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【GTC Japan 2018】NVIDIA、VR環境「Holodeck」による自動車設計をデモ
2018年9月18日 14:21
- 2018年9月13日~14日 開催
NVIDIAは9月13日~14日に開催した技術カンファレンス「GTC Japan 2018」において、Unreal Engine 4によるフォトリアリスティックなVRを使ったコラボレーション環境である「Holodeck(ホロデッキ)」とVR用ライブラリ「VRWorks」の解説を「NVIDIA Holodeck and VRWorks」と題して行なった。
講演を行なったのは、NVIDIA プロフェッショナルVR ディレクター デビッド・ウェインスタイン(David Weinstein)氏。Holodeckの説明に先立ち、まず利用するVRでのハードウェアとVRWorksについての解説があった。Quadro P4000から始まり、Quadro P6000、そして新しいTuring GPUベースのQuadro RTXといった、VRレディのグラフィックスカードを紹介した。
VRではステレオの映像が必要で、フレームレートが高いだけでなく、レイテンシーも極力抑えなくてはならない。高速な処理が必須となる。「Motion to Photon」とも名付けられるように、動きから知覚まで20ms以内に抑える必要があり、40msでは酔ってしまうようになるとのこと。
VR映像の高速化のためには、さまざまな工夫もされている。最初はステレオで見る映像を別々にレンダリングしていたが、ほぼ同じ映像のため左右別のジオメトリパスを1つにまとめ、単一のシングルジオメトリパスにした。これがPascal GPU時代のこと。新しいTuring GPUではさらに拡張して、マルチビュー・レンダリングという技術を使っている。このことで、より解像度の高い、視野の広い新しいHMDにも柔軟に対応できるようになっている。
また、別のVR加速化の手法としては、2つのGPUを使う「VR SLI」という方法がある。これは左右の映像それぞれに別のグラフィックスカードを利用するというものだ。
VRで使用するHMDのレンズは、周囲で光学的な歪みが生じる。この歪みを活用しての高速化も行なっている。中央の映像はいじらずに、周辺部分を低解像度でレンダリングピクセルを抑えることによって高速化している。これはMaxwell世代のGPUで実現していたもの。さらにTuring GPUでは、抜本的に異なるバリアブル・レイト・シェーディングと呼ぶ機能が使えるようになる。バッファを作り、その中でハイレゾにするか、ローレゾにするかを決めることができ、レンダリングを最適化することが可能になる。
VRではサウンドも重要。レイトレーシングの技術を使い、音の位置やマテリアルの違いによる反射をパストレースし、リアルタイムで表現することができる。反射するモノによって、音の反響はまったく違ってくる。Turing GPUでは、これがRT Coreを使うことでとても高速化されている。
また、VRWorks SDKには、流体や火など、動的な動きも用意されている。
Holodeckはコラボレーションの可能なVR環境で、2017年11月にリリースされた。現在もアーリーアクセスプログラムとして利用でき、まだ有償製品としては提供されていない。プラグインにより、Autodesk 3ds Max、Autodesk Maya、SOLIDWORKS Visualizeといったモデルをサポート。モデルはNVIDIAのマテリアル定義言語(MDL)に準拠している必要がある。
Windows 10で動作し、必要システムは、CPUがIntel Core i7-6700K以上、NVIDIA Quadro P6000やGeforce GTX 1080 Ti以上、HMDはHTC ViveやOculus Riftが対応する。
Holodeckは、プロのデザイナーからインスピレーションを受けて作ったとのこと。デザイナーには、精度の高いモデルのレンダリングが必要となる。主に、メディア・エンターテインメント、自動車設計、建築設計の3業界で使われている。
特徴は、美しいフォトリアリスティックなグラフィックであること、物理的に正確なインタラクティブができること、コラボレーションが可能なこと、ディープラーニングを多く活用していくことの4点。
最新のバージョンアップでは、建築向けの機能が追加された。ホロテーブルという建築の模型を置くテーブルが追加され、エクステリアや窓など各種のマテリアルをOFFにする機能、断面を見る機能、日影を時間軸や季節で動かして確認する機能、ビーコンを置きそこに飛ぶ機能などが追加されている。細かい部分だがアバターの足も追加された(この足の動きの再現にはAIを使っている)。
エポックとなる追加機能は、Chromiumベースのブラウザを表示でき、その中でGoogle ハングアウトのチャットでコミュニケーションができるという機能だ。このブラウザ内はGPUで加速化されている。VR外のハングアウトを使っているユーザー側はGPU環境でなくても利用でき、スマホでも構わない。このチャットは複数人の参加もできる。
また、オーディオは、先に説明したレイトレーシングを使った物理ベースのオーディオをサポートするようになった。マテリアルの違いから、異なる音の反射を感じることができる。
実際にデモ動画と同じ建築物のモデルで、Holodeckの基本機能を体験することもできた。GPUはQuadro RTX 6000を1本で動作していた。新しい物理ベースのオーディオ機能はこの時点ではまだリリース前で、近々提供される予定とのこと。Pascal GPUを2本で使う場合、ビデオとオーディオを別々に設定する必要があり、これを含め鋭意テスト中とのことだ。
HMDとコントローラはHTC Viveが使われていた。HMDの視点設定はピンポイントなので、最初にしっかり合わせないと像がぶれて見える。うまく装着できるとリアルな映像で、建築物の高さや質感を含め怖いくらいに細部がよく分かる。吹き抜けを見下ろした時は、思わず足がすくむほど。日影を太陽の位置を変えてコントロールできる機能は、季節が変わる状態を体験できるので模型にはないメリットだ。建築家や施主にありがたがられるハズ。
タッチパッド下を押すと放物線が出て、コントローラをひねって着地の向きを変えつつテレポートする操作はやや慣れがいる。模型内にビーコンを置いて、そこにジャンプするのは本当に瞬間移動をしているようで面白い。マーカーは自由な場所に描くことができるが、立体的に描けてしまうので、面白いのだがキチンと文字を書いたりすることは難しそう。メジャーで長さを測るのは簡単にできた。
なお、複数アバターのコラボレーションに人数制限はなく、実際にNVIDIAで15人までは実施してみたことがあるとのことだ。いずれ、設計デザイナーが在宅のまま、VRの中で打ち合わせをするというシーンも当たり前になるのだろう。Holodeck用に世界の有名建築シリーズのモデルパックなどがSteamで販売されたりしたら、即買いしてしまいそうだ。