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学生がレーシングカー開発技術を競う「学生フォーミュラ日本大会 2019」記者発表会

8月27日~31日開催。注目大学も参加、1年かけて製作したニューマシンの解説も行なった

2019年7月4日 開催

 自動車技術会は、8月27日~31日に静岡県 小笠山総合運動場(エコパ)で「学生フォーミュラ日本大会 2019」を開催する。それに先がけて、2019年の開催概要を紹介する学生フォーミュラ日本大会 2019 関東地区 報道関係者向け発表会を都内で開催した。

 最初に大会実行委員長である本田技術研究所の中澤広高氏から学生フォーミュラ日本大会 2019の概要が説明された。

学生フォーミュラ日本大会 2019 大会実行委員長、株式会社本田技術研究所の中澤広高氏

 中澤氏は「学生フォーミュラは主に大学生、専門学校生が自分たちで設計して自作したレーシングカーを使用する競技です。この大会は世界的なルールが定められていて、参加する学生はそれをもとに競い合う国際的な競技会です」と学生フォーミュラという競技を紹介した。

 そして「この大会の目的はこれからの自動車産業を支えていく若い技術者を育てるというものです。内容としては参加するチームを“レーシングカーを開発するベンチャー企業”に見立て、学生たちが設計から販売までする一過を審査するというものになっています。通常、レーシングカーは速く走ることが評価されますが、学生フォーミュラという競技は技術を競い合う競技なので速いだけではダメです。しっかりした作りであることも重要です」と大会の特徴を挙げた。

学生フォーミュラはチームをレーシングカーの開発をするベンチャー企業という想定とする。走行性能はもちろん、開発からコスト管理、販売戦略など取り組みも審査対象になる。審査は2輪、4輪メーカー、サプライヤーの技術者などが務める

 学生フォーミュラはアメリカのミシガンで開催されたのが始まり。日本では18年前にこの取り組みがスタートしたが、最初は日本での開催ではなく、アメリカに遠征をしていたとのこと。そして17年前に日本での第1回が開催された。

 学生フォーミュラには世界から約60か国が参加し、大会自体を開催しているのは18か国となっている。このうち、アメリカ、ヨーロッパ、そして日本の3国は開催規模が大きく参加チームも多い大会になっているという。

 次にレギュレーションに関して。クラスはICV(ガソリン自動車)とEV(電気自動車)の2つに分かれている。ガソリン車は710cc以下の4サイクルエンジンを使用することが決まりだが、軽自動車用のエンジンではなくオートバイのエンジンを使用している。

 EV車ではバッテリーからの最大電圧が連続して85kWを超えないことが決められている。モーターの数に規定がないので2018年は海外チームにおいて4輪モーターというクルマも参加していた。

 対して2018年の日本のチームは市販EV車のモーターや電動バイクのモーターを使用したクルマとなっていたが、中澤氏は「今後の自動車技術としては電動化が進むので、学生たちにはEVの技術を学んでほしいため、EVクラスのほうが速いクルマを作れるレギュレーションになっている。これは全世界共通のことです」と今後、EVクラスへ参加してくる学生が増えること期待する趣旨のコメントを語った。

 なお、2018年までは大会名称に「全日本」とあったが、この大会は国際化を謳っていることから「学生フォーミュラ日本大会」へと変更された。

約60か国からの参加がある。競技を開催している国も18か国となっている。地図を見るとアフリカと南米の一部の国以外はほぼ参加している
クラス分けと主要なレギュレーションについて。参加の比率はICVのほうが圧倒的に多いが、EVクラスへのエントリーも年々増えている。なお、EVクラスには海外からの参加チームが多い傾向
9月にラグビーワールドカップ2019の会場になることから、2019年の大会は例年より1週間前倒しの8月27日~31日の5日間で行なわれる
スケジュール。学生フォーミュラのレギュレーションは安全性に重点を置いて作られているので、車検ではその点を含めて厳しくチェックされる。同時にプレゼンなどの静的審査が日程の前半で行なわれる。走行が始まるのは3日目からだ
大会参加者の推移。エコパでの大会は98チームを上限にしているが、ここ数年、いっぱいの状況。クラスはICVが半数以上だがEVも順調に増えてきている
ラグビーワールドカップの影響でスタジアムが使えないことからエコパ内の駐車場を使用した会場レイアウトとなる。観戦は自由で入場は無料
2018年のEV総合優秀賞を獲得した名古屋大学チームはシングルモーター仕様から4輪インホイールモーターに変更してくる。また、EVクラスへのエントリーも過去最多となってEVクラスに盛り上がりが期待できる。海外勢も過去最多の27チームがエントリーと国際化もますます進む。名称は「学生フォーミュラ日本大会」となった
国内勢の動向も初参加校やクラス替えなどがある。特別表彰の内容を変更して狙いやすい設定とした

 この会には2019大会へ参加する学校のなかから芝浦工業大学、横浜国立大学、東京大学、群馬大学の4チームが参加し、それぞれのチーム紹介を行なった。以下にその模様の写真を掲載する。

芝浦工業大学。通称をSHIBA-4という。2018年にプロジェクトリーダーを務めた諏訪一樹さんが解説を担当
芝浦工業大学は部活動として参加。2003年に創立。2018年は総合2位を獲得した強豪チームだが、マシン作りではその時期のトレンドにはのらず、独自のスタイルを貫くマシン作りを行なうという
チーム16期となる2019年は総合優勝を目標にしているとのこと
2019年のマシンはエアロデバイスの材質変更、追加などのほかに前後不等長トレッドを採用しているのが特徴
横浜国立大学はプロジェクトリーダーの大澤駿太さんが解説を担当
同校が学生フォーミュラに参加する目的。ものつくりによる実戦的な学生教育プログラムという位置づけで、将来、産業界で活躍するための知識、技術の経験の場となる
安定して上位に入っていて過去最高位は2位ということで、2019年はチームの目標である総合優勝を狙う
2019年のマシン。ホンダ CBR600RRの4気筒エンジンを縦置きにし、シャフトドライブという個性的な構造を採用。サスペンションも操舵力軽減を狙ってジオメトリーを変更し、ドライバビリティを向上させている
東京大学チーム。チームの紹介は五十子周太さんが行なった
2003年にチームを発足。現在は12名で活動している。2018年は準備期間がとれず、参加はしたが不完全燃焼の結果となった
スズキ スカイウェイブ650のエンジン、トランスミッションを搭載。トランスミッションは電子制御CVT。縦長エンジンなので車体中央右というエンジンレイアウトとなる。2019年は約1.0リッターエンジン用のタービンを流用してターボ化している
マシンの完成イメージ。フロントにカウルが付く。前後スペースに自由度があるのでドライバーの着座位置を後ろにして、乗車時の足の位置を後方へ下げ、クラッシュ時の安全性を確保
群馬大学学生フォーミュラチームは磯部さん(右)が解説を担当。2019年は2年目の学生フォーミュラ参戦とのこと
チームの活動理念について。おのおのがエンジニアとして、人として成長することを最大の目的としている。また、チームとスポンサーだけの繋がりではなく、地域の代表として大会に参戦する意識を持ち、そのために地域の方との繋がりを作る活動もしている
2019年のマシンの設計指針。シンプルさを重視しているように見える
大会はパイロンでコースを作っていて、コンパクトに曲がる区間も多い。そこでマシンは旋回性のよさを重視した作り。加えてドライバーの視界のよさも確保してドライビングもしやすくする。エンジンは軽量な単気筒エンジン(ホンダ CRF450用)を使用

 さて、こちらの4チームはすべてICVクラスへのエントリーであるが、中澤氏のコメントにもあったようにこれからはEV化が進むはずである。その状況においてEVクラスへの参戦予定の有無、そしてEVクラスへの興味はあるのかなどを4チームに質問をしてみた。

 回答において全校ともEVクラスには興味を持っているとのことだが、実際に移行するかという点ではいろいろ問題があるようだ。

 チームからの発言では、EV車作りには行程などの関係上、ICV車よりも広いスペースが必要になるので、そこが確保できないのが一点。それに、学校からの援助はあるが、予算繰りは全校とも厳しいとのこと。そして、チームメンバーにはフィーリングや音などから「エンジンが好き」が多いので、その点もICVでレースを続ける理由であるとのことだ。とはいえ数年後にEVへのスイッチを検討しているチームもあった。

皆さん、クルマ好きの方なのでEVに興味はあってもやはりエンジン車に魅力を感じているようだ。EVマシン製作にも意欲を見せているが問題は多いよう。新たな協力企業が現れれば新しい取り組みも進むのではないか
会場の外には芝浦工業大学と東京大学のマシンが展示してあった。こちらは芝浦工業大学のマシン
東京大学のマシン。エンジンはドライバーの横に搭載される。ミッションは電子制御CVT。エンジンはレース用ECUで制御し、CVTは独自で製作したユニットで制御しているとのこと

 学生フォーミュラ日本大会はモータースポーツではないが、クルマ好き、モータースポーツ好きの方なら興味を持って見ることができるイベントなので、8月27日~31日に、会場であるエコパへ足を運んでみてはいかがだろうか。学生が自作したフォーミュラカーによる競技というのは想像以上に面白く、そして応援しがいのあるものである。