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ミシュラン、トラック業界の10年後のビジョン共有を目指した「X Oneユーザーミーティング」開催
「9.6%燃費削減し、メンテナンス時間も半減した」とダイワ運輸の木村社長
(2014/10/6 00:00)
日本ミシュランタイヤは10月3日、兵庫県神戸市で「MICHELIN X Oneユーザーミーティング」を開催した。
実際にトラックを使う運送事業者に加え、トラックメーカーやトラックディーラー、サプライヤー、タイヤ販売店などトラック業界に関連するさまざまなジャンルから来場者が集まったこのイベントは、ミシュランが2007年から日本市場に導入したトラック/バス用のワイドシングルタイヤ「X One」の商品概要の説明や導入メリット、実際の導入企業からの使用感の紹介などを中心に、トラック業界に関連するさまざまな業種の担当者が意見交換などを行う場として設けられた。
ミーティングでは、まず日本ミシュランタイヤ 代表取締役社長のベルナール・デルマス氏から日本におけるミシュランの歴史やタイヤ業界で初の「エコファースト企業」に認定された環境活動に対する取り組みなどが紹介されたあと、日本ミシュランタイヤ トラック・バスタイヤ事業部 執行役員 高橋敬明氏によってX Oneのようなワイドシングルタイヤが開発されることになった市場環境について解説された。
高橋氏は、トラック業界でドライバーの不足、環境対応の装備追加による車両重量の増加、円高による燃料費の高騰などの要素が重なり、より効率のよい輸送方法が求められるようになっていることを説明。具体的な例として、X Oneが生み出される大きなきっかけとなった米国の石油メジャーであるエクソンモービルの事例を挙げ、石油などをタンクローリーで陸送するときに1ドル単位でも削減したいというニーズからタイヤを軽減化する要望が出され、この解決策として誕生したのがダブルタイヤから同じ軸重をカバーできる幅広のシングルタイヤであると解説。また、このシングルタイヤ化はトレッドスペースの拡大にもつながり、とくに円筒形のタンクを搭載するタンクローリーではタイヤ間のスペースに対する重要性が高く、この面でも大きく評価されることになったとのことだ。
ワイドシングルタイヤの導入により、エクソンモービルは燃料費の削減による運行経費の抑制、環境対応力の強化、ドライバー不足の解消といった効果を確認。これを受けて北米市場ではワイドシングルタイヤが大きく普及したことを紹介している。
トレッド面の強度を高める「インフィニコイル」が455mmの横幅を実現
X Oneの具体的な技術解説は、日本ミシュランタイヤ 技術部 部長 大江一孝氏から行われた。大江氏は会場にも展示されているX Oneを示しながら、この2本セットから1本という変更がX Oneの全体像を端的に表している姿であると説明。これによって「軽量化」「低燃費化」「シンプル化」「環境負荷低減」という4つの効果が生み出されるとしている。
軽量化の面では、同じ軸重をカバーするミシュランのXJW 4+と比較した場合、1輪あたりの重量がXJW 4+はタイヤが60kgでホイール(スチール)が41kgの合計101kg、X Oneはタイヤが91.5kgでホイール(アルミ)が32kgの合計123.5kg。1つの車軸でXJW 4+は4セット、X Oneは2セットとなり、軸重で404kgと247kgと157kgの差が出る計算になるという。
低燃費化では、タイヤのエネルギーロスはサイドウォールのショルダー周辺で発生しやすく、とくに重いトラック用タイヤはゴムが厚く設計されていることから、タイヤをシングル化して角を減らすことでエネルギー効率が高められる。
多方面にメリットのあるワイドシングルタイヤだが、単純にサイズを大きくしていくと、トレッド面の中央部分の強度が不足し、大型トラックの車重を支えるために高い空気圧をかけると中央部分が山形に膨らんでしまう。また、高速走行時にはタイヤ外周に強い遠心力がかかり、ここでもトレッド中央が外側に膨らむ力がかかる。この問題を解消するために開発されたのが「インフィニコイル」だ。金属製の帯で構成されたインフィニコイルがトレッド面をタイヤ内側から支えて問題を解消。さらにタイヤの接地圧が均一化されることで低燃費化、ロングライフ化などにも効果を発揮する。また、従来からある製品は駆動軸には装着不可となっていたが、インフィニコイルで強度を高めたX Oneはどの位置でも利用可能であることも大きなメリットになっているという。
このほか、ダブルタイヤからワイドシングルタイヤに変更すると左右のタイヤの合間が広がり、これを前提に車両を設計するとダブルタイヤの場合より重心位置を低くして安定性を向上させたり、バスなどに使えばキャビンスペースを拡大できる可能性もあるだろうと説明された。
このほかにミーティングでは、2013年12月から自社のトラックにX Oneの装着を開始した地元 兵庫県神戸市に本社を構えるダイワ運輸の 代表取締役社長 木村泰文氏も登壇。まず、自社が掲げた理念をいかにしてクリアしているかについて説明。運送業では実際の顧客サービスの大半をドライバーが務めるため、入社時からソフト面での教育や管理態勢を確立し、さらにハード面ではトラックのエアサス化、アルコール検知器の全車装着などを推し進めていることなどを説明した。
こうしたサービス品質の向上は重要な部分ながら、一方で費用対効果も無視できず、さまざまな取り組みを試行錯誤してきたと語り、2013年のX One導入はその一環となっている。導入前には車両重量の軽量化は誰でもすぐに理解できる直接的な効果だと考えていたが、実際に自社の営業活動で使うようになってタイヤのメンテナンス時間が半分になったこと、燃費が約9.6%低減されたことなど大きな効果が実測され、今後も採用を拡大していきたいと説明している。
最後には今後の展開などについて、日本ミシュランタイヤ トラック・バスタイヤ事業部 常務執行役員 ドミニク・ペルティエ氏が解説を担当した。ペルティエ氏は米国市場でX Oneが高いシェアを獲得していることを紹介し、2010年に出荷本数が100万本を超えたあと、2014年には200万本に達する見込みであり、ペースが急上昇していると説明した。また、市場環境としてはシングルタイヤが多い欧州市場と比べ、日本市場はダブルタイヤを装着する車両が多いことから、X Oneが日本に向いている製品であると語り、2009年のデビューからさまざまな会社が導入効果を計測する段階が2012年に終わり、2015年にはX Oneが本格的な普及のタイミングに入るとの予測も口にした。
このほかにペルティエ氏は、X Oneのラインアップに現状の455mmというサイズだけでなく、さらなるワイド化を進めたタイヤ、小径化したタイヤなどを追加するための開発が続けられており、トラックメーカーにはこうした新しい概念のタイヤを前提とした車両の開発を検討してほしい、またユーザーである運送業者にも、自分たちがどんなタイヤを装着した車両がほしいのかメーカーに働きかけてほしいと述べ、今後10年のトラック業界を考えれば、これまでのようにメーカーがトラックを設計して、そこにタイヤを用意するというだけでなく、目指すトラックに向けてトラックメーカーとタイヤメーカーがともに意見を出し合う環境になれば、もっと大きなステップでトラックの性能が進化するようになるだろうとのビジョンを紹介している。
今回のミーティングでは登壇者によるスピーチに加え、X Oneを導入した運送業者の車両が展示され、実車の前で参加者同士による意見交換の時間も設けられた。このなかで九州地区を中心にアスファルトなどの輸送を行っているレキウンの代表取締役 吉川信長氏から感想を聞く機会を得た。
吉川氏は「こんなよいタイヤがもっとたくさん売れて、多くの業者が使うようにならない理由がまったく分からない」と表現するほどX Oneを高く評価しており、ワイドタイヤなのでバーストしたりしないか常に気を配っているものの、メンテナンスの手間が大きく削減され、また装着しているX Oneのゴムがいつでも均一に減っていくことを目にして、このタイヤのレベルの高さを常に実感していると説明された。また、導入から3年ほどが経過しているが、これまでX Oneがバーストしたことは1回もないという。