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ミシュラン、環境負荷低減活動の「3R」を促進する「X One リトレッド」のリトレッド工場説明会
115℃ほどの比較的低温で長時間加硫し、タイヤのクオリティを保つ
2018年8月15日 12:49
日本ミシュランタイヤは、トラック・バス用のワイドシングルタイヤ「X One(エックスワン)」シリーズをベースに、トレッドゴムを再生加工して製品化した「X One XDN 2 リトレッド(エックスワン エックスディーエヌツー リトレッド)」「X One MULTI ENERGY T リトレッド(エックスワン マルチエナジーティー リトレッド)」の2種類の販売を10月から開始することに先駆け、X Oneシリーズの再生加工を行なっているリトレッド工場を報道向けに公開した。
ミシュランは、日本で2005年から新潟県糸魚川市にある「髙瀬商会」と契約してトラック・バス用タイヤのリトレッドサービスをスタート。これまでは取引先の運送会社などから使用済みのケーシング(台タイヤ)を受け取り、これにトレッドパターンが施された板状のトレッドゴムを貼り付けてリトレッドを行ない、元の所有者に送り返すスタイルでサービスを行なってきたが、新たにリトレッドを行なったX Oneシリーズのタイヤを製品として販売することになった。
当日は見学に先立ってプレゼンテーションが行なわれ、日本ミシュランタイヤ B2Bタイヤ事業部 常務執行役員の高橋敬明氏から輸送業界を取り巻く環境と課題、ミシュランがX Oneシリーズなどを活用して提案している課題解決に向けたソリューションなどについて説明された。
この中で高橋氏は、近年は安全に対する行政の規制が強化され、排出ガスの浄化装置、安全対策装置の装着が義務化されるといったハード面、ドライバーの拘束時間管理の厳格化や過積載取り締まりの強化といったソフト面の両面から、輸送業界で収益を確保するのが難しくなっていると指摘。
専用のアルミホイールとセット装着することになるX Oneシリーズは、車両に導入すると1軸当たりで車両重量を100kg軽量化でき、その分を搭載して運ぶ荷物に割り当てることでユーザーである運送会社などの収益性を高めることができるとアピール。また、タイヤの横幅が広いX Oneシリーズではトレッド面の下に金属製の帯で構成された「インフィニコイル」を採用。タイヤの耐久性が大きく引き上げられており、パンクなどのトラブルを防いで安全性も高まるとしている。
一方でX Oneシリーズは、競合他社の一般的なダブルタイヤと比較すると初期の導入コストが高く、燃費については改善されるとの試算はあるものの、タイヤそのものによるコストがネックになって導入に踏み切れない運送会社などがあると商品性について評価。この点を解決する新しい施策として、X Oneシリーズのリトレッドタイヤを市販化。X Oneシリーズを導入しやすくなることに加え、ミシュランがグローバルで推進している「3R(リデュース、リユース、リサイクル)」が強化され、輸送業界と地球環境の両面でさらに貢献できるようになると語った。
また、日本ミシュランタイヤ B2Bタイヤ事業部でリトレッドマーケティングマネージャーを務める谷口智宏氏から、X Oneシリーズが持つ基本特性や導入メリット、10月から販売を開始する「X One リトレッド」の2製品の商品性について説明が行なわれた。
谷口氏は説明の中で、「ミシュランの使命はモビリティへの貢献です。先進的な技術をお客さまに提供することがわれわれミシュランタイヤのDNAとなっています」とコメント。1946年には世界で初めてラジアルタイヤを開発し、それまで主流だったバイアスタイヤからの転換によって世界のタイヤ使用本数を大きく削減したとの歴史を紹介。現代ではX Oneシリーズを展開することで生産性と労働環境の整備を両立し、輸送業界に貢献。これまで以上に3R活動を推進することで環境負荷の低減して、かつてラジアルタイヤを市場投入したときのように社会貢献していくと語った。
お客さまは新品に近いものを求めている
プレゼンテーション後に実施された工場見学では、敷地面積が約1万8000m2あるという糸魚川工場で行なわれているリトレッドの各工程が紹介された。
リトレッドを行なうために運ばれてきた使用済みのタイヤは、後で行なわれるコンディション確認で検査員がタイヤに近寄ってしっかり目視できるよう、最初に全タイヤを自動洗浄機とブラシを使って水洗い。きれいになったタイヤは乾燥室で水分を完全に取り除き、「釘穴検査」「シアログラフィ」「目視検査」の3つの工程でコンディション確認が行なわれる。
釘穴検査では専用の機械を使い、タイヤの内側にのれん状の部品を設置。この状態で高電圧をタイヤに流すと、タイヤに問題がない場合はゴムが絶縁性を発揮して何も起きないが、内側まで貫通した傷がある場合はのれん状の部品に電気が伝わって音が鳴り、貫通傷があることが分かるという。また、タイヤは単純なゴムのかたまりではなく、内側に金属を使ったベルトやカーカス、ビードワイヤーなどが入っており、これらがゴムと分離している場合は本来の性能が発揮できないため、超音波で測定を行なうシアログラフィで内部構造も検査する。このほかにも検査員の目視と触感によってタイヤ全体の傷や変形などをチェック。この工程で持ち込まれたタイヤの10%程度が「再使用不可」と判断されているという。
確認後のタイヤはリトレッド作業を行なう規定サイズに合わせるため、表面にブラシを当てた状態で回転され、コンピューター制御でトレッドゴムを規定値まで削り取る「バフがけ」を実施。バフがけではタイヤのトレッド面内側にあるベルトから、ゴム厚を3mm以下にすることを目安にしているという。ここで規定以上のゴムが残って厚さが増えると走行時に発熱量が増え、トラブルが起きる原因になるという。この作業では見極めや調整がシビアになるが、「ここをしっかり作業しないといいタイヤができない」とのこと。
また、確認段階で小さな釘穴や傷が発見されつつ使用可能と判定されたタイヤは、バフがけ後に修理を実施。傷の盛り上がりがある場合は「スカイブ」と呼ばれる器具で傷口を削って補修。貫通傷はプラグを埋め込んだり、パッチを貼り付けて補修する。
バフがけが行なわれたゴムは、そのままの状態が続くと表面が酸化し、酸化皮膜になってリトレッドゴムとの接合性が低下するため、あらかじめ「ゴムの糊」として機能する加硫用のセメント材を全体に塗布しておく。
バフがけでサイズ調整され、状態に応じて補修が行なわれたタイヤは、いよいよ新しいトレッドゴムと組み合わされる「ビルディング」工程を迎える。タイヤは専用のビルディング機にセットされ、あらかじめトレッドパターンが刻まれて加硫された板状のトレッドゴムが巻き付けられる。この時、ケーシングとなるタイヤによって微妙に直径が異なることからトレッドゴムの一部をカットしてサイズ調整しているが、タイヤに巻き付けた時にトレッドパターンが両端でそろうよう位置を見極めてカットしているという。
リトレッドが普及している海外市場では多くの場合でトレッドパターンを気にせずカットしているが、日本では見た目の仕上がりも気にするユーザーが多く、新品タイヤと見比べて差が出ないよう心がけているという。この点は最終工程となる「仕上塗装」でも同様で、新しく見えるような光沢は求めつつ、不自然なほどピカピカする仕上がりは敬遠されるそうで、「お客さまはあくまで、品質も見た目も新品に近いものを求めている。それをコストの面も満足させながらどうやって作り上げるかが大事なところ」と説明された。
トレッドゴムが貼り付けられたタイヤは「エンベロープ」というゴム製のカバーで包み込まれ、熱を加えて加硫するチャンバー内に収められる。エンベロープにはバルブが用意されており、加熱が始まると内圧によって空気が抜けて内部が真空状態に近づき、密着性が高まってタイヤとトレッドゴムが強固に接着される。
糸魚川工場での加熱設定は115℃で、3時間20分ほどかけて加硫が行なわれる。温度設定を高めると加硫時間を短く済ませることも可能だが、その分だけベースとなるタイヤに負荷がかかって仕上がりの品質を下げる可能性があるため、このバランスも性能を左右するポイントになるという。
加硫が終わってチャンバーから出されたタイヤはエンベロープが外され、安全性を確保した専用の計測装置の中で走行時と同じ圧力の空気が充填されて耐久性をチェック。さらに目視でも最終検査を行なって、問題がなければ仕上げ塗装を施して完成となる。