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ミシュラン、環境負荷低減活動の「3R」を促進する「X One リトレッド」のリトレッド工場説明会

115℃ほどの比較的低温で長時間加硫し、タイヤのクオリティを保つ

リトレッドで走行可能な状態に戻されたトラック・バス用のワイドシングルタイヤ「X One(エックスワン)」。どちらもケーシング(台タイヤ)は「X One XZY3」だが、左はトレーラー用の「X One X MULTI ENERGY T」、右は冬用タイヤの「X One XDN2」のトレッドゴムが使われている

 日本ミシュランタイヤは、トラック・バス用のワイドシングルタイヤ「X One(エックスワン)」シリーズをベースに、トレッドゴムを再生加工して製品化した「X One XDN 2 リトレッド(エックスワン エックスディーエヌツー リトレッド)」「X One MULTI ENERGY T リトレッド(エックスワン マルチエナジーティー リトレッド)」の2種類の販売を10月から開始することに先駆け、X Oneシリーズの再生加工を行なっているリトレッド工場を報道向けに公開した。

 ミシュランは、日本で2005年から新潟県糸魚川市にある「髙瀬商会」と契約してトラック・バス用タイヤのリトレッドサービスをスタート。これまでは取引先の運送会社などから使用済みのケーシング(台タイヤ)を受け取り、これにトレッドパターンが施された板状のトレッドゴムを貼り付けてリトレッドを行ない、元の所有者に送り返すスタイルでサービスを行なってきたが、新たにリトレッドを行なったX Oneシリーズのタイヤを製品として販売することになった。

日本ミシュランタイヤ株式会社 B2Bタイヤ事業部 常務執行役員 高橋敬明氏

 当日は見学に先立ってプレゼンテーションが行なわれ、日本ミシュランタイヤ B2Bタイヤ事業部 常務執行役員の高橋敬明氏から輸送業界を取り巻く環境と課題、ミシュランがX Oneシリーズなどを活用して提案している課題解決に向けたソリューションなどについて説明された。

 この中で高橋氏は、近年は安全に対する行政の規制が強化され、排出ガスの浄化装置、安全対策装置の装着が義務化されるといったハード面、ドライバーの拘束時間管理の厳格化や過積載取り締まりの強化といったソフト面の両面から、輸送業界で収益を確保するのが難しくなっていると指摘。

 専用のアルミホイールとセット装着することになるX Oneシリーズは、車両に導入すると1軸当たりで車両重量を100kg軽量化でき、その分を搭載して運ぶ荷物に割り当てることでユーザーである運送会社などの収益性を高めることができるとアピール。また、タイヤの横幅が広いX Oneシリーズではトレッド面の下に金属製の帯で構成された「インフィニコイル」を採用。タイヤの耐久性が大きく引き上げられており、パンクなどのトラブルを防いで安全性も高まるとしている。

 一方でX Oneシリーズは、競合他社の一般的なダブルタイヤと比較すると初期の導入コストが高く、燃費については改善されるとの試算はあるものの、タイヤそのものによるコストがネックになって導入に踏み切れない運送会社などがあると商品性について評価。この点を解決する新しい施策として、X Oneシリーズのリトレッドタイヤを市販化。X Oneシリーズを導入しやすくなることに加え、ミシュランがグローバルで推進している「3R(リデュース、リユース、リサイクル)」が強化され、輸送業界と地球環境の両面でさらに貢献できるようになると語った。

ハード、ソフトの両面から規制が強化され、輸送業界の収益性を圧迫
人手不足から女性やベテランに働き手を求めるため、車両に設置する装置がさらに増える傾向にある
重量面の負担をカバーするため、ミシュランではX Oneシリーズの導入を強く勧めている
X Oneシリーズの構造が持つ高い耐久性のほか、タイヤの温度や空気圧を可視化して異常を早期発見する「ミシュラン TPMS クラウドサービス」で安全、安心を強化
X Oneシリーズについて、生産性と安全性+安心という面は◎としつつ、コスト削減については△という自己評価
ミシュランは環境貢献の活動として「3R」をグローバル展開。リトレッドは使い終わった製品を再生するリサイクルに位置付けられる
X Oneシリーズのリトレッドタイヤを市場投入することで、コスト削減の効果を高めて輸送業界に貢献
日本ミシュランタイヤ株式会社 B2Bタイヤ事業部 リトレッドマーケティングマネージャー 谷口智宏氏

 また、日本ミシュランタイヤ B2Bタイヤ事業部でリトレッドマーケティングマネージャーを務める谷口智宏氏から、X Oneシリーズが持つ基本特性や導入メリット、10月から販売を開始する「X One リトレッド」の2製品の商品性について説明が行なわれた。

 谷口氏は説明の中で、「ミシュランの使命はモビリティへの貢献です。先進的な技術をお客さまに提供することがわれわれミシュランタイヤのDNAとなっています」とコメント。1946年には世界で初めてラジアルタイヤを開発し、それまで主流だったバイアスタイヤからの転換によって世界のタイヤ使用本数を大きく削減したとの歴史を紹介。現代ではX Oneシリーズを展開することで生産性と労働環境の整備を両立し、輸送業界に貢献。これまで以上に3R活動を推進することで環境負荷の低減して、かつてラジアルタイヤを市場投入したときのように社会貢献していくと語った。

X Oneシリーズを導入するメリットは、軽量化やメンテナンス作業の省力化など4点
横幅の広いX Oneシリーズでは遠心力によるせり上がりを防止するため、トレッド面のベースに金属製のインフィニコイルを採用
ミシュランではタイヤの長寿命化によるリデュース、排水用のグルーブを再生して使い続けるリユース、トレッドゴムを貼り付けてリトレッドするリサイクルによってユーザーメリットと環境性能を高めている
「XDN 2 リトレッド」(左)はさまざまなトラックや環境での使用に対応、「MULTI Energy T リトレッド」(中央)はトレーラー向けで省燃費性も高めたタイプとなる
「X One リトレッド」の追加により、X Oneシリーズはさらに高い環境性能を持つタイヤとなる
見学会場の一角では製品展示も実施
「X One XDN 2 リトレッド」
「X One MULTI ENERGY T リトレッド」

お客さまは新品に近いものを求めている

工場見学が行なわれた糸魚川工場

 プレゼンテーション後に実施された工場見学では、敷地面積が約1万8000m2あるという糸魚川工場で行なわれているリトレッドの各工程が紹介された。

 リトレッドを行なうために運ばれてきた使用済みのタイヤは、後で行なわれるコンディション確認で検査員がタイヤに近寄ってしっかり目視できるよう、最初に全タイヤを自動洗浄機とブラシを使って水洗い。きれいになったタイヤは乾燥室で水分を完全に取り除き、「釘穴検査」「シアログラフィ」「目視検査」の3つの工程でコンディション確認が行なわれる。

 釘穴検査では専用の機械を使い、タイヤの内側にのれん状の部品を設置。この状態で高電圧をタイヤに流すと、タイヤに問題がない場合はゴムが絶縁性を発揮して何も起きないが、内側まで貫通した傷がある場合はのれん状の部品に電気が伝わって音が鳴り、貫通傷があることが分かるという。また、タイヤは単純なゴムのかたまりではなく、内側に金属を使ったベルトやカーカス、ビードワイヤーなどが入っており、これらがゴムと分離している場合は本来の性能が発揮できないため、超音波で測定を行なうシアログラフィで内部構造も検査する。このほかにも検査員の目視と触感によってタイヤ全体の傷や変形などをチェック。この工程で持ち込まれたタイヤの10%程度が「再使用不可」と判断されているという。

約1万8000m2の敷地面積を持つ糸魚川工場。提携先から持ち込まれた使用済みのタイヤ、リトレッドの作業が終わったタイヤなどが多数置かれている
トレッドゴムが磨り減った使用済みのタイヤ。まずすべてのタイヤを水洗いして汚れを落とす
「シアログラフィ」(写真)などの検査機を使い、貫通傷や内部での剥離などをチェック。さらに検査員による全体確認も行なわれる

 確認後のタイヤはリトレッド作業を行なう規定サイズに合わせるため、表面にブラシを当てた状態で回転され、コンピューター制御でトレッドゴムを規定値まで削り取る「バフがけ」を実施。バフがけではタイヤのトレッド面内側にあるベルトから、ゴム厚を3mm以下にすることを目安にしているという。ここで規定以上のゴムが残って厚さが増えると走行時に発熱量が増え、トラブルが起きる原因になるという。この作業では見極めや調整がシビアになるが、「ここをしっかり作業しないといいタイヤができない」とのこと。

 また、確認段階で小さな釘穴や傷が発見されつつ使用可能と判定されたタイヤは、バフがけ後に修理を実施。傷の盛り上がりがある場合は「スカイブ」と呼ばれる器具で傷口を削って補修。貫通傷はプラグを埋め込んだり、パッチを貼り付けて補修する。

 バフがけが行なわれたゴムは、そのままの状態が続くと表面が酸化し、酸化皮膜になってリトレッドゴムとの接合性が低下するため、あらかじめ「ゴムの糊」として機能する加硫用のセメント材を全体に塗布しておく。

確認後のタイヤは「バフがけ」という工程でトレッドゴムが削られ、リトレッド作業に向けた規定サイズに調整
タイヤに傷がある場合は、バフがけ後に「スカイブ」(左)で盛り上がりを削り取り、セメント剤を塗布してから溶かしたゴムで埋める「フィリング」(中央、右)で補修される

 バフがけでサイズ調整され、状態に応じて補修が行なわれたタイヤは、いよいよ新しいトレッドゴムと組み合わされる「ビルディング」工程を迎える。タイヤは専用のビルディング機にセットされ、あらかじめトレッドパターンが刻まれて加硫された板状のトレッドゴムが巻き付けられる。この時、ケーシングとなるタイヤによって微妙に直径が異なることからトレッドゴムの一部をカットしてサイズ調整しているが、タイヤに巻き付けた時にトレッドパターンが両端でそろうよう位置を見極めてカットしているという。

 リトレッドが普及している海外市場では多くの場合でトレッドパターンを気にせずカットしているが、日本では見た目の仕上がりも気にするユーザーが多く、新品タイヤと見比べて差が出ないよう心がけているという。この点は最終工程となる「仕上塗装」でも同様で、新しく見えるような光沢は求めつつ、不自然なほどピカピカする仕上がりは敬遠されるそうで、「お客さまはあくまで、品質も見た目も新品に近いものを求めている。それをコストの面も満足させながらどうやって作り上げるかが大事なところ」と説明された。

トレッドゴムを貼り付ける「ビルディング」工程(2分46秒)
ほかの工場で製造されたトレッドゴムは、専用のビルディング機の上で裏面に接着剤としての役目を持つゴムクッションのシートを設定。シートはトレッドゴムより少し大きめになっており、タイヤのサイドウォールに貼り付けられる
タイヤを回転させながらトレッドゴムを貼り付け、カットされたトレッドパターンの断面が両端で合うよう見極めながら作業が進められている
ビルディング後のタイヤがエンベロープで包まれるシーン(32秒)

 トレッドゴムが貼り付けられたタイヤは「エンベロープ」というゴム製のカバーで包み込まれ、熱を加えて加硫するチャンバー内に収められる。エンベロープにはバルブが用意されており、加熱が始まると内圧によって空気が抜けて内部が真空状態に近づき、密着性が高まってタイヤとトレッドゴムが強固に接着される。

 糸魚川工場での加熱設定は115℃で、3時間20分ほどかけて加硫が行なわれる。温度設定を高めると加硫時間を短く済ませることも可能だが、その分だけベースとなるタイヤに負荷がかかって仕上がりの品質を下げる可能性があるため、このバランスも性能を左右するポイントになるという。

 加硫が終わってチャンバーから出されたタイヤはエンベロープが外され、安全性を確保した専用の計測装置の中で走行時と同じ圧力の空気が充填されて耐久性をチェック。さらに目視でも最終検査を行なって、問題がなければ仕上げ塗装を施して完成となる。

円筒形のチャンバー内は115℃に温度設定され、3時間20分ほどかけて加硫する
チャンバーの扉が開いて加硫されたタイヤが姿を現わす
チャンバー内のレールと工場内のレールを接続してタイヤを取り出し、次の作業スペースまで移動していく。レールには何か所も切り替えポイントが設定され、各作業スペースにそのまま移動可能となっている
油圧式の専用器具でエンベロープを取り外す
加硫が終わった直後のタイヤ
接合部分はアップにしなければなかなか判別できないレベル。間に挟み込まれたゴムクッションも熱でしっかりと融合していることが分かる
側面のゴムクッションもサイドウォールにきれいに貼り付いている
このほかに工場見学では、走行で摩耗したタイヤに専用機材で溝を刻むリグルーブ作業の体験時間も用意された
電力でU字型の刃先を熱し、トレッド面を彫るようにして溝を作るリグルーブの機材。タイヤのゴムに刃先が当たって後方に押されると通電し、刃先が発熱する仕組み
走行でゴムが減り、溝がなくなったタイヤ。ミシュランの製品でリグルーブに対応しているタイヤは、サイドウォールに「REGROOVABLE」の文字が入っている
作業を始める前に、デプスゲージ(溝ゲージ)で残っている溝の深さを計測
計測した残溝に合わせて刃先を何mm出すか計算。専用器具を使って刃先の高さを調節する
リグルーブ体験の前に、ミシュランのスタッフが機材の使い方や注意事項などを説明
高熱になる刃先の前に、タイヤを押さえようと空いた手を置くのは厳禁。作業しない方の手はサイドウォールに添えるよう指示された
参加者が交代でリグルーブを体験。慣れないうちは押す力が足りずに刃先が同じところに止まりがちになり、ゴムの熱が高くなりすぎて白煙が出てしまう。こうなると刃先の消耗が進んですぐに使えなくなる
慣れてくると刃先がスルスルと進んでいき、気持ちよく溝を掘り進められるようになる
タイヤは水平面ではないこともあり、押す力を一定に保ってリグルーブしていくのはなかなか難しい。しかし、費用対効果が高いことから自分たちで作業している企業は多いとのこと
このタイヤは左半分が摩耗したままの状態で、右半分は熟練者がリグルーブした後。慣れてくると複雑なトレッドパターンも再現できるようになる