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「第16回 全日本学生フォーミュラ大会」記者発表会
今年度は過去最高の138チームがエントリー。98チームが参戦
2018年7月5日 06:00
- 2018年7月4日 開催
自動車技術会は、静岡県 小笠山総合運動公園(エコパ)で9月4日~8日に開催する「第16回 全日本学生フォーミュラ大会」の記者発表会を都内で開催した。
発表会では最初に、大会実行委員長の玉正忠嗣氏が登壇。玉正氏から2003年にスタートして今大会で16回目となる全日本学生フォーミュラの大会概要や今年度の変更点などについて解説が行なわれた。
学生たちが自らマシンを作成して行なわれる全日本学生フォーミュラは、アメリカで「SAE(ソサエティ・オブ・オートモーティブ・エンジニアズ)」がスタートさせた「フォーミュラ SAE」をベースとした大会で、日本以外にもアメリカ、イギリス、イタリア、オーストラリア、オーストリア、ドイツ、ブラジルの8カ国で10大会を同一ルールで開催している国際的な競技会。
将来的に自動車業界で活躍する若手の人材育成を大きな目的としており、各チームを「レーシングカーを開発するベンチャー企業」と想定。レース用のマシンを製作して走らせるだけでなく、販売戦略やコスト管理、車両デザインなどについても審査の対象となっている。
マシンは「タイヤがカウルで覆われず、コックピットがオープンタイプの1人乗りフォーミュラカー」と定められ、これを年間で1000台生産することを想定してビジネスモデルを構築することになる。大会がスタートした2003年当時はガソリンエンジン搭載車による「ICVクラス」のみが行なわれていたが、2013年の第11回大会から搭載バッテリーの電力で走る「EVクラス」が追加され、現在は2クラスが同時開催されている。
販売することを想定したマシンであり、学生が参加することから大会では安全性をとくに重視。最初の審査になる「車検」では、フレームの構造や安全性をチェックする「技術車検」、大きな横Gがかかったときに、搭載する燃料が漏れたり横転するといった危険がないか車体を傾けてチェックする「チルト」、しっかりと減速でき、4輪が同時にロックしてまっすぐに停止できるかをチェックする「ブレーキ」の3項目に加え、ICVクラスではマフラーの近接騒音をチェックする「騒音」、EVクラスではマシンの上から2分間にわたり水をかけて間違いなく絶縁されているかチェックする「レイン」を実施する。
一般的なレースにはない学生フォーミュラ独自のポイントが「静的審査」。参加各チームのマシンを、設計の適切さや革新性、加工性、補修性、組立性などの視点から審査する「デザイン」、1000台/年を仮定した場合のコストや車両の適合性などを審査する「コスト」、スポンサーとなっている自動車メーカーの経営陣に対するビジネスプランの説明を審査する「プレゼンテーション」と、デザインでは上位3チームの最終審査となる「デザインファイナル」を行なってマシンの完成度などが争われる。
大会日程の後半に行なわれる「動的審査」では、0-75mの加速性能を競う「アクセラレーション」、8の字コースで旋回性能を競う「スキッドパッド」、直線とコーナーを組み合わせた複合コースでタイムを競う「オートクロス」、約20kmの走行で走行性能や耐久性、燃費などを競う「エンデュランス・燃費」の4種目が行なわれる。
開催16回目となる今年度は過去最高となる138チームがエントリー。現在は参加チームの上限を98に制限しており、ICVクラス81チーム、EVクラス17チームが出場して大会が行なわれる。参加者は出場するチームのメンバーや関係者に加え、観戦に足を運ぶ人数も大会ごとに増加しているほか、近年は海外からのエントリーが増え、とくに中国からは過去最高の12チームのエントリー、6チームの参加で行なわれるとのこと。
前回大会で総合2位の芝浦工業大学は優勝を目指す
発表会では、参加98チームから関東にある芝浦工業大学、神奈川大学の2チームからプロジェクトリーダーが参加。それぞれの活動内容や今大会に向けて製作したマシンの紹介などを行なった。
先に登壇したのは、芝浦工業大学 工学部 機械機能工学科3年の諏訪一樹氏。芝浦工業大学は2003年にチームが設立され、2004年の第2回大会から2009年以外続けて参戦している古参チーム。「SHIBA-4」の名称で海外での大会にも積極的に参加しており、2016年の第14回大会で総合9位、2017年の第15回大会では歴代最高の総合2位の成績を収めている。
そんなSHIBA-4の第15期プロジェクトとなる今大会では、チーム目標を総合優勝に設定。「S015」と名付けられた新型マシンは、前回大会で総合2位となった「S014」の「ナロートレッド」「ショートホイールベース」「軽量」「4気筒エンジン」という基本コンセプトを踏襲しつつ、「静的審査」で高得点を獲得するためにブラッシュアップを行なったほか、マシンの特徴となっている前後の大型ウイングの形状を改良して空力性能を向上。
さらにS015では空力解析によってマシン周辺の空気の流れをスムーズにしているが、この状態でもラジエターに走行風を効率的に導けるよう、万が一のトラブル時にドライバーがラジエター内で高熱化したフルードを浴びてしまわないようにレギュレーションで装着が義務付けられている「ラジエターカバー」の形状を最適化。素材も軽量化のためにカーボンファイバーを使っているという。
このほか、パワートレーンには本田技研工業のスポーツバイク「CBR600RR」に搭載されていた600ccクラスの「PC40E」型エンジンと6速シーケンシャルトランスミッションを採用。ショックアブソーバーには今大会から芝浦工業大学のスポンサーになったテインから、SHIBA-4と共同開発したショックアブソーバーが提供されているという。
チーム設立5年目の神奈川大学は「初の全競技完走」が目標
続いて登壇したのは神奈川大学 4年の田村健昇氏。芝浦工業大学とは対照的に、「KURAFT」の名称で参戦している神奈川大学はまだチーム設立から5年目。当初からEVクラスに参戦しているKURAFTは、前回大会で初の車検通過。新型マシンでは「重点開発項目の設定」「動的性能の追求」「全競技完走」を目標として着実なステップアップを目指しているという。
KURAFTのマシンでは日産自動車「リーフ」と同じバッテリーセルとコントローラーを採用しているが、前回大会に投入した車両でコックピットの両サイドに分割していたバッテリーを、リアまわりの設計変更などを行なって搭載スペースを捻出。新型マシンでは1つに集約してコックピット後方に移設して、バッテリーを収めたコンテナ部品の統合で20kg、バッテリー周辺のフレーム形状変更などで20kgの計40kgの軽量化を達成。また、重量物であるバッテリーを重心に近い場所に移動したことでヨー慣性モーメントの低減も期待でき、そのほかにもシャシーフレームの設計見直しなどで全体で従来比72.5kgの軽量化を達成するなど大幅な性能向上を果たしているという。