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ダイハツなど産官学6者、「インテリジェント触媒」を応用した「ハニカム型水素安全触媒」など説明会
「球状水素再結合触媒」も同時開発し、燃料デブリの安全な保管を目指す
2019年7月23日 07:00
- 2019年7月22日 開催
ダイハツ工業と長岡技術科学大学、関西学院大学、宇都宮大学、アドバンエンジ、日本原子力研究開発機構の6者は7月22日、同日にダイハツと関西学院大学によって発表された「ハニカム型水素安全触媒」に関連し、6者で協力して取り組んでいる燃料デブリの安全な保管技術に関する説明会を都内で開催した。
同日に発表されたハニカム型水素安全触媒は、福島第一原子力発電所の廃炉に向け、東京電力ホールディングスが2021年末までに格納容器内に残っている燃料デブリの取り出しを開始する予定となっていることを受け、長期保管にあたって保管容器内に蓄積される水素の濃度を低減する技術が必要になることから開発されたもの。説明会ではダイハツなどが開発したセラミック製ハニカム型のPAR(水素再結合触媒)に加え、アドバンエンジ、長岡技術大学などが開発した「アルミナ製球状PAR」についても発表されている。
説明会では、研究の目的や目標などについて、長岡技術科学大学 大学院工学研究科 原子力システム安全工学専攻 教授 工学博士 高瀬和之氏が説明を担当。原子力発電所内にある燃料デブリは取り出されたあと、トレーラによって輸送され、脱水・乾燥工程を経て長期保管施設の容器に保管されるが、IRID(技術研究組合国際廃炉研究開発機構)の報告書で、脱水・乾燥工程を行なっても燃料デブリに体積の10~50%にあたる水分が残留すると指摘されているという。
この水分が燃料デブリなどの放射線によって水素と酸素に分解され、保管容器内の水素濃度が高まると燃焼や爆発を起こす危険性がある。この問題を事前に回避するために開発されたのが新たな2種類のPAR。「燃料デブリの保管容器に導入可能」「コンパクトな装置」「無電力での動作」「受動的に稼働」といった要求項目が設定され、これらをクリアした上で保管容器内の水素濃度を「爆発下限界である4%未満まで低減・維持」することを目指し、さらに「爆発下限界の半分である2%未満を目標」として開発が進められた。
6者の担当分けでは、ダイハツと関西学院大学、アドバンエンジと長岡技術科学大学がそれぞれ異なるPARの開発と性能評価を行ない、PARによる水素処理技術は長岡技術科学大学と原子力機構が確立。保管容器内の水素挙動を定量評価する技術は、原子力機構、宇都宮大学、長岡技術科学大学によって解析モデルの構築、シミュレーション手法の開発と整備が行なわれた。
開発された2つのPARについて、まずセラミック製ハニカム型PARの解説を関西学院大学 理工学部 先進エネルギーナノ工学科 教授 工学博士 田中裕久氏が実施した。
田中教授はもともとダイハツの社員として自動車用の触媒を研究していた人物で、定年退職を機に3年前から関西学院大学の教授に就任しているという。また、原子力機構とダイハツは2000年から研究開発のパートナーシップを結んでおり、2002年7月に発表された貴金属が自己再生する自動車用触媒「インテリジェント触媒」も原子力機構などと共同開発した成果で、その後もFCV(燃料電池車)開発やメタリック塗装の解析なども原子力機構との活動で取り組んでいると説明した。
セラミック製ハニカム型PARの特徴は、保管容器に取り付けやすく、入れておくだけで受動的に活性化して水素濃度を低下させることが可能であることなどのメリットがあるという。PAR開発は東日本大震災発生から1か月後の2011年4月末に、原子力機構からの要請を受けてスタート。当時ダイハツで量産していた5種類の触媒を使い、水素を水に戻す性能評価を行なったところ、インテリジェント触媒の自然吸気エンジン向け(写真の表内でインテリジェントAと表記されているもの)とターボエンジン向け(写真の表内でインテリジェントBと表記されているもの)の2種類が、室温状態でもほぼ100%の水素を除去できると判明した。また、同時に評価した残り3種類は、インテリジェント触媒よりも貴金属類の使用量は多かったが、インテリジェント触媒の低温活性の点で優れていることも合わせて明らかになったという。
この結果から自然吸気エンジン向けのインテリジェント触媒で開発が続けられることになった。エンジンの排気による圧力を利用できる自動車用の触媒と比べ、保管容器内部は水素の発生などによる自然対流だけになることから、水素と酸素が内部を流れやすいようハニカム構造の流路のサイズを30倍に拡大。また、対流で触媒の表面に当たりやすいようサイズを薄型化し、当初30cm分設定していた煙突をコンパクトなホルダーに変更するなどさまざまな改良を実施。酸素濃度を低下させる効果に加え、量産性や省スペース化による固定しやすさなどまで考慮して最適化を図った。
改良の効果はドイツのユーリッヒ研究所にある実際の使用環境に近い大型容器で、関西学院大学の学生たちが現地まで足を運んで検証。また、PARとしての完成後に、実際に福島第一原発を見学した経験のある研究室の学生から「冬期の福島は気温低下が激しく、室温での触媒活性化を確認しただけでは不十分ではないか」との意見が出されたという。そこで装置の改良を行ない、-60℃の状態からテストを行なえる環境を構築して追加実験を実施。この検証で-20℃から活性化による水素濃度低下が始まることも確認されているという。
また、説明会の会場では、2種類のPARの試作品を使ったデモを実施。スプレー式の水素をPARに吹き付けて室内の空気と活性化させ、上に被せたシャーレが水分で曇る様子も紹介された。
アルミナ製球状PARについては高瀬教授から解説が行なわれた。母材に強度の高いアルミナ(酸化アルミニウム)を使用する球状PARでも、表面に担持させたプラチナの効果で常温から高い触媒活性を発揮、さらに製造するサイズを任意に変更可能で、使用数を変えることで処理能力も制御しやすいことが大きな特徴。また、セラミック製ハニカム型PARと同様の放射線照射試験では、照射後の強度が変化していないことも確認されているという。
このほか高瀬教授からは、模擬容器を使った実験で確立した各PARでの具体的な水素処理技術の説明。保管容器内で起きる発生した水素の動きや濃度、PARによる再結合反応などを予測するシミュレーション技術などが紹介され、開発した2種類のPARを使うことで、想定されるワーストケースの5倍以上の水素が発生した場合でも、保管容器内の水素濃度を爆発下限界の4%未満に抑制できると確認できたと総括。この成果を実際に製作される燃料デブリの保管容器設計、製作に反映して燃料デブリ取り出しに貢献したいと語り、保管容器の仕様確定後に、実規模の容器を使った検証、シミュレーションなどを行ないたいとした。