ブリヂストン、新しいタイヤ再生施設を公開
新たな形態のタイヤ再生ビジネスを開始

バンダグ・リトレッド愛知ファクトリー。名古屋駅から名鉄で15分ほどの名和駅近くにある
12月4日公開



 ブリヂストンは12月4日、リトレッドタイヤの製造拠点「バンダグ・リトレッド愛知ファクトリー」を報道関係者に公開した。

 「リトレッド」とは、消耗したタイヤのトレッド部分を削り取り、新たにトレッドを貼り付けるタイヤ再生手法。2007年にブリヂストンは、米国のバンダグというリトレッドタイヤ業者を買収した。バンダグのシステムを活用したタイヤ再生・販売の国内第1号拠点がこのバンダグ・リトレッド愛知ファクトリーというわけだ。

 この事業はトラック、バスなどを擁する輸送事業者向けのもの。リトレッドの技術は乗用車にも適用可能だが、現在のところは大型の輸送事業者向けのサービスのみが開始されている。そんなわけで一般の乗用車ユーザーには遠い話ではあるのだが、再生タイヤの構造や、タイヤビジネスの違った側面を見ることができて興味深いので、ここでレポートする。

再生タイヤ販売とメンテナンスをセットに

バンダグ・リトレッド愛知ファクトリーの内部
 ブリヂストンが始めたこの事業の特徴は3つある。

 第1に、再生タイヤの製造・販売だけでなく、新品タイヤ購入から、そのタイヤの再生利用を見込んだメンテナンスサービスを含めた、「エコバリューパック」と呼ばれるソリューションパッケージであること。第2に、ユーザーは基本的に自分が購入して使ってきたタイヤを、再生して使うということ。第3に、リトレッドに「プレキュア方式」を採用していること。

 一般に再生タイヤは輸送業者がコスト削減の手段として採用するものだが、どの車輪にも再生タイヤが使えるわけでなく、トレーラーの貨車や、8つの駆動輪のうち2~4つに使うのが一般的だ(すべての駆動輪を再生タイヤにすることもあるそうだ)。操舵輪や駆動輪で使ったタイヤを、貨車や駆動輪の一部に回す、ということになる。

 よい再生タイヤを得るためには、その土台となる中古タイヤ(これを「台タイヤ」と呼ぶ)のコンディションが重要だ。空気圧やローテーションを適正に管理し、使い過ぎていないタイヤがよい台タイヤとなるが、こうしたタイヤメンテナンスもブリヂストンが行い、新品タイヤからリトレッドタイヤまでを販売するのがこのリトレッド事業の第1の特徴というわけだ。

顧客からやってきた台タイヤ(中古タイヤ)はまず目視や触診による受入れ検査が行われる受入れ検査では釘穴検査が行われる。これは目視ではわかりにくい釘穴を発見するための検査。タイヤの内側から電極となるチェーンを垂らし、外側に向けて5万ボルトの高電圧を流す。穴がある部分で青くスパークが光るのを見て、釘穴を発見する
外観から分からないタイヤ内部の気泡(セパレーション)、とくにトレッドゴムと、その下のラジアルベルトが剥離している部分を探る「シアロ工程」。走行時にこの気泡が加熱され、ふくらむと、トレッドの剥離(ひいてはタイヤバースト)につながる。 シアロ工程ではタイヤを気密室に入れ、空気を抜いたり入れたりし、その様子をレーザーで撮影する。気泡があれば画像内の気泡部分が動くので分かる。タイヤを置いてボタンを押すだけで、すべての工程が自動的に行われる。写真はタイヤを気密室に入れているところ。 ここでセパレーションが発見されるとそのタイヤは再生されないが、欧米では、低速・低荷重・貨物用などに用途を限定して再生することもある

シアロ工程で撮影した画像。中央に気泡が写っているシアロ工程ではタイヤを9つのセグメントに分けて、内側からレーザー撮影する

 

 第3のプレキュア方式はタイヤ再生法の1つで、バンダグが採用してきたものを利用している。ブリヂストンはこれ以前にも再生タイヤ事業を手がけてきたが、これには「リ・モールド」という方式を使ってきた。

 再生タイヤは、台タイヤのトレッド面に、新たなトレッドゴムを貼り付けて作るが、リ・モールド方式ではトレッドパターンの刻まれていないゴムを貼り、金型(モールド)に入れてパターンを付ける。

 一方プレキュア方式では、すでにパターンが刻まれているゴムを貼り付け、加硫缶という装置の中で加熱して接着する。この製造工程の詳細は写真でレポートしているとおりだが、プレキュア方式のメリットは、加熱時の温度が比較的低く、台タイヤをモールドに入れることもないため、台タイヤへの負担が小さい。

 またリ・モールドは大量生産向きだが大規模な設備が必要になるのに対し、プレキュア方式は小規模な設備で済むため、比較的設備投資が少なく、また、多品種少量生産が可能だ。

台タイヤの表面(残っているパターンなど)を削る「バフ工程」回転する台タイヤを刃で削る。バフ装置にはタイヤのサイズなどのデータがあらかじめ入力されていて、やってきたタイヤにあわせたメニューを選択するだけで、自動的にバフ工程が実行される。写真では刃は付けていないバフ工程が終わった台タイヤ。この上にゴムを貼り付けるため、表面には決められた粗さが残される
バフ工程が終わった台タイヤに残った穴タイヤの穴などを補修する「スカイブ工程」スカイブ工程では、台タイヤの程度にあわせて、各種のグラインダーを使い分けて補修する。自動化できない工程だ
押出工程。加硫(ゴムに硫黄を加えて強化、結合させること)されていないゴムを練り、台タイヤの表面に貼り付けるこれが未加硫のゴムスカイブ装置に未加硫のゴムを入れると、右の台タイヤに貼り付けられる
ここにあるトレッドゴムはバンダグが製造したもので、バンダグのゴムに、バンダグのパターンが刻まれている。再生タイヤに「エコピア」を選択した場合は、ブリヂストンが製造したエコピアのゴムとパターンを持ったシートを使う
加硫工程にそなえて、タイヤを袋に入れ、パックして真空状態にする
貼り付けたトレッドゴムを加熱して接着する「加硫工程」。この加硫缶には22本のタイヤを入れることができる。加硫には4時間かかるので、1日8時間で44本を処理できる
できあがった再生タイヤを外観検査するできあがった再生タイヤに空気を入れ、十数分放置して圧がかかった状態での検査をする「耐圧検査」。この工程はバンダグのシステムにはなく、ブリヂストンが独自に付加した

 実は、ブリヂストンがバンダグのプレキュア方式を採用したキーはここにある。バンダグ・リトレッド事業は小回りが利くので、顧客の近くに多くの拠点を設けやすく、メンテナンスなどをセットにしたきめ細かいサービスを提供しやすいのだ。

 ブリヂストンは、2009年1月5日に、ブリヂストンBMS株式会社(ブリヂストン・バンダグ・モビリティ・ソリューションズ)を設立し、バンダグ・リトレッド事業と、従来のリ・モールド再生タイヤ事業で、トラック・バス向けタイヤのソリューション事業を本格展開する。バンダグ・リトレッド・ファクトリーは、数年で20拠点程度を設置する予定だ。

URL
株式会社ブリヂストン
http://www.bridgestone.co.jp/
ニュースリリース
http://www.bridgestone.co.jp/info/news/2008112801.html
バンダグ
http://www.bandag.co.jp/asia/japan/

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(編集部:田中真一郎)
2008年12月5日