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ミシュラン、ワイドシングルタイヤ「X One」も試乗できた「2017 アドバンスユーザーミーティング」レポート

商用車向けZF製8速ATの試乗も実施

2017年9月15日 開催

「2017 ミシュラン アドバンスユーザーミーティング」で試乗や展示などに使われた車両

 日本ミシュランタイヤは9月15日、GKNドライブライン ジャパン プルービンググラウンド(栃木県栃木市)で同社のトラック・バス用タイヤユーザーなどを対象としたイベント「2017 ミシュラン アドバンスユーザーミーティング」を開催した。

4回目の開催となる「アドバンスユーザーミーティング」の趣旨などを解説する日本ミシュランタイヤ株式会社 トラック・バスタイヤ事業部 執行役員 高橋敬明氏

 今回で4回目となるこのイベントでは、ミシュランの特徴的な商品であるトラック・バス用ワイドシングルタイヤ「X One」を訴求することをはじめ、エンドユーザーである運送会社とミシュラン、各関連会社が一堂に集まって意見交換や交流を行ない、運輸業界の活性化を図ることも目的の1つとして実施されている。

 これまではホテルなどを会場に、ミシュランの担当者がX Oneが持つメリットなどを詳細なデータなどを使いつつ解説したり、X Oneを実際の業務に導入している運送会社の代表などが実例を説明することがメインとなっていたが、4回目となる今回は、前出のように各種クローズコースを備えるGKNドライブライン ジャパン プルービンググラウンドを会場に設定。X Oneの製品解説や導入事例の紹介などを行ないつつ、実際にX Oneを装着した車両を参加者が試乗してワイドシングルタイヤが持つ特徴を実感できるようにした。

会場に並べられた、ミシュランのトラック・バス用ワイドシングルタイヤ「X One」装着車両
5月に発表された三菱ふそうトラック・バスの新型「スーパーグレート」から、X Oneがメーカーオプション装着タイヤとして選べるようになっている

ラリードライバー・菅原義正氏がドライブするX One装着車両に同乗試乗

ダカールラリーの最多連続出場でギネス記録を持つラリードライバー・菅原義正氏

 会場のコース外周にある「高速周回路」では、X Oneが持つ高速安定性を体感できる試乗メニューを用意。大型免許を持つ参加者は自分でステアリングを握って試乗できたほか、筆者のように大型免許を持っていない参加者のために、特別ゲストとして「日野レンジャー」でダカールラリーに参戦しているラリードライバーの菅原義正氏が参加。菅原氏がドライブするX One装着車両の助手席で同乗試乗が体験できた。

試乗車として供与されたダイワ運輸の「日野 プロフィア」。リアの4輪がX Oneとなる

 走行中の車内で菅原氏は、X One装着車両の印象について「後ろのタイヤが(ダブルタイヤから)1輪になってるから、細いタイヤが2つあるのと比べて横方向の剛性がしっかりしているね。こういったところ(レーンチェンジ)でステアリングを切ったときにタイヤが太いだけあってよれないあたりに意義があるのかな。あと、僕らが普段使うラリー用のヤツは思いっきりハイトが高いから、そこも違うね」とコメントしてくれた。

高速周回路では最高80km/hほどで走り、レーンチェンジなどを体感できた
菅原氏は「いつも乗ってるレース用とは、シートとかサスペンションとかいろいろ違うからちょっと分かりにくいんだけど」と語りつつ、X Oneが一般的なダブルタイヤと比べてレーンチェンジなどのシーンでしっかりと手応えのあるタイヤだと解説してくれた
80km/hほどの走行中に、直線でレーンチェンジを実施

8の字走行&車庫入れ

X Oneの軽快な走りを体感する試乗メニュー

 もう1つの試乗では、ダブルタイヤよりワイドシングルタイヤのほうが旋回時の抵抗が少なく、右左折や車庫入れなどのシーンで軽快に走行できることを体感。定常円旋回や8の字走行のほか、パイロンで設定したスペースにバックで車庫入れするといったメニューが用意された。

試乗車として供与された貴(Taka)の「三菱ふそうトラック・バス スーパーグレート」。こちらもリアの4輪がX One
定常円旋回や8の字走行で、大きな抵抗なく追従するワイドシングルタイヤのメリットを体感しているシーン
小型のパイロンで指定した駐車エリアにバックで入っていくところ
横に並ぶ4本のタイヤがそれぞれ異なる軌跡を描こうとして抵抗になってしまうダブルタイヤより、ワイドシングルタイヤは軽い力で旋回できるという

ZF製の8速AT搭載車も試乗できた

日野「デュトロ」をベースに、ZF製の8速ATを搭載したプロトタイプ車両

 今回のアドバンスユーザーミーティングではゼット・エフ・ジャパンなどが共催企業として参加しており、ZF製の8速ATを搭載したプロトタイプ車両の試乗時間が用意された。

通常のデュトロと大きく異なるのは、車内の中央に設置されたシフトセレクター。バイワイヤー式の8速ATで、マニュアル変速モードも備えている
インパネ中央にさまざまな車両情報を表示するモニターを追加。表示の右上に出ている数字(写真では1)が現在のギヤ。走行中に視線を送ると頻繁に数字が上下していたが、体感では変速のタイミングが分からなかった

 このプロトタイプ車両は普通免許(2017年3月11日までに取得したもの)で運転できる日野「デュトロ」をベースとしたものだったので筆者も運転してみたが、試乗中に説明されるまで車両が最大積載量の2tに合わせてウエイトを搭載していることに気がつかなかったほどスタートから軽快に加速。走り始めるとあっという間に4速、5速とギヤが変速されていくが、加減速してもどの瞬間に変速が行なわれたのか体感できないスムーズさが印象的だった。

試乗は高速周回路に加えて登坂路でも実施。坂の途中で一時停止して再発進するメニューとなっており、ゆっくりとペダルの踏み替えるとわずかに後退したものの、最大積載状態であることを感じさせない滑らかな坂道発進となった

X Oneは“日本のニーズに合ったスタンダードタイヤ”

日本ミシュランタイヤ株式会社 トラック・バスタイヤ事業部 技術サポート 永楽俊平氏

 セミナーパートではミシュランとゼット・エフ・ジャパンの各担当者が運輸事業向けの製品について解説を実施。

 まず登壇した日本ミシュランタイヤ トラック・バスタイヤ事業部 技術サポート 永楽俊平氏は、ワイドシングルタイヤのX Oneについて説明。とくにトラックにX Oneを装着するメリットについて、これまでにもたびたび語られてきた「軽量化による最大積載量の増加」に加え、右左折などの頻度が欧米などよりも高い日本市場ではX One装着による「ハンドリング性能の向上」、2本のタイヤが1本に集約されてメンテナンス作業などの手数が減る「シンプル化」などを紹介した。

 このほかに永楽氏は、アドバンスユーザーミーティングでも以前から取り上げられ、最近になって注目を集めるようになってきたトラックドライバーの人員不足や高齢化などに、1回の走行で多くの荷物を運べるようになり、ニーズが増えている「荷役作業低減装置」の追加に対応するX Oneが日本の運輸業界でますます重要度が高まっていると解説。最後に永楽氏は、「もう我々は、X Oneが特別なタイヤだとは思っていません。日本のニーズに合ったスタンダードタイヤだと認識しています」とアピールしている。

欧州、北米、日本の各市場で、トラック輸送の形態の違いに合わせたサイズのX Oneを市場投入している
一般的なトレーラー用シングルタイヤと同程度の外径で比較して、幅をワイドにしたX Oneは耐荷重の負荷能力が高められている
日本市場で販売しているX Oneは、冬用タイヤの「XDN2」、オールシーズンタイヤの「XZY3」、トレーラー専用の「X MULTI ENERGY T」の3種類
X Oneが選ばれる理由の一覧
X Oneはトレッド面の下に金属製の帯で構成された「インフィニコイル」を備え、接地圧の均一化、ケーシングの耐久性向上などを図っている
X Oneをメーカーオプション装着した三菱ふそうの新型「スーパーグレート」は、通常モデルより最大積載量が多い
ミシュランに寄せられる日本の輸送業界の声
車両を軽量化できるX Oneの装着で、多くの問題の解消になるとの解説
試乗で体験してほしいポイント
X Oneが持つメリットのまとめ
ゼット・エフ・ジャパン株式会社 部長 岩田真澄氏

 また、イベントを共催したゼット・エフ・ジャパン 部長の岩田真澄氏は、ZFが交通事故をゼロにする取り組みとしてADAS(先進運転支援技術)や自動運転などの技術に注力し、関連するキーデバイスをすべて製品としてラインアップしていること、商用車向けのパワートレーン技術では比較的軽量な車両向けとしてトルクコンバーターを持つATが主流になると考えていることなどを紹介。ATではZEが開発した8速ATが燃費や走行性能といった面でこれまで主流となっている自動変速式のMTよりメリットがあり、燃費向上による燃料費削減でコストを抑え、滑らかな変速はドライバーや積み荷などに優しいとアピールした。

ZFは「見る」「考える」「動かす」といったクルマ向けのデバイスを製品としてラインアップ。商用車向けのADASシステムなどを開発しているという
ZFではドライブトレーンの完全電動化に向けて製品開発を進めている
試乗に用意されたZF製8速AT搭載車のスペック。8速ATの市販化は2020年1月を予定
8速ATは従来型の5速ATと比較して約14%燃費を向上させるとの試算
さまざまなタイプの商用車とトランスミッションの組み合わせによる燃費向上効果の試算データ
燃費改善によるコストダウンの試算
ZFのATを採用した伊イベコの「デイリートラック」は「International Van of the year 2015」に輝いている
商用車にATを採用するメリット
試乗でチェックしてほしいポイント
ZFの大型商用車用モジュール式トランスミッション「TraXon」
TraXonは2018年以降も採用車を拡大していく予定
富士運輸株式会社 代表取締役社長 松岡弘晃氏

 このほか、ミシュランタイヤの導入事例を紹介する「リアルユーザーボイス」では、全国に47拠点を展開し、年商は242億円というフジホールディングスの松岡弘晃氏が講演を実施。

 松岡氏は父親が1978年に設立した運送会社である富士運輸に入社するまではトラックを販売する仕事に就いており、その経験と自らの信念に沿って社長就任後にさまざまな社内改革を実施。中古パーツの活用やトラックメンテナンスの社内化といった徹底したコスト管理の一方で、事業拡大に向けて積極的にトラックの台数を拡大。また、トラックを運転するドライバーを確保するためにしっかりした賃金体系や負担軽減の取り組みが必要であると述べ、さまざまな実例を説明した。

 さらにコスト管理では表面的な金額の低さに惑わされず、長期的な視点でしっかりデータと理論に基づいて運用する重要さを語り、新たに導入するトラックは基本的に自動ブレーキをオプション装着することにしているとしたほか、ミシュランのタイヤは導入費用は少し高めであるものの、抜群の耐久性で長い距離を走ることが可能。安全面でもメリットがあり、2002年からは導入タイヤをミシュランに一本化していることなどを紹介している。

運輸業界の問題点と富士運輸での対応
大きな事故が起きてしまうと出費は保険などでまかなえても、迷惑をかけてしまった人に謝罪したりと精神的な負荷が大きいと松岡氏は述べ、自動ブレーキの大切さをアピールした
富士運輸でもかつては重大事故を起こしてしまった時期もあり、その経験から取得するISOを顧客満足度を示す「9001」から交通安全指標である「39001」に変更。事故の発生件数を右肩下がりで下げ続け、2016年には100万円以上の損害額となる事故をゼロにしたという
以前は導入費用が手ごろな国産メーカーのタイヤを購入していたが、耐久性や安全性といったメリットからミシュランにスイッチ。コストダウンに効果が出ていると紹介した
このほかに会場では、共催企業のブースでX One関連の製品展示などが行なわれた

オレンジ・ジャパン

オレンジ・ジャパンのブース
トラック・バス用の新製品「TPMS HT 430 BLT」を参考出品

 タイヤの空気圧管理システムを販売しているオレンジ・ジャパンのブースでは、ミシュランがX One装着車に採用を推奨している「TPMS(タイヤ・プレッシャー・モニタリング・システム)」の次期モデルを展示。

 まもなく市販化されるという新しいシステムでは、これまで標準搭載していた空気圧を数値表示するモニターをオプション化。代わりにマーク点滅とブザー音で空気圧の異常を知らせる小型の表示器を採用する。また、新たにBluetoothに対応して、Android OS対応機器に同社が無料配布するアプリをダウンロードすることで、各タイヤの空気圧をリアルタイム表示できるようにするという。

 これまでのモニターは数値を見やすく表示できる半面、本体が大きくなってトラックなどの車内で設置場所にあまり自由度がなく、せっかくTPMSを導入しても運転席から遠い位置に置かれてしまい、空気圧の異常の警告に気がつくまで時間がかかってしまうケースもあったという。新しい表示器はコンパクトで運転席近くにレイアウトしやすく、問題が起きたときにいち早くドライバーが確認できるメリットがある。対応アプリも表示を工夫して、トラクターでトレーラーを牽引するような場合でも、接続したトレーラーごとに空気圧管理を別々にデータ化できるようにしている。

サイズのコンパクト化にこだわった表示器。空気圧が異常を示したときにランプが点滅し、ブザー音と合わせてドライバーに警告する
純正装着の表示をシンプル化したことに合わせ、Bluetoothを使ったモニター表示を開発。空気圧のリアルタイム表示に加え、空気圧の履歴やトレーラーなどの単位でのデータ管理も可能

SCC Japan

SCC Japanのブース
SCC Japanのブースでは、X Oneに対応するタイヤチェーンが展示されていた
試乗コース脇に設定された「リグルーブ体験コーナー」
ミシュランの担当者によるリグルーブの実演

 ミシュランは環境保護のために「リデュース」「リグルーブ」「リトレッド」の「3R」を推進しており、会場ではすり減ったトレッドゴムに溝を刻むリグルーブの体験コーナーも用意されていた。担当者はリグルーブに使う機材は家庭用のAC100V電源で利用でき、慣れれば簡単に扱えるので積極的に導入してほしいと呼びかけていた。

リグルーブの機材。熱でゴムを溶かしながら溝を刻んでいく
元の溝に合わせてリグルーブしていく
慣れた手つきでスルスルと機材を押し進めていくと、エッジが効いた溝が再生
参加者も担当者からの解説を聞いたあと、リグルーブを体験。最初は機材を進める速度が遅く、ゴムが熱くなりすぎて煙が出るシーンもあったが、すぐにスムーズに溝を作れるようになっていた