ニュース

東海大学、準優勝で終えた「2019 ブリヂストンワールドソーラーチャレンジ」を報告

2019年10月31日 開催

「2019 ブリヂストンワールドソーラーチャレンジ」の準優勝トロフィー

 東海大学は10月31日、準優勝したソーラーカーレース「2019 ブリヂストンワールドソーラーチャレンジ」の報告会を東京都渋谷区の東海大学代々木キャンパスで開催。10月13日~20日に行なわれたレースの様子などが発表された。

 2019 ブリヂストンワールドソーラーチャレンジは、オーストラリア北部のダーウィンから南部のアデレードまでの3020kmを、太陽電池を電源としたソーラーカーで約5日間をかけて走破するレース。優勝はベルギーのルーベン大学で平均速度は86.6km/h。2位の東海大学は平均速度86.1km/hで時間にして12分ほど遅れたにとどまった。

 東海大学は東海大学チャレンジセンター・ライトパワープロジェクトソーラーカーチームとして参加。レースカーは2019年型の「Tokai challenger」で、ボディは東レの炭素繊維トレカ「M40X」を使い、東レ・カーボンマジックがボディを製作した。サイズは4970×1200×1000mm(全長×全幅×全高)でホイールベース1700mm、トレッドは610mm。車両重量は推定140kg

過酷なレースで好成績をあげたことを称賛

 報告会では東海大学副学長の梶井龍太郎氏が「今回はなかなか難しいのではないかと関係者が言っていまして、大学としてはプレッシャーをかけていたわけですが、最終的には準優勝。あともう一歩で優勝だったなあ」と準優勝をたたえた。

東海大学 副学長 梶井龍太郎氏

 東海大学チャレンジセンターの活動については「大会で勝つということが目的ではなく、学生がプロジェクト活動を通して、人間の生きるチカラを学んでほしいという、そういう思いで作られたセンター。今回は大きなアクシデントがあったと聞いているが、それを乗り越えて、他チームが脱落していく中、最後まで勝ち残ったのは彼の強い気持ちが実を結んだのかなと思う」と述べた。

学内に貼られた準優勝を知らせるポスター
これまでの戦歴

 東レ 複合材料事業本部 トレカ事業部門産業材料事業部 産業材料販売第一課長の井上将人氏は「ソーラーカーは当社が最重要と位置づけているグリーン・イノベーションの好例でもあり、極限の追求の実例ということで炭素繊維素材の性能をフルに発揮できる場」と説明した。

東レ株式会社 複合材料事業本部 トレカ事業部門産業材料事業部 産業材料販売第一課長 井上将人氏

 2019年のクルマに採用したトレカM40Xという素材については「強度と弾性率を極限まで高めることを追求し、従来の炭素繊維と同等の弾性率を保ったまま強度を30%向上。このM40Xを使うことで軽量化に大きく貢献できた」とした。

 タイトルスポンサーでもあるブリヂストンからは、ブランド戦略コミュニケーション本部 主任部員 牛窪寿夫氏が「前半は非常にハイスピード、しかし後半は、横転でリタイヤ、炎上してしまうクルマもあって過酷なレース。チャレンジャークラスでは27台出走して完走はたった11台」と振り返った。

株式会社ブリヂストン ブランド戦略コミュニケーション本部 主任部員 牛窪寿夫氏

 供給するタイヤ「ECOPIA with ologic」については「今回の大会では32チームにタイヤを供給。東海大学では2015年から開発に協力いただき、さまざまな貴重なアドバイスをいただいた。今回の素晴らしい結果にわれわれのタイヤが少しでも貢献できたなら、非常に幸せ」と語った。

 牛窪氏は今後について触れ「ワールド・ソーラー・チャレンジという、未来社会のクルマ造りに向けて学生エンジニアの方々の環境技術への挑戦を支援することは、まさにわれわれにとって非常に大切なプロジェクト」とし、「東海大学ソーラーカーチームをサポートし応援したい」とした。

ブリヂストンはタイトルスポンサーとなっていて、今後もタイトルスポンサーを継続する

低効率のシリコン太陽電池ながら2位。横風にも強い車体

 レースの様子は、総監督の工学部電気電子工学科助教の佐川耕平氏と、学生代表で工学部動力機械工学科4年次の武藤創氏が行なった。

レースの様子は学生代表の工学部動力機械工学科4年次 武藤創氏(左)と総監督の東海大学工学部電気電子工学科助教 佐川耕平氏(右)が説明した

 佐川氏は上位でゴールした車両の一覧を示し、まず太陽電池の違いを指摘した。上位のチームでは人工衛星などに使う高効率で高価な化合物半導体太陽電池を使っているが、東海大学は一般的に使われて入手しやすいシリコンの太陽電池を使っている。「シリコンは発電量が低く、使用面積も大きくなるため車体も大きくなる状況で参戦している」と不利な状況ながらの2位は「大きな結果」と強調した。

チャレンジャークラスの結果と太陽光パネル、ボディ形状、平均速度
平均速度のグラフ
太陽電池の種類と採用チーム、出力電力の比較

 高効率な化合物半導体太陽電池を使うチームがある中、シリコン太陽電池を採用する理由は価格差5~6倍というコストのほか、化合物半導体太陽電池が軍事技術に転用可能な戦略物質のため、日本では入手できるものの限らた国でしか入手できないという事情から。誰でも安価に入手できる電池を活用してどこまでの順位を獲得できるか、という技術的チャレンジをしたためだという。

2019年型はキャノピーを前にし、走行時に光を受けやすい後方の太陽電池モジュールを増やした
新型炭素繊維素材を投入した
新型炭素繊維素材の投入効果。停車中にアッパボディーを開いて太陽に向け、充電量を増やすことが容易になり、ボディ形状もよくなった
タイヤが新しくなり転がり抵抗を低減
太陽電池モジュールの面積が大きいにもかかわらず参加の全車体の中で4番目の軽さ
2017年型と2019年型の空力性能比較

 また、今回のレースは後半で横風に悩まされたチームが多く、転倒など大きな損傷を受けたチームもあった。東海大学のクルマは90km/h以上で走行しても安定していたとし、車体については「車体が大きくなる中、参加の全車体の中で4番目の軽さ。大きいにも関わらず18%の軽量化に成功している。横風にも強く、設計でも横風対策に取り組んだ」とした。

 学生代表の武藤氏はレースの経過を報告。レースの本戦前にサーキットで走行順を決めて6番目からのスタート。予選では1位を狙っていないものの、レース中は追い抜きなどで走行順は早いほうが有利なため、よいポジションでのスタートだったと振り返った。

2019 ブリヂストンワールドソーラーチャレンジの日程
本戦の走行順を決める予選では6位だった
レースは過酷。最初のドライバーを努めた総監督の佐川氏もぐったりしてしまうほど

 レース期間中は5日間が晴天で、雲が出るのも走行終了時刻の17時以降で「雲をかわすレース」だったとし、その一方でソーラーカーはキャノピー内の暑さも過酷で、走行後はフロアに3センチほどの汗の水たまりができるほどだったという。

走行速度の移り変わり。4日目に80km/h規制がかかった
発電量の変化
2位でゴール。シャンパンファイトはスポンサーの人気酒造のスパークリング日本酒

 横風に対する強さは武藤氏も指摘。4日目は強風で横転したクルマがあったことで、大会側から一時的に80km/hのスピード制限が行なわれたが、それまで東海大学のクルマは90km/hほどで安定して走行していたため、80km/h制限は残念だったとした。天候に関しては日本に待機したチームが雲の動きなどを計算して連絡してくる体制を整えたため、いいレース展開ができたとした。

 また、レースの展開は6位からスタートしたが、安定して走行する中で上位チームが脱落、ぐんぐん上がって2位になった。

コントロールポイントごとの順位。最初は6位でスタートするものの次第に順位を上げて最後は2位でフィニッシュ。上位チームが後半で脱落

 武藤氏は前回2017年に続いて2度目の学生代表。2017年に比べてチームの雰囲気はよくなり「限界を超えるようなレベルアップをした」とし、チームの雰囲気も準優勝を後押ししたと言う。

スポンサー
車両は現在船便で輸送中で11月下旬に日本に到着予定
ゴールのアデレードで記念撮影

今後も参戦、上位陣が脱落しなくても好成績を残せる体制を目指す

 東海大学では、今後も参戦を継続するとしている。総監督の佐川氏によれば、次回のクルマの詳細についてはレースのレギュレーションが発表されてから決めるとしているが、「次はほかのチームのトラブルがない状態で、優勝を狙っていきたい」とした。

 学生代表の武藤氏は今回で代表を引退。次のメンバーに引き継ぐことになるが、後輩も育っていることから今後もレースでの活躍が期待できるとした。

左上から東海大学チャレンジセンター コーディネーター村井健太郎氏、株式会社ブリヂストン ブランド戦略コミュニケーション本部 主任部員 牛窪寿夫氏、総監督 東海大学工学部電気電子工学科助教 佐川耕平氏、東レ株式会社 複合材料事業本部 トレカ事業部門産業材料事業部 産業材料販売第一課長 井上将人氏、東海大学 副学長 梶井龍太郎氏、監督 工学部電気電子工学科教授 木村英樹氏、監督 工学部航空宇宙学科准教授 福田紘大氏、左下からドライバー 工学部電気電子工学科2年次 伊坪岳陽氏、エネマネリーダー 工学研究科電気電子専攻1年次 清水祐輝氏、学生代表 工学部動力機械工学科4年次 武藤創氏、設計リーダー 工学研究科電気電子専攻1年次 福田純一郎氏、太陽電池レイアウト担当 工学部電気電子工学科3年次 櫻井隆貴氏、ドライバー 工学部動力機械工学科3年次 小野田樹晃氏