ニュース

自工会 豊田章男会長、130万人の入場者となった東京モーターショーの成功を報告。2年後のモーターショーには自動運転車の大規模導入も

2019年12月19日 開催

一般社団法人日本自動車工業会 会長 豊田章男氏

 日本自動車工業会は12月19日、年末記者会見を開催した。この会見において豊田章男会長は、来場者数が130万人を突破した「東京モーターショー 2019」の報告などを行なった。

 豊田会長は、「100万人の目標に対し、130万人のお客さまにご来場いただくことができました。目標をかかげたとき自信があったかと言われれば、自信も確信もございませんでした。ただ、100万人の目標値とともにわれわれが伝えたかったことは、自動車産業だけではなく、多くの仲間と共に未来を作っていかなければならない、そのためにモーターショーを本気で変えていこう、そんな思いがございました。みなさまにもそんな思いをとても前向きに伝えていただきました。それが多くの方々に届き、東京モーターショーに行ってみようという気持ちになっていただけたのではないかと思います。本当にありがとうございました」と冒頭のあいさつを切り出し、「若者やカップル、多くの家族連れを見かけたことが、来場者数よりも大きな喜びだった」と語った。

 その上で、SNSで見かけたコメントを紹介。「ほんの1件のツィートですが、モーターショー楽しかった。今までクルマに興味なかったけど、帰りに中古車を見ていこう」というつぶやきを目にし、「このような結果こそが私たちの求めていたものだ」と伝えた。

自工会、年末会見オープニング映像

 また、今回の東京モーターショーで起きた問題も報告。展示棟に入るための長い行列、会場間のバス不足など、来場客に対し「ご不便をかけてしまいました」とお詫びした。ただ、そのような事実の把握にメディアや個人の発信するツィートなどが役に立ったという。そのようなSNSのレポートをリアルタイムに見られたことで、自工会としても各社のバスをかきあつめるなど対策を行なった。「お客さまが笑顔になれないことが起きたとき、自動車メーカー各社がワンチームでお客さまの方だけを向いて、即断即決で対応を決めてまいりました。会社の壁を越えて、こうした動きができたからこその130万人だったと思います。次の開催は2年後の2021年、お礼の広告でも書きましたがお客さまの想像をはるかに上回るような未来を提案していかないといけません。そんな気概を持って準備を進めてまいります。来年はオリンピック・パラリンピックの年。自動運転の実証実験も始まっています。技術をさらに高めていき、2年後のモーターショーでは、自動運転車両が会場間を走ったり、開催する町全体が体感ブースになっているような、そんなモーターショーを実現できればと思っています。ご期待していただければと思います」と、モーターショーに関する所感を結んだ。

2019年の振り返り

 2019年の振り返りとしては、「新しい時代の幕開けとなった年ですが、振り返ればたび重なる自然災害や、社会問題化する交通事故となど、明るい気持ちばかりではいられない年でもありました。被災された方に、われわれがなにができるのか? なにをすべきか? あらためて深く考えさせられた1年であったような気がします。災害が起きたとき、クルマの給電機能が役に立つ。われわれも頭ではそのことを分かっておりました。ですが、実際に災害が起きたときどこにどれだけあるのか? それを現場で使いこなせる人材はどれだけいたのか? 実は私自身もプラグインハイブリッドを持っていながら、そのクルマに給電機能が付いていたのか? どうしたら使えたのか? 実は分かっておりませんでした。災害時、自動車がみなさまのお役に立っていくためには、電動車のさらなる普及、給電機能の装着率向上もありますが、それとともにまずはわれわれ自身も機能を理解し、分かりやすくお伝えしていかなければいけない、ということが大きな反省です」と語り、より自動車が社会に容易に役立つような工夫を行なっていく。

 社会問題となった交通事故に関しては、「交通事故をゼロを目指すこと、これも自動車に関わるすべての人に共通した願いだと思っています。事故ゼロに向けた技術はどこが先に出すという競争をする領域ではない。むしろ同じ思いを持って、協力しあってこそ本当に役に立つ技術がいち早くお届けできると考えております。個社の話で恐縮ですが、トヨタは50年ほど前に、交通事故死者を弔い、安全を願うためのお寺を建立いたしました。年に一度、販売店や仕入れ先もそこに集まり鎮魂と安全を祈る行事を開催しております。交通事故が話題となった今年、トヨタ以外のメーカーからもこのお寺の意義に共感いただいた方が、慰霊祭に参加いただきました。せっかく同じ場に集まれたということで、自動車メーカー、部品メーカー、保険会社、販売店、多くの関係者で一堂に会し、事故ゼロの実現に向けて話し合う場も初めて設けることができました。より安全で、安心な、そしてすべての人が移動することを楽しめる、そんなモビリティ社会の実現に向けて、来年以降もみんなで取り組みを加速させて行ければと考えております」と発言。事故ゼロに関しては、競争領域ではないという見解を示し、協力し合うべきものであるとの見解を示した。

 昨今、自動車業界ではCASE(Connectivity/Autonomous/Shared/Electric)の流れが明確になっているが、これに関しては「CASEの流れは思っている以上に急速に進むかもしれません。しかし、世の中がどう進もうとも、われわれの武器がものづくりの力であることは変わらないと思っています。リアルの世界を持っているからこそ、さまざまな産業からも仲間になっていこうと言っていただける、そして多くの方が笑顔になれる未来に向け努力をして行けるのだと思っております。2020年もものづくりの力を磨き続け、新たな仲間とも一緒になりながら未来を目指して行ければと考えています。よろしくお願いします」と、CASE時代になろうともリアルなものづくりがある強みを活かしていきたいと語る。

 あいさつの結びには、税制に言及。「少し早い年頭あいさつのようにもなってしまいましたが、年頭あいさつついでに、もう一つだけ言わしていただければと思います。税制についてです。ものづくりを守っていくためにも、税制のことはさらに力を入れてやっていきたいと思っています。先々月、税制は変わりました。ですが、何度も申し上げているとおり、まだまだアメリカの30倍のレベルです。繰り返しになりますが、われわれはなんとしても日本のものづくりを守っていきたい。その力は絶対にお国のためにも役に立つ力になってまいります。CASEが進んでいけば所有だけでなく、利用活用とクルマの存在の幅は広がります。税制も抜本的な見直しを考えていかないといけません。われわれ自工会も考えてまいります。ぜひそうした議論も進んでいく、2020年にしていければと考えております。未来に向けたさまざまなことをワクワクと考えながら、令和最初の正月を迎えていければと思います。みなさまよいお年をお迎えください。ありがとうございました」と、日本のものづくりを支える税制をみんなで議論していくことが大切とした。

質疑応答

身振り手振りで説明

 質疑応答では、2020年の見通しについて聞かれ、「まずは、2020年こそは平穏無事な年であってほしい。昨今、自然災害、交通事故、一瞬たりともほっとして展望を見るという余裕が、とくに私自身社長になってから一回もございません。そういう意味で、平穏無事、当たり前のことですが、平穏無事であることが大前提でないのかなとおもいます。そんな中に、来年はオリンピック、パラリンピックがここ東京で2度目が開催されます。令和初のお正月を迎えるので、そんなときこそ、そういう流れをなにか違う流れに変えるチャンス。われわれ自動車業界は持っていきたいなぁと思っております。市場見通しは正式な数字は出ていないと思いますが、足下では決して順調とは言えないような市場状況が続いてはおります。そういう中でも、やはり各社売上げを伸ばすというのが一番の体力になると思いますので、市場はどうであれ、その中でより魅力的な商品、より環境によく、より安全、そしてよりファン・トゥ・ドライブなクルマを、できれば新車としてね、お使いいただけるようなことを精一杯会員各社とがんばっていきたいなぁと」語った。

 また、自動運転レベル3が来年可能になるが、それに関しては「自動運転は、自動運転があれば全部解決するというのは、まずいと思います。自動運転を成り立たせるためには、いろいろな意味でAI系のテクノロジカンパニー、そしてリアルをやってきた自動車会社、この連携だけでは成り立たず、やはりインフラ、道とか、そこをわたる歩行者みんなでやってくものであって。すべての人に移動の自由、より安全でより環境にいいことを自動運転で成り立たせるとかですね。われわれが間違えてはいけないのが目的はなんだ?というところになると思います。自動運転を誰よりも先にやったとかね、そういうところをぜひあおらないでいただきたいというふうに思います。やはり、あおられ、ほめられますと、そっちに動く人たちも多い中で、やっぱり目的は交通事故ゼロ、それから環境にいいものをもってこうよ、ファン・トゥ・ドライブ出そうよというところは、ぜひともわれわれはぶれない軸で持っていきたいと思っています」と述べた。

 そのほか質問として、先日決まった安全運転サポート車の購入における補助、とくに後付け装置導入補助事業(満65歳以上)についての見解を問うものがあった。これに対して豊田会長は、「交通事故は総数では減っています。総数では減っているんですけど、高齢者の事故というのは横ばい状態ですので、割合的に高齢者の事故が頻繁に起こっているがごとく見られますが、実際にはこれが事実でございます」とグラフで説明。「75歳以上の免許保有者も非常に増えていますので、今後ますます横ばいかもしくは、高齢者の方々が運転をして移動をされる、そして生活のライフラインとして使われることはなくならないと思います。そうした中で、今回の補助とか中古車を含めた補助は大変ありがたいわけです。ただ、新車の中でどのくらい付いているかというと、まだまだです。新車の中では8割くらい装着しているのですが、保有を含めた全体では25%を割るくらいです。ですから、街の中は保有台数を含めて考え行く必要があることを知っておいていただきたいと思います」と返答。その上で「仮にこういう衝突被害軽減ブレーキを付ければ万能であるというミスリーディングは、(報道陣に向かって)ぜひやめていただきたいと思います。ハンドルを握り、アクセル・ブレーキに責任を持つドライバー、道を共有する歩行者、信号なりいろいろな形でルールを決めているインフラ、すべてが当事者となって安全対策をすることだということを、ぜひみなさん方も啓蒙いただきたい。私の立場では、インフラどうにかしてくださいとか、歩行者をとか言いますと、必ず問題になります。自動車会社は自動車会社で、自動車会社ができることをやってまいります。ですけど、それだけでは不完全。そして事故を起こした場合、加害者も被害者もその瞬間から世の中が変わってしまいます。そこをどう当事者意識をもってやっていくかということかと思いますので、ぜひとも、みんなで交通事故ゼロに向けてやりましょう。ぜひともみなさん方の力をお貸しいただきたいと思いますので、よろしくお願いします」と、報道陣に向け、一緒に事故ゼロへ向けての取り組みを呼びかけた。

警察庁調べによる交通事故死者数の推移
保有ベースでの衝突被害軽減ブレーキ装着車は約23%

 別の記者から、「そもそもアクセルとブレーキが同じような操作になっているのが踏み間違いの原因では?」「どうにかできたりしないのか?」という質問があり、豊田会長は「私は事故は起きるものだ、クルマは危険なものだ、ということをまずすべての方々がご認識いただきたい。1tを超えるものが、ある程度のスピード、40km/h以上で走っていることがもう危険なのです。そして、クルマに歩行者が当たったら、これは大事故につながります。ですから、非常にクルマは最近静かになり、運転が楽になり、いろいろな形で快適にはなっておりますが。エアコンが進み、外の外気温がどうであれば、快適空間で過ごせます。ですが、ハンドルを握り、アクセルを踏み、ブレーキに責任を持つ方は、やはり危険なことをしているのだという認識を、ぜひ持っていただきたいと思います。そこが、すべてにおける出発点ではないのかなと思うのです。ところが私の立場は自動車会社ですから、なに責任逃れしているのだということになるのです。その前に私はいちドライバーです。いちドライバー(モリゾウ選手)として競技にも出ています。競技に出ているときに一番思うことは危険なことをやっているなという認識があります。その危険な中をどう安全に速く走るのかということを追求すればするほど、それは危険だということをすべての方にご認識いただくことが出発点ではないのかなと思います。外を歩けば、暑いときは暑いんです。ところがクルマの空間だと一定の温度になるわけです。それ自身が現実と違います。ですので、そういう環境にいるんだよということを、クルマを使うすべての方にご認識いただくことを、自動車会社の口ではなくて、ぜひともみなさま方のほうから啓蒙活動をやっていただけたら助かるなという風に思っておりますので、ぜひともお願いしたいです」と答えた。

 豊田会長はよく知られているように、モリゾウ選手としてラリーや海外のニュルブルクリンク24時間レースに参戦する希有な経営者だ。その豊田会長が「私は事故は起きるものだ、クルマは危険なものだ、ということをまずすべての方々がご認識いただきたい」と踏み込んだ発言を行ない、社会全体で解決していきたいと呼びかける。

 交通事故死者数は2019年11月末時点で前年同期を263人下まわる2859人という発表が警察庁からされているが、豊田会長の「事故を起こした場合、加害者も被害者もその瞬間から世の中が変わってしまいます」という発言にあるように、事故死者数はゼロになるべきものだし、ゼロを目指していくべきものだ。豊田会長の自工会会長としての任期は、あと2年。「目的は交通事故ゼロ、それから環境にいいものをもってこうよ、ファン・トゥ・ドライブ出そうよ」と、クルマとしての魅力を保ちつつ、まずは交通事故死者数ゼロへ向けて業界全体を加速させて行くことを期待したい。

 実はこの記者会見後、いつも自工会の会見で会う他社のカメラマンと立ち話をしながら帰社した。そのカメラマンの82歳になる父親は、一昨日、85歳の高齢者が運転するクルマにひかれて亡くなったとのこと。カメラマン氏の「父が交通事故で亡くなった直後だけに、今日の会長の発言は感慨深かった」という言葉は、運転の責任は最終的にドライバーにあるとはいえ、今のクルマはもっともっと進化しなければ、現代社会で生き残っていくことは難しいと改めて感じた。

 クルマの進化の方向性として自動運転の積極的な導入が考えられるが、それについて豊田会長は、ドライバーや歩行者、インフラなどが自動運転車を理解していくことが必要であるとし、その大きなきっかけは、東京オリンピックでの自動運転車投入になるのではないかとした。その上で、「自動運転車には、こういうルールが必要なんだなと、しっかり現実を見ていくことが必要なのではないか。自動運転の一番のよさは、すべての人に移動の自由があるよということです。高齢者などでも、自分の好きなクルマに乗れることがいいことで、自動運転になれば交通事故がゼロになるんだ、環境にいいんだではなく、ミスリーディングはやめていただきたい。自動運転になっても、交通安全はみんなで守っていくものではないですか。(自動運転は)一つの手段であって、自動運転ですべての人が移動できるというのが目的だと思いますから。自動運転にも上手い下手があり、自動運転にも初心者がいる。ただ、自動運転の初心者のほうがより上達のスピードが早いよね、とか。より、最悪な重大事故を防げるよねということをまずは目指すべきものではないかと思います」と、自動運転普及の道筋を語った。