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強豪校が次々と脱落する波乱の展開。第17回 学生フォーミュラ日本大会2019レポート

名古屋大学EVの4輪モーター仕様デビューが見どころ

2019年8月27日~31日 開催

8月27日~31日「学生フォーミュラ日本大会2019」が開催された

 静岡県の小笠山総合運動場(エコパ)を使って行なわれる「学生フォーミュラ日本大会2019」が8月27日~31日の5日間にわたって開催された。

 この学生フォーミュラは自動車技術会が主催し、8か国10大会で繰り広げられる「フォーミュラSAEワールドシリーズ」の日本大会で、今回で17回目の開催となる。

 参加資格は大学生や短期大学生、高等専門学校生、そして短期大学相当の専門学校生が対象で、学生が独自に考案、設計、製作をしたフォーミュラレーシングカーで競い合う競技である。ワールドシリーズということで参加全120チーム中、42チームが海外からの参加となっている。

 車両クラスは2つある。1つは排気量710cc以下の4サイクルのガソリンエンジンを搭載する「ICVクラス」で、もう1つは最大公称作動電圧600Vの「EV(電気自動車)クラス」だ。

8か国10大会で繰り広げられる「フォーミュラSAEワールドシリーズ」の日本大会である「学生フォーミュラ日本大会2019」。今回で17回目の開催となる。120チーム(国内78、海外42)が参加した
2018年の大会でピックアップした、タイから参加の「Prince of Songkla University」。初代「NSX」のテストドライバーを務めた玉村誠氏がアドバイザーとして参加。2019年は日本自動車工業会 会長賞を受賞(ほか26校同時受賞)

 大会は5日間の日程で、スケジュール前半は車両の設計などを見る「静的審査」、後半は走行性能を見る「動的審査」が行なわれた。今回は最終日の8月31日に現地へ行き、成績上位校のみで競われる最後のプログラムなどを取材した。

 今回の大会は天候が安定せず気温も低かったが、最終日は青空が広がり気温も上昇。その影響もあったのか、約20kmの連続走行を行なうエンデュランスでは、上位校でもマシントラブルが続出した。

 これによって最終成績がどうなるか読みにくい状況になり、さらに前日までの成績上位6校が走るファイナル6でも、なんと4校のマシンがトラブルでリタイアという大波乱。

 そんな激戦の結果、総合成績で1位になったのは名古屋工業大学。2位は横浜国立大学、3位はEVクラスから名古屋大学EV、4位はTongji University、5位は神戸大学、6位は茨城大学となった。

最終日、日が暮れてから開催された表彰式。まずば協賛各社からの表彰と会場になったエコパがある袋井市、掛川市、静岡県からの表彰が行なわれた。それが終わると総合成績の表彰となった。こちらは袋井市長賞で大阪大学が受賞。静的審査の得点が最も高かった
掛川市長賞は名古屋工業大学が受賞。動的審査の得点が最も高かった
静岡県知事賞は横浜国立大学。エンデュランスを除く動的審査とクルマ作りの評価が高かった
表彰の模様。左から4人は自治体などの賞の受賞校代表者。中央左寄りのマイクを持つ女性が総合成績1位の名古屋工業大学の代表者で、続けて左に2位、3位、4位、5位、6位という並び
総合成績の上位3校のマシンを紹介する。まずは1位の名古屋工業大学
2位の横浜国立大学
3位の名古屋大学EV。4輪モーター仕様

クルマ作りのすべてが審査される、もの作り力を測る独特のイベント

 学生フォーミュラ日本大会は「将来の自動車業界を支える技術者を育てる」ということを目的にしているので、審査においては「もの作りの面」が採点の大きなポイントになっている。

 前述もしたが、車両クラスは排気量710cc以下の4サイクルのガソリンエンジンを搭載するICVクラスと最大公称作動電圧600VのEVクラスがあり、参加台数はICVクラスのほうがまだまだ多数を占めるが、EVクラスも年々エントリーが増えている。

 また、今年は早くからEVクラスにエントリーしていた名古屋大学が4輪モーターの車両を国内チームで初めて製作し、今大会で1番と言えるほどの注目を集めるなど、話題が多いクラスとなっている。

ICVクラスでは2輪車用のエンジンが主に使用される。車体の軽量化を狙い、単気筒や2気筒エンジンを選ぶチームも多い。#23は日本自動車大学校の車両で、ヤマハ製の688cc 2気筒エンジンを搭載
#19は山陽小野田市立山口東京理科大学。エンジンはハスクバーナーの600cc
制御系はレース用ECUを使い、独自にセッティングする。こちらは#13 茨城大学のマシン
#E10 トヨタ東京自動車大学校のEV車両。EV車はバッテリーを搭載するので、車両重量はICVよりかなり重くなっているのが現状
EVクラスには海外勢も多い。#E04は台湾のNational Tsing Hua University(国立清華大学)
#E20は中国のJilin University(吉林大学)
4輪モーターでトルクベクタリングも行なう#E01 名古屋大学の車両
海外の大学が作った4輪モーターのマシンを見て自分たちもチャレンジしたくなり製作したとのこと。2018年はリア駆動だったが、目標は最初から4輪モーター仕様だった
4つのモーターはトルクベクタリング制御が入るので、ドライバーからは「アンダーステアがないフィーリング」というコメントだった。シャシーに関してはデフギヤがないので、車体側の剛性の考え方が従来とは違うとのこと

 出場チームは最初に車検を受けて車両の安全が厳しく確認される。そこをクリアするといよいよ審査へ。

 審査内容は大きく分けて「静的審査」と「動的審査」の2項目で、静的審査ではマシン製作のコスト計算や製作するパーツに対する口頭試問を行ない、それらに対する知識や理解度が試される。

 次に行われるのがプレゼンテーション審査。この競技では学生たちは仮想の設計会社の社員であり、自社のマシンを売り込む体になっている。そして、審査では売り込む企業の役員(審査員)に向けて、車両の製造、販売を含むビジネスプランなどのプレゼンテーションを行ない、その内容が採点される。

速いクルマを作る競技ではなく「もの作りの総合力」を競うのが学生フォーミュラ

 静的審査の最後はデザイン(設計)審査。ここでは実車と事前に提出した書類をベースに、設計に対しての口頭試問が行なわれる。この審査では「車両設計の多様性」が重視されているので「どうしてそうなったのか?」「どういうことを考えてきたのか?」「そのために何をしてきたのか?」「それらによって何がどれくらいよくなったのか?」などが重視される。ただ、学生チームは高得点を取るために過去の成功例などからヒントを得て「正解と思われるもの」をカタチにしてくる傾向があるというが、前記したように審査員は「車両設計の多様性」を求めているので、実績ではなくやってきたことの中身を第一に考えることが高得点に結びつくということだ。

審査では自分たちの車両設計や性能目標を説明できることが重要。作っただけでなく、試した結果についてもきちんと解説。結果がよくても検証していないものは審査で評価されない
デザイン審査の審査時間は決まっているので、説明時の手際がわるく、すべてを紹介しきれないと獲得できる得点も減る。そういったことから、各チームには時間のマネージメント能力も求められる
空力装置もチームごとに考えが違うので、同じ競技に参加しているマシンであっても見た目はかなり違う

 そして動的審査だが、こちらは加速性能を競う「アクセラレーション」と8の字コースによるコーナリング性能を見る「スキッドパッド」、それに加えて直線、コーナー、スラローム、シケインなどを設けた約800mのコースのタイムを競う「オートクロス」があり、最後にオートクロスのコースを周回用に再設定したコースをドライバー交代を入れながら約20km走行する「エンデュランス」が行わなれ、それぞれの順位により得点が与えられる。また、エンデュランスでは燃費(EV車では電力消費量)も評価されるという内容になっている。

オートクロスとエンデュランスはスケジュール後半の華。最高速100km/hを超えるので、広いコースで競われる
ドライバーは2名。オートクロスでは1人ずつ走ってタイムを合計。エンデュランスではドライバー交代を行なう
コースの途中にはいくつか待機所があって、追いつかれた車両はいったんそこに入る
最後のプログラムとなる「ファイナル6」は参加6台中、4台がリタイア。これは大きな番狂わせとなった。最後のエンデュランスでゴールできたのは#7 名古屋工業大学と#10 横浜国立大学
すべての競技が終わると、オフィシャルがコースに出ておのおの旗を降る。この光景は毎年見られる

学生フォーミュラ日本大会は入場無料で全日程を見学可能。企業ブースも出展

学生フォーミュラ日本大会は入場無料で全日程見学できる
慣れていないと何を見ていいのか迷うので、無料のガイドツアーの依頼をお勧めする
珍しい出展もある。こちらはEVバイクの最高速チャレンジマシン。モビテックという企業のブースに展示してあった。2019年モデル(EV-02A)は米国 ソルトレイクで行なわれた「ボンネビルスピードウィーク」の最高速チャレンジで、平均車速329km/hのEVバイク世界記録を達成したとのこと
会場内には協賛各社が学生に向けて自社をPRするためのブースを設けている
トヨタ自動車はTS030のエンジンカットモデルを展示
小松製作所は大型ダンプトラックのATを展示
先進技術の展示もあった。こちらはヴァレオのブース

 協賛企業ブースは、学生フォーミュラ日本大会に参加しているもの作り好きな学生たちでどこも混みあっていた。その中でも最新のレーザースキャナーなどを展示するヴァレオのブースも注目度が高いようで、車両のメンテナンスや競技の進行から手が空いた学生が訪れていた。レポートの最後として、見せていただいた展示物を写真で紹介する。

ヴァレオ レーザースキャナーの最新モデル。垂直方向の検知域を現行の3.2度から約3倍の10度としている。これによって路面の白線が検知可能になる。2020年より量産予定
EV向けの電動エアコンコンプレッサー。インバーター、モーター、スクロール部を直列に配置した小型軽量モデル。モーターの発熱はスクロール部に戻る低温のガスで冷却ができる。2019年に登場するクルマに搭載されるということだった
マツダ「ロードスター」に採用されているセミセンター式空調ユニット。省スペースながら効率よく空気を取り込める。また、内部の空気通路は複雑な形状ながら圧力損失が少ないよう設計され、なおかつどの吹き出し口からも均等な量、同じ温度の風を出せるようにしている。空気を流すことについてはボディの空力以上に凝った内容とも言える部位だ
日産自動車「e-NV200」に採用されているアクティブエアーバッテリークーラーユニット。従来のバッテリー冷却用ファンは風を送るだけだったが、これは冷媒からの冷気を取り込んでいるので、より効率よく冷却ができる。また、バッテリーは寒冷地での冷えすぎも禁物なので、このユニットにはヒーターも設けてあり、寒冷地ではヒーターで暖めた風をバッテリーへ送れる
ペンデュラムダンパー付きのトルクコンバーター。ロングトラベルダンパーという柔らかいスプリングを使った独自のねじれ利用の機構を採用することで、変速時のショックを軽減している。また、ロックアップクラッチ部は3倍の耐熱寿命を持たせ、なおかつクラッチを多板化している。なお、今は約1000rpmという低回転からロックアップができるようにしているが、低回転でのロックアップでは微振動が出ることもあり、それを打ち消すためにペンデュラムというムービングウエイトを組み込んでいる
わさびの効果でエアコン内を除菌する「わさびデェール」というアイテム。エアコンフィルターに装着する。エアコンを使用していない駐車時などにわさび成分が広がり、エアコンユニット内を抗菌するという。装着している状態でエアコンのドレンから出る水を検査するとバクテリアの数が半分以下になり、エアコンの臭い(バクテリアの臭い)も大幅に抑えられるようになる。エアコンフィルターの交換時期と同じく、約1年が交換の目安。カーショップやネットショップで発売されている