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カワサキのスーパーバイク世界選手権4連覇の軌跡などが語られた、自動車技術会「モータースポーツ技術と文化」

GTA 坂東会長はSUPER GTのグローバル化について講演

2019年2月27日 開催

川崎重工業 松田義基氏の「スーパーバイク世界選手権4連覇の軌跡 ~戦略の要諦~」

 公益社団法人 自動車技術会が主催する「モータースポーツ技術と文化」をテーマとしたシンポジウムが、東京工業大学 大岡山キャンパスで2月27日に開催された。

 同シンポジウムは、自動車技術会のモータースポーツ部門委員会により企画されたもので、モータースポーツを自動車技術の一分野として確立させるために、技術、学問、文化など総合的な探求を行なうとともに、研究結果や成果物などをモータースポーツ関係者のほか、学生や一般の人などに展開を図っていくことを目的に開催された。

 会場では、SUPER GTレースを主催するGTアソシエイションの坂東正明氏が登壇する講演のほか、車両、パワートレーン、タイヤなどにおける開発手法など、2輪、4輪のモータースポーツの現役担当者による講演が行なわれた。

出展企業の展示
出展企業の展示

 シンポジウムの参加者は、普段はライバル関係となる各メーカーのエンジニアなどが集まり、会場ではモータースポーツに関わるエンジニアらが企業という垣根を超えて、モータースポーツ技術と文化の発展に向けて、議論や交流が行なわれた。

GTアソシエイション 坂東正明氏の講演「SUPER-GT GT500 グローバル化への展望」

 シンポジウムで行なわれた講演の中で、「SUPER-GT GT500 グローバル化への展望」と題して講演したGTAの坂東氏は、技術交流を進めているドイツのDTMから、11月に日本にDTMマシンを集めてイベントを開催する構想などが語られたほか、2018年のル・マン24時間レース優勝を達成した中嶋一貴選手から会場にビデオメッセージが届くなど、モータースポーツファンにとっても興味深いイベントとなっていた。

 また、4輪レースに関する講演では本田技術研究所 HRD Sakuraの古川隆一氏が「WTCC Civic の開発」と題した講演でWTCCレースへの取り組みを紹介するとともに、スバルテクニカインターナショナル 野村章氏は「SUBARU モータースポーツのシャシ開発」と題してニュル24時間耐久レースへの取り組みを報告。2018年のル・マン24時間レースを優勝したトヨタ自動車の小島正清氏による「ル・マン24時間レース 初制覇への道程」といった講演も行なわれた。

本田技術研究所 HRD Sakura 古川隆一氏の「WTCC Civic の開発」
スバルテクニカインターナショナル 野村章氏の「SUBARU モータースポーツのシャシ開発」
「ル・マン24時間レース 初制覇への道程」と題して講演を行なったトヨタ自動車の小島正清氏

 2輪レースでは、川崎重工業 松田義基氏が「スーパーバイク世界選手権4連覇の軌跡 ~戦略の要諦~」と題してスーパーバイク世界選手権4連覇を達成するまでの取り組みを紹介。そのほか、素材や部品メーカーとしての取り組みとして、ブリヂストン 桑山勲氏の「ULTIMAT EYETMのレースタイヤ技術開発への活用」、エヌ・ティー・エス 生田目將弘氏の「初ポイント獲得までの軌跡~加工メーカーが世界グランプリで目指すもの~」といった講演も行なわれた。

ブリヂストン 桑山勲氏の「ULTIMAT EYEのレースタイヤ技術開発への活用」
エヌ・ティー・エス 生田目將弘氏の「初ポイント獲得までの軌跡~加工メーカーが世界グランプリで目指すもの~」

 公演後の質疑応答など、会場の反応で印象に残ったのは川崎重工 松田氏の講演。松田氏の講演は、2008年のリーマン・ショック後、カワサキはモトGPレース休止を発表して、2009年4月1日付でモトGP部は解散。メンバーは量産部門や研究部門、スーパーバイク選手権を担当する部署に移動したことから話が始まり、2015年~2018年のスーパーバイク選手権で4連覇を達成するまでの軌跡が語られた。

川崎重工業 松田義基氏の「スーパーバイク世界選手権4連覇の軌跡 ~戦略の要諦~」

 松田氏の講演は、レースを分析して勝利のための目標設定する中でトラクションの重要性に注目して、トラクション重視の車両開発を進めていくといった技術的側面を紹介するとともに、開発組織作りの重要性も説いて、メンバーの役割分担を明確化させ、量産車開発とレース開発を一体にしていったことなどが語られた。

 また、会社組織として上層部の承認を得るための政治的戦略の重要性なども語られ、量産開発とレース開発を同一チームで行なうことを“少数精鋭部隊による効率的な開発”と経営的メリットに掲げて、承認を得ていったことなどのエピソードも語られた。

 講演の締めくくりとして、松田氏からは「自社の技術不足は無視し、世界一をめざすロードマップを持つ」「自己責任で進める」「モーターサイクルという文化だから、ポジティブでいる」といったまとめの言葉が示され、2019年シーズンは5連覇を狙うとともに、鈴鹿8耐勝利への意気込みなども語られた。

 講演後の質疑応答の様子をみると、リーマン・ショック後の荒波を乗り超えてモータースポーツ活動を続け4連覇という成果を出せたことが、その場にいた多くモータースポーツ関係者に勇気を与える内容となっていたようだ。

川崎重工業 松田義基氏の「スーパーバイク世界選手権4連覇の軌跡 ~戦略の要諦~」