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いすゞと日野が共同開発した「ハイブリッド連節バス」公開
全長約18mで120名が乗車可能。転回やEDSS作動時の動画も掲載
2019年5月27日 15:58
- 2019年5月24日 開催
いすゞ自動車と日野自動車は、両社のバスの製造と設計・開発を行なっているジェイ・バスの宇都宮工場において、報道関係者向けに「ハイブリッド連節バス」を公開した。2017年に開発が発表されていた車両となる。市場への投入は、近日中にいすゞ・日野それぞれから発表され、車名など販売に関する情報もいすゞ、日野の両社がそれぞれ発表する予定。
全長約18mで120名乗車が可能
公開されたハイブリッド連節バスは1万7990×2495×3260mm(全長×全幅×全高)というボディサイズで、通常は12mに収まる大型路線バスよりも長く、定員は仕様によって異なるが、通常の大型路線バスの1.5倍となる120名。
定員増加に合わせ、スムーズに乗降車ができるように乗降扉は開口幅を拡大。「グライドスライドドア」を採用する運転席横の前車室前扉は有効開口幅1000mm、そのほかは引き扉となり、中央の前車室後扉は1200mm、後車室後扉は1200mmの開口幅となる。
室内レイアウトは一般的な路線バスと同等としているが、後車室では膝前の空間が685mmの対面シートを採用した。これは一般的な対面シートよりもゆとりがあるものとなる。
バリアフリー対応としては、運転席後方のエリアでイスを跳ね上げ、車いすを2台固定できるほか、前車室後扉に反転式のスロープを設け、乗務員がすばやく対応できるようにしている。
パワートレーンは日野の「A09C」型ディーゼルエンジンに出力90kWのモーターを組み合わせたもの。バッテリーは7.5kWhの容量を持つニッケル水素充電池でルーフ上に搭載する。トランスミッションは7速シングルクラッチの自動変速機であるAMT(自動変速マニュアル・トランスミッション)となる。
駆動輪はエンジンを搭載する後車室の後輪。アクスルは連節バスで実績のあるZF製を採用したほか、連節部分の連節機はヒューブナー製を採用した。
運転感覚についても、連節車であることや全長が長いといった点以外では、既存のエルガ/ブルーリボンと操作を合わせている。安全確認用のカメラは後車室後扉を確認できる位置にカメラを追加するなどして充実させた。
取りまわしについては、ホイールベース6000mmのエルガ/ブルーリボンは最小回転半径が9.3mであるのに対し、ハイブリッド連節バスでは9.7mと増加を抑制。転回に必要な道幅も、エルガ/ブルーリボンの6.4mに対してハイブリッド連節バスが7mとこちらも増加を抑えている。
連節機の折れ角度は最大54度ほどで、角度が増えてくると警告が出るほか、限界に達すると自動的にブレーキがかかるようになっている。
EDSS(ドライバー異常時対応システム)搭載
公開されたハイブリッド連節バスは「EDSS(ドライバー異常時対応システム)」を装備している。このEDSSは、バスの運転士に体調不良などの異常を発生した場合、運転士自ら、または乗客がバスを停車できるというシステム。観光バスでは導入が開始されているが、時代に合わせたバスにしたいという意向から、ハイブリッド連節バスにも搭載した。
EDSSは立っている乗客がいることを想定した装備となり、運転士用のボタンを押した際でも停止動作が始まるまで3.2秒の猶予がある。その間にごくわずかなブレーキを効かせるとともに、車内に赤色フラッシャーランプと音声アナウンスが流れて乗客が身構える余地を与える。乗客による誤操作などにも、この3.2秒間で運転士が対応してキャンセルする仕組みとしている。
3.2秒経過したあとのブレーキもそれほど急なものではなく、立っている場合でも通常の乗車時同様に手すりをつかんでいれば転倒したりせず、物が飛んだりするような制動力ではなかった。
プラットホーム正着制御
EDSS以外にも、公開されたハイブリッド連節バスはプラットホームに45mmの隙間で停車させる「プラットホーム正着制御」のシステムを将来の技術として搭載している。ハイブリッド連節バスの実用化に合わせて搭載見込みのEDSSよりも遅れて実用化されるという。
システムでは専用誘導線を道路上に描き、カメラによる映像解析から誘導線に沿ってステアリング操作と減速制御を行なう。停車精度はバスの中扉である前車室後扉とプラットホームの隙間を45mm±15mm、前後位置を±500mmとした。
「いつも買ってるところから連節バスを買いたい」との需要に応えた
ハイブリッド連節バスの公開では、いすゞ、日野、製造するジェイ・バスの担当者からそれぞれ説明が行なわれた。
いすゞ自動車 バス商品企画・設計部チーフエンジニアの鈴木隆史氏は概要を説明。「バスの二種免許取得者の減少があり、いかに効率的にまわすかがバス事業者の課題」との前提条件や、「昨今のビッグイベント、スポーツ、ライブ、花火大会、大企業の通勤、大学の送迎と、限られた時間で大量の人を輸送をする需要は日々高まっている」と連節バスの必要性を挙げた。
連節バスはすでに海外から輸入車として入ってきているが、操作方法の問題や整備性の問題があるとのことで、「道を曲がろうとウインカーを上げたらワイパーが動いた」という例や「壊れてしまった時に、部品が入るのに半年からもっとかかるケースもある」とのことで、「日本製の連節バスを、いつも買ってるところから買いたい」という要望があったことも明らかにした。いすゞ、日野どちらも同様で、新しい連節バスも共同開発することになったと経緯を説明した。
開発にあたっては、新しい時代のバスということから環境問題に対応するためハイブリッド技術を搭載。さらに昨今の事故に対応できるよう、EDSSを路線バス向けに作り込んで搭載した。また、操作性についても現在のエルガ/ブルーリボンと同じことを目指したという。
さらに鈴木氏は、パーツ供給などの理由もあってできる限り日本製のパーツを採用するようにしたが、アクスルと連節機が海外製になったことについては「実績のあるものを使ったため」と説明。海外製のパーツでも、いすゞと日野が万全のパーツ供給体制を整えるという。
日野自動車 車両企画部 チーフエンジニアの山口誠一氏はパワートレーンなどについて説明。パワートレーンはいすゞと日野の大型バス エルガ/ブルーリボンの現行モデルにラインアップするハイブリッド仕様に近い組み合わせとなっているが、「単車(連節ではない通常のバス)の1.8倍。従来のハイブリッドシステムで効果を出すために、うまくバランスさせるように新たな制御をした」と変更点を説明。AMTを6速から7速に変更しただけでなく、発進ギヤを通常の3速から2速に変更したことを挙げた。
エルガ/ブルーリボンのハイブリッドシステム同様に、トルコン式ATでなくAMTを組み合わせた点については、ハイブリッドシステムの特性上、トルコン式との組み合わせはロスが大きく、ハイブリッドを採用するメリットが少なくなるためとした。
山口氏はプラットホーム正着制御のほか、将来の技術となるITS関連についても触れ、協調型車間距離維持支援システム(CACC)や衝突警報、路車間通信や車車間通信などについても説明した。衝突警報については立ち席の乗客がいる路線バスの特性から、現時点では警報のみとして、自動でブレーキをかける制御はしないとした。
製造にあたるジェイ・バス 常務取締役の中井徹氏は「通常のバスと異なる部分があり、あるところまではラインを流すが、後ろの車室は塗装後はラインから別に出すという方法をとっている。全長も18mあって通常の検査ラインには入らないため、検査棟を新しくした」と、製造にあたっての工場での変更点を説明したほか、生産能力については「日野、いすずから年間17台作れる設備を」と言われ、その前提で準備を進めていることを明らかにした。