世に出したクルマ、それがハチロクということだ。この「CEミーティング」、約1時間に渡って行われたのだが、ほとんどの参加者は短く感じたのではないだろうか。まあ、86Sにでも参加しなければ「ハチロクを作った人」と直接会話する機会などまず考えられないので、これは大変貴重な経験だと思う。
「CEミーティング」の次に向かったのは、ピストン西沢氏が担当(?)する「テールスライド同乗走行」である。これは十勝スピードウェイの一角を使い、テールスライドなどを含むエクストリーム走行を体験するものだ。運転するのはレーシングドライバーで参加者は助手席に座る。使用するのはノーマルのハチロクで、タイヤのみハイグリップタイプのものを使用する。とにかくハチロクがグルグル回り、テールをブンブン振るので、ジェットコースターに乗っているようなものである。
実はこのテールスライド走行、私は以前、やはりピストン西沢氏のイベントで体験したことがある。しかもその際には、私自身が運転してスピンターンやアクセルターンを体験したのである。そう、86 SOCIETYの別コンテンツ、86 ACADEMYの取材をした時のことだ(http://car.watch.impress.co.jp/docs/longtermreview/86/20121218_579125.html)。驚いたのは私を乗せてくれたドライバーが、86 ACADEMYの時と同じ、高橋滋さんだったこと(いや、本当は選んで乗せてもらったんですけどね)。高橋滋さんと言えば富士スピードウェイでのスポーツ走行前、整備をしてもらったガレージのオーナーでもある。グルグル回るハチロクの中で高橋さんと「お久しぶりです」とか「富士の時はお世話になりました」とか、世間話をしていたのはここだけの秘密。
ちなみにこの「テールスライド同乗走行」には、大きく分けて2つの意味がある。まず1つは普段運転しているハチロクの、本来持っているポテンシャルを体験すること。普段の運転ではまず使うことはないだろうが、自分の乗っているハチロクが「ここまで出来る」ということを知っておくのはわるくない。そしてもう1つは、例えばテールが滑り出したらどうなるかということを体験すること。これを体験しておけば、状況にもよるだろうが非常時になんらかの手を打つことができるかも知れない。知っているのと知らないのでは、非常時への対処が異なってくるということだ(これは86 ACADEMYで西沢氏も語っていたこと)。
2つプログラムをこなしたところで昼食に入る。名付けて「サーキットランチ」。サーキットのコース上にパラソル付きのテーブルが並べられ、そこでランチと洒落込むわけだ。幸いにもというか86S恒例ということで天気もよく、貸し切りだからこそできるコース上のランチ。地元十勝の食材を使ったケータリングのハンバーガーとシチューは、大変美味しかった。後で聞いた話によると、シチューはお代わりが可能だったため、1人で3杯以上食べた参加者もいたとか。
昼食の後に待っていたのは「グラビティコントロール」。これは特製アプリケーションがインストールされたiPhoneをハチロクに搭載してコースを走行、得られる得点をグループごとで競うというものだ。特製アプリケーションはハチロクが走る際に発生する加速度を、前後左右で計測し、それを得点化する。
コーナーを曲がる際の重力(加速度)、アクセルやブレーキを踏んだ際の加減速時に発生する重力(やっぱり加速度)を、iPhoneが内蔵するセンサーで感知して得点にするのである。従って速く走ればいいという訳ではなく、いかに重力がかかっている状態を維持するかがポイントになる。メリハリの利いた運転が重要だと、インストラクターからは説明があった。
チャレンジの機会はそれぞれ3回与えられ、3回のうちの最高得点を使用することになる。1回目はイントラクターが同乗し、加点のコツなどを教えてくれる。そして残り2回でどこまで得点を伸ばせるかが、勝負の分かれ道となるのだ。不肖・高橋、これでも富士スピードウェイのサーキットライセンスを持つ男である。しかもウェアからヘルメットまで自前という気合いの入れよう。ここで高得点を出さずして、東京に帰れるものかっ! と、挑んだ結果は「わるくない点数ですね」で終わり。一応、8000点以上は出したのだが、最高得点が1万3000点以上という中では、まさしく「わるくない」といったレベルだ。
多少後悔しつつ「グラビティコントロール」の次に向かったのが、最後のプログラムである「レーサートレースラン」だ。このプログラム名には2つの意味があって、まず1つは「レーサーとレース」するラン、そしてもう1つは「レーサー(を)トレース」するランということ。要するに十勝スピードウェイのコースを、プロのレーサーの後ろについて走るというものなのだ。もちろんプロのレーシングドライバーが本気を出したら、参加者のほぼ100%は置いて行かれてしまう。レーサーもそのあたりはちゃんと加減して走るのだが、そこはそれサーキットコース、公道とは違うのである。
事前にサーキット走行のルールや、3速6500rpm以下に抑えて走ることなどの説明を受ける。ちなみに走行中はトランシーバーでレーシングドライバーのコース解説などを聞くことができる。また、グループで走行するのだが、周回のうち1回はレーサーが搭乗するハチロクのすぐ後ろを走ることができ、さらに最後の周回ではストレートを駆け抜けることができる。プロの走りを直に見ることができ、コース取りやブレーキングのタイミングやポイントを学ぶことが可能だ。そもそもサーキットのが初めてという参加者も多く、コースを走ること自体が貴重な体験だったと思う。
すべてのプログラムを、すべてのチームが終えた後に待っていたのは、参加したハチロクで隊列を組んでコースを走る「パレードラン」。この「パレードラン」を終えると、最後の締めくくり「閉会式」となる。
2014年9月20日 閉会式、そして夕日の別れ
100名以上の参加者が4つのチームに分かれ、4つのメインプログラムに参加する。メディア、そしてレーサーやイントラクターの車両まで入れれば、やはり100台以上のハチロクがプログラムに合わせて十勝スピードウェイの中を移動する。そんな86S TOKACHI、事故もトラブルもなく、スムーズに進んだのは、主催者側の綿密なシミュレーションとトレーニングの成果だろう。
一方、参加者側の満足度はどうだったのか? ほかの参加者へ実際に聞いてみたのだが、こうしたイベントでは絶対にあるはずの「苦言」は1つも出てこなかった。プログラムが多彩なイベントでは必ずといっていいほど細かなトラブルが発生し、その対応で遅延が発生したり、対応の段階で参加者が不愉快な思いをしたりする(どちらの責任という話ではない)。その結果が「苦言」となる訳だ。
では多彩なプログラムが、トラブルも遅延もなくスムーズに進んだ場合はどうなるか? 当然のごとく「苦言」もないということだ。主催者側の徹底したホスピタリティもあるのだが、参加者たちの「このイベントを楽しむぞ。楽しいイベントにするぞ」という強い思い、そして「ハチロクやスポーツカーが好き」という共通点が86S TOKACHIを成功に導いたと私は思う。取材側という立場であったが、個人的にも充分に楽しませてもらったし、86S TOKACHIを楽しんだ。
そして夕方、閉会式が始まった。ピストン西沢氏、そして喜馬氏、多田CEの挨拶。最後の最後にサプライズとして2人のレーサーが、ピット前のスペースにホイールスピンで「86S」の3文字を見事に書き上げた。締めは86S恒例のかけ声、拳を突き上げての「ハチ!」「ロックス!」。
こうして2日間にわたって十勝スピードウェイで開催された、86S TOKACHIは幕を閉じた。夕日の中、自らのハチロクを運転し、十勝スピードウェイを後にする参加者をスタッフが「ハチロックス」のかけ声と共に見送る。いや、この歳になると自然に涙もろくなるのか、夕日の中を去りゆくハチロクを見て、少しだけ涙が出そうになった。
2014年9月21日 苫小牧から仙台へ お家に帰るまでが86Sです
ピストン西沢氏曰く「お家に帰るまでが86Sです」、まさにそのとおり。という訳で不肖・高橋、86S TOKACHIの感動を胸に向かったのは、帯広郊外にあるホテル。20日の86S TOKACHI終了後、苫小牧まで行って深夜フェリーに乗船すれば、翌日には東京に帰ることができる。そう思った時期が私にもありました。が、しかし、世の中はそう甘くないのである。まず20日の深夜フェリー、予約が取れなかった。
仕方がないので20日は北海道に留まることにしたのだが、今度は宿が取れないときたもんだ。いや、どうせ北海道に留まるなら札幌の知り合いに会っていこう、札幌から苫小牧なら近いし、それがいいと思ったのだけど、某アイドルグループのコンサートと重なったため、札幌はおろか苫小牧、小樽まで宿が取れないのである。と、ここまでは東京で予定を組んでいた時の話。実のところ、帯広郊外のホテルを確保したのは、86S TOKACHIの初日、19日のことだったのだ。
一方、フェリーの方はというと、東京で苫小牧-仙台の便を予約してあった。9月21日苫小牧19時発、太平洋フェリーの「きそ」を確保してあった。仙台への到着は翌22日10時。仙台-東京間はハチロクで東北自動車道をひた走る。その距離約375km、休憩をはさんで5時間もあれば充分だろう。
ちなみに20日に泊まった帯広郊外のホテルでは、86S TOKACHIの参加者に再会することができた。姫路から北海道にやってきた参加者で、北海道観光を楽しんでから帰るそうだ。おそらくそういった参加者がほかにもいるのだろう。せっかく遠方から北海道に来たのだから、ぜひとも楽しんでいってほしい。
結局、復路は札幌へ寄り道し、苫小牧から仙台へ渡り、東北自動車道経由で東京に戻った。「お家に帰るまでが86Sです」のとおり、トラブルなく無事に帰宅したところで、私の86S TOKACHIは本当の終わりを迎えた。
86S TOKACHI、参加者83組114名、うち北海道からの参加者33組、47名。参加者の最高齢は愛知県から参加した68歳、最年少は北海道から参加した9歳(お父さんのハチロクに乗ってきたとのこと)。ハチロクを駆り、もっとも遠方から来た参加者は愛知県から、空路を使っての参加者ではなんと福岡県からという人もいた。参加者の皆さん、そしてスタッフの皆さん、本当にお疲れ様でした。またいつか、86Sでお目にかかりましょう。
【お詫びと訂正】記事初出時、ニュルの正式表記に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。