ニュース

Dell、F1のマクラーレン・チームと協力してeSportsプログラム「McLAREN SHADOW PROJECT」を推進

2018年10月19日~21日(現地時間)開催

「MCL32」のノーズに書かれているSHADOWのロゴ

 米国のPCメーカーのDellは、同社のゲーミングPC向けのブランド「Alienware」シリーズでe-Sportsへの訴求を行なっている。そうした中で、Dellの親会社に相当するITソリューション企業「Dell Technologies」がスポンサーおよびテクノロジーパートナーとなっているF1のマクラーレン・チームが推進するeSportsプログラム「McLAREN SHADOW PROJECT」にDellが協力している。

 10月19日~21日(現地時間)の3日間に渡って、米国 テキサス州オースティンのCOTA(サーキットオブジアメリカズ)で行なわれた「F1世界選手権 第18戦 アメリカGP」の会場で、マクラーレン、Dell、F1などの関係者が集まって、F1におけるeSportsの取り組みに関しての座談会が行なわれた。

「SHADOW PROJECT」を推進するマクラーレン

 マクラーレンの2018年のマシンである「MCL32」では、フロントノーズとリアカウルのフィンに「SHADOW」という謎のブランドが書かれていることにお気づきだろうか? 実はこの「SHADOW」というのは、マクラーレンが今年から始めた新しい取り組みとなるMcLAREN SHADOW PROJECTの自社広告になっている。当然、次にわいてくる疑問としては「じゃあそのSHADOW PROJECTって何?」ということではないだろうか。

アメリカGPのFP2を走るマクラーレンのフェルナンド・アロンソ選手
MCL32のフィンに書かれたSHADOWのロゴ

 このSHADOW PROJECTはマクラーレンのeSportsプログラムで、年間を通じてチャンピオンシップとして行なわれるシリーズ戦となっている。利用されているゲームは「Forza Motorsport」「Real Racing 3」「Project Cars 2」「iRacing」「rFactor 2」の5つとなっている。そのチャンピオンに用意される特典は、来年のマクラーレン・チームのeSportsチームにドライバーとして加入する権利、そしてマクラーレンのeSports育成プログラムに参加して、マクラーレンのF1チームと一緒に働くことができるというものだ。

マクラーレンF1のガレージ入り口。そこには過去のマクラーレンの栄光の数字が並んでいる
故アイルトン・セナの肖像も
マクラーレンF1のピットガレージ。Dellのモニターが利用されている

 こういった賞典は、あまり本気では実行されないと思っている読者も少なくないのではないだろうか。だが、オランダ人のある青年の身に起こったことを知れば、マクラーレンの言う賞典が本物だと理解できるだろう。ルディ・ヴァン・ビュラン氏は、2017年のはじめの段階では地元オランダの企業でセールスマネージャーとして働く普通の若いビジネスパーソンだった。だが、マクラーレンのeSports競技でチャンピオンになったことから彼の人生は一変。2018年のマクラーレンの新車発表会では、現ドライバーのフェルナンド・アロンソ選手、ストフェル・バンドーン選手の横で、オフィシャルシミュレータードライバーとしてメディアの前に立っていたのだ。ちょっとした現代版のシンデレラストーリーそのものだ。

ルディ・ヴァン・ビュラン選手

 その後、ルディ・ヴァン・ビュラン選手はマクラーレン・チームとの仕事を開始。ビュラン選手は通常であれば控えドライバーなどが務めているマクラーレンF1のシミュレータードライバーの役割を担当しており、グランプリ期間中に新しいセッティングをシミュレーターなどで試してみたい時などに、同チームの本拠地がある英国ウォーキングにあるシミュレーターに乗ってマクラーレン・チームの戦力の1人となっている。

 今年行なっているSHADOW PROJECTはそのビュラン選手に続く存在を選ぶためのプロジェクトで、マクラーレンが本気でeSportsに取り組んでいることの裏返しでもある。

F1とeSportsの親和性は高いとF1 デジタルコンテンツ責任者

Formula One Group デジタル&ニュービジネス事業部長 フランク・アートフォファー氏

 そうしたSHADOW PROJECTに協賛している米国のコンピュータメーカーのDellは、F1アメリカGPが開催されたCOTAの会場で、F1とeSportsをテーマにした座談会を行なった。DellはAlienwareおよび「Dell G」シリーズのブランドで、ゲーミングPCと呼ばれるeSports向けハイエンドPCを販売しており、マクラーレン・チームがスポンサー関係者などを対象に用意しているパドッククラブには、AlienwareのPCを利用したレーシングシミュレーターが設置され、来場者がプレイできるようになっていた。

 今回の座談会に参加したのは、マクラーレン・チームのグループマーケティング部長 ヘンリー・チルコット氏、Formula One Group(FOG)デジタル&ニュービジネス事業部長 フランク・アートフォファー氏、Dell 副社長 兼 Alienware/ゲーミング/XPS事業本部長 フランク・アゾール氏、マクラーレンのシミュレータードライバーを務めるビュラン選手の4名。

 F1では今年から、新しいeSportsのシリーズとなる「Formula 1 Esports シリーズ」を開始しており、各F1チームがeSportsチームを結成して参戦している(厳密には2017年も3レースほど行なわれたが、シリーズではなかった)。2018年はすでにメルボルン、上海、バクーの3戦が行なわれ、Xbox、PlayStation、Steam(PC版)の「F1 2017」を利用して争われるシリーズになっており、プロフェッショナルなゲーマー以外でも登録を行なえばオンラインで参加できる。マクラーレン・チームも「McLaren Shadowチーム」として参戦しており、アメリカGPの時点(eSportsシリーズでは第3戦バクーが終わった時点)では、ボノ・ヒュース選手がランキング5位に付けている。

 そうしたFormula 1 Esports シリーズについて、FOGのアートフォファー氏は「シリーズスポンサーもついて前に進んでいる。F1はテクニカルなモータースポーツであり、eSportsとの親和性が高いと思う。今後もパートナーと協力してより魅力的なプラットフォームを構築していきたい」と述べ、今後もF1としてeSportsへの投資を行なって、より拡大していきたいと表明した。また、IOC(国際オリンピック委員会)への働きかけもF1としても続けており、eSportsの種目の1つとしてカーレースの採用を呼びかけていて、2020年の東京オリンピックは難しいかもしれないが、その次の2024年には確実に実現するだろうと述べた。

マクラーレン・チーム グループマーケティング部長 ヘンリー・チルコット氏

 また、マクラーレンのチルコット氏は「ビュラン選手が今年われわれのチームのシミュレータードライバーを務めていることからも分かるように、eSportsには大きな可能性がある。F1が新しいファンを得るための手段としても有効だと考えてSHADOW PROJECTを行なっており、ビュラン選手に続く優秀な存在を発掘したい」と述べた。

Dell 副社長 兼 Alienware/ゲーミング/XPS事業本部長 フランク・アゾール氏

 こうしたマクラーレンのSHADOW PROJECTに協力しているDellのアゾール氏は「eSportsへのデマンドは増えるばかりだ。われわれはIntelやNVIDIAといったパートナーと協力してより強力なハードウェアを提供すべく努力を続けている。そしてスーパーヒーローを作るべく投資も行なっている」として、DellとしてはゲーミングPCなどの強力なハードウェアを作るだけでなく、eSportsで新しいスタープレーヤーを誕生させるべく、プロゲーマーチームと契約していることなどを紹介。今後はレーシングのeSportsの世界でもそうしたことが必要だと指摘した。

 なお、DellはゲーミングPCのAlienwareのブランドでハイエンドのゲーミングPCを提供しており、アメリカGPの会場でもマクラーレンF1のパドッククラブに設置されたシミュレーターとして採用。多くのマクラーレン・チームのスポンサー関連のVIPゲストなどがチャレンジしていた。

マクラーレン・チームのパドッククラブにも、Dell AlienwareブランドのデスクトップPCを利用したゲーム環境が整えられ、VRでも楽しむことができた

将来的にはeSportsからリアルなF1ドライバーに昇格する可能性も

サーキットを走るマクラーレンのマシンにもSHADOWの文字が

 マクラーレン・チームにより、eSportsのプレーヤーから一躍マクラーレンのシミュレータードライバーに抜擢されたビュラン選手は「昨年はキッチンに座ってTVでF1を見ていたのに、今年はこうしてサーキットに来たり、マクラーレンのファクトリーでシミュレーターワークをしている。自分でも信じられないぐらいの環境の違い。だが、シミュレーターはF1の競争の一部であり、ファクトリーでは非常に高いレベルでやっている」と述べ、普通のファンからいきなりシミュレータードライバーへと昇格したことに自分でも戸惑っていると説明した。

 マクラーレンのチルコット氏は「彼はある意味、F1におけるeSportsのテストケースになっている。これからもわれわれはオープンマインドで取り組んでいくが、eSportsにはマーケティングの観点でもバリューがあると信じており、今後もプログラムを続けていきたい」と、同じようなプログラムに今後も取り組んでいきたいと述べた。

 現在のF1には「スーパーライセンス」のプログラムがあり、F2などの下位カテゴリーでランキング上位に入る成績を残し、一定以上のポイントを獲得しなければF1に昇格することが許されないという状況にある。例えばF1のeSportsで上位に入ったから、いきなり本物のF1の方にコンバートというのは難しい状況だ。しかし、逆に言えばそれもルールを変えて、例えばF1のeSportsでチャンピオンになったらF2でチャンピオンを取る半分のポイントが獲得できて、残りはリアルなF2に出てスーパーライセンスを得るなどの仕組みはありかもしれない。

 マクラーレンのチルコット氏、FOGのアートフォーファー氏のどちらも、将来はリアルなF1ドライバーがeSportsから誕生する可能性は十分にあると指摘しており、そのあたりも将来的には改善されて、F1ドライバーがリアルとeSportsを行ったり来たりということもあり得るのかもしれない。

フェルナンド・アロンソ選手はF1で最もeSportsに興味を持っている選手としても知られており、先日、TOYOTA GAZOO Racingがお台場で行なったeSportsイベントでは大活躍だった(別記事参照)。F1に別れを告げるまでの残り2戦で、最後の活躍に期待したい