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日立AMS、可変ダンパー専用センサーが不要な高性能セミアクティブサスペンション。ステレオカメラでプレビュー制御も
2019年10月18日 00:00
日立オートモティブシステムズ(日立AMS)は10月中旬、同社が北海道に所有する十勝テストコースにおいて、現在開発中の「自動運転向け高精度車両制御技術」「リスク推定 AD/ADAS制御技術」「可変ダンパー専用センサーが不要な高性能セミアクティブサスペンションシステム」の試乗会を開催した。
本記事では、このうち最も市場投入が近いとされる「可変ダンパー専用センサーが不要な高性能セミアクティブサスペンションシステム」(以下、高性能セミアク)を紹介していく。
サスペンションシステムに組み込まれたダンパーの役割は、サスペンションスプリングの動きをコントロールしていくことにある。大きく分けて、入力に応じて対応するパッシブダンパー、入力に応じつつも動きのコントロール可能なセミアクティブダンパー、入力とは完全に切り離すことができて積極的なコントロールが可能なアクティブダンパーがある。構造は、パッシブダンパーが一番簡易で、ダンパーを動かす動力を持つアクティブダンパーが一番複雑。価格もパッシブダンパー側が安価となっている。
日立AMSが提案する高性能セミアクは、セミアクティブダンパーの能力を持ちながら、より簡易に、より安価にしようというもの。これまでのセミアクティブダンパーでは、ダンパーユニットに位置センサーなどを取り付けてダンパーの動きを確定。そのダンパーの動き情報によってサスペンションの動きを適切に抑制しようというものだった。
一方、日立AMSの高性能セミアクは、このダンパーの動きをCAN情報だけで推定しようというもの。現代のクルマでは、各車輪の速度やステアリングの操舵角、車速などがCAN情報として流れている。であるなら、このCAN情報を使えばサスペンションの位置が分かり、ダンパーの動きが推定できるというものだ。
日立AMSのスタッフによると、サスペンションの上下に伴い、タイヤの位置は動いており、サスペンション形式によってタイヤが上下に動く軌跡は異なっているとのこと。この軌跡の違いが4輪における車輪速の違いを生み出し、ステアリング操舵角、各種Gセンサーなどのデータとの演算でダンパーの伸び縮み具合を推定。その状況における適切なダンピングスピードに調整するという。
この日立AMSの高性能セミアクのメリットは、セミアクティブダンパー自体に位置センサーなどの付加物が不要となること。専用センサーを省くことで、1輪あたり約30%の省スペース化ができ、約1.4kgの軽量化ができるという。もちろんコスト的にも有利になる。
実際に、通常のザックス製ダンパーを用いた車両と、日立AMSの高性能セミアクを用いた車両で乗り比べてみたが、日立AMSの高性能セミアク車両のほうが上下動が小さく、運転もしやすい。通常のザックス製ダンパーを用いた車両では、小さな波形路面を通過するときはパッシブダンパーらしく分かりやすい動きが好ましいのだが、大きな波形路面(波高が高く、波長が長い、長周期路面)へは対応ができず、3人乗車でダンパーの底付きが発生してしまった。日立AMSの高性能セミアクでは、路面の判断がきちんとできているのか、そのような場合も底付きすることなく、抑制した動きを感じ取ることができた。
ステレオカメラでプレビュー制御も可能
そして、この高性能セミアクには、さらなる高性能化アイテムが用意されていた。それがステレオカメラによるプレビュー制御だ。日立AMSはスバルの「アイサイト」などADASのステレオカメラで高い技術力を持つメーカー。このステレオカメラを活かして前方の道路状況を読み取り、それを高性能セミアクの制御に活用していく。
たとえば大きなバンプ(凸)があるようならダンパーを柔らかく制御して乗り越える。大きなホール(凹)があるならタンパーを固くしてタイヤが落ちないようにダンパーの伸びを制御するといったことが実現できる。
このプレビュー制御状態でも試乗したが、最初から振動がスパッと収まる感じがうれしい。とくに波状路では、短周期も長周期も最初からの収束がよく、パッシブとは2段も3段も次元の違う走りをみせてくれた。
もちろん高度なアクティブサスペンションでは、これ以上の走りも可能だろうが、日立AMSの高性能セミアクのよいところは安価にセミアクティブ制御ができるところ。さらに現在搭載されているステレオカメラを利用してのプレビュー制御も実現できている部分だろう。
ちなみに、このステレオカメラだが、「単眼カメラでは制御は無理なのか?」という問いに対して、「ステレオカメラのよいところは、すぐに距離を測定できるところ」にあるという。単眼カメラは移動に伴う演算を利用して距離情報を算出するのに対して、原理的にステレオカメラは2台のカメラの基線長を利用するため停止時でも距離算出ができる。それだけ演算も軽いことになる。もちろん、クルマの演算能力をどう設定するか、それをどれだけどこに割り振るかというバランスとも関わるのだが、日立AMSとしては自分たちの持つ技術を活かすことで、ステレオカメラプレビュー+高性能セミアクという新しいソリューションを提案している。